便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

28 / 190
互いに、そう思ってる、思ってた。


No.28『切り札は出来れば切りたくない』

 ズシンと【ショック吸収】と【超再生】を持ちオールマイトを殺し得ると豪語していた脳無が死柄木の前で倒れ伏し、生徒達からは歓声が上がる。

 

 これがもし本来の流れ通り活動限界ギリギリの状態で来たオールマイトならば脳無との死闘を演じることになったのだろう。けれど今回は事前に徹底した根回しの成果もあり活動時間は二時間残ってると言う心理的な余裕に加え、レイミィが延々と攻撃を与えていたお陰もあるのだろう。

 

 自慢の【ショック吸収】は機能不全一歩手前まで許容ラインに迫っていたのも手伝い、オールマイトの渾身の乱撃でそれをオーバー、超再生を発動させるもショック吸収さえ機能しなくなればレイミィの攻撃も通るということもあり再生を上回る勢いでダメージが蓄積、そして冒頭に繋がる。

 

 つまり何が言いたいのかと言えば、彼が到着しレイミィの加勢に入った段階で勝負は決まっていたということである。彼女のあの打撃の嵐も決して無駄ではなかったということに内心では安堵をしつつ、死柄木と黒霧を見据え

 

「さて、お人形は沈んじゃったけど、まだなにかあるのかしら?」

 

「チート共が……!!」

 

「死柄木弔、ここは退きましょう。もう既に我々の勝ち筋は無くなっております」

 

 冷静な黒霧の提案に死柄木は首元をガリガリと掻き毟り苛立ちを募らせていく。本来であればもっと戦いになるはずだったというのにたった一人のイレギュラーにここまで引っ掻き回されるとは思っても居なかった。

 

 オールマイトにはろくな消耗をさせることは叶わず、それだけではなく満身創痍に近いくらいに消耗してるとは言え無傷のイレイザーヘッドも、万全な13号も健在であり黒霧を邪魔した臨時スタッフもとい圧紘も居る。

 

 更にはあと一分もしない内に学園から何十人ものプロヒーローが応援として到着してくるとそこまで考えた死柄木はピタッと掻き毟っていた手を止め溜息を吐き出す。どこをどう、何を考えても文句無しの敗北、それどころか直ぐにでも逃げなければ自分達もお縄と言う状況にまで陥っていると分かるこその態度であり、彼は決断した。

 

「はぁ……黒霧、帰るぞ」

 

「畏まりました」

 

「おっと、逃げれると本気で思ってるのかい!」

 

 ならば取れる手段は逃げの一手のみ。イレイザーヘッドの効果が切れたのを計らって黒霧にワープホールを開かせて撤退しようとするが勿論、目の前の二人がそんな事を許すはずもなく、オールマイトが先行して阻止しようとするが

 

「脳無、死んでもいいからヤツを全力で足止めしろ」

 

「グウゥ!!?? 急に本気になってくるとは、すまないバートリー少女!」

 

「分かって……」

 

 オールマイトが脳無に足止めされレイミィが変わりに阻止しようと動こうとした彼女の足が止まった。それは何かを感じたとかではない、ただ本当に、何かが居ると言う漠然とした気配にレイミィは何故か空を見上げ気付いた。

 

 何かが本当に居た。自分たち、もっと正確に言えば死柄木と黒霧の上空に紅い誰かがレイミィ達を見下ろしていた、【プリンセス】状態の彼女で辛うじて見える距離、けれどレイミィは得体も知れない寒気に襲われていた。

 

 あれはなんだ、そもそも何時からそこに居た。そんな疑問ばかり脳内を巡りそうになるが、違うと何故か混乱し動揺しかけている頭をリセットし死柄木と黒霧の確保に自身の最高速での接敵し、先ず手始めにと黒霧に一撃入れようとして、直後に驚愕の表情を晒すことになる。

 

「……え?」

 

「本来ならばこの場で切るつもりのなかったカードですが仕方がありません」

 

「あーあ、先生に無駄な手を出させちゃったよ、これ怒られるかな」

 

 確かに遥か上空に居たはずの存在がレイミィの目の前で自身の拳を止めていた。何時接近してきたのか、気配も音も、影すら認識できない速さにレイミィはヤバいと危機感を膨れ上がらせた。

 

 プリンセス状態の自分で何も感じることも出来ずに接近すら気付けないほどの速さ、完璧に全てを上回られている存在が現れたことに場が一気に傾いてしまったと蹴りで相手を無理やり剥がし距離を取った所で焦りの表情が現れる。

 

「大丈夫かい、バートリー少女!!」

 

「え、えぇ、大丈夫……って言えたら嬉しいわね」

 

 改めて脳無を沈めたオールマイトからの言葉に返事をした所で自分が震えていることに気付いたレイミィは苦笑を浮かべる。勝てない、それどころか負けない戦いを出来るかも怪しいと新手の姿をじっくりと観察する。

 

 身体は赤と黒の体のラインがハッキリ分かるバトルスーツのようなものを着込み、顔は機械仕掛けのお面のようなもののせいで表情すら読み解け無い。辛うじて体のラインと長く伸びている真紅の髪のお陰で女性だと言うことと背中からプリンセス状態のレイミィのよりも更に大きくしたコウモリのような羽根が判別できる程度、それ以外は一切謎であり、それでも先程までの脳無とは遥かに格上なのは間違いない存在。

 

「帰って出直すよヒーロー、そして今度は殺してやる……」

 

《所長、そいつ等を阻止すれば良いんですよね!!》

 

「っ!? ダメ、被身子!!!!」

 

 妨害していた個性持ちを撃破したことで回復した通信機から聴こえた被身子の言葉にレイミィは初めて焦りの声を上げ動き出す。

 

 標的は逃げようとしている二人ではなく目の前の規格外、プリンセス状態の自分で話にならないレベルだと言うのに被身子がレイミィに変身してたとしても瞬殺されるのがオチだと分かるからこそ彼女を救うために(ヴィラン)側の切り札に突っ込む。

 

 彼女の鬼気迫る声にオールマイトも反応し、合わせるように動き出すも次に見たのは吹っ飛ばされ、咄嗟に受け身を取るレイミィと同じように返り討ちに合い地面に転がり個性が解除された被身子、そして気付けば死柄木の側に立っている規格外、先程までの戦いでレイミィの実力を知ってるからこそこの光景に言葉を失う。

 

「いっつ……何も見えないって冗談でしょうが、被身子、大丈夫!?」

 

「う、うぅ……痛いです」

 

「ホーリシット、参ったな私にも動きが見えづらかった。何者なのか、逃げるついでに教えてくれても良いんじゃないか?」

 

 オールマイトでも完璧に動きを捉えられなかったという事実にいよいよあの主犯格二人を見逃すしかなくなったと立ち上がりながらレイミィは渋い顔を晒し、オールマイト自身も悔しさを滲ませた表情のまま死柄木に問いかける。

 

 普通であれば、喋らない、けれど死柄木という大人でありながら子供でもある精神性を突いたオールマイトの賭けは見事に勝つ。

 

「こいつか? なんでも先生とドクターが作って調整中の【赤霧】って名前だって言ってたかな、そうだよな黒霧」

 

「死柄木弔、あまりそういうことは外部に漏らすなと言われております。それよりも……」

 

「ん? あぁ、もう来そうじゃん。じゃ、今回は見逃してやるから感謝しなよ」

 

「それはこっちのセリフだ、(ヴィラン)共」

 

 ズズズッ、と黒霧の靄に包まれながら死柄木は上機嫌に消えていき、続くように【赤霧】も靄の中に消えていくのだがその際に相手がレイミィに視線を送るように顔を動かしてから消える。

 

 最後に黒霧自身も消え、場に(ヴィラン)が居なくなったタイミングで雄英高校からのプロヒーロー達の救援が到着、だがそれはあまりに遅かった。

 

「急いできたけど、少し遅かったようだね……」

 

 根津の無念を込めた声が響く、がレイミィとしては間に合っていたらそれはそれで悲惨だっただろうと思わざるを得ない。オールマイトも同じことを思っているのだろう、何とも言えない表情のまま、根津達のもとへ向かう。

 

 仮に間に合い集まってきたプロヒーロー達と戦ったとしても、もしアレが自分と同じ存在ならば使える能力も大差ないのなら赤霧は彼らを蹴散らせたかもしれないと。

 

「所長、被身子ちゃん、大丈夫かい? 結構派手に吹っ飛ばされたけどさ」

 

「私は大丈夫でーす、それよりも所長の方が」

 

《こちら仁、すまねぇ、思ったよりもチンピラの数が多くて対処してたら、間に合わなかった》

 

《こちら血染、生徒一人と鎮圧完了、バートリーは大丈夫か?》

 

 駆け寄ってきた圧紘、派手に吹っ飛びこそしたが思ったよりもダメージはないようで寧ろレイミィの方が心配だと被身子、復活した通信機越しからは血染と仁もそれぞれ無事だと言う報告が来るがレイミィはそれどころではなかった。

 

 赤霧の件もあるが、それ以上にこのプリンセス状態を今から解除することに今日一番の緊張をしていた。この技は出し切れていないポテンシャルを無理やり引き出す、つまりこの身体では本来出せない出力を無理を押し通して出させるのだがその反動は使用中ではなく、解除したあとに襲い掛かってくる。

 

「……ふぅ、圧紘、被身子、解除するから少しの間よろしく」

 

「了解、介抱は被身子ちゃんに頼むよ。おじさんはクラスメイトのお友達を話しておくから」

 

「はいはーい、じゃ、どうぞ!」

 

 気軽に言うわねと思いながら集中し【ヴァンパイア・プリンセス】を解除。羽根は通常サイズにまで戻り、身体から漏れるように出ていた紅い靄を収まる、同時にドクン! と彼女の心臓が大きく跳ね激痛から悲鳴が上がりそうになるのを歯を食いしばって抑え込む。被身子もそれを手伝うように寄り添うが、出来ることは殆どない状態にただ背中を擦るなどをするしか出来ない、その光景を偶々見てしまった麗日が青ざめた表情で駆け寄ろうとするが圧紘に止められる。

 

「っ! がっ、はぁ、こふっ」

 

「レイミィちゃん……? ど、どうしたん!!??」

 

「あっと、ごめんね。所長は大丈夫だから安心してほしいかな、そうは見えないだろうけど」

 

 事態が落ち着き、危機を乗り越えたクラスメイトが見たのは胸を抑え蹲り、苦しそうな声を上げるレイミィ。先程までの頼もしい姿は何処にもなく、自分たちに見えなかっただけでなにか大きなダメージを貰ったのかと思うくらいの光景に今度は不安に駆られた峰田が叫ぶ。

 

「いやいやいや、あれは明らかにヤバい状態だろ!?」

 

「もしかして、あの紅い靄が原因?」

 

「うん、所長が使った、あの技は凄いんだけどその分の反動が大きいってわけ。今回はちょっと長めに使ってたから2分くらいは落ち着かないとは思う、けど命に別状があるとかじゃないから」

 

 と言うよりと圧紘は今も激痛に耐えているレイミィを見る。彼女のそれは曰く心臓が鼓動する度に心臓周りの血管と身体中の筋肉が弾けるような痛みを延々と受け続けるらしく、下手に触れたり移動させようとするのは逆効果になる。

 

 なのでこの状態になったら彼らもそっとして、軽い介抱や流れてくる大粒の汗を拭ってあげる程度しかできないと。それを聞いた蛙吹はそう、と暗い顔をして俯く、もしかしたらと思っていたことが当たってしまったと、勿論あの場で自分たちが助けに入っても足手まといでしかないのは理解しているが、それでも見てるだけしか出来なかった自分があまりに憎かった。

 

「彼女、大丈夫ですか?」

 

「えぇ、端から見たらそうは聴こえないでしょうけど大丈夫ですよ。しばらくすれば落ち着きますし、所長も初めての経験ではないので」

 

 初めての経験ではない。その一言で13号は彼女があの技を日常的とは言わないがそれなりの頻度で使ってることを察し、ヘルメットの奥で表情を歪ます。

 

 気付けば教員たちが事後処理を行い始め、生徒達も広場に集まるようにと指示が飛ぶ。なので落ち着いたらすぐに向かわせると麗日たちに向かうように促し、彼女たちも13号の指示で向かうことに。

 

 それを見送ってから圧紘がレイミィのを見るがまだ落ち着くまでに時間が掛かるだろうなという感じの声と荒い呼吸、そこに残りの便利屋の二人も合流。

 

「お嬢は……使った、のか」

 

「それを使わざるを得ないのが相手に居たってことか」

 

「あぁ、お疲れ、仁に血染。それとそうだね、見てただけで分かるのは相手が用意してた手札がジョーカー二枚だったってところかな」

 

「そこで捕縛されてる化け物は良いとしても、赤霧でしたっけ? あれはジョーカーで済ませて良いんですか? プリンセス状態のレイミィちゃんでも相手にならなくてオールマイトも動きが見えづらかったとかいうレベルですよ?」

 

 つまり、速さだけを見ればあの場の誰よりも最速の存在であり、しかも死柄木の言葉を信じるならばまだ調整中、もしかしたらここから更に強くなるかもしれないとなれば便利屋の面々も難しい顔をするしかなくなる。

 

「話を聞いてると血を舐めることができればそれで良いんだが、そこまで速いとなれば簡単には行かないな」

 

「俺が自分自身を増やして数で攻めるってのはどうだ? いや、速さで蹴散らされるか?」

 

「圧縮も発動までのラグで避けられるだろうね。それに気になることが一つある、赤霧に羽が生えてたんだけど、あれが所長のと同じように見えたんだよね」

 

「あ、それはトガも思いました。けど、似てるってだけじゃないんです?」

 

 降って湧いて出た強敵に頭を悩ませ、更に圧紘の疑問に更にうーんとなる面々。自分たちの個性も強いと自負してるが、基礎スペックで押し通ってくる所謂オールマイトタイプが相手となると相性が悪いのはレイミィだけではない。

 

 と、ここでレイミィからの声が苦悶などから落ち着きを見せ始め、呼吸も荒かったものから安定したものに変わったと思えばゆっくりと立ち上がり。、

 

「ふぅ、はぁ、っつ、あ~、なに、この空気」

 

「あ、もう落ち着きましたか? クラスメイトの皆が心配してましたよ」

 

「そりゃまぁ、急にこんな姿を見せられたらそうでしょうよ。とりあえず、全員は私に付いてきて紹介しちゃいましょ?」

 

 いつもの調子を取り戻したレイミィの言葉で便利屋は広場に集まっているクラスメイトの元へと向かい、彼らが実はという話をするのだが、そこで返ってきたのはある意味で当然であり、レイミィにとっては想定外の言葉だった。

 

「服についてるエンブレムとレイミィさんの戦闘服(コスチューム)のエンブレムが同じだから気付いてましたわ」

 

「え? あっ、なにそれ私聞いてないんだけど!?」

 

「うん、それに渡我さんに助けてもらったあとに聞いたら自分が秘書だって名乗ってくれたし」

 

「……ひ~み~こ~!!!!!」

 

 即座に被身子に詰め寄ろうとするレイミィ、捕まれば絶対に煩く言われるのが分かってるから逃げる被見子、それをやれやれと見つめる便利屋男衆とあ、レイミィの便利屋の立ち位置ってそういう感じなんだと誤解するクラスメイト達。

 

 かくして襲撃は終息を迎えた。されど、まだまだ今日が終わるというわけではない、ここからは便利屋所長としてやることは山程あり彼女に安息は訪れないのである。

 

 なお、この追いかけっこ自体は長くなりそうだと判断した血染と彼に協力を要請された相澤によって鎮圧された模様。




とりあえずUSJ襲撃はコレにて。え、赤霧ってなんだって? 倫理観が【都市(ロボトミ並感】で青が澄んでる感じだと思ってもらえば大体それです。

まぁ言うと、レイミィちゃん用のボス枠の用意ですね、はい。

原作との相違
原作と違い全てが早くことが回ったので轟と爆豪は広場に間に合っていない。

緑谷が脳無に放つはずだった調整成功SMASHのイベントが起きてない。

相澤、13号:ほぼ無傷

オールマイト:活動時間を二時間残した状態で参戦し、脳無自体もレイミィが弱らせていたので原作ほど苦戦せずに勝利。

便利屋メモ
よくよく考えたら便利屋全員が基礎スペックゴリ押しタイプに弱いじゃんと気付く
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。