便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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レイミィちゃんのパーフェクトスカウト教室


No.33『スカウトはストレートに』

 便利屋チェイテは所長であるレイミィ・バートリー含めて五人の小規模事務所だというのは今更語ることでもないだろう。

 

 これだけ少人数の理由はまず1つにこのヒーロー社会において便利屋のような明らかにグレーな事務所に入るようなことはしない人間が殆だということ。2つ目に単純に資金繰りを考えるとこの人数が限界だったというのが挙げられる。

 

 当然ながら所員たちにも住み込みとは言え給料は出てるし、少しの遠征だったらその費用だって考え出している。なので人数が増えるとその分も増えるということであり、潤沢とは言えない便利屋では迂闊に増やせない現状があった。

 

(うーん、そろそろ目をつけたやつに声を掛けに行きたいわよねぇ)

 

 だが雄英高校から依頼が来たことにより問題の片方、資金繰りが解消されたのならば折角だからスカウトしてみるのも良いかもしれない。レイミィは雄英高校に来てからそんな事を考えており、そろそろ動こうかなと放課後前のHRを聞き流しながら思っていた。

 

 一応の目星は付けており、本来であれば入学当日に下見をして翌日に声を掛けるなどのプランもあったのだが相澤による合理的行動で初日は下見は出来ず、それでも翌日や翌々日はモスキートを使って一年組の大体の情報を集め、じゃあと思った次の日は例の襲撃事件。

 

 ものの見事にタイミングが悪かったので今日まで行動が移せなかったのだ。けれど雄英体育祭までの二週間、この期間ならばというのが彼女の考えになっている。

 

(とりあえず、普通科からが定石かしら。ていうか、入試試験があのタイプなの彼みたいなお誂え向きにヒーロー向きな個性持ちなのに受からなかったみたいなのが出るからダメだと思うのよね)

 

 まぁお陰でスカウトするチャンスが出来てるから表立っては言わないけどと考えていると、ふと廊下、もっと言えばA組の教室前が騒がしくなってきたなという感じの音を耳が拾う。

 

 そこでHRも終わるのだが扉を開けて麗日が思わず怯む光景がその先にあった。

 

「何ごとだあ!!!?」

 

「あらあら、これは凄い人集りだこと」

 

 ヒョコッと麗日の背後からレイミィも覗き込めばそこには入口を封鎖する勢いの人の群れ。どれも制服を着ているので恐らくは一年組だろうと判断でき、そこから彼らが集まってる理由も理解した所で

 

「敵情視察だろ、ザコ。(ヴィラン)の襲撃を耐え抜いた連中だもんな、体育祭(たたかい)の前に見ときてえんだろ」

 

「ってこと、ごめんなさいね。彼、言葉の出力がファンサ出来ないエンデヴァーみたいなものだから気にしないであげて?」

 

「んだとゴラァ!!!」

 

 相変わらずの勝己へのフォローするつもりもないレイミィの言葉に彼は怒りを爆発させるが涼しい顔してスルー。なお、内心では例の狂喜顔が浮かんでいる模様、ともかく自分は帰りたいのだがと思っているとふと、人混みを割るように現れた一人の青年を見て、彼女は自身の予定を一旦投げ捨てた。

 

「どんなもんかと見に来たが、ずいぶん偉そうだなぁ」

 

 現れたのは立った紫色の髪に濃い目の隈、そして気怠げな雰囲気を纏わせた男子生徒。制服に付いているボタンの数は二つなのでヒーロー科ではないのは確かだがそれ以上にレイミィは彼を知っていた。

 

 知っていたと言うよりも初めに話した普通科に在籍している彼女が目をつけたスカウト対象である、なのでスルッと勝己よりも前に身体を出し、彼を目視出来る位置に現れ人違いではないことを確信してから

 

「貴方、【心操 人使】で間違いないわよね? 時間が取れなかったけど、ずっと会いたかったのよ。本当ならば入学式の翌日からね」

 

「え? へ?」

 

 問:今日まで異性とマトモに会話したことがないであろう青年こと心操が、普通科からヒーロー科に宣戦布告をしに来たら美少女と行っても差し支えないレイミィに自分にずっと会いたかったと言われた時の心境を答えよ。

 

 答え:固まる。なお、この固まるというのは本人だけではなく周囲の人間も含まれているものとする。

 

「ぎゃ、逆ナン……!? 嘘だろ、存在したのかマジで」

 

「ま、まさかそんなバートリーの好みってああいう男子だってのか」

 

 峰田と上鳴が衝撃を受けているがテンション高めの今のレイミィの耳には届かず、目の前で困惑とも驚いているとも取れる反応をしている心操を見て、いけないいけないと少し距離を離してから

 

「急に驚かせちゃったわね。私はレイミィ・バートリー、ヒーロー科に在籍してるけど、本来はこういうのをしてる者よ」

 

「あ、ど、どうも。えっと、便利屋チェイテ……所長?」

 

 制服の内ポケットからスッと取り出したのは初日に百と天哉に渡したのと同じ名刺、差し出されたそれを彼は受け取り見てみれば書かれている内容を読み上げ、少し間を開けてから驚いた表情で彼女を見つめる。

 

「えぇ、お金さえ貰えれば犯罪以外は何でもやる、何でも屋。それが私たち便利屋チェイテよ」

 

 凛っ! と言う効果音すら聞こえそうなほどな佇まいで自身を語った彼女に心操は何故か見惚れた。彼自身も理由は完璧には分からないがそれでもこの社会でヒーローではない存在だということをここまで堂々と胸を張れているということが素直に凄いことだと感じれた。

 

 気付けば教室の前に居た生徒達も彼女に視線を向け静まり返る。その事に不思議に思いながらも、彼女はこの機会を逃すわけには行かないと早速本題を切り出す。

 

「それで貴方に会いたかったのは話があるからなの」

 

「話、俺に?」

 

「えぇ、単刀直入に言うわ。心操人使、私のところに来ないかしら?」

 

 手を差し出し彼女はそう告げ、心操は思考が完璧に停止した。ついでに周りも停止した、彼女が言わんとしていることは理解出来なくはない、つまりは便利屋へのスカウトだということだろう。

 

 だが、それはそれとしてあの男の子の情緒とかが激しく心配なんだけど私とA組女子の常識人担当、耳郎は思わざるを得ない。考えても欲しい、今日まで異性との交流だってそこまで多くないだろう男子がこうして美少女に会いたかったと言われるだけでも中々に強烈なものだと言うのにだ。

 

 あまつさえ、レイミィは堂々と恥ずかしげもなく自分のところに来て欲しいと誘ったのだ。誘われた心操の心情は考えるまでもなく荒れ狂うだろう、仮に便利屋へのスカウトだと理解してたとしても、だ。

 

「ぎゃ、逆プロポーズ……だと?」

 

「どう考えても違うわよ」

 

「ギャオス!?」

 

「峰田、余計なことを言うから……!」

 

 外野が漫才をしているがレイミィの耳にも視界にも当然入ってないので流される。それよりもと心操の顔を見ればまだ言葉を飲み込みきれていないという表情で自分を見ている、その反応にまぁ無理もないわよねと納得、自分も同じ立場だったら多分こうなるだろうなと思いながら。

 

「もちろん、今この場で答えてとかは言わないわ。これは貴方の人生の選択、よく考えて選択して頂戴、それがどんな答えでも私は受け入れるから」

 

「あ、あぁ、えっと……と、とりあえず少し考えていい、か?」

 

「えぇ、寧ろ即決される方が私としては色々と不安になるから、さっきも言ったけどよく考え、その上で自分の意志での選択をしてほしいわ」

 

 そう告げてからニコリと微笑みを向けると心操はいよいよ彼女を直視できなくなるくらいに顔が赤くなったのか視線を逸らされる。これにはレイミィはあら? と思ってしまうのは彼女自身が同年代の異性との会話を禄にしてこなかった代償だろう、彼女に年頃の少年の心や情緒というものは分からない。

 

 けれど少ししてから心操は視線をレイミィへと戻し、真剣な眼差しと表情で彼女の問い掛ける。

 

「なぁ、その、一つ聞いていいか?」

 

「何かしら?」

 

「なんで、俺なんだ?」

 

 その質問にさて、どう答えるかと考える。もちろん個性が魅力的だったというのもある、がこうして対面し、心操の目を見て彼女は単刀直入で誘うくらいには気に入ったというのもある。

 

 と考えて、あっコレで答えてあげればいいじゃないと閃いてしまう。二度目になるが彼女に年頃の少年の諸々は分からない少女であり、これは避けられない事故とも言えるのだろう。

 

「一つに貴方の個性がっていうのもあるけどぶっちゃけおまけだわそんなの。私が貴方を誘ったのは至極単純、気に入ったからよ」

 

「気に入った……?」

 

「そう、貴方の目、その何が何でも己の願いを掴み取るという執念にも似た目の光が凄く気に入ったの」

 

 彼女は彼の目をしっかりと見据えて答える。答えた後ろで耳郎があ~と頭を抱え、芦戸はコレ凄い青春イベントではと目を輝かせ、葉隠がなんだか凄いことになってると身体全体でソワソワし始め、蛙吹はケロ、彼女大胆ねと感心し、麗日はレイミィちゃんは真っ直ぐだね! とやけくそ気味な反応をし、百はそんな彼女たちを見て不思議そうに小首を傾げる。

 

 なお、男子組は割愛とする。峰田が血涙を流してたり、上鳴が目の前の現実に白くなり始めてたりするがそれ以外はレイミィってスゲーなと言う感情で一致しているからだ。そして、そんな視線と口説き文句を直撃する形で貰った心操は真っ直ぐ過ぎるそれに視線を逸らすことは出来ずにいた。

 

 嘘でも、お世辞でもない、心から自分の眼差しが気に入ったと。今日までの人生で一度も言われたことのない言葉を掛けられ、迷いが一瞬だけ生じる、だがそれを振り払うように息を吐きだすが残っているのだろう、彼は。

 

「考えさせてくれ、やっぱ、すぐには難しい」

 

「フフッ、何日だって、何週間だって待つわ。決まったら私に声を掛けて頂戴」

 

「あぁ」

 

 短く返事をしてから心操は踵を返す。その背中を見て、彼女はそう言えば彼って本当は何をしにここに来たのかしらと疑問に思い至り、もしかしてと答えに辿ろ付いて帰ろうとしている彼の背中に向けて

 

「心操! ヒーロー科の私が言ってもその、嫌味とかに聞こえちゃうかもだけど。こういう学園の行事みたいなの参加するの初めてだから雄英体育祭、互いに楽しみましょ!」

 

 ニコニコ笑顔でぶち撒けられたレイミィの言葉に心操の歩みが止まり、思わず振り返る。今、あの少女はなんと言った? え、学園行事に参加するのが初めて? 今までは? その疑問は心操から普通科全体に広がり、同じくA組の顔を見に来たB組の面々にも伝播。

 

 伝播は伝播を呼び、それは次第に重力を形成し始める土台となる。もちろん、重力の発生源はレイミィ自身になるが引き金を引くのは心操、事情を知っていれば暈しながらという選択肢が取れたかもしれないが彼は知らないのでその選択肢はもちろんながら存在しない。

 

「なぁ、今の言葉ってどういう意味だ?」

 

「どうもなにも、小学校は通えなかったし、中学も色々合って行事参加はしてなかったのよね。だから同世代と学園行事ってのはコレが初めてって話よ」

 

「レイミィちゃん、雑談感覚で重い過去は話すもんじゃないって前に言ったよね!?」

 

「あっ」

 

 レイミィ・バートリーの日常会話教育係麗日の迫真の指摘にレイミィはここにきてやっと、やらかしたわコレと思い至る。探るまでもなくこの重力の感じは食堂で感じたのと同じだと気付けば、目を泳がせつつ

 

「えっとその、ごめんなさいね。同世代との会話っていうのに慣れて無くて」

 

「デジャブ!!!」

 

 奇しくも入学二日目で麗日が踏んだのと同じ地雷を踏み爆発させる心操に彼女は叫んだ。叫んだ所で発生した重力は軽くはならないし、空間に発生している集団幻覚には彼女の個性【無重力(ゼロ・グラビティ)】は使えない。

 

 今回は更にB組と普通科がA組の教室に集まってた状態で巻き込んでいるので食堂の時みたいに範囲外に出るということも叶わない、全員が無警戒にコレを食らったので体育祭で盛り上がってたテンションは何処に消えたのか、お通夜状態に切り替わってしまっていた。

 

「……これ、私どうしたら良いのかしら」

 

「いやまぁ、俺に聞かれてもな」

 

「そうよね、まぁそのあれよ、ね。体育祭、楽しみましょってことで解散! じゃダメ?」

 

 とりあえず責任の所在は自分だろうと判断したレイミィがパンッ! と空気を入れ替えるように手を叩き提案すれば不思議と全員が頷き、彼女の提案に乗ることにする。

 

 そう言えば、A組に宣戦布告するつもりだったんだよなと心操が思い出したのは教室に荷物を取りに戻ったタイミングだった。もっとも、レイミィに便利屋に誘われた時点でその気持ちは霧散していたのだが、彼は受け取った名刺を取り出して

 

(便利屋、か。でも俺は……)

 

 魅力的ではあった、頷いてもいいかなと思う心はないと言えば嘘になる、けれど彼は頷かないだろう。そしてそれはレイミィも同じように考えていたらしく、あの執念の籠もった目をしてるからこそ

 

「ま、8割方は断るでしょうね」

 

「へ、あ、えっと何か言ったかな、バートリーさん」

 

 ボソリと呟いた言葉に出久が反応するがそう答える。二人は今、とある場所に向かっており、ちょうど今到着すればそこには

 

「何でもないわ、それよりも着いたわよ。待たせたわね、血染」

 

「貴様がそうか」

 

 ここは雄英高校から一番近く、それでいて人通りも極端に少ない公園、そこのベンチに座っていた血染が立ち上がり出久を見据える。

 

「話は聞いてるな、オールマイトに代わり俺達がお前を鍛える」

 

「は、はい、よろしくお願いします!!!」

 

 目的は一つ、オールマイトの依頼を遂行するため、長期の依頼ではあるがまずは雄英体育祭までの二週間で叩き込むだけ叩き込むハードトレーニングが始まろうとしていた。




完璧なスカウトだったな、ヨシッ!(レイミィ並感

便利屋メモ
後日、A組女子及び何故かB組女子からも同世代の異性っていうのはねという会話をされることが増え始めて困惑するレイミィが居るらしい
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