「以上が襲撃時に私達、便利屋が話せる内容よ」
演習場から学園に戻り、その日の授業は終了を告げて生徒達が皆帰っていった中、便利屋は会議室で塚内や雄英の教師陣に事のあらましを話していた。
「【赤霧】、か」
「脳無と同じような存在なのかしら?」
【ミッドナイト】からの質問にレイミィは首を横に振る。確かに初めは彼女もそう思ったが最後の最後、撤退間際に意思があるように自分を見てきたという点からあの存在には自我というものが存在すると断定。
「それに、あの場で誰も赤霧に指示を飛ばしてないのよ。脳無は指示がなければ動けなかったという点から見てもあれには自我が合ってそれを元に動いてると考えてるわ」
「逆に言うと脳無は意思がないと見て良いのか?」
今度は【スナイプ】からの質問にはレイミィは頷く。これは根拠のあっての頷きであり、初手でブラッドチェーンを脳無に突き刺しその時に付着した血をコウモリに変換し口に含んだことで記憶を覗き見ることに成功している。
彼女の記憶の覗き見には一部ルールが存在し、もし対象が死者だった場合は死ぬまでの記憶を血の量の日数見れるというもの。なので脳無のを口に含んだ時に見えたそれで彼女はこれが死者を利用した非人道的な生物兵器だと断定したのだ。
「血から読めた記憶はどれも死ぬまでの一週間、しかも最低でも3人分は混線した映像が流れてくるもんだから頭痛がするかと思ったわ」
「個性を二つも持てた理由がそれ、か。いい気分には決してならない話ね」
「ですが、それだけの組織力が死柄木の背後にあるとすれば連合と名乗るのも不思議ではありません。警察としては彼らの行方を追ってみます」
「とは言っても転移系の個性持ちが居るとなれば簡単な話じゃないんだろうな」
沈黙を保っていた便利屋副所長こと血染が発言する。実際、今はまだ調査を始めた段階ではあるが警察としても既に難航するのは分かっている様子で、塚内も肩を竦めて反応する。
そこで被身子が思い出す。そう言えば死柄木がかすり傷を負っていたなと、なのでそこからの血で何か分かるんじゃないんですかと聞いてみるもレイミィは出来たら苦労しないという表情で
「見れたには見れたけど、少なすぎて一時間前が限界だったわ。なにか手かがりになりそうなものも無かったし、ごめんなさい」
流石に一時間程度では分かることはほぼ無い。その後も会議は続くがその殆どが現状ではどうにも出来ず、今後の警察からの情報収集が進んでからではないと難しいと判断した根津から、本日は解散と言う結論を出される。
便利屋としても今回の件は持ち帰って今後の動きを改めて練り直さないとなと考えていると根津から
「あぁ、そうだバートリーくん。リカバリーガールが君を呼んでいてね、この後すぐに保健室に向かってもらえるかな?」
「リカバリーガールが? あっ、あぁ、まぁそうよねって」
「分かってるなら何よりだ、俺も向かうから行くぞ」
「え、相澤先生も?って校長が来るからか まぁいいけど、便利屋も着いてきて頂戴」
別に帰ってもらっても良かったが今日はこの後そのまま夕飯の買い物するしということで彼らにも着いてきてもらうことにして保健室にゾロゾロと向かう面々。
途中でこの人数で大丈夫なのだろうかとも考えたが今更かと思い、保健室に到着、相澤がノックをすれば入りなと言う声で全員が入室、したのだが
「そんなにゾロゾロ来るとは思ってなかったよ」
「ごめんなさい、それで話というのは?」
想定外の大人数で呆れた表情を晒している小柄な老婆こそ雄英高校の重鎮の一人にしてNo.2だったり陰の支配者とすら言われている【リカバリーガール】、思えばこれが初対面だったなとレイミィが挨拶し、便利屋もそれに続く。
「はい、初めまして。悪いけどさっそく本題に入らせてもらおうか」
「それなんだけど、内容は聞いてないのよね。まぁ、あれでしょ、【ヴァンパイア・プリンセス】の反動の件だとは勝手に思ってるのだけれど」
「分かってるじゃないか。で、あれは実際にはどんな代償を払ってる技なんだい?」
スッと鋭い視線がレイミィを襲う。それを受けて彼女もこれはもう気付かれているか、或いは長年の経験から推測をしてるのだろうなと思い、頭を掻く。
別に話せなくはないのだがこの状況は間が悪いとしか言えない、何が悪いと言えばこの場に居るメンバーが悪い、リカバリーガールだけだったら素直に話しても良かったが相澤と根津が居るのはよろしく無い。
「それ、話さないとダメかしら?」
「担任としてお前の個性からの代償に関しては知っておかないとならない。後から問題が湧き出てくるほうが非合理的だからな」
「それに言っただろバートリーくん、確かに便利屋の所長として依頼を出し接しているが同時に生徒でもある。生徒が何か危険なことをしているとなれば我々教師は支えるためにも知らないといけないんだ」
二人からの言葉にうーむと唸ってしまう。言ってることは間違ってない、けれどこれを話せば便利屋の面々、主に大人組にリカバリーガールは怒るだろうというのはよく分かるので出来れば話したくないが。
(それを許してくれる状況じゃない、か)
チラッと後方に控えさせている便利屋の面々に視線を送れば、被身子や仁、圧紘は頷き、血染は好きにしろという態度を取る。どうやら覚悟は出来ているらしいと言うことでレイミィはリカバリーガールに真剣な表情のまま自身のあの技についての話を始める。
「あの技は言ってしまえば私が出せてない個性のポテンシャルを無理やり引き出す技。で、ここからは私自身の身体の話になるんだけど、実は完璧に異形になりきてれないのよ」
「どういうことだい? 個性を発現した時点で普通はそうなるはず、いや、半端に止まったってことかい?」
「推測になるけど多分そうだと思うわ。そもそもこの【吸血姫】という個性自体もよく分かってないのが本音だし。でも何となく分かるの、本来だったらもっと身体能力は高いはずだって、寧ろ速さだけなんで7割出せてるのか分からないレベルよ」
言ってしまえばガワは軍用機な癖してエンジン部分の出力は一般車より少し上程度しか出せてないと言う感じだろうか。そしてここからが本題になる、エンジン部分、つまりは【心臓】はその程度が限界だと言うのに【ヴァンパイア・プリンセス】を使ってしまうことで
「出せないはずの出力、今回で言えば一般車より少し上程度が限界の心臓からそうね、ボーイング777*1クラスの馬力を引き出させているようなもの。だから解除後にあんな反動に襲われるってわけ」
「……」
言葉が出ないとはこういう事を言うのだろう。それを聞いた相澤も根津も、そしてリカバリーガールもそんな表情でレイミィを見てしまう、どう考えてもあの程度の反動で済むはずがないと分かるからこそリカバリーガールの次の言葉が出てくる。
「言いな、あんたの身体、今どうなってるんだい」
「……」
「私達はそれを知る必要がある、誰が聞いたって分かるよ、あの程度で済むはずがないって寧ろその時点で身体中が壊れたって何ら不思議じゃないんだ」
きっとこれは自分を責めるためじゃなく心から心配しての言葉なのだろうということがよく分かってレイミィは分かったと言う感じの目と表情で自分の状態を吐き出した。
それはとても残酷で、されど彼女自身の覚悟が出来ているからこそ止めることも出来ない事実。
「コレに関しては所員を責めないで頂戴。私は、コレを使う度に間違いなく寿命を削っているわ」
「寿命を……」
深刻に思うこともなく、それこそいつかの食堂のときと同じように雑談と変わりないノリで告げられた言葉に流石のリカバリーガールも頭を悩ませる。
命を懸けて、なんて言葉はヒーローで無くともよく出てくる言葉ではある。けれど、それは危機的状況を乗り越えようというニュアンスの言葉であり文字通り削りながら戦うなんてことはそうはいない。
居るには居ることはリカバリーガールも知っている、それこそヒーロー活動に後遺症が出るくらいの怪我を負い、自身の個性を弟子に譲渡しておきながら残り火で戦い続けるオールマイトがその例だろう、しかし目の前の15の少女がとなれば衝撃は大きくなる。
「聞いていいかい、バートリーくん。それはもうどのくらい削ってしまったのかな?」
「正確なことは分からないけど、感覚でいい? えっと───」
雰囲気を変えることもなく、サラッと告げられる彼女の残された時間に相澤の表情が重いものに変わる、いや、根津もリカバリーガールも同じだろう。
15歳の少女が払うにしては重すぎる代償、それによって残された時間、彼女自身の悲願を叶えるためとは言えコレはあまりにも残酷だった。
「後ろのあんた達はこれを知ってたのかい?」
「あぁ、バートリー自ら話してきてる」
「私も止めたりはしたけどね、所長の決意には敵わなかったんだよ」
「俺は……お嬢が決めたってんならそれに着いていくだけだ」
「はい、本当は止めたいしどうにかしたいですけどね、レイミィちゃん、頑固ですし」
勿論、便利屋の面々だってそれは止めさせようとはした、けれどその時には既に手遅れなところまで事態は進んでいたとの事もあり彼女の決定に従おうという結論になっている。
それほど彼女の決意が固かったのもある、拾ってもらった恩義もあった。だからこそ彼らは最期の最期まで彼女を支えることにしたのだ。それの行き着く先が彼女の終わりを早めることになったとしても。
「責めないであげて、私が我が儘言ってる自覚はあるから。それとこの事はココだけの話にしてもらえると嬉しいわね」
特にクラスメイトやら他の教師陣、オールマイトに知られたりした日には絶対に面倒なことになるからと苦笑しながらレイミィが言う。
心配をかけたくないというのもあるし、もし話した日には今後は絶対にその技を使うなと煩く言われるのは間違いないだろうと。
「それは俺達も同じなんだが……」
「そうね、でも出し渋って悪いことが起きるよりはマシだって相澤先生なら理解できるでしょ?」
「私としても生徒がそんな命を気軽に賭けるような事はしてもらいたくないけどね。今回のことを考えると難しいというのも理解できる」
ここで説得することも出来るかもしれない。けれど、彼女の決意を曲げるのは難しいを通り越し、無理だというのも分かってしまう。この手の輩は大体無駄に頑固なのだとリカバリーガールも知ってるからこそ溜息を吐き出してから
「なら、今後はその技を使ったのならば保健室に来な。その都度、検査をするよ」
これが彼女が出せるレイミィへの最低限の条件。今日もできる範囲で検査をし数値を残し、今後はヴァンパイア・プリンセスを使う度に検査することで異常が出たりした場合に即座に分かるようにする形を取る。
その形でこの話は終わりにすることに。これ以上は相澤も根津も何も言わず、気を付けて帰るようにとの言葉にレイミィもお決まりの挨拶をしてから便利屋は帰路に着く、もっとも途中で夕食の買い物をするのだがそこで
「そうだ、今日は雄英高校からの初めての依頼お疲れ様ってことでオムライス作ろうと思うんだけど、リクエストある?」
「え、今日はレイミィちゃんのオムライスなんですか!! トガはデミグラスソースがいいです!」
「おじさんは普通のでいいかな。シンプルだけど所長が作ると本当に美味しいし」
「俺はあれだ、ふわとろのやつが良い」
「タンポポオムライス、何だ良いだろ偶には俺がコレを頼んだって」
いや、血染の口からタンポポって可愛らしい言葉が出てくることが面白いのよとレイミィが指摘すれば正式名称なんだからしょうがないだろうと反論し、他が笑う。いつもの空気のいつもの便利屋、こうしてみれば仲が良い家族にも見えなくはない集団、けれどそれだけではない。
こうして笑っているレイミィ・バートリーが背負っている使命の重さ、そして……
「冗談じゃないよ。子供がどうしてナンテことない顔で言えちまうってんだ」
保健室でリカバリーガールがボヤく。あの時、根津の質問にレイミィははっきりと答えていた、ヴァンパイア・プリンセスによって削りに削られた彼女の残された時間は
『十年以上二十年未満ってところかしらね』
15歳の少女が言葉にするには重く、あまりに短すぎた。
オリ主には過酷なものは沢山背負わせてもいいって誰かが言ってた。
便利屋メモ
今回出した寿命計算もヴァンパイア・プリンセスを今後も使用したと仮定しての大体の数字であり、それ以外に何かしらのイレギュラーがあった場合はその限りではない。