事の始まりは心操たち普通科と同じくA組の顔を見に来ていたB組の【鉄哲 徹鐵】が帰っていったあとのお話。因みに鉄哲は帰り際、唐突にレイミィに頭を下げたと思えば
「勝手な思い込みでお前らが調子乗ってると思ってすまねぇ! 雄英体育祭、一緒に盛り上げて行こうな!」
「え、あ、うんそうね(誰?)」
どうやら勝己の言動がA組全体の態度だと思い込んだらしいがレイミィの話を聞き、それを聞いたA組の反応を見てそうじゃないと至り頭を下げたのだとか。
下げられた側の彼女としては反応に困るのだがとりあえず謝罪を受け取ると彼も帰っていく、こうしてちょっとした騒ぎのようなものは終りを迎え、A組も各々やっと帰れそうだねという空気になった所で
「あぁそうだ、緑谷。ちょっと面を貸しなさい」
「へ!?」
「さっきの彼をスカウトした時との言い方の落差よ」
これが彼女の砕けた言い方だということは知っているのだが、それはそれとして先程までの至極丁寧な物言いからの割と雑な発言に耳郎は苦笑するしかない。
言われた方の出久は急な口調の変化に思わずビビるが、本人もオールマイトに呼ばれたあの昼休みに本人の口から
『実はだね、緑谷少年の個性の調整や特訓について便利屋に依頼をしておいたんだ』
『バートリーさんに、ですか?』
『あぁ、ここに来てから君に師匠らしいことも出来ずに居たからね。それでも君の助けになりたいと彼らに頼んだのさ』
『そんな! オールマイトには色々と助けられてますし気にしなくても……』
『それでもさ。本当ならばOFAの調整だって私が見てあげるべきでというのに投げっぱなしの状態なのだからね……申し訳ない』
というやり取りで便利屋が自分の特訓を見てくれるということを思い出し、そのことだろうと頷いて前回の終わりに繋がる。今は近くの公衆便所で体操服に着替えた出久に軽い準備運動をさせ、それが終わったところだ。
今回は初日ということで軽いものから、などと甘いことを言わないのがレイミィ・バートリーと言う少女。雄英体育祭まであと二週間しかないのだから手を抜けばそれだけ彼の遅れは大きくなる、ならば初日から徹底して叩き上げなければならない。
「とりあえず、個性の調子はどうなの? あぁ、それと便利屋全員が口外はしないを約束に貴方のことを話してあるから大丈夫よ」
「あ、うん。えっと、襲撃事件のときに一度使ってその時は指だけで済ませたかな。ただ、その後はイメージトレーニングだけで使えてない。本当は実際にやってみたいんだけど機会がなくて……」
「イメージトレーニングか、確かバートリーに変えろと言われたイメージを元にってやつだよな?」
血染からの質問に頷いて答える。あれから彼はレイミィから提示されたイメージでトレーニングを重ねていた、もっとも失敗すれば大怪我であるので、彼の言う通り、実際の使用による訓練はできてないのだが、それでも四六時中イメージトレーニングをしていたというのは全くの無意味ではなく。
「じゃ、あの戦闘訓練で見せた纏わせてるヤツをしてみてもらえる?」
「戦闘訓練、あ、あれか。うん、やってみる」
「怪我しても安心しろ、ここから雄英は近いしリカバリーガールには伝えてるからな」
あれ、もしかして割とハードなことをやる前提なのかなこれと脳内にチラッと見えた未来図を振り払うように意識をOFAに集中する。身体の中に宿されたそれを自身をコーヒーに例え、その器に入っているそれへ
時間にして3秒くらいだろうか、出久の身体からバチバチと緑色のスパークが流れ、彼がゆっくりと目を開ければ内心ではあの時よりもスムーズに成功したことに驚いていたりする。
「でき、ました!」
「即発動できないのは慣れてないからと見るべきね。動ける? 動けるなら軽くこの公園を一周くらい走ってみて、ただし足を壊さないように」
「はい!!」
威勢の良い返事とともに、慎重にOFAを纏わせた状態の身体を確認するかのように公園内を先ずは流すように走り出す、走り出してすぐに流しのはずだと言うのに既に今までとはまるで違う力の入り方に若干戸惑う。
これによりほんの僅かにバランスが崩れ、それを正そうとして変に力が入り転けそうになるのだが今の一瞬で何かを掴んだらしく一気に身体のバランスを取り戻したのを見て、へぇとレイミィが感心したような声を上げ
「彼、やっぱり飲み込みと言うか、その辺りが早いわね」
「今の一瞬で掴んだってことか。理解が早いと見るべきだろうな」
もう既に力の入れ具合を理解しきったのだろう、彼は転けること無く二人から見ても変に力が入ってる様子もない姿を見るに二人は出久は理論型だろうと結論付ける。
天才型のオールマイトとは対極とも言えるタイプ、精神性は二人して似たりよったりだがその部分が噛み合ってなかったが故に今日まで出久は個性の調整にも苦労していたのだろう。
また彼の場合は本人からレイミィが聞いたのだがヒーローノートなるものを付けており、ヒーロー一人ひとりを徹底的に調べ上げていたということも知っている。つまりは誰かを【理解】するということにも長けているのかもしれないとも考えている。
「個性の調整の訓練は継続しつつ、やっぱり彼には貴方と組手をしてもらって技術を盗んでもらう方が早そうよね」
「アレを見るに間違ってはないか、分かった、そうしよう」
時間があるのならばもう少しあれこれと基礎から叩き込むことも可能なのだが二週間という長いようで短い時間でとなると多少のパワーレベリングになってしまうものであり、彼らが出久にしようとしているのは実戦形式での訓練。
個性調整の訓練も兼ねたランニングを終えた出久にこれから行うことの詳細を説明、彼もその内容に出来るだろうかと不安が生まれるが決意を込めた目で
「それでよろしくお願いします!」
「気合入ってるわね。じゃ、血染よろしく、あと緑谷は個性の解除を忘れないようにね」
「あぁ、先ずは俺に反撃を無理に狙うな。こちらの行動を徹底的に【理解】し、自身で出来る形に噛み砕くことを意識してみろ」
公園の中央で互いに距離を取った状態で相対、血染が腰を落とし構えたのを確認してから出久も構えを取り向こうからの先手から組手が始まる。
血染の戦闘スタイルは本来であれば贋作を粛清するための独学の殺人術だったのだがレイミィに拾われ便利屋の人間になってからは刃物を扱うということができなくなったために格闘戦を重点においたスタイルに変化。
その緩急自在な間合いの詰め方と僅かな隙でも逃さない的確なパンチと蹴り、時に投げにも来る変幻自在とも言える戦い方に出久はなんとか凌ぐがそれは向こうが手加減してるからに過ぎないと分かっており冷や汗が止まらない。
(強いなんてものじゃない!! とにかく動きが全部巧い、捌けてるけど、これは僕が動きを理解しやすいように手加減してくれてるからまだなんとかなってるだけだ!)
(手を抜いてるとは言え、段々と捌き方が慣れてきてるな。末恐ろしいと言わざるを得んぞコレは)
対して血染も出久の想定外の適応力に舌を巻く、ランニングの一件を見て確かに適応力やそれを自身の力と感覚に変えてしまう機転の良さと言うべきそれは高いと思っていたがこの短いやり取りで吸収までし始めているのではというのは流石に彼も笑いたくなる。
自分の持てる技術をオールマイトの弟子である彼に吸わせ、強くする。言うまでもなくオールマイト強火オタクである血染にとってそれは言葉に出来ないほどの心の歓喜が生まれてしまい、思わず顔に出る。
「……楽しそうね、血染」
(うわ、この笑顔バートリーさんのそれとそっくり! あ、なるほど赤黒さんからバートリーさんにってことなのかなこれ)
なんか久し振りにあの笑顔見たなぁと思うレイミィ。組み手の最中だと言うのに血染とレイミィの繋がりを見つけてしまい動きがブレる出久とその隙を逃すわけもなく攻めに入る血染。
「気を散らすな、戦闘中だぞ」
「っ!? くっ」
右に左と拳の連打、それを捌いたと思えば間髪入れずに迫る足払いを避けたと思った所で右での蹴り上げを胴体に直撃し転がることになる出久。だが無防備にやられたわけではなく、防ぎきれなかったとは言え防御は確かに挟んでいたということに血染は驚く。
あの一瞬、少しだけギアを上げた一撃だったというのにそれに反応してきたのだ。コレは本当にとんでもない逸材を拾ってきたものだと感心するしかない。
「緑谷、まだ行けるな?」
「行けます!」
その目にしっかりと闘志が宿ってることを確認した血染は笑みを浮かべつつ、今日一日でここまでするつもりはなかったことを彼に指示することに
「次からは理解したことを試し、俺に反撃をしてみろ。出来るか出来ないかは難しく考えるな、お前の頭の中で組み上げたそれに沿って実践してみれば良い」
では行くぞと先ほどと同じように血染が先手からの組み手を再開。しかし今度は防戦だけだった出久に攻勢に出て見るようにと言ったように、彼もまたどうにかして隙を見出して行動に移す。
そう、移しているのだ。どう考えても武術などはやっておらず、ただがむしゃらに鍛えただけだった少年が血染の動きに酷似しつつも己のものに変換した動きで彼に追い縋ろうとしていることにレイミィは何度目か分からない驚きを受けることになる。
(喰らいついちゃってるわアレ、血染も緑谷に悟られないレベルでギアを上げ続けてるってのに)
「ふっ! やぁ!!」
「良いぞ、その調子で攻めてこい」
もちろん、基礎能力の差がある以上は彼が血染に勝つということは非常に低いのは確かだ。けれど、現状は互いに個性なしでの組手でありこれがもし個性を解禁した場合、どうなるかはちょっと見てみたいかも思ってしまうほどの白熱っぷりを見せる二人。
とは言えこれが永遠に続くということはない、基礎の差が違うというのならば一番大きく出るのが体力面、身体を作ってきたとは言え出久の方が先にバテ始め動きに精彩さが欠けてきたタイミングで手を止めるように声を掛ける。
「ふぅ……ふぅ……や、やっぱり、強い、ですね」
「これでもそれなりの期間を便利屋として働いてるからな。流石に初日の貴様には負けはしない、だが筋は良い、二週間みっちりと取り組めば良いところまではいけるだろう」
「本当よ、この短時間であそこまで戦えるようになるなんて正直に言って驚くしかないわ」
はい、とレイミィから渡されたスポーツドリンクを飲みつつ、彼女からの掛け値なしの称賛の言葉に顔を赤くしてお礼を告げる。彼自身、今やってた動きが自分のものではないような感覚になっていたが今のレイミィの言葉で実感が湧き、思わず嬉しくなったという部分もある。
「とりあえず、今日はもう少し俺と組手、明日はバートリーと俺と被身子でやっていく予定だ。だからバートリー、明日からは被身子を呼んでおけ」
「……」
「渡我さんって確か、秘書さんだっけ上鳴くんがそう話してたけど」
唐突に出てきた彼女の名前にレイミィは思いっきり嫌な顔をする。過去に絶対に呼ばないから安心しろとか被見子に言った記憶があるのにやっぱり来てくれは何言われるか分かったものじゃないという感情だ。
無論、そんな事で呼ばないという選択には変わらないし嫌な顔をされた所で血染には意味がない。
「呼べ。今やっただけでも分かるだろ、緑谷は一つを会得させるよりも様々なモノを吸わせたほうが総合的に強くなる傾向がある、ならアイツのほうが適正が高い」
「分かってる、分かってるわよ。はぁ、マジかぁ、呼ぶことになっちゃうのかぁ」
「えっと、渡我さんってどんな感じなんですか? 僕、襲撃事件の時もあまり話せなくて知らないんですけど」
「……会えば分かる」
何故今言葉を選んだのだろうか。出久は血染の答えに本当に会って大丈夫なんだよねと思いたくなるが彼女と会話をしたことがある上鳴や百、耳郎が言うにはレイミィと同じくらいに話しやすいとは言ってたのを思い出して落ち着かせる。
「緑谷、明日から来る被身子なんだけど間違いなく、テンションが馬鹿みたいに高いと思うの、だから気を付けて」
「何をされるの!?」
「やることは今さっきのと変わらん、ただちょっとアイツのことだからテンションに身を任せた攻め方をしてくる可能性があるという話だ」
一気に湧き上がる不安に潰されそうになる出久だったがほら、時間まで組手を再開するぞと血染からの言葉で特訓を再開、その日の終わりには本気とまでは行かずとも4割程度を彼から引き出した所で初日が終わりを告げた。
思わぬ成長率の高さに血染は満足げと同時にこれからが楽しみだと言う発言すら出久に送り、そしてその日の夕食時に覚悟を決めたレイミィから被身子に件の話をすれば無言だと言うのに歓喜してると分かるガッツポーズを取り、その様子にレイミィが
「頼むから、本当に頼むから変なことしないで頂戴」
「しません、大丈夫です、キチンと段階は踏みます!」
「ハハハ、被身子ちゃん嬉しそうだねぇ」
「テンション上がりすぎて絶対にやばいことになるぞコレ」
「そん時は俺が止めるから安心しろ」
そして翌日の放課後、遂に被身子と出久が相見えることとなる。
なんかこう、緑谷ってFateの伊織くんみたいな事出来るんじゃないかなって、理解からの吸収って感じでというお話。
便利屋メモ
次回で判明するが、被身子の近接戦闘の引き出しの多さは便利屋の中で一番になる。