血染は巧いと評価できる身体の動かし方、緩急や間合いの詰め方は戦う者のそれとして完成されていると出久の目から見ても思えた。
レイミィのは技術という面から見ると血染より劣っていると言えてしまうがそれを補う速さがあり、そこから繰り出される攻撃の嵐はそれだけで脅威と言えるだろう。
では、被身子は何なのだろう。昨日の話を聞くに血染に似たような感じなのだろうか、そう思っていた、こうして戦う前までは
(なんだこのやり辛さ……!!)
開始してからはや数分、出久の心情は上記のそれ一色に染まっていた。例えるなら風を相手にしているような手応えのなさ、前二人には存在したパターンというものが彼女にはまるで無いような感覚に陥り、それが出久のやり辛いという感想を抱かせる。
「えへへ、楽しいですねぇ!」
(右、いや、左!?)
地を這うような動きから一瞬身体が右にブレ、だが肝心の攻撃は身体を思いっきり起こす勢いで左足での蹴りが飛んでくるのをギリギリ防いだと思えば被身子の姿は既に目の前に、思わず反撃の右を振るうが柔術のような柔らかい動きで受け流されてしまう。
「ほいっと、慌てちゃ駄目ですよ~」
「うわわっ!!(駄目だ、この人の動きが全く【理解】できない!?)」
緑谷出久が相手の動きや戦闘スタイルを【理解】出来るのはそれに一定の法則というものが存在しているから。例えば変幻自在と評した血染の動きにも彼の目には確かなパターンというものが存在し、動きを観察することで理解を深め、己の糧とし結果として彼も驚く成長を見せた。
レイミィのときも同じ、確かに速いが故に彼女自身の動きは見えなかったが攻撃してくる時の法則、そして何よりも何処に攻撃が来るかという視線を感じることに成功し喰らいつけていた。
けれど被身子はそれがない。パターンを理解しようにも次に来る時にはそれ自体が変化しており、改めてそれを理解しても、今度もまた変化するということを繰り返され翻弄され続ける。
「良いですねぇ、その焦燥してる感じの表情、それでも目は諦めずに私を視てるの、カアイイ、とてもカアイイですよぉ!」
「うわぁ、ただでさえ動きで翻弄されてるのにそこに言動も合わせられちゃ、キツイでしょうね彼」
「だが
外野二人が何か言っているが被身子にも出久の耳にも届かない。片方はテンションが上ってて聴こえないし、片方はそれどころじゃないという話というだけではあるが。
何か取っ掛かりでもと出久は全神経を集中させ相手の動きを理解しようと試みる。ここまで変幻自在とは言え、それでも何かしらの大本はあるはずだと、右に左に、跳んだと思えば空中で姿勢を変化させてからの蹴りおろし、それを腕で防御してから着地の瞬間と考えるが
「ほいっと!」
「くっ!?」
出迎えたのは逆立ちする要領で振り上げられた両足、からの大きく足を広げて大回転をバックステップで回避するのだが、コレを視て彼は一つ気付いた。確かこの動き、何処かで見たことがあると相手からは視線を逸らさずにこの引っ掛かりを脳内で照らし合わせていき、行き当たった。
(今の、テレビで見たダンスの動き……?)
思い出すのは居間で母親と見てた番組、歌番組か何かで同じようなのを見たようなと。そこからもしかしてという仮定が生み出される、だとしたら彼女の動きを【理解】出来るのかもしれないと。
集中する、今度は目の前の動きに対して並行して記憶の中にある類似、或いは該当する事柄を参照する形で被身子の変幻自在とも言える動きをなんとか凌ぎながら観察する。
「じゃあ、次はコレで!」
【次はコレ】この一言に出久はなにか確信めいたものを感じながらジンガと呼ばれる腰を低く落としサンバのようなステップを踏む構えを取り出す被身子を見据えてから血染にチラッと視線を送る。
それを受けて血染は僅かに考えたあと、一つ頷けば出久は足に力を入れ一気に踏み込み攻勢に出たことにレイミィは血染を見てどういう事だと聞けば
「俺達が思うよりもアイツは貪欲で、考えていたということだ。防戦だけじゃ得られるものが少ないと感じたんだろうな」
「敢えて攻めに出て被身子から動きをさらに引き出したいってこと? まぁ確かにあの娘は攻めだけじゃなくて受けからの反撃も豊富だからありっちゃありか」
「俺もそれは考えていたが初回から、しかも向こうから促されるとは思わなかった。なるほど、平和の象徴を受け継ごうという精神は中々のものだ」
感心する視線の先では出久が拙いながらも昨日の血染の動きを取り入れた我流武術で被身子に挑む姿、まだ出来ない部分は出来ることで補うという形によって彼自身の独自なスタイルになりつつあるそれは被見子から見ても初見と言えるものであり、だが
「まだまだ動きが固いですねぇ、こんな感じに柔らかぁく行くのが戦いのコツです!」
迫る足払いをステップ一つで避け、続けて足払いからの水平蹴りを避けた勢いで片手で逆立ちに移行、そのまま両足を振り下ろされるのを出久は防ごうとして直ぐに悪手だと気付かされた。
振り下ろされた両足は確かに腕で防げたが、そのまま軸にグルっと腕に絡めた脚の力だけで被身子は身体を起こし背後に回り込んでから、ちょいっと無防備な背中を(抱き着きたい衝動を抑えた表情のまま)両手で押し飛ばす。
「にひひ~、今のが実戦だったら一本でしたね~」
「な、なんかもう凄いとしか言えない……(今のはプロヒーロー【ミルコ】、でもそれだけじゃないような気がする。複合……?)」
足技を得意とするプロヒーロー【ミルコ】の動きだと彼の記憶は言っているのだが出久としては二~三個ほど合わさっているようにも視えるがそれ以上に先程までは【理解】が出来なかった筈の被身子の動きが視え始めていることに自身の仮説は間違ってなかったことを確信する。
被身子の動きは様々な誰かの戦闘スタイルを合成し出来ているものだと。一つの型ではなく、複数の型を自由自在に組み上げ即席の武術にする、それならば初見の時はまるで【理解】出来ないと頭が判断しても不思議じゃないと。
(これが、赤黒さんが渡我さんの方が僕に適正があると言った理由なんだ)
血染とレイミィだけで鍛えても良かったがその場合は彼の理解力と機転、適応力の高さを引き出しきれない。けれど、【変身】と言う個性を持つがゆえに他人への執着心は人一倍で、その気に入った誰かと同じになりたいという衝動を持ち生きている被身子は依頼を通してその引き出しを充実させるという名目で技術を会得し、レイミィの足手まといになりたくないという一心で独自に組み上げている彼女ならば出久のその長所を延々と伸ばすことが可能だと。
因みに組手を始めてそれなりに経っているがそれでも被身子の引き出しはまだまだ存在する。それどころか組み合わせ次第が無限とも言える程にはあるので尽きることもなく、出久にそれを吸収させる、つまり自分色に染め上げることが出来ると途中で気付いてからは疲れも吹き飛び続けているのでここから何時間でも可能というハイスペックを見せ始めている。
「さぁさぁ、まだまだいけますよ~!」
「なんだか楽しそうですね、渡我さん」
「そりゃもう、こんなど真ん中好みのカアイイ男の子の修行相手が出来るなんて楽しくない理由がないですからね!」
恥ずかしげもなくぶっ放される言葉に顔を赤らめてしまうのが出久、聞いた話ではレイミィの一つ上のハズだと言うのにこうして話していると同級生のようにも見えるフレンドリーさが尚の事、異性への耐性がない出久には中々のダメージになりつつある。
これをもし他のクラスメイトに見られた日には僕はどうなるのだろうかとすら考えてしまいそうになるが、今はそういうのを気にする場面じゃないと構え直し再開。
攻防が常に入れ替わるやり取りがそこから更に数分が経ったが常に笑顔の被身子と段々と苦しい表情になり始める出久を見てレイミィが一言。
「何あれ、イチャツイてるの?」
「んなわけ無いだろうが。更に続けさせてもいいが時間が経ってるな、二人とも一度休息を挟む、そこまでだ!」
「え~、トガはまだまだ行けますけど?」
「お前が大丈夫でも緑谷に疲れが見えてたら意味がない。追い込みを入れるのは雄英体育祭前の2日間で十分だ」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
今はまだ技術を会得させる場面。疲労した頭では彼の【理解】と言う力も弱まり非合理的だと言う血染の姿に、レイミィは相澤が重なって見え思わず笑う。笑われた血染は何だ急にと怪訝な表情を向けるのだがそれが一層、相澤を連想させてしまったのだろう、レイミィのツボが決壊することになる。
「アッハッハッハ!!」
「……はぁ、お前のツボが意味分からないというのは前々からだったが雄英に行ってからは悪化してる気がするぞ」
「やっぱり、バートリーさんって便利屋でも些細なことで笑うんですか?」
「そりゃもう。え、何でコレで笑えるんですかって事で大笑いしちゃって酸欠になったりすんですよ?」
なお、過去に一度だけ緊急搬送一歩手前まで行ったということを聞かされた出久はそこまで人って笑えるんだなぁと割と呑気な感想を抱いた模様。いや、だとすれば今回も危ういのではと未だお腹を抱えて笑っているレイミィを見て危機感を募らせる始める、コレ大丈夫だよねと。
「あ、あの、バートリーさん?」
「フッ、ヒヒヒ、へ? ど、どうしたのかしら緑谷?」
「赤黒さん、もうなんか駄目な顔色になってますよ!!!???」
「はぁ、ほら深呼吸だバートリー、出来るな、やれ」
咄嗟に声を掛けてみれば青くなり始めている顔色をしたレイミィを見て叫んでしまう出久に、何やってんだこいつはと落ち着くように促す血染。被身子はそんな出久の行動を見て優しい子ですねぇとニコニコ顔でスポーツドリンクを飲んでいるが、これは多分大丈夫だろうという心情の下の感想である。
あの酸欠した日はこれとは比にならないほどの笑い方だったしと。少しすればレイミィも落ち着いたので、今日のその後の特訓を確認しつつ、ふと思ったことを出久に聞いてみることに
「そう言えば、昨日は雄英体育祭に乗る気じゃなかったのに急に気合い入れてきたけど、何かあったのかしら?」
「あぁ、あれはその、昼休みにオールマイトに呼ばれたの覚えてるかな?」
「もちろん、その時に私たちに依頼をしたって聞いたんでしょ?」
普通に会話しているがオールマイトに呼ばれるというのは一部ファンからしたら垂涎ものの話、血染としては生のオールマイトを常に見れるという雄英の環境に思わないところがないわけではないが、今は余談になるので置いておこう。
ともかく、その時に出久はオールマイトから自身の限界が段々と近づいていること、自分に力を授けたのは彼を引き継いでほしいということ、そして
「雄英体育祭で、次世代のオールマイトの象徴、僕が来たということを知らしめてくれって……でもそれ以上に僕自身が強くなりたいと思ったからっていうのがある」
「……襲撃事件のことか」
「は、はい。あの日、僕は見てるしか出来なかったから、OFAっていう強力な力を受け継ぎ持ってたのにバートリーさんや相澤先生達に任せるしか出来なかった、それが酷く悔しくて」
オールマイトのようなヒーローになりたいと願い、OFAを引き継いだというのにあの日の出久は飛ばされた先のチンピラ集団を蛙吹と峰田の二人で協力して一網打尽にするだけしかやれず、助けになるかもと向かった広場では何ひとつの協力もできなかった。
もっとも割って入ろうものならばレイミィにブチ切られていただろう、あの場においては大人しく引き下がり静観してるのが正しい選択肢だ。けれどその事実が彼の中で強くなりたいという心に火を付けた、だからこそオールマイトが便利屋に自分の特訓を依頼したという話は素直に嬉しかったとも。
「だから、あの、雄英体育祭が終わったあとも僕を鍛えてくれると嬉しいです。この力をもっと使いこなせるようになりたいから」
「何言ってるのよ、オールマイトからの依頼に期限は無いわよ?」
「へ?」
出久は何やら勘違いしていたようだがオールマイトからの依頼には期限というものが設けられていない。向こうからはただ緑谷出久を鍛えてあげて欲しいと言われただけであり、レイミィとしても分かったから任せなさいという感じで受けただけ。
なのでとりあえず、雄英に在籍中の三年間はと見積もっているのだがそこで血染が呆れた声で
「あぁ、それを50万だけで受けたこいつは中々に笑い話になる。オールマイトに伝えておけ、今度追加で依頼料を請求するとな」
「そもそも、なんで50万一括だけで済ませちゃったんですか? 所長ですよね、その辺りの計算できますよね?」
「煩いわね、これだけの大金吹っ掛ければ迷うかなって思ったのよ」
「あの、オールマイトみたいなトップヒーローなら多分、100でも即決してくるかと」
ふざけんな金持ちが! 心からのレイミィの叫びが公園に響き被身子の笑いが続きと、出久と血染は苦笑が浮かべる。その日は、こんな感じの休息を何度も挟みながら時間まで被見子との組手や、時にレイミィと血染と相手を変え彼に技術を叩き込んでいくのであった。
雄英体育祭まであと一週間と5日、出久はこれで強くなれるのか、同時にもう先に言っているクラスメイトに何処まで食らいつけるようになれるのかと思いながら彼は特訓をこなしていく。
被身子の戦い方を言うなら鉄拳の木人がコンボ中に他のキャラの技を組み込んでくる感じ、使うの難しいけど使いこなせたら分からん殺しが多発する感じ。
便利屋メモ
当然ながら刃物関連は使えないので全員が肉弾戦特化、その点が原作よりも被身子と血染に逆風なってたりする。