便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

23 / 190
いい加減に真っ直ぐ職場に向かえオールマイトと誰もが思う


No.23『便利屋は朝から忙しい』

 連続強盗殺人犯『僧帽ヘッドギア』、書いての通りの文句なしの(ヴィラン)であり、強い上に姑息と今日まで逃げ切れていたという実力も持っていた巨体がズシンと沈む。

 

 止めを刺し気絶させたのはヒーローだ、だが彼らの視点から見ても不可思議なことが起こっており、その中の一人『Mt.レディ』が困惑の表情のまま呟く。

 

「ねぇ、誰がアイツの動きを止めたのよ」

 

 ついさっきまでは親子を人質に取られ、自分たちは攻めることも何も出来ず、動くに動けなかったというのに急に相手の動きが止まった。それは相手が自分の意志で止まるというよりも金縛りに襲われ動けなくなったというのが正しいだろう。

 

 僧帽ヘッドギアも急な出来事に驚いているところから個性での攻撃だとは彼女たちも判断できる。けれど、この場に居るヒーローでそれが出来るものが居らず一体誰がとなっている付近のビルの屋上にてそれを起こした人物はため息交じりに見下ろしていた。

 

「はぁ……あの程度をどうにも出来ずにヒーローを名乗るとはな」

 

「ヨイショっと、ふふん、便利屋にかかればこの程度お茶の子さいさいです!」

 

 正体は血染と被身子。先ず被身子が事前にレイミィから渡されていた彼女自身の血を変化させたコウモリを口に含んで変身、個性の成長により彼女の個性ならば扱えるようになってるので僧帽ヘッドギアにコウモリを飛ばして、回収したのを血染が舐めれば個性【凝血】が発動。

 

 これにより相手は動くことが出来なくなりあとは現場のヒーローが抑える。では何故彼らがこんな事をしているかと言えば、答えは血染の視線の先に居る凄まじい勢いで移動している人物にあった。

 

「こちら血染、騒ぎは解消。オールマイトは出勤を継続中だ」

 

《こちら圧紘、ひき逃げを確保。とりあえず適当な警察に投げておくよ、あぁ確認、これなら無駄に時間を消費せずに向かってくれるかな?》

 

《こちら仁、特に騒ぎは起きてない。ってあぶな、オールマイトが過ぎ去った後に隣町で立て籠もり事件とか叫ぶな、奴が向かっちまうっての!》

 

 最後の仁の報告に渋い顔になる血染。現在、彼らは朝から街のパトロール、もっと言えば【オールマイトの通勤ルート】のパトロールを行い彼が犯罪が起きる度に首を突っ込み、無駄に時間を消費してしまうのを防ぐという根津からの依頼を遂行中。

 

「奴の耳は良い筈だ。最悪拾われた可能性があるな……」

 

「あ、じゃあ私がレイミィちゃんの姿ですっ飛んでいきますね! 立て籠もりでも意表を突けば魅了は通るはずですから」

 

「頼んだぞ。ったく、あのネズミにしてやられたなこりゃ」

 

 息を付く暇も無く、これが終わったとしても少しの休憩を挟み、本題の依頼に向かわなければならない。そう考えれば中々に厳しいものではあるがならば仕方がないと彼は脳内で根津へ恨み言を漏らす、あれだけの報酬はこれらを見越していたとすれば見事にこちらは乗せられたと。

 

 だが、我らが所長から聞かされたオールマイトの状態を考えればコレくらいはやらないと後々に響くことも理解している。

 

『これ、口外したら間違いなく便利屋取り潰し級の話なんだけど、今のオールマイトは一日三時間しかヒーロー活動ができない身体になってるわ』

 

『詳しい話は出来ないししないけど、とりあえず当日に無駄にヒーロー活動されて時間を浪費されたくはないってのが校長の言葉、だから追加で頼むことになるわ、ごめんなさい』

 

 聞いた全員が言葉が出なかったし、血染に至ってはその状態でもヒーローとして働いているオールマイトに奴らしいとは思いながらも、目の前の所長と被り何とも言えない表情になってしまった。

 

 たった一人で今の社会を築き上げた【平和の象徴】、以前までの彼もオールマイトには異常な程に熱狂し信仰に近いものを持ってはいた、それこそ見返りを求めヒーローを職業として働くものを贋作と評し粛清をしようとするほどに。

 

『便利屋を開き例外が活躍することで、個性を職業ヒーローだけが使えるという世界を壊し、そこから真なるヒーローを見つけ出せば良いじゃない』

 

『それに血を流して犯罪で変えるなんてツマラナイんじゃないかしら? 貴方ほどに優秀なら私の手を取りなさい、悪いようには絶対にしないわ』

 

 それを変えたのはレイミィ・バートリーだった。当時まだ二歳だった彼女と出会い、実年齢からは考えられないほどにその瞳に込められた己以上の狂気、それを抱えておきながら正気を保ちながら言い放った上記のセリフに当時の血染は気圧され付き添うことになるほどに。

 

 一人で世界を変えたヒーローが居るならば、同じように一人が命を全て賭けた上で仲間を集えば変えられると断言するのがレイミィであり、そのためにあの少女は己の全てを擲っている状態だ。

 

(オールマイト、貴様への執着は変わらん……だが、今は恨み言の一つでも貴様に吐きたいものだ)

 

 平和の象徴、聞こえは良い。されど良いのは聞こえだけであり彼によって狂わされた者達が居るのを知るべきだと言葉にしないまま雄英高校の方角に視線を向ける。

 

 この時間帯であればまだ午前の必修科目の最中だろう。けれど彼女のことだ、どうせもう今日の襲撃に対してどう動くかを脳内で考え続けているのだろうと血染は溜息を吐き出す、あれは利用できるなら何でもとか言いながらも根は情が深い少女。

 

 誰かが犠牲になることを絶対に良しとはしない、ともすればと考えた所で耳元の通信機から

 

《こちら仁! ああくっそ、(ヴィラン)が複数箇所で同時だ!! しかも聞こえちまったみたいでオールマイトが戻ってきてる!!》

 

「場所を言え直ぐに向かう。圧紘、根津にオールマイトへ呼び出しを行えと入れておけ」

 

《了解、被身子ちゃんが別の場所へ行った時にコレはちょっと面倒なタイミングだね……近くのプロヒーローにも手当たり次第に通報しておくよ》

 

 飽和してる筈のヒーローは何してんだか。内心で愚痴りながら彼らは街を駆け巡る、とりあえず根津には特別報酬の一つでも要求するかと考えながら。

 

 街では便利屋が依頼を遂行しているおかげでオールマイトが無事に制限時間に余裕を持った状態で出勤が確実となった中、レイミィは午前の授業を終えて昼食という時間、さて今日は何食べようかと立ち上がった時に梅雨から

 

「ねぇレイミィちゃん、私の勘違いなら良いのだけれど少し緊張してないかしら?」

 

「どうしたのよ急に、別に緊張する理由なんて無いと思うのだけれど」

 

「そうね、でも午前の授業中の貴女、なんだか声が固かった気がしたから」

 

 鋭いなこの子と真剣な眼差しで自分を見る梅雨に素直な感想を抱く。事実、流石の彼女も今回ばかりは緊張の一つもしている、手札を用意したとは言え十分とも言えない準備で未知数を相手取るのだから、するなという方が無理だろう。

 

 だがそれを学生相手に見抜かれるとは思ってもなかったが本音。それほどまでに表に出ていたのか、彼女が特別鋭いのか、恐らくは後者だろうと判断しつつ

 

「さてね、偶々そう感じただけじゃないかしら?」

 

「……ケロ、そうね、分かったわ」

 

 これは嘘だと見抜かれてるな。納得して引き下がったように見えるが目が彼女の言葉は嘘だと断定していたのを見てレイミィは苦笑しつつ食堂に向かう。

 

 因みに本日のメニューは鰯の梅煮定食にした模様、見た目は貴族の令嬢とも言える少女が和食を箸で綺麗に食べているという光景に本日は同席していた上鳴がボソリと一言。

 

「なんかこう、すげー似合ってるんだけど頭がバグる。外国のお嬢様が定食を普通に食べてるって言う認識になってバグる」

 

「理由のわからないことを言わないでもらえるかしら? そもそも私は生まれも育ちも日本よ」

 

「いや、分かってるんだが。こう、な? 分かるだろ緑谷!」

 

「ええ!? あ、いや、その、ど、どうだろう……?」

 

 やれやれ人のことをなんだと思ってるのかしらねぇ? という感じに出久をイジれば更に動揺を大きくする彼にクスクスと笑いが溢れてしまう。

 

「けど確かになとは思うよ。レイミィちゃんってこう、レストランとかで出る料理が似合う気がする」

 

「人を見た目でと言いたいが俺も思わなくはないな」

 

「バートリーは姉さんの料理は何でも美味しそうに食べてたぞ」

 

「ちょいちょい人の個人情報を流すの止めてくれないかしら轟!?」

 

 個人情報に当たるのだろうかそれはと思いながら彼女がそういうと言う事は恥ずかしいからと言う理由だろうと四日目にて早くもレイミィの性格を把握した面々からはちょっと温かい目で見られる。

 

 なお、上鳴はさも当たり前のように焦凍の家で夕飯を食べたことがあるという事実に頭がフリーズした。実は峰田が言うような仲だったのだろうかとすら思ってしまったが誰も彼の脳内を見れるわけではなく、彼も言葉にしなかったので今後も誤解されたままなのだろう。

 

 そんな賑やかな昼食の最中、ふと周りに見えないように耳に付けていた通信機から着信が入るがこれは向こうからの片方向通信なので彼女から応答することは出来ないが入ってきたのは副所長の血染。

 

《昼飯中に悪いが報告だ。オールマイトの雄英高校の現着を確認、俺達も一度休息を挟んで施設の方に向かう》

 

 どうやら第一目標は無事に達成できたらしい。声にはそれなりの疲労が見えているので結構駆けずり回っていたのは容易に想像できるので今日は少しばかり豪華な夕食にしておくかと思いつつ残りも食べ進める。

 

 同時に個々で活動が多く体力もそれなり以上に自慢の便利屋をここまで疲弊させるとかオールマイトは何したのよと思いたくもなる。実際は些細な助けの声にも反応しては動き出そうとするのを先回り等の方法で片付けるために走り回ったという話、あのナチュラルボーンヒーローに振り回されて初めて血染は少しばかりの殺意を覚えたとかなんとか。

 

 けれどこれで手札の一枚は完璧に近い状態で伏せることに成功。残りも随時、伏せられていくのであとは現地にて出たとこ勝負を残すのみ。

 

(いよいよね。最高とまでは言わないけど最善で乗り切れるように気張らないと)

 

 そこで自身の箸を持つ手に過剰な力が籠もってることに気付く、どうやら思った以上に緊張してるのかもしれないし、だからこそ梅雨に気付かれたのだろうと分かり軽く深呼吸をする。

 

「……?」

 

 その姿を焦凍はハッキリ目撃し、疑問に思ってることも気付かずに昼食は終わり、午後のヒーロー基礎学の時間。

 

「今日のヒーロー基礎学の授業だが俺とオールマイト、そしてもう一人の三人体勢で見ることになった」

 

「あ、それって昨日レイミィちゃんが言ってたことじゃない?」

 

「あぁ、そういや言ってたな」

 

「ハーイ!! なにするんですか!!!」

 

 お前本当に余計なことを昨日言いやがってという視線が相澤からレイミィに飛ぶが悪いのはオールマイトだしと素知らぬ顔でスルー。それから瀬呂の質問に彼は【RESCUE】と書かれたボードを取り出し

 

「災害水難、なんでもござれ人命救助(レスキュー)訓練だ」

 

 これまたヒーローと言えばで重要視される分野の一つ。何も(ヴィラン)を取り押さえるだけが彼らの仕事ではなく、火災などの時に取り残された市民を救い出すのもまた大事な仕事の一つ。

 

 故に救助訓練にも雄英高校は勿論ながら力を入れており、授業をする場所はバスで移動するほどの距離にある施設で行う。

 

「今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を限定するコスチュームもあるだろうからな」

 

「……」

 

「あ、すっごいレイミィちゃんから視線を感じる!?」

 

 活動を制限どころか全てを投げ捨てている葉隠に思わず視線が向かい、彼女が反応してしまい相澤に睨まれる二人。ともかくバスに向かうので準備は手短に行えと告げてから各自、行動を開始。

 

 戦闘服(コスチューム)のは一瞬だけ迷ったが折角の機会だしエンブレムの事もあるからと着用していくことに。彼女も知らないことなのだが今日は被見子が自身のポケットマネーであのエンブレムを増産し便利屋全員の服に付けているので結果だけで言えば正解の行動を引いていた。

 

「バスの席順はスムーズにいくよう、番号順に二列で並ぼう!」

 

「知ってるかしら、この学校のバスって普通のじゃないみたいよ」

 

「え!?」

 

 なんてやり取りがありつつバス車内、言葉通りバスの席はよくある二列タイプではなかったことに天哉がこのタイプかと沈む中、レイミィの隣りに座っていた梅雨が反対側の出久に向け

 

「私思ったことを何でも言っちゃうの緑谷ちゃん」

 

「あ!? ハイ!! 蛙吹さん!」

 

「梅雨ちゃんと呼んで」

 

 それは緑谷には難易度高すぎるでしょと思いながら窓から外を眺めるレイミィだったが、次の一言で彼女もこの会話に悪ノリをし始めることになる。

 

「あなたの〝個性〟オールマイトに似てる」

 

「!!!!」

 

 おっとこれは面白事が起こりそうだわと視線を出久たちの方に向ける。そこには面白いように動揺している彼とそんな出久に視線を向ける梅雨の姿に。

 

「でも彼は怪我しないわよ?」

 

「そうそう、似て非なるアレだぜ。でも増強型のシンプルな個性は良いな! 派手で出来ることが多い!」

 

 確かにそうなのだけれどと苦い顔になる切島の純粋な言葉にレイミィ。派手ということは戦闘を行うと被害が酷くなりやすいという側面が強く、結果として弁償なのでお金が飛んでいくものだと親切心で教えてしまえば

 

「う、そういう現実的なことも考えねぇと駄目か」

 

「そう考えると貴方の【硬化】っていう個性が扱いやすいわよ。単純が故に伸ばし方も分かりやすいし」

 

「けどちょっと地味な気がすんだよなぁ」

 

 地味でいいのよ、地味で。とは流石に言えずにまぁそうねとお茶を濁すに留める、因みに派手さで言えばこの中では勝己か焦凍になるがそのどちらもコントロールを間違えると一気に被害が拡大する面が強いので彼女的には扱いにくいわよねの一言になる。

 

「爆豪ちゃんはキレてばっかりだから人気でなさそ」

 

「プッ、ククッ……!!」

 

「んだとコラ出すわ!! あと笑ってんじゃねぇぞクソコウモリ女ぁ!!」

 

 梅雨の鋭い指摘で笑いを堪え、勝己からのキレ気味のツッコミで遂に決壊したレイミィはバンバンと自身の膝を叩きながら大笑いを初め、それを目撃してしまった麗日は困惑した表情で呟く。

 

「分からない、私にはレイミィちゃんのツボが分からない……!!」

 

「私にもわからないので安心して下さい、麗日さん」

 

「……ああやって笑っても可愛いっていうか美人ってすげーな峰田」

 

「あぁ、理想的なお嬢様だぜありゃぁ」

 

 理想的なお嬢様はあんな煽りしないと思う。耳郎がそれを言わなかったのは隣の勝己が煩くなるからか、はたまた呆れすぎて言葉が出なかったのか、分かるのはレイミィのツボは誰にも分からないということだけだろう。

 

 盛り上がりを見せた車内だが相澤がもう着くからいい加減にしろという言葉で静まり返り、数分後に彼らは目的地到着、だがレイミィは呆然としていた。

 

「すっげー! USJかよ!!?」

 

 ちょっと想定外な大きさなんですけど。現地に到着したレイミィ・バートリーが初めに思ったのはそれだった。




本当ならばヴィラン襲撃シーンまで書くつもりでした、何故か行きませんでした、不思議ですね(無計画の極み)

便利屋メモ
レイミィのツボは基本的に変、急になんかにツボって笑い出すとかザラにあるらしい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。