切り札を切っちゃったなぁとあの引きからレイミィ・バートリーの内心はそんな事を考えていると便利屋の面々以外は誰も知らない。顔にも出ないので幸いにも相手側に悟られることはないので余裕を表すように不敵な笑みのまま状況を整理し始める。
(仕込みが学校に向かって3分以上は経ってるはず。だとすればあと1分から1分半と推定、なら私がやることは主犯格二人を牽制しつつ
勝つためじゃなくて負けない戦い。切り札を切った彼女が最も得意とする戦い、周りの反応と本人の態度から凄まじい強化がされている技と誤認されているが、実際はこの【ヴァンパイア・プリンセス】と名付けているコレはそこまで万能なものではない。
この技は言ってしまえば【吸血姫】のポテンシャルを出し切れていない部分を無理やり引き出すというものであり、それも速度は9割の他は7割程度の上げ幅でしかない。
その七割で脳無を真っ向から倒せるかと言えば首を横に振るしか無い、あれは対オールマイトと題してるだけ合って基礎スペックが馬鹿みたいに高く、低すぎる自身の基礎スペックを7割引き上げた程度では話にならない。
(それでも速さって部分で勝ててるはずだから、これを主軸に攻めたて続けるしか無い、か!)
戦いを周りで静観していた者達からすればレイミィが動き出した瞬間というものは全く見えず、分かるのは脳無に不可視の打撃が嵐のように叩き込まれているという光景だろう。微かに見えるとすれば彼女の紅い髪の残光、それが縦横無尽に飛び回っているということを指し示しているのだが姿も攻撃も見えないという事実に峰田が半ば放心気味に呟く。
「み、見えねぇ。見えねぇけどあの化け物を攻撃してるんだよなバートリーが」
「うん、それにあそこの二人も動けてないから、そっちにも牽制をしてるのかもしれない。凄い、もしかしたらホークスよりも速いかもしれない!」
「……緑谷ちゃん、峰田ちゃん、私達もこの隙に正面ゲートのところまで下がって皆と合流しちゃいましょう。ここに居たらレイミィちゃんの邪魔になってしまうかもしれないわ」
何故か興奮気味に分析を初めた出久を落ち着かせるように蛙吹が二人に提案し、二人も今が危険な戦いのさなかだと思い出して頷いて悟られないようにゆっくりと動き出す。されどその視線は姿が見えずとも戦ってるだろうレイミィに注がれ、彼女は心の中で無茶な技じゃないなら良いのだけれどと思う。
またほぼほぼ広場の主犯格二人以外の
(アイツが居なきゃ、俺は無事じゃなかったんだろう。だからって丸投げってのは情けない限りだ)
プロヒーローが子供に丸投げし自身は個性のよる援護しか出来ない。レイミィからすれば黒霧と死柄木を封じ込んでいるお陰で軽い牽制だけであとは脳無に集中できる状況ができているので感謝しているがそれはそれこれはこれだろう。
もしイレイザーヘッドのこの独白を彼女が聞いてもこういうだろう、適材適所がこの形だっただけだと。けれど彼は脳無とレイミィの戦いを見て違和感を感じ始めてもいた、あれだけの攻撃の嵐に晒されているというのに身動ぎ一つもしない脳無、まるでダメージそのものが無いと言わんばかりの光景。
「あの子供、もしかして速いだけだな? 【ショック吸収】も【超再生】も突破できてるようには見えないし」
それは奇しくも戦闘を観戦していた死柄木も感じていたものであり、ふと気付いたという感じにポツリと呟く。何も彼はただ見てるだけではなかった、イレイザーヘッドの戦いも、レイミィの戦いもしっかりと分析しながら見ており、彼女の明確な弱点を見抜き始めていた。
速さは脳無では相手にならない、お陰で攻撃は一切当たらず、逆にレイミィの攻撃は避けることも出来ずに受け続けるという防戦一方。普通であればこれだけの攻撃の嵐を喰らえば一分と要らずに沈むことになるが脳無は普通ではない。
「そのようですね。あの程度の攻撃力ならば脳無を倒すことは出来ないでしょう」
「なんだよ、見掛け倒しってやつじゃん。イレイザーヘッドもあれだけの連戦で消耗しきってるみたいだし、こりゃまだワンチャンあるかもな」
それに気付けてしまえば先程までの追い詰められたという表情から一点、余裕ぶったものに変わりイレイザーヘッドの方を見る。対してイレイザーヘッドは先程の言葉が聞こえたのか苦虫を噛み潰したよう表情のまま、抹消を発動するが死柄木の表情は崩れること無く、ボソリと彼に告げる。
「なぁ、あんたの個性って長々と発動できないんだろ? しかも段々と短くもなる、さっきは30秒、次は26秒、その次は20秒、それは……ははっ、16秒、ほら、髪が下がる瞬間の間隔が短くなってるぜ?」
「……(こいつ、思ったよりもしっかり場を見てやがる)」
イレイザーヘッドの個性【抹消】は確かに強力だ、だが異形型には通用せず、何よりも彼自身がドライアイという致命的な弱点を持っていることも手伝い、一戦闘で連続使用すれば段々と発動できる時間が短くなってしまう。
更についさっきまでチンピラ集団を相手取っていたのもあり息も若干上がり始めている、この状態で目の前の主犯格二人を個性を封じながら戦い捕縛できるか、いやと彼は弱気になりそうになった己を破棄し、捕縛布を構える。
「流石プロヒーロー、諦めないってこと? 脳無、そのガキを確実に足止めしておけ、こっちに来るようならあそこの子供たちの方に行っちゃっていいから」
「ですが我々を相手できますか? 無理はなさらないほうが宜しいかと」
「舐めるなよクズども」
一触即発の雰囲気が場を包み、レイミィもそれに気付くどうにかしようと思考を巡らすがここで自分が脳無から目を離した場合、死柄木の指示通りにゲート前広場に向かい蹂躙するだろう。
圧紘も居るが彼の個性が発動するよりも前に脳無の攻撃のほうが速いと分かるからこそ、それよりも速い自分が徹底的に攻撃を与え続けこの場に縫い留めなければならない。
同時にイレイザーヘッドが彼らと戦うにしても隙をなんとか作り出す手伝い位はとついさっき、死柄木が気になることを呟いてたのを聞いていたので態とらしく独り言のように。
「それにしても個性二つなんて贅沢なお人形ね。もしかして自慢しに来たのかしら!?」
「あ? んだよ聴こえてたのか……そうさ、そいつには【ショック吸収】と【超再生】の2つがある、そこにオールマイト並の身体能力が合わされば無敵ってわけだ」
「2つの個性、だと?」
本来であれば個性は一人に一つ、2つ以上あるなんてことは確認されていない。二つあるように見える個性だって詳しく見てみれば一つの現象から生み出されている物であり、だからこそイレイザーヘッドは驚きの声を隠せないでいた。
けれどレイミィだけは少し前のブラッドチェーンに付着していた脳無の血をコウモリに変え口から吸収していたので何故、個性を二つも持てているのかは知っていた。
「オールマイトを殺すためにこのお人形を用意したってんなら相当趣味悪いわねこれを作ったやつはさ」
「……へぇ、気付いたんだ。いや、本当に驚かされてばっかりだ今年のヒーローの卵には」
ザザッと一息入れるためか脳無から少しだけ間合いを取った場所に姿を表したレイミィが頬に伝った汗を拭いながら言えば死柄木は、まさかそこまで看破されるとは思ってなかったようで驚いたように返す。
「作っただと? いや、まさかこいつ!?」
「えぇ、少なくとも三人を素材にして作られた生物兵器って所ね」
この状況下で冗談を言うとは思えず、レイミィの記憶を読み取れる能力のことを知ってるからこそ出任せの言葉ではないと判断したイレイザーヘッドは衝撃的すぎる事実に今回襲撃を企てた敵連合の組織力が見え、冷や汗が溢れ始める。
これだけのチンピラを集められ、死柄木や黒霧と言った強力な個性持ちが所属し、更には脳無と言うそこらの組織には先ず作れないであろう非人道兵器も生み出せる存在、ではその背後に居るのは一体何者なのだと。
「さて、ダンスの続きよ!」
「答えろ、お前らの後ろに居るのは誰だ」
「言うわけ無いじゃん、聞きたかったら力尽くできなよ」
ならお望み通りに! 十分すぎる一息を入れたイレイザーヘッドが走り出し、黒霧と死柄木に抹消を入れてから捕縛布を死柄木に飛ばすも掴まれ逆に引き寄せられるのを利用し一気に踏み込んでからの肘鉄、だがそれは向こうが飛び退くという形で回避し、同時に
「20秒」
「ちっ!!」
まばたきをした瞬間を狙った死柄木が手を押し付けるような攻撃を避けながら捕縛布を再度飛ばしてみるが先ほどと同じように掴まれるのだが、死柄木ががっしりと掴んだ所から捕縛布はポロポロと【崩れる】。
「(崩れた? まさか)そうか、あの時のマスコミの騒ぎを作ったのはお前だったというわけか」
「マスコミの騒ぎ? あぁ、あれか、あれはちょっと焚き付けただけだって」
「それよりも、自身の身の心配をしたらどうでしょうか?」
急激に膨れ上がった嫌な予感に従い、イレイザーヘッドがその場から飛び引けば、黒い靄の中から伸びる死柄木の手。もし気付けなかったら背中から崩壊させられていたと考えればゾワッとするが、今こうして手を視たことで抹消が発動、逆に手を掴み返し力を加えようとしたが向こうがそれを察して無理やり引っ込められ失敗に終わる。
「あっぶな、おいおい、手を折りに来るとか正気かよ」
「無力化するのに合理的な判断をしただけだ」
ふぅと息を吐き出しながらチラッと脳無と戦っているレイミィを見るが状況は何も変わっていない。死柄木たちから見れば馬鹿の一つ覚えと言える蹴りや拳の嵐に脳無も反撃するように動いてはいるが全く当たらないというリピート映像かと思う光景だが彼女は何も考えていない訳ではなかった。
死柄木は脳無に備わっている個性の二つを【ショック吸収】と【超再生】と言っていた。吸収、ならば吸収先の器があり、絶え間なくそれを発動させて満たし溢れさせることが出来ればダメージが通るようになるのでないかと。
(私には重い一撃は出せない、けれど百でも千でも攻撃を積み重ねることは得意なのよ!)
速さに物を言わせた一人物量作戦。コレの利点は敵側からすれば自棄になって攻撃してるだけとしか見られ難いということだろう、まさかこれが策だとはそうそう思うことはないと。
「頑張るね、でもそろそろ限界ってのがあるんじゃない?」
「かれこれ【一分】は動き続けてると考えれば体力も辛いでしょう」
なんか最近の
「悪いけど、この状態の私はそうそう疲れることはないわ。なんだったら10分でも20分でも殴り続けてあげるわよ? それともう一つ、確かに生徒が救援を呼びに行ったからまだ掛かるって思ってるんでしょうけど……」
バァン! ゲートが何か強大な力で吹っ飛ばされる轟音が広場に届く、そうとなればゲート前に居た者達が何事かとそっちを見て、ある者は心からの安堵を、ある者はかの者が来たことが分かり涙を、そして死柄木はありえないとばかりにその存在を見つめる。
一方レイミィは場が一時的に休戦になったのを悟ってゲート側で止まり、息を整えながら動揺している
「バカな、生徒が抜け出してからまだ一分しか経っていないはず!!」
「フフフ、はぁ、えぇそうね。普通ならまだ彼が来ることはあり得ないわ、でもこの襲撃が行われたと同時だったら時間ぴったりよ?」
レイミィの勝ちを確信した表情と声から出された言葉、そして彼女の隣に【レイミィ】が降り立つ、全く同じ顔の同じ身体、何から何まで同じ彼女が現れたことに事情を知ってる人間以外は驚き、その視線を受けながらレイミィは【レイミィ】に一言。
「お疲れ様、【私】」
「本当よ、人使い荒いんだから私は。じゃ、あとは頑張りなさいね」
「はいはい、言われるまでもないわ」
スッと爪で【レイミィ】の首をかき切ればフワッと粒子になって消えて付けていたと思われる通信機が音を立てて落ちる。一体何が起きているのかとなりそうな場だったがレイミィが落ちた通信機を拾い上げつつ。
「まぁ、ザックリと言っちゃえば私の分身を演習場の外に待機させてたってワケ、あとは通信が途絶えたらこの分身が学校に救援を呼びに行く、ね。簡単な話でしょ?」
「はぁ───、ようは初めから掌の上だったってわけか」
気怠そうな、不機嫌そうな態度のまま死柄木はゲート前に現れたプロヒーロー、この世界で最も有名なヒーローを睨みつける。
「待ってたけど、今は来て欲しくなかったよ、ヒーロー……社会のごみ」
「事のあらましはバートリー少女の分身と来る途中で飯田少年から聞いた。もう大丈夫、私が来た!」
No.1ヒーロー、オールマイト参戦。これにより状況は一気に好転することになるのは言うまでもないだろう。
レイミィちゃん、タイマンはそれほど強くない系少女。一応、よほど格上じゃなければ戦えるけどチーム戦がメインだからね、仕方ないね。
便利屋メモ
タイマン最強は? と聞くと全員して仁を見る。数の暴力は何時だって強いのだ