便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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少年、上を知る。

少女、お気に入りを見つける。


No.3『吸血姫の実技試験』

 少年にとって、周りの人間は自分よりも下のモブという認識だった。自分ができることが出来ない格下、逆に自分は何でもできる天才、と思っていたし実際今日までそうだった。だからこそ横暴な態度も取り、雄英高校への受験も自身が頂点だと周りに知らしめるための挑戦でもあったと否定はできない。

 

 言ってしまえば、彼は天狗になっていたしそれを諫める者も居なかった。故に少年がそんな性格になってしまったのも当然の結果と言えるのだろうし、この雄英高校の入試でも己が首席で突破できると疑ってなかった。

 

 疑ってなかった、今日この時までは。難関高校だと言ってもこの程度かと筆記も楽勝で突破し、続く実技でも周りのモブ共を尻目にポイントを荒稼ぎしてやると意気込み、不意打ちのような開始の合図にも完璧に反応してスタートダッシュを決めた彼が初めに見たのはヴィランロボではなく、後方から自身の最高速を凌駕する速度で現れた一人の真紅の少女だった。

 

 初めはたかが初速で追い抜かれただけ、直ぐに抜き返し撃破で上回ればそれで良いはずだった。けれど、目の前に現れた少女は少年が把握するよりも先にヴィランロボの位置を察知しては時に素手で、足で、腕から真紅の鎖を飛ばし、突き刺したまま振り回すことで複数を、と最小限の動きで撃破していく様を見せつけられていく。

 

 無論、少年も撃破できてないというわけではない、他の受験生に比べればハイペースでポイントを稼いでいる。だが、それは第三者の感想であり、当人にとっては何の慰めの言葉にもならない。

 

(ざけんな……ッ!)

 

 歯を食いしばりながら少年は眼の前の少女を睨みつけながらヴィランロボを撃破していくが、彼が数体倒しても、相手はその上の数を同じ時間で倒す。自身の出せる全てを使って追いすがろうとしても少女は軽々と上を飛び続け、背中に触れることすら許さない。

 

(ざけんな……ッ!!)

 

 自分が一番だと信じ続けていた、疑いもしなかった事象がここに来て罅を入れられた。決して才能だけではなく、努力も怠らなかった筈だと言うのにまるで届かず、今も威圧すら与えられるレベルで睨みつけている。だと言うのに向こうはまるで少年のことなんて、彼が今までしてきたように『モブ』の一人程度にしか扱っていないという態度に罅がさらに大きくなるのを感じ取れた。

 

(ざけんな、ざけんな!!!)

 

 積み上げた全てを土台から崩される感じを覚えながら足掻く、個性による爆発を更に強め、ヴィランロボを更に巻き込み、悠然と飛び回る少女に迫らんとするが、先程から何も変わらない態度を取る少女を許せなかった。それ以上に、勝てないと思考に生まれつつある自分に怒りを覚え始め、振り払うようにがむしゃらに撃破していき、だがそれが自分と少女との差を明確にしていくのが分かってしまい、遂に

 

「ざっけんなぁァァァ!!!!」

 

 堪えきれなくなった心からの慟哭が口から漏れ出した。止めることが出来なくなった叫びが会場に響く、自分を見ないあいつが、あいつに勝てないと思ってしまった自分が許せなくなった叫びに遂に少女が振り向いた。

 

 漸く自分を見た少女、だがその顔を、表情を、瞳を見た瞬間、少年が感じたのは背筋が凍るような寒気に言葉を失った。彼女の顔は笑っていた、狂喜に近い物を込められた瞳と表情を向けられ少年の頭は理解できなかった。向こうは自分を『モブ』として見ていたのではないかと、まるであれは自分がこの感情をぶつけてくるのを待っていたと言わんばかりの表情じゃないかと。

 

 何なんだこいつは。試験中だというのも忘れてしまうくらいの衝撃を受ける、動きが、思考が止まりかけたが、少女が唐突に表情を真面目なものに変えて真紅の鎖を自身の方向に撃ち出してきたことで正気に戻り、即座に振り返れば、貫かれた一体のヴィランロボが、しかしそれは自分を狙っていたものではなく、転けて無防備になってしまった受験生を助けるものだったのだと気付く。

 

(なん、なんだあいつ……!!)

 

 視界を前方に戻すが気付けば少女は居なくなっており、少年は拳を握りしめ少女が飛んでいった方角を睨みつけてから、八つ当たり気味にヴィランロボを撃破し始める。あの時に感じてしまった得体のしれない恐怖に似た感情を振り払うが如く、対して少女ことレイミィはと言うとあのエリアから少し離れたところでヴィランロボを撃破していたのだが

 

(やっちゃった~。ついつい、彼から向けられたあの叫びと視線が嬉しくて表情隠すの忘れてたわ)

 

 はっきりと言えば、彼女は試験開始からここまで一度たりともあの少年を『モブ』などの目で見ていない。寧ろ開始からずっと自身に望む感情をブツケてくれている良い子という目で見そうなのを堪えているまである、ああも完璧に自分に対して情緒が乱れに乱れた物をぶつけられ、そして最後には心からの慟哭を聴いて、つい歓喜に近い表情を隠すことを忘れて振り向いてしまったのが先程の真相。

 

(あの子の反応から見るに、被身子に『怖いですよそれ』って言われた笑顔してたってことよね間違いなく。駄目ね~、どうにも思い通りになったって時は表情を隠すのが少しだけ下手になる癖直さなくちゃ)

 

 仕事とか他の時は隠せるんだけど。とボヤきながらも手を止めずにポイントを稼ぎながら、時に場所を移動して怪我しそうな受験生を見つけては真紅の鎖【ブラッドチェーン】を飛ばして、ロボを倒すか、或いは受験生に巻き付けてからグイッと引き寄せたりと助けていく。

 

「よっと、いきなりでごめんなさいね。怪我は?」

 

「ん、大丈夫」

 

「なら良かったわ。じゃあ、互いに頑張りましょ」

 

 飛び去りながら考えるのは残り時間と、自身の余力。時間は体感で残り2分切っているが、自身の余力となると少しばかり顔を顰めた。彼女の個性は自身及び摂取した血液を対価に使う力が多く、先程から使っている【ブラッドチェーン】も燃費は非常に良い技であるのは確かだが、それでも無造作に撃ち続ければガス欠になってしまう。故に時には体術も混ぜて節約しているのだが使わないと効率が下がってしまうので結局は頼ってしまっている。

 

 しかも敵が無機質だというのも彼女がしかめっ面になる理由の一つになっている。生物であれば、戦いながらコウモリで血を回収して糧にできるが、無機質ではそれが出来ず常に消費し続ける状況になってしまう。

 

(流石に残り時間でガス欠は無いでしょうけど、首席を狙うなら足を止める訳にはいかないのよね)

 

 今も聴こえる爆発音からすれば、ここで節約気味に戦うと首席を取れるか怪しくなる。ともすれば残り時間もほぼ全力で戦わなければならない、そうなると心許ないと言わざるを得ないが、彼女は上等と笑う。

 

(まぁ、何もこの状況が初めてって訳じゃないものね。やってやろうじゃないの)

 

 これで出来ませんなどと言うなら便利屋の社長なんてやってないのよ。とペースを落とさずにポイント稼ぎを継続しつつ、他の受験生への援護も並行してやっていく、これはただ単に仕事の時の癖が出ているだけである。

 

 広大な試験会場で、途切れること無く響く爆発音と、飛び回る影と真紅の鎖、他の受験生から見ればとんでもない二人が居ると言う状況が続き、残り時間一分のプレゼント・マイクの声が響いたと同時にそれは来た。

 

「ん?」

 

 微かに地面が揺れたのを感じたレイミィがここに来て初めて足を止め、振動の発生源を探ろうと集中しようとした時、今度はビルが倒壊する音が響き渡り、見れば思わず目を見開いてから

 

「わーお、お金あるってこういうのも用意できちゃうのね」

 

 現れたのは強大なヴィランロボ、事前説明で0Pの存在が居ると聴いていたレイミィはすぐにあれがそうだと判断してから、さてどうするかと考える。逃げるのは簡単だ、しかしそれはあまりにつまらない事だと0Pロボを見上げて思う。

 

 周りは我先と逃げるなか、レイミィはそういえば居るのかしらと周囲を見れば、この状況下でもヴィランロボを倒してポイントを稼ごうとする例の少年を発見しニコリと微笑みを浮かべ行動を決める。どうやら彼は倒す気がないらしいと、0Pだから当然といえばそうなのだが、ならばこそ

 

(私が彼の見えるところで倒したら、きっとまた……ふふっ)

 

 レイミィ・バートリー、親友である被見子に趣味悪いですよと言われても当然と言える思考で体に力を込めて飛ぼうとした時、0Pロボの後ろに一人の受験生が倒れていることに気付いた。このまま自分が考えている方法で倒した時、間違いなく巻き込むなこれと思うが、助けに動いてからではと考えて駄目だと却下。

 

(無駄にあれを動かしてしまうわね……あ、そうだ)

 

 何かを閃いたと同時に飛翔し、少年の側まで向かってから、彼を見つつ聞こえる声でただ一言呟いた。内心、これを頼むと自分が倒すところを見られなくなってしまうことに残念に思っているのは誰にも言わないので分からないだろう。

 

「そこの貴方、ロボの後ろで倒れてる子、よろしく」

 

「あぁ!!???」

 

 どうして俺が!! そう開こうとした口は彼女の目を見て閉じられた。出来ないなら別に良いけど、言葉にしなくてもそう告げているのが分かってしまう視線と表情に、普通であればそんな目をされても無視する彼だったが、ここまでの感情でそれが出来なかった。

 

 これを無視すれば今度こそ、俺はこいつに追いつけなくなる。湧いて出たその考えに苦虫を口いっぱいに噛み締めたような表情をしてから、爆発を利用した飛行で向かったのをレイミィは確認してから、満足気に頷いて0Pロボに接敵。

 

 迎撃で振り下ろされた腕を回避してから、腕から撃ち出されたブラッドチェーンは意志を持つように0Pロボの頭部に巻き付いたのを見てから力を更に込めて鎖を太く頑丈に変化させ、最高速に鎖を引き戻す際の力も足され繰り出された飛び蹴りは0Pロボの顔面に直撃、少女という体格からは想像できない威力により大きく後方へ仰け反ったのを確認してから鎖を展開したまま頭上を飛び越え

 

「そぉれ!!」

 

 グンッ! と全力で鎖を引っ張れば、抵抗もできずに大きな音を立てて倒れる0Pロボ、どうやら見た目ほど頑丈というわけでもなかったようで倒れた衝撃で機能を停止、起き上がらないのを確認してから鎖を消滅させつつ、レイミィが着地する。

 

《終了~!!!!!!》

 

「これ、マイク使ってないのよね。恐ろしい個性だこと、あっ……」

 

 プレゼント・マイクによる終了宣言を聞きながら、感想を呟きながら伸びをしてたレイミィだったが0Pロボが倒れている箇所を見て、やってしまったという顔をして声を漏らす。彼女の視線の先には0Pロボが倒れた衝撃によって砕けた道路、仮想街とは言え、便利屋として現場に出たことがあるからだろう考えが頭を支配したようだ。

 

「これ、弁償しろとか言わないわよね」

 

 大丈夫よね。とカメラがある方角を見つめながら思うが、入試だしこんなことで請求は来ないわね! という開き直りに近い結論を出したところで視線を向けられていることに気付いて、その方向を見れば親の仇を見つけたと言わんばかりの目でレイミィを見る少年の姿。

 

 近くに救出を任せた人物が居ないところを見るに、威嚇されて離れたのだろうかと考えつつ彼女は少年に近づいていく、対して向こうもなにか反応を示すわけでもなく睨みつけたままだ。そして、会話ができる距離になったところで、レイミィから先手を打つ。

 

「ご協力に感謝するわね。お陰で被害は最小で抑えて、あのロボを倒せたわ」

 

「……っ!」

 

 彼女としては本心で、だが聞き手である少年からすれば皮肉にしか聞こえかったようで歯を噛みしめるような音が口から漏れる。実際、あの動きを見ていた彼としては一人で全て出来たというのに頼んできたというのが、己を下に見ているからだと思わずにはいられなかった。

 

 そのことを知ってか知らずか、レイミィは更に近付いてこれだけで殺せるんじゃなかろうかと言うほどの視線を向けてくる彼に対して。

 

「一人でもやれなくはなかったけど、その場合はあのロボが無駄に進行させることに繋がるわ。ヒーローとしての前提で動くならば、それは許容できないでしょ? ともすればその場の誰かに協力を要請するのが手っ取り早い、一人より二人ってやつね」

 

 協力できたのに要請しなかったで被害が増えて弁償代を請求されるの面倒だし。と口にしそうになったのを無理やり抑え込んで、だからこそ貴方が素直に協力してくれて良かったわと告げながら握手を求めるように手を動かすも、帰ってきたのは握手ではなく、応えずに彼女を素通りしていく少年の姿にレイミィは分かってたと『手で口元を隠した状態で』苦笑してから、通り過ぎようとしている少年に向けて一言。

 

「どうだったかしら、『モブ』として見下していた人物に上を飛ばれるっていうのは。あぁ、ごめんなさい、初めてではなかったようね」

 

「あ……?」

 

 告げられたそれは衝撃しか与えなかった。自分の内心をついさっき出会ったばかりのこの少女がどうしてと驚愕の表情のまま思わず動きが固まってしまう、声の質からして冗談などではない、まるで自分のことは知っていると告げられるような声。

 

 今日だけで何度思ったかわからない、こいつは一体何者なんだという疑問が彼の脳内に再度広がる。今日までで感じたことのないモノにどう動けば良いのかが判断付かずにいる彼にレイミィは、そろそろ帰るかと背を向け歩き出してから去り際に

 

「それじゃ、今度は学校で会いましょ? 【爆豪 勝己】」

 

「っ!!!??? テメェ、何なんだよ!!! クソが、勝った気でいんじゃねぇぞ! ぜってぇテメェは俺がぶっ殺してやる!!!!!」

 

 とてもではないがヒーロー科を目指すような人物が口にするべき言葉ではないそれを彼は苛立ちをこらえる素振りも見せずに吐き出すように叫ぶ。周りの受験生も何事かと視線を送ってしまうが勝己は気にすることもなく、レイミィもまたその言葉を受けても態度を崩すわけもなく、背中越しに顔だけを向けて試験中に見せたあの狂喜を込めた笑顔で

 

「えぇ、楽しみにしてるわ」

 

 短くそれだけを告げ、途中ですれ違った雄英高校の教員に少し話をしてからレイミィは帰路に付く。勝己もまた苛立ちを抱えたまま去っていくその背を見送り帰っていく、これが少年【爆豪 勝己】にとってのレイミィ・バートリーとのファーストコンタクトになった。




こんなやり取りしてるけど、別段ラブコメとかやるつもりは現状はないという。とりあえず煽り散らかしたい系少女

バートリーメモ
【ブラッドチェーン】
 消費少なく、射程もよしと汎用性が高い技。彼女が好んで使う物の一つ
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