No.32『今日も食堂は重力が襲う』
襲撃事件から二日目、つまりは臨時休校からの翌日、レイミィはいつものように被身子に起こされヘアセットなどをしてもらい、いつものように朝食を食べて登校したのだが教室に入って早々に彼女は女子組に囲まれた。
「ど、どうしたのよ突然」
「えっとね、耳郎ちゃんとヤオモモが渡我さんからあの技、反動以外にも身体に害が出てるらしいけど、それがどんなものかは自分からは言えないって話を聞いたって」
「いやまぁ、どうしようか悩んだけどさ。やっぱ、その、皆にも知らせておくべきかなって思って」
「……」
葉隠と耳郎の言葉にレイミィは言葉を失う。失うと同時に脳内で被身子に説教もしておく、迂闊に喋るのはやめろって前々から言ってあるはずなのにあの娘はと。
曰くあの襲撃事件後の学園に戻る僅かな時間で百と耳郎、上鳴の三人が被身子から聞いたらしくそれが伝播、今に至るらしいと分かると自身の席についてからはぁとため息を吐き出して
「あの娘が大袈裟に話しただけ、って言っても納得しない空気よね、コレ」
「正直に申し上げれば、麗日さん達から聞いた話ですととてもそれだけとは思えないのが本音ですわ」
「うん、だってレミィちゃん苦しそうとかそんなんじゃなかった、本当に大丈夫なのかなって思うよ」
「……あるにはある、けれど言えない。私から言えるのはそれだけよ」
誤魔化しとも言えるその言葉で納得してくれるとは彼女も思ってはいない。けれど、バカ正直に話せる内容でもないのでレイミィとしてはコレが限界だった。
その口ぶりは明らかに反動以外にも身体に害が出ていると言外に言ってはいるとクラスメイトにもすぐに分かり、自分たちに言えないということはだと焦凍が口を開く。
「俺達が聞いたら、是が非でも使わせないようにするくらいって、ことか」
「それもあるわね。もっと言えば、今更これを使うの止めても何も変わらないっていうのもある、だからその、あまり深くは考えないで大丈夫よ、すぐにどうこうなるってわけでもないし」
ね? と安心させるための笑みを浮かべながらレイミィから言われてしまえば、それ以上は何も言えないA組の面々。それを見てレイミィもちょっと悪い気がしてくるが、言えないものは言えないので申し訳ないと思うしかない。
なんとも微妙な空気のまま、朝のHRが始まる。相澤は入って早々に妙に重い空気になっていることに気付くもどうせバートリー辺りの話題だろうと勝手に納得しつつ、彼が切り出したのは
「先日の襲撃は乗り越えたが、戦いはまだ終わってねぇ」
一気にざわつき始める教室、峰田に至ってはまた
「雄英体育祭が迫ってる!」
相澤が告げた瞬間、彼女の今日まで培ってきた勘がブワッと教室の空気が爆発寸前まで膨れ上がるのを感じ取り、レイミィは咄嗟に耳を塞ぐ、この行為がもう少し遅かったら彼女はキレていただろうと己の勘に感謝しながら対ショック防御姿勢を取るやいなや
『クソ学校っぽいのきたあああ!!!』
「相変わらずの声量ですわね、レイミィさん大丈夫でしょうか? ……? レイミィさ、ん」
「うー」
元気なのは良いことなのですがと百が振り向けばそこに居るのは耳を塞ぎ机に顔を突っ伏して唸っているレイミィの姿。そこまでしてと思う反面、その気持ちもわからなくはないというのもあり百に出来たのは優しい微笑みを浮かべることだけだった。
ともかく、雄英体育祭とは世間的に言ってしまえば形骸化してしまったオリンピックに変わり日本のビッグイベントの一つ、なので体育祭ではあるが地上波に放映されるほどに人気が高い。
「でもよぉ、
「だからこそでしょうね。侵入されました、中止しますじゃ自分たちはビビってるって世間に知らしめてしまうようなものだもの」
「あぁ、逆に開催することで危機管理体制は盤石だと示すらしい。警備も例年の五倍にするそうだ、何より体育祭は最大のチャンスでもある」
相澤が言う最大のチャンスとは、この雄英体育祭で活躍すれば名のあるヒーローの目に止まりスカウトされ、卒業後にサイドキックとして事務所に入り独立、その足掛かりとしても重要な催し物でもある。
とは言っても便利屋であるレイミィにはそこの旨味は無く、彼女が考えているので例年の五倍の警備ってことはウチも絡むのかしらと言う仕事関連。全国からプロヒーローでもかき集めるのだろうが、ヒーローではないがゆえに警戒されない便利屋は毎年、体育祭の時は地域からの依頼で警備に出たこともある。
(あれ、実入りが結構良くて助かるのよねぇ)
やはり人が入り乱れるからか、些細な犯罪も多発し便利屋がひっ捕らえたりでボーナスが出ることが殆なのでこの時の彼女たちは狩りと題して片っ端からチンピラやら
「レイミィちゃんが笑ってる」
「やっぱバートリーも体育祭は楽しみなのかな」
そんな事があった朝のHRから時間が進み昼休み、今日も今日とて食堂でイワシ料理と思い立ち上がるレイミィだが、やはり朝の話があるのだろうクラス中がソワソワと落ち着かない感じに
「なんというか、テンションが高いわね皆」
「うん、皆、ノリノリで凄いね」
「君たちは違うのかい?」
レイミィとしては先も書いたように別段スカウトとかされても困るし寧ろする側だしという理由で、出久はまだ襲撃事件が尾を引き乗り切れていないという感じの声に天哉が意外だという感じに話し掛けてくる。
「ヒーローになる為に在籍してるのだから燃えるのは当然だろう!?」
「飯田ちゃん、独特な燃え方ね、変」
「ロボットみたいね、それ。と言うか私はちょっと事情が特殊だからヒーロー云々は当てはまらないのよね」
燃えていますというのを表現するためだろう、カクカクとロボのように身体を動かす天哉を見つつ、レイミィとしてはなる為ではなく、協会から便利屋の存続の条件としてここに居る。なのでヒーローになる為に雄英体育祭を頑張ると張り切っているクラスメイトを見てると少しだけ羨ましく思ったりしてしまう。
(いや、毎回毎回羨ましがってどうするっての。それよりもお昼よお昼!)
「バートリー、行かねぇのか?」
「今行くわ、ほら、麗日達も行くわよ!」
どうやら頑張ろうということで盛り上がっていたらしい麗日を呼び戻し、いつもの五人で食堂を目指す途中、出久から麗日へヒーローを志す理由の話になる。曰く、究極的にはお金のためとのこと、もっと正確に言えば両親のため、自分では不純な動機と思ってるらしく恥ずかしそうに頬を赤らめるがこの場に居る全員が不純とは思っていない。
「家族のためなんだろ? 良いじゃねぇか、俺はただ親父を見返したいっていうのがまだ強いからな」
「そうそう、私なんかあれよ、便利屋を存続させるための条件で雄英高校の入学と卒業を上から指示されたんだから」
「それって僕たちが聞いて良かった話かなバートリーさん!?」
出久の迫真のツッコミが入るが口止めはされてないし、隠し立てするようにとも言われてないのでレイミィとしては喋っても問題ない判定の事柄、どうせいつかは話すことだろうしそれが今になっただけよと返せば
「お、思ったよりも凄い理由なんだな……」
「それって、レイミィちゃんの両肩に所員さん達の生活も掛かってるってことよな?」
「まぁ全員ビルに住み込みだからそうなるわね、取り潰れたら仲良くホームレスだわ、アハハハ」
いやぁよくよく考えたらヤバいわね私達ってと今更なことに思い至ったからかケタケタと笑い始めるレイミィに他四人が若干引く、彼女のツボが全く分からないのは今に始まった訳では無いがこの話題で笑える要素が何処にあったのか本気で理解できないと焦凍は出久に問いかける。
「笑う要素あったか、今?」
「わ、分からない」
無論、答えが返ってくるわけもなくレイミィの笑いは止まらず、それでも歩みを止めるわけには行かないと食堂がある階層まで来たタイミングですっと現れた人物のお陰で彼女の笑いは収まった。
「おお!! 緑谷少年が、いた!!」
「げっ」
「……ヒーロー科に居る身でオールマイトを見て、その声が出るのはバートリーくんくらいだと思うよ」
もっとも笑いは収まりはしたがテンションは急降下を見せ表情もそれに釣られたモノに変わる様に天哉からの言葉が刺さる。なお、彼の要件は緑谷とお昼を誘いに来ただけの模様、とは全く思っていないレイミィはふむと少し考えてから
(依頼の件かしら?)
「デクくん、何だろね?」
「ふむ、心当たりは俺にも無いけど蛙吹くんも言ってたように超絶パワーも似てるし、気に入られてるのかもな」
当たらずも遠からずと口にしそうになる直前で、出久の個性云々は喋っちゃダメな奴だったわと思い出し、自分と同じタイミングで昼食を受け取った焦凍に視線を向ければ、今の天哉の言葉に何か思うことがあったのか考える表情の彼にレイミィは
「気になる?」
「まぁ、ならないと言ったら嘘にはなる。緑谷は、やっぱそうなのか?」
ヨイショと席に座りながら焦凍が聞いてくるが、それはレイミィなら知っていると言う確信を持っての言葉にそうねぇとイワシの蒲焼定食の味噌汁を一口啜ってからこう答える。
「機密事項ってことじゃダメかしら」
「答えじゃねぇか。でもそうか、だとしたら重いだろうな」
蕎麦を啜ってから呟いた彼の言葉には確かな実感が籠もっている。No.2ヒーローエンデヴァーもとい【轟 炎司】からの虐待染みた特訓を強いられた過去がある。
全てはオールマイトを超えさせるためにと言う、自分の意志ではなかったにせよ重圧を背負わされた焦凍にしてみればNo.1ヒーローのオールマイトに気に入られるというのがどれほどのものか、全てとは行かずとも理解できる。
だからこそ出てきた言葉にレイミィは優しい子だことと思いながら蒲焼の味を楽しみ飲み込んでから
「でも緑谷は貴方と違って自分から背負いに行ったわ、だからまぁ覚悟はなくはないんじゃないかしらっとと、ごめん、流石に麗日と飯田には聞かせられないからここまでね」
「ん? おやおや~? 二人で内緒話してたでしょ?」
「む、ならば邪魔しては悪いから離れたほうが良いかい?」
悪い顔した麗日の言葉を真に受け、天哉が気を利かせたような提案に手を振り否定して、良いから座りなさいと告げてから
「そういう仲でもないし、ちょっと家庭のお話をしてただけよ」
「家庭の話をするのは割と深い仲じゃないのかなそれ?」
「……そうなのか?」
「さぁ?」
もしやこの二人、色々と距離感がバグってるってやつなのでは? 二人して首を傾げる光景に麗日は素直にこういうのって現実に居るんだと感心するが、隣の天哉もそうなのだろうかと言う表情を見て、今度からはもう一人くらい女子連れてくるべきかもしれないと決心する。
具体的にはこの天然だらけの空間に的確にツッコミを入れれる人が良い、瞬間、教室に居た誰かがクシャミをしたとかなんとか。
「それにしても体育祭ねぇ。諸々は無視して学校行事って部分だけで見れば私も楽しみではあるわ」
「そうなんだ、あ~、やっぱ中学とかは忙しくてってこと?」
麗日、彼女が思い出話をした段階でマインスイーパーモードを起動、暈しながらの会話を試みる。天哉もまた自身が余計なことを言わないように二人の会話を注意深く観察しつつ、要所要所でフォローしようと心掛けてみるが。
「まぁね。それに小学校は通ってなかったから運動会とかも思えば初参加ってなるのかしら?」
「(どうして……どうして……)そ、そっか、なら楽しもうな、レイミィちゃん!!」
『自走して地雷を爆破させるのはルールで禁止ッスよね?』食堂の誰かがそんな事を口にしたような幻聴に襲われながらも前回の重力よりは軽いとばかりにグッとテンションを上げて麗日はレイミィとの会話を続ける。
その健気な姿に気付けば食堂の利用者がみんな、彼女を心の中で応援していた。今この時、麗日お茶子は食堂のヒーローとなっていた、因みに天哉は初撃で俺の手にはもう負えないと泣きが入ってるので戦力になってない。
「あ、そう言えば相澤先生から選手宣誓の言葉を考えておけとか言われてたわ」
「そうなん!? てかそれこそ喋っちゃダメなんじゃない?」
「……聞かなかったことにしておいてくれると助かるわ」
幸いにもこれは思い出したという感じの声だったので周りの生徒に聞かれることはなかったが、レイミィとしても普通は喋れないから相澤先生も何も言わなかったのよねと行き当たり、やってしまったと言う表情のまま昼食を食べ進める。
こうして、昼食は流れていくのだがその日の放課後、A組のみにならず一年組は知ることとなる……
「貴方が心操人使ね、時間が取れなかったけど、ずっと会いたかったのよ。本当ならば入学式の翌日からね」
「え? へ?」
この子、距離感が本当に可笑しいと。
ここまで来るのに一ヶ月ってマジ?
便利屋メモ
雄英体育祭は実は便利屋は毎回警備の依頼に出てるので生放送でちゃんと見たことがない。