敷地面積は非常に大きいとは聞いていた、確かに校長も言ってたけどまさか、こんなにとは思わないじゃん。レイミィ・バートリーが現地に到着し、いの一番に抱いた感想がコレである。
でかいと言っても限度というものが世の中には存在するだろ。これだから金持ちはやること成すこと大袈裟なのよと八つ当たりに近い苛立ちを抱きながら、門を潜り施設の中に入っていくクラスメイトの一番うしろに位置取ってから、指で通信機を2度叩く。
《こちら血染、全員配置に付いてるぞ。一応、仁自身も増やす形でエリア毎にしてはいるが耐久重視の所長のコピー体があるから耐久は期待するなとのことだ》
《こちら被身子、レイ……コホン、所長、コウモリに変化させた血を数匹下さい。朝のあれこれで使い切っちゃいました、場所はえっと山岳ゾーンです!》
《こちら圧紘、ここから所長たちを確認出来る位置に陣取ってるよ。いやぁ、みんなウキウキだね、おじさんも楽しくなっちゃいそうだよ》
《こちら仁、お嬢のコピー体は指示通りの装備をさせて、指定の場所に待機させてるぞ》
所員たちからの報告に重畳重畳と思いながら被見子の要請の答える為に首元から数匹のコウモリを彼女の居場所へと飛ばし、怪しまれないようにクラスメイトに合流する。
どうやら彼らもこの施設の大きさに驚いており、中には『USJみたいだ』と言う声も聞こえ、相澤に怒られるんじゃなかろうかと思っていると
「水難事故、土砂災害、火事etc。あらゆる事故や災害を想定し僕がつくった演習場です、その名も……
(本当にUSJって、大丈夫それ色々と怒られないのかしら? あ、でもお金取ってるわけじゃないから平気なのかしら?)
施設もとい演習場の紹介を始めたのは宇宙服が特徴的なプロヒーロー【13号】、レイミィ個人としては少しばかり苦手なタイプのヒーローである。
というのも宇宙服に身を纏って肌が一切見えないので便利屋の必勝パターンの動きが出来ないのである、敵対するつもりは勿論無いが仮に演習でもなんでも敵対したら厄介なことこの上ないと彼女の中では危険度は少しばかり高い。
「全員注目、13号から話がある」
「あれ? オールマイト先生がまだ来てませんよ?」
遠慮気味に出久が質問を飛ばす。相澤が言うには三人居るはずでその三人目がオールマイト、されど周囲を見渡しても姿が見えないので聞いたのだろう。
「オールマイト先生は少々遅れてくるようです、あの人も忙しいですからね。さて、始める前にお小言を一つ、二つ、三つ、四つ……」
増える増える小言の数にクラスメイトは困惑し、レイミィはげんなりとした表情に変わる。小言というのは血染からそれはもう飽きるほどに言われ続けており、それっぽい言葉が出てくる度に気分が沈んでいくのがよく分かるほどだ。
主に悪いのは自分なのは確実な時に出てくるのでなおのことたちが悪い、反論もできずにただただ反省しか出来ない。その光景を思い出すだけでもげんなりとした表情がしわくちゃなものに変わって行き始める。
だがその感情も次に13号の言葉で何かを辛いことを思い出してしまったかのようなものに変わる。個性【ブラックホール】という容易く人をチリに変えてしまう力を持ってるからこその一言に
「簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそういう〝個性〟がいるでしょう?」
(えぇ、なんだったら牙一つであっさりとね)
無意識に自身の牙に指が触れていた。夜にしか出てこない幻覚ではあるが少し意識をすれば薄いながらも感触を思い出せてしまう、喰らいつき血を吸い、殺してしまったあの時のことを。
個性、言葉の通り千差万別と言えるほどに種類があるが人間一人、いや、モノによれば街一つを廃墟にするのだって簡単な力、幼い頃の自分は何度思ったのだろう。
こんな力を何故与えたのだと。幼いと言っても個性の所為でほぼ大人の精神だった彼女には母親を殺したという事実は重くのし掛かり、数え切れないほどに夜中に嘔吐しては血染に介抱されただろうか。
《所長、大じょ……》
圧紘からの唐突な通信に意識が浮上する。だが彼女を引き戻したのは彼が心配の声を掛けたからではない、ブツンと乱暴に通信が切れたからだ。
間違えて切ったのかとも思いかけたが切れる寸前の音がぶつ切りのそれに近かった事を思い出し、確認のために通信機をまた二度叩くが返ってくるのはノイズだけ、思考が【生徒】から【便利屋所長】へと切り替わる、それはつまり想定通りの事態が今ここで起きたということに他ならない。
「君たちの力は人を傷付けるためにあるのではない。救ける為にあるのだと心得て帰って下さいな」
「(全員との通信はロスト、仕込みも……駄目ね)【イレイザーヘッド】」
以上、ご清聴ありがとうございました。と13号から締め、クラスメイトが彼女の言葉に感動したという反応を見せ盛り上がってる中、レイミィがそれを静まり返す勢いの冷たい声を場に響かす。
急な態度の変化にどうしたのかと全員の視線がレイミィに集まるが彼女はそれを気にすることはなくイレイザーヘッドの隣にまで駆け寄り
「便利屋全員、それと仕込みとも通信が切れたわ」
「っ!? 生徒は一塊になって動くな!!! 13号、生徒を守れ!!!!」
『!!!???』
それを聞いたイレイザーヘッドは鬼気迫る表情で即座にそう指示を出し、周囲を警戒、レイミィも神経を尖らせ気配と音に気を配れば、直ぐに拾えた。
嫌な気配、じっとりとした悪意のそれを。バッと感じた方向に体ごと向ければ、広場の噴水付近に黒い靄が広がりそこからうじゃうじゃと現れたそいつらに先ず切島が反応した。
「何だアリャ!? また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」
「おいでなすったわね。よく見ておきなさいアレが本物の……」
「
臨戦態勢に入った二人を見て、漸く事態を飲み込み始めたクラスメイトを尻目にレイミィは手袋をはめ直しながら敵戦力の見極めを始める。
数は圧倒的に不利、ただし質は明らかに今回のために適当ところで燻っていたのを焚き付けて集めてきましたというのがよく分かる低品質、だが靄から最後に出てきた三人は違うと判断、纏う悪意が明らかに普通ではない。
(それとあの大男? ちょっと嫌な気分がするわね)
遠目でもよく目立つ脳味噌が丸出しにされている大男、隣の手のアクセサリーとも言うべき装飾品を大量につけている男も彼女の中では警戒度が高いが大男に関してはそういうのはなく、もっとこう生理的な嫌悪感を隠せない気分、と言うものを感じていた。
そうじゃなくてもあの大男に関しては筋肉がハリボテとか個性由来なら嬉しいわねと周囲に勘付かれないようにいつの間にか流れていた一筋の冷や汗を拭う。
「13号に、イレイザーヘッドですか……先日〝頂いた〟カリキュラムと〝聞いた〟話ではオールマイトがここにいるはずなのですが」
「やはり先日のはクソ共の仕業だったのか」
黒い靄が人型を形取り喋った内容にイレイザーヘッドとレイミィはピクリと反応を示す。〝聞いた〟、つまりそれは昨日のレイミィの話を指しており、それが
これで彼ら及びその背後に居る存在は青山と言う内通者の情報をほぼほぼ鵜呑みにしていることが分かったのは大きな収穫だと内心でほくそ笑む。
だからだろう、攻撃的な笑みを浮かべながらレイミィは
「聞いた、ねぇ。とても興味深い話だこと、是非とも詳しく話してもらえないかしら?」
「あぁ? 子供が粋がったこと言うじゃん……つかオールマイト居ないのかよ、折角大勢引き連れてきたのにさぁ……」
あからさまな落胆の声を上げる主犯格の男、その様子になるほど便利屋の所長だとは気付かれてないと嬉しい誤算にさらに笑みが深まる。何も気分がいいから煽ったのではない、現状はとにかく会話から敵がどの程度の情報を握っているかを探りたいからの言葉であり、先ず分かったのは便利屋がヒーロー科に居ることは知られてなかったということ。
もしくは便利屋そのものを知らないもあり得る。まぁ今回でそのアドバンテージは放り投げるのだがと内心は思いつつ、もう少し踏み込んだ情報が欲しいなと余裕な態度を見せつけるように
「オールマイトが目的? それなら正門前で出待ちしたほうが確実にサインでも写真でも貰えるわよ」
「お、おい、バートリー、なんでさっきから煽ってんだよお前」
端から見れば確かに彼女の行動は峰田の言うようにイタズラに煽ってるだけにしか見えない。それ以上に、初めはそれが強がりから来る言動かともクラスメイトは思うも身体や声に一切の動揺も震えもないことから本気で煽ってるのだと分かれば上記の台詞になるのも無理はないだろう。
主犯格の男もレイミィの態度には若干苛立ちを隠せない感じに首を掻きむしり始めつつ、気怠げな声でこう告げた。
「なんだあの子供、さっきから突っかかってくるけど。まぁいいや、そうさ、オールマイトが目的だから……」
何人か子供殺せば来るかな? 向けられた殺意にゾワッとこの手の
「手伝うわ。あの数は骨が折れるでしょ?」
「……それしかない、か。13号避難開始、学校に連絡を試せ! センサー対策も頭にある
質は悪い、言ってしまえば有象無象も良いところとは言えざっと見ただけでも両手の指でも足りない数のチンピラが相手となれば流石のイレイザーヘッドも苦しいものがある。
もしこれが生徒からの提案であれば馬鹿なことを言ってないでさっさと避難しろの一言でもあっただろう。しかし、今この場に居るのは便利屋所長としてのレイミィ・バートリー、依頼として受けている彼女を当初は避難の護衛と考えたが彼女が伏せている札があるからと彼女からの提案に頷く。
「上鳴、とりあえずで個性による通信を試しなさい、それすらも防がれるようなら余程、今日の襲撃に力を入れてるってことになるから」
「お、おう! ってバートリーは!?」
さも当たり前のように指示を飛ばしてきたレイミィに上鳴も反射で答えてから慌てた声で聞いてくる。が彼女は何を言ってるのよという表情のままゴーグルを掛け首から捕縛布を外し構えたイレイザーヘッドの隣に立ち。
「さっきも言ったじゃない、手伝いに入るって。いつでも構わないわイレイザーヘッド」
「13号、頼んだぞ!! バートリー、無茶だけはするなよ!」
「それは相手次第って所ね。さぁ、行くわよ!!!!」
イレイザーヘッドと共に階段を飛び降りる。背後からはクラスメイトの悲鳴やらが聞こえるがレイミィには既に届いていない、もっとも聴こえた所で彼女が止まることなんて一切無いのだが。
彼女にとって待ちに待ったドンパチ系列の依頼、当たり前だが今日までの様々な依頼も嫌いというわけではない、あれこれ考えながら依頼を遂行するというのも悪いわけではない。
「射撃隊、いくぞぉ!」
あぁ、それでもと心地よい高揚に包まれ思う。彼女はあれ等は嫌いではないけれど、やはり自分はこういった鉄火場に身を置くほうが似合っているのかもしれないと錯覚するほどに祭りが好きなのだと自覚してしまい笑みが抑えられない。
「情報じゃ、オールマイトと13号だけじゃなかったのか? あの二人なんだ!? 片方は生徒だろ?」
「イレイザーヘッド!!!」
「【視た】突っ込め」
大間抜け!! と射撃系個性の持ち主の隊列が狂喜の笑みを浮かべるレイミィに攻撃をしようとするがそれは不発で終わる。出るはずだったそれが出ない、たったそれだけのことで彼らの思考は一時的に止まり、その一瞬でもあれば彼女には十分だった。
「あれ? 出ねぇ……ぐぎゃ!?!?」
「策もなしに真正面から突っ込んでくるわけ無いでしょうに、バカなのかしら貴方達は」
あぁ、ごめんなさい、バカだからここに集まってるのよね。と一人の顔面にアーミーブーツの蹴りをぶち込んで気絶させてから心からバカにしてますという声で
変わらずその顔には狂喜を浮かべる姿に子供が相手だと言うのに一部の腰が引ける、今目の前に居るのは学生じゃないのかと。
「まぁ良いわ、折角来たのだから最後まで宴を楽しみましょ?」
情報皆無の吸血姫が笑みを浮かべる、その心の内では便利屋の他の面々は大丈夫だろうかと思ってることは誰も知らない。
え、ここから次の話は戦闘シーンで1話書けって、こと!?
便利屋メモ
実は被見子だけ仕事着はコスチュームと同じ技術で作られており、個性を使っても服ごと変身ができる仕様になっている。
なお、金額を聞くとレイミィの目から光が消えて表情もなくなる。