便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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便利屋チェイテの定休日は週に2日


No.31『休校だろうと便利屋は廻る』

 翌日、襲撃事件があったということで学校は臨時休校となったが便利屋には全く関係ない。定休日は存在しているが今日がその日ではないので彼らは朝から書類仕事に依頼の処理と忙しくしていた。

 

「あ、テレビで昨日の話してますよ~」

 

「新聞にも載ってたね。でも便利屋のことは上手く隠してるねぇ」

 

 見れば確かに襲撃があったことと、これによってけが人は出ておらず寧ろ生徒達も奮闘し切り抜けたことなどで彼らの将来が云々という感じのコメントや記事内容しか書かれておらず、便利屋の存在は何処も書いてはいない。

 

 とは言ってもこれに不満があるとかいうわけではなく、現段階で自分たちの存在が公になるのはあまりよろしくないという学園の判断だろうとレイミィは思いつつ。

 

「まぁ、下手に騒がれるよりは良いわよね。それに全くの無駄とかいうわけでもないし」

 

「何れはこの事件の時も関わってたって話すんだろ?」

 

「校長はそう言ってたな。だから今回は申し訳ないと、まぁその分は臨時報酬分に上乗せされてるから文句はない」

 

「と言うかその臨時報酬の額が既に可笑しいんだけど、思わず校長に電話しちゃったじゃないアレ」

 

 そもそも襲撃当日に振り込まれることすらレイミィには驚きだったというのに、通帳に書かれた金額に宇宙が背景になるくらいの表情を晒した上に電凸したら間違ってないという言葉で思考が完璧に停止した。

 

 お金持ちは遠慮を知らなすぎる。けれど助かるのは事実なので強くも言えないし突っぱねるなんてもっと出来ない彼らは大人しく受け取って、これで少し家電とか更新しない? と既に切り替えている。

 

「ん、電話? はい、こちら便利屋チェイテ、レイミィ・バートリーよ」

 

 この時間帯だと依頼だろうかと鳴り響くアンティーク風の電話の受話器を取り、お決まりの挨拶をしてみれば返ってきた声に彼女は少し驚いたとばかりにピクッと瞼を動かすことに。

 

《や、お嬢様》

 

「あら、色男じゃないの。こんな時間に電話を寄越すなんて珍しい、サボり?」

 

「ホークスさんからみたいですね」

 

「確かにこの時間帯は珍しいな。急ぎの用事か?」

 

 基本的に彼、ホークスが便利屋もしくはレイミィ本人に電話をするのは夕方から夜の時間帯、昼間、しかもまだ午前というのはあまりない事であり、レイミィも何か急な案件だろうかと思っていると向こうから。

 

《いやいや、サボっちゃいないよ? んで、突然なんだけど30分貰っていいかな?》

 

「(秘匿回線か)分かったわ、1分後にそっちに掛け直して頂戴……ごめん、30分だけ席外すわ」

 

「了解。30分ってことは秘匿の方だよな?」

 

「だね、もしかしたら昨日の襲撃事件についてかな? まぁとりあえず所長が戻ってくるまで自分たちで出来ることやっちゃおうか皆」

 

 秘匿回線での通話となると彼らはレイミィの口から聞かされるまではどうすることも出来ないと各々、業務に戻る事に。一方レイミィは部屋に戻ると同時に電話が鳴り響き、時計を確認してから受話器を取る。

 

「んで、こんな早い時間から秘匿回線だなんて一体どんな案件なの?」

 

《例の襲撃事件の事、もっと言えば内通者の様子を公安(うえ)は知りたがってるかな?》

 

公安(そっち)か、現段階じゃ貴方達が思ってるような悪人じゃないってのは確か。別に利益を得てるとかではなく、恐怖心で縛り付けられている感じだわ」

 

《そっか、なら当初の予定通り家族の安全を確保した上で彼の方は学園でって言うのが一番か》

 

 公安としてはもし悪意やお金を受け取ってなどの場合だったら対処するつもりだったのだろう、そこは幸いというべきか青山という少年は心から両親の身の安全のために、それでいてクラスメイトに悪いと罪悪感を背負いながら情報を流してるということをレイミィは記憶から見ている。

 

 また両親の方もどうやら息子を守るために彼から受け取った情報を流しているのか記憶の中で何度も謝っている場面が見られたと伝えれば

 

《ちっ、流石は悪の帝王様だ。家族をここまで追い詰めて手駒にするなんてね》

 

「本当なら両親の記憶を読めれば誰にどんな風に情報を流してるかって分かるのだけれど……」

 

《いや、それはちょっと危ない橋だから止めてほしいかな。あまり詳細なことを急に手に入れてそれを元に動いてるってバレた場合が怖い》

 

 ままならないと悪態をつきたくなるレイミィ、ホークスも同じ気持ちだったようで本当だよといつもの軽口を叩く調子ではなく重い感じの声を響かせる。

 

 だからこそ今回の襲撃では便利屋をあまり表立って動かさなかったという背景がある。ただ仮に動かしていたとしても死柄木と黒霧を捕まえられたかと言われると難しいだろう。

 

「あとは【赤霧】と言う存在がネックね。正直な話、あれは便利屋じゃ相手できないわ」

 

《報告は貰ったけど、そんなにかい? いや、現場で見てた君を疑うつもりはないんだけどさ》

 

「冗談だと言いたいけど、プリンセス状態の私でも全く動きが見えなくてオールマイトも捉えきれなかったってのは事実よ」

 

 改めて聞くとホークスも難しい顔になる。それはつまり自分よりも速いという訳であり、これでもヒーロー界隈では最速と言われているのだがこうもあっさりと塗り替えられるようなのが出てくるというのは彼的には思うところがあるらしい。

 

 因みにプリンセス状態のレイミィとホークスは一度だけ本気で速さ比べをしたことがあるが結果だけで言えばレイミィの方が上ではある。が総合という部分で見ると彼女よりもホークスに軍配が上がる、やはり彼女は速いだけであり他が平均以下と言うのがどうしても足を引っ張る要因になりやすい。

 

《いや、ちょっと凹むなぁ。立て続けに俺よりも速いやつが現れるなんて》

 

「速いだけよ私なんて、個性の汎用性やらを考えたら貴方のほうが強いじゃないの」

 

《つまり、赤霧は君と同じタイプってことだね?》

 

 今の会話で彼女が伝えたかったことがホークスにも分かり聞けば、レイミィはその通りだと答える。確かに赤霧はプリンセス状態のレイミィよりも速く強い、けれどじゃあそれでオールマイトを完封できるかと言えば無理だろう、あくまで速度がずば抜けて速いだけであるならオールマイトなら力に物言わせた大爆発のような拳圧で広範囲に攻撃を繰り出して返り討ちにできるだろう。

 

 オールマイトじゃなくともエンデヴァーなんかなら炎を周囲に撒き散らせばそれだけで勝ちの目は大きくなる、赤霧がどんな力を持ってるかが未だ不明な部分が多いので断言は出来ないが、それでも全く勝てない相手ではないのは確かだ。

 

「問題は奴らは赤霧を調整中って言ったのが気になるのよ。完成されたら正直どうなるか分からないわ」

 

《恐らくは向こうの切り札、或いは最終兵器って立ち位置と考えたら生半可な物は出てこないだろうね。その前に捕縛できればいいけど、拠点が分からないんじゃどうしようもない、ちょっと嫌な展開だね》

 

「コレばかりは警察に期待するしか無いわね。で、他に要件は?」

 

 まだ時間に余裕はあるが、と言う感じに聞いてみればとりあえずの要件はこれだけだったようで無いよと返ってくる。ホークスとしてはじゃあこれで通話を終わりにしようかと言う流れになると思ってたのだろう、だが相手はレイミィ・バートリー、そうは行かなかった。

 

「なら丁度いいわ、貴方に頼みたいことがあったのよ」

 

《……胃薬飲んでからでいいかな》

 

「人をなんだと思ってるのかしら?」

 

 だって君からの頼み事ってどれも俺が上に頭下げ続けるやつしか来ないからシンドいんだよ? とホークスは言いたかったが言った所で何も変わらない、それどころかレイミィから仕方ないじゃないの貴方が窓口なんだしと言われるのがオチだと分かっている。

 

 大きく息を吸い込み吐き出す、こうして深呼吸を一つ終えてからヨシと気合を入れて。

 

《じゃ、聞こうかな?》

 

「実はスカウトしたい人物が一人いるのよ」

 

《スカウト? それならしてから事後報告でって訳じゃないんだよね、話してくるってことは》

 

 一応だが便利屋は所員募集中の張り紙やホームページで呼びかけは行っていたりする。これは協会も公安も認めているし、スカウトもまた同様に誰か入れたのならば詳細な資料を送るという条件のもと許可している。

 

 もっともそれが今の今まで活かされたのは被身子の加入時のみなのだが、そのスカウトという話を態々この回線でしてきたということだけでもホークスは面倒事だコレと確信し胃がチリチリと痛みを発するのを感じ始める。

 

「そりゃ普通だったら私だってこの回線では聞かないわよ。ただ今回はちょっとね」

 

《珍しく言い淀むね。良いよ、この色男に言ってみなお嬢様》

 

「そう? じゃあ遠慮なく、スカウトしたい人物が居る場所が許可なしじゃ入れない場所なのよ」

 

 オーケーオーケー、少し待ってもらっていいかなとホークスは彼女から飛んできた言葉の右ストレートに思わずたじろぐ。許可なしじゃ入れない場所にいる人物をスカウトしたい、普通じゃ出てこない言葉ではあるのだが彼はそれが何処なのか何となしにでも察してしまった。

 

 仮にそこだとすれば確かにまぁ気軽にスカウトしに行ける場所じゃないねうんと納得すら出来てしまう、胃がとても痛くなるが。

 

《お、お嬢様? その、場所の詳細を教えてもらえないかなぁっと》

 

「声が死にそうなんだけど大丈夫? それで場所だったわね、【タルタロス】よ」

 

【タルタロス】通称、対"個性"最高警備特殊拘置所とも呼ばれる事実上の刑務所。ここに入れば二度と日の目は見れないと言われる実質的な終身刑とも言われる施設、レイミィはそこにいる人物をスカウトしたいと言ってきたのだ。

 

 これにはホークスはどんな顔と反応をすれば良いのか本気で分からなくなる。彼女のことだから別に反旗を翻すためとかじゃないだろうとは分かる、分かるがそれは彼女と何度も会ったことがあり人となりが分かってるからの信頼で、協会や公安からすれば何を考えてるんだお前と言われること間違い無しの頼み。

 

 故に聞かなければならない、何故そんなところに居る極悪人とも言える人物をスカウトしなければならないのかと。

 

《悪いけどバートリーちゃん。それは半端な理由じゃ俺も受けられないよ》

 

「分かってるし半端な理由なんて一度たりとも振り翳したことはないわ。今回の襲撃、それに赤霧の戦闘力を考慮した時、今の便利屋じゃどう足掻いても戦い切れないと判断したのよ」

 

 便利屋に居る面々が弱いとは口が裂けても言えないし言わない、けれどそれぞれが得意とする距離や戦闘スタイルを考慮すると超遠距離と言う部分が欠けており、そこで弱みが出てしまっている。

 

 コレは便利屋を開いてから暫くして考えてはいた事ではある。過去に依頼でも遠距離からの援護があれば、もしくは目が良い人物が居れば助かった或いは受けられた依頼という物があり、そこで考えたのがこの人物のスカウトだった。

 

 けれど当時は便利屋に実績も何も無いので無理だよねぇと諦めていたのだが、現在は雄英高校からの依頼、更に昨日の襲撃でほぼ被害無しで切り抜け、今日までの公安からの依頼という名の借りを作り出せている今ならばと彼女は切り出したのだ。

 

「別にスカウトを蹴られたならば諦める。でも一度も場を用意されないで諦めたくはないのよ。何も無償で場を寄越せとは言わない、スカウトできた暁にはこちらも、そっちからの要件はある程度飲むつもりよ」

 

《随分と本気と言うかご執心に近いね。君がそこまで言うってことは余程なんだろうけど、うーん、分かった、公安も君にはちょっと看過出来ないくらいには借りを作っちゃってるから消費したいだろうし》

 

「助かるわ、それと、今回はごめんなさい。貴方に相当、無理なお願いをしてるのは分かってる、けれど、どうしてもね」

 

 この手の頼み事をしてくる彼女にしては珍しくしおらしい感じの謝罪にホークスは微笑み、大丈夫だと胃を擦りながら伝える。なんだかんだで自分もこの娘に弱いんだよなぁと思いつつ、件の人物が誰なのか聞いてなかったなと思い、レイミィに聞いてみて、数秒後に後悔した。

 

「あぁ、そうだったわね。私がスカウトしたいのは────」

 

《あ、へぇ、そうかぁ。まぁ、うん、頑張るよ、うん》

 

 ガチャンとホークスは受話器を置き、ドサッと椅子に座り込んでうわぁいと彼らしくない声を上げる。彼女が出した名前、それは確かに便利屋の現状の弱点を補うことは出来るだろう、だがそれはそれとしてとホークスは思う。

 

 その人物が便利屋に行くと言うのは公安は頭が痛いだろうなぁと、下手したら便利屋を今すぐ取り潰しにしろとかの意見も出るかもしれないと。

 

(でもそれやるとこっちのダメージが洒落にならないし、公安もお嬢様にコレを言わせるだけの借りを作っちゃってるから、まぁ通すしかないよねと)

 

 覚悟を決めたホークスは椅子から立ち上がり、胃薬を飲んでから受話器を取る。これから彼は一つの戦いを始めるのだが、それを頼んだレイミィが知ることもなく、彼女は……

 

「さてと、今日で数件溜まった浮気調査終わらせないとね」

 

「レイミィちゃん、追加です!」

 

「……」

 

 便利屋所長として、彼女の得意分野を死んだ目で片付けていた。




あ、因みにですが便利屋に加入するのはあと二人だけです。

便利屋メモ
最近、ホークスの胃薬の消費量が増えてきてるからもう少しだけ優しくしてあげてほしいと彼のサイドキックから言われている。
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