便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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報告書とかなら得意なんだけどとレイミィ・バートリーは呟く


No.37『楽勝だと思うことが一番の罠』

 緑谷出久の特訓から早一週間が経過した今日、レイミィ・バートリーは朝のHRまでの時間の最中、教室で一つの問題に直面していた。

 

 とは言っても出久の特訓関連ではない。寧ろそっちは彼自身の努力もありメキメキと上達していっており、メニュー自体も張り切ってる血染にほぼぶん投げているので問題にすらなっていない。

 

 では何かと言えば、彼女の前にある原稿用紙が全ての答えだった。一文字も書かれていないほぼほぼ真っ白な原稿用紙を前にして手に持ったペンをくるくる回しながらレイミィは唸った。

 

「うーん、引き受けたは良いけど存外浮かばないものなのねぇ」

 

「あら、何考えてるのかしらレイミィちゃん」

 

 彼女が唸っているという珍しい光景に蛙吹が声をかければレイミィは顔だけをそっちに向けてこれよと原稿用紙を指差す。指してはいるが一文字も書かれてはいないそれを見ても察しが良いと言われる彼女とてわからないと言うもの。

 

「これは、作文かしら?」

 

「まぁ、作文って言ったら作文なのは間違いないわね。コレの期限があと一週間無いのよ」

 

「なのに一文字も書けてないのは色々と良くないんじゃないかしら……」

 

 全く持ってその通りよと困った表情でレイミィは答える。引き受けた当時は初めての経験だけどなんとかなるでしょと思っていた今回の案件、だがいざ考えてみようとするとコレが中々浮かばない。

 

 それでもと暇な時間に、特訓中の休憩時間にと頭を働かせていたのだが今日まで全く浮かばずじまい。いよいよ困ったことになったと言う状況に陥りかけている。

 

「ふぅ、ここまで浮かばないものとは思わなかったわ。こんなんだったら爆豪に丸投げしたほうが良かったかしら」

 

「丸投げされたって知ったら彼怒ると思うから止めたほうが良いと思うわ」

 

「分かってるから投げるのよ。まぁ今更だし相澤先生も許さないだろうからやらないけど……最悪テンプレ使うしか無いかしらねぇ」

 

 テンプレ、その単語が出てきたことでふむ? と蛙吹の中でもしかしてという考えが浮かぶ。始めはなにかの宿題等かとも思ったが今日までの授業でその手の提出物は出てない、それに彼女ならばここまで苦戦することもなく提出してるはず。

 

 ならばそうじゃないものでレイミィが苦戦するような原稿用紙を使うこと、直近、一週間無い期限、蛙吹の察しの良い頭が弾き出した答えは

 

「……もしかしてだけど、雄英体育祭関連?」

 

「あら、気付いたの? えぇそうよ、選手宣誓を任されちゃってその内容を考えてるってわけ」

 

「えぇ!!?? レイミィちゃんが選手宣誓するの!?」

 

 どうやら会話が聞こえたらしい葉隠がオーバーリアクションな反応をすれば瞬く間に今の話が教室中に広がりワラワラと群がり始める女子達、男子組も遠巻きながら興味があるという感じにレイミィに視線を飛ばし

 

「へぇ、まぁバートリーならなんかこう安心感あるよな」

 

「爆豪にやらせたら選手宣誓じゃなくて宣戦布告なのは間違いないっての考えたら相澤先生もバートリーに任すって判断になるわな」

 

「るせぇわ、宣戦布告の何が悪いんだよあぁ!?」

 

「いや、悪いだろ」

 

「そういう所だと思うぞ爆豪」

 

 切島と上鳴の言葉に更に爆発させるが残念でもないが彼の言葉がこの教室の総意だというのは言うまでもないし、実際に彼が本来の流れの通りに選手宣誓を担当していたら大ブーイングの宣戦布告になっていた。

 

 そんな賑やかになる教室にも気にならない様子でうーんと唸るレイミィ、なんかこう言うのって周りに言わないほうが良かったとかあったと思うのだけれどと考えていると、そこに芦戸が

 

「でもテンプレじゃ駄目なん? 悪いってわけじゃないと思うし」

 

「え、つまらないじゃないのそんなの」

 

「あ~、そうだね、レイミィならそう言うと思った」

 

 レイミィ・バートリーと言う少女は大義名分を得ている場合に限り割とはっちゃけるというのを今日までの様子を見て何となくだが耳郎には分かっていた。

 

 彼女は割とそういった面があると、今回で言えば選手宣誓の文章はテンプレもあるが自由に考えてもいいと相澤に言われてるのでだったらということなのだろう。

 

「でもレイミィちゃん、確か一週間前も同じこと言ってなかった?」

 

「言ってたわね麗日、それから全く進まないのよ、不思議なことに」

 

「それはもう素直にテンプレートで宜しいのではないのでしょうか?」

 

 ここまで考えて進まないとなればその方が良いのではという百の言葉もレイミィは理解できる。出来るがここで折れたら負けたような気がしてと言う意地もあり、それが結果として彼女を沼に嵌めている。

 

 折角、初めてマトモに参加する学校行事の生徒代表としての選手宣誓、果たしてテンプレで済ませて良いのだろうか、いや

 

「良くないわよね、えぇ」

 

「そう言えばそんな事言ってたね。初めてだからこそ、か」

 

「いっそあれだよ、自由な校風に則って自由な感じにしちゃえば良いんじゃないかな!」

 

 自由な感じ、それはどういうことなのだろうかとレイミィが葉隠に聞けば、彼女は考えているのだろう体を大きく揺らし、少ししてから

 

「こう、選手宣誓っていうのに囚われない、レイミィちゃんが思ったことをそのままぶちまける! みたいな」

 

「宣言、と言うことでしょうか?」

 

「そうそうそれ!」

 

 自由、宣言、2つのこと単語を聞いてふむとクルクルとペンを回しながら原稿用紙を見つめる。難しく考えずに自分の思ったことをぶち撒ける。己が初めてだからこそ、思い出にできる青春にしたいという気持ちを……そこまで考えて回してたペンがピタッと止まる。

 

「私の宣言、か」

 

「お、なにか閃いた感じ?」

 

「えぇ、ありがと葉隠。お陰で期限に間に合いそうだわ」

 

 いつもの調子の笑みを浮かべた彼女はお礼を言うとサラサラと自身の心の内に浮かぶ上がる想いをそのまま文章に整えていく。それは聞く人が聞けば只のエゴ、されど今日まで普通の学生生活をしたことがない少女の確かな声。

 

 それがお披露目になるのは雄英体育祭の当日なのでここでは書けないがそれでも、コレを読んだクラスメイトが思ったのは皆共通であり代表して耳郎が

 

「選手宣誓は完璧に消えたねコレ」

 

「良いのよ、そもそもこのままじゃヒーロー科だけが持て囃されるつまらないお祭りよ。だったら嫌味と取られようがどうしようがこういう宣言をしたほうがまだいいんじゃない?」

 

 後に青春宣言とも言われるかもしれない選手宣誓が完成した瞬間である。がまだここから色々と整えたりは必要なので時間がないのは確か、彼女は今日からそこそこな苦労をすることにはなるが本人は普通に楽しそうなので良いとしておこう。

 

 そんな事があった朝から時間は進み昼休み、雄英体育祭まで一週間を切ったということで学校全体の空気も何処となくお祭り前のソワソワ感を含み始めてることに本日は鰯の天ぷら定食を食べているレイミィが

 

「やっぱりざわついてるし、妙に視線も感じるわね」

 

「そりゃまぁ、ヒーロー科で私らはA組だからなぁ」

 

「既に注目を集めてしまうのも無理はないだろう。少々、やっかみに近い感じの視線があるのは気にはなるが」

 

「仕方ねぇだろうな。良くも悪くもA組は目立ちすぎてる、お陰で雄英体育祭でも世間は俺達(A組)が注目されちまって他がオマケみたいな扱いらしい」

 

「うぅ、なんだろう。それ聞くと胃が痛いと言うかなんというか……」

 

 焦凍の言葉通り、世間では例の襲撃事件を乗り切った将来有望なヒーローの卵という事でA組が取り上げられていた。お陰で雄英体育祭は従来であれば三年が注目されるはずが今回は一年にも注目が集まるがその殆どがA組目当てとなればよく思わない生徒も増えてしまうというもの。

 

 なので食堂でこうして食事をしてる時にもその手の視線を感じるのだが、レイミィとしては懐かしいと思う視線であり

 

「便利屋としてはこれをプロヒーローから受けることが多々あるから気にならないのよねって、あ、心操じゃないあれ」

 

 指を指した方向には確かに心操の姿。どうやら一人だったようで指先から血を変換したコウモリを彼の方向に飛ばし、クルクルと周りを旋回させてから自身の方角へと飛ばせば

 

「あっ」

 

「ハァイ、良かったら一緒にどうかしら?」

 

「い、一緒に……?」

 

 マジで言ってるのかと心操、彼女の周りにいるのはヒーロー科A組の面々のみの空間に普通科の自分に来てほしいとか何を考えてるのかと思いたくもなるが、あの教室でのやり取りを考えるに純粋に呼んでるだけなのかとも考えられ、少し悩む。

 

 一方、悩む姿を見たレイミィはもしかしてと今更ながらな事を思う、やっぱり急すぎただろうかと深刻な顔で呟くが麗日からすればそれもあるだろうけど違うんじゃないかと告げ。

 

「急でもあるけど、ヒーロー科しかいないのに来てくれっていうのは中々敷居が高いんじゃないかな」

 

「そういうもの? しょうがないわねぇ」

 

 あ、これは引っ張ってくる形だと彼女の中で敷居が高いということはつまり切っ掛けがあれば超えられるってことよねという方程式があるようで、その切っ掛けになればいいのねとか本気で思っている。

 

 もっともされる方としては迷惑とまでは行かないが強引なのは確かであり、とりあえず座りなさいよと連れてこられ、レイミィの誘いを断れずに座った心操に天哉が頭を下げる。

 

「すまない、迷惑だっただろう」

 

「い、いや、まぁ驚きはしてるが。と言うか良いのか、急にその、別の科の奴が混ざってさ」

 

 何処か被虐するような声と言葉に答えたのは出久だった。別の科とかそういうのは関係ないと、だって僕たちは同じ雄英の生徒で仲間じゃないかと。

 

「だから、その、気にしなくて大丈夫だと思う」

 

「そーそー、大体ヒーロー科かどうかなんて考えてるだろうけど、あの入試じゃ漏れるやつ絶対に出るって思うし、そもそも雄英に受かってる時点で十分素質はあるはずなのよ」

 

 どう考えても実戦形式の入試って非合理的だと思うのよと塩を軽くまぶした天ぷらを食べながら言葉にするレイミィ。あれはどういった形でその形式になったのかは彼女も知らないが心操のようなサポート系、もしくは無機質にはほぼ無意味になってしまう個性持ちには不利とかいうレベルじゃないと。

 

 ヒーローと言う職種を考えれば相手にするのは人間だと言うのに、それでヒーロー科は弾かれ普通科になり腐ってしまい、なんて嫌な流れを実際に知ってるからこそ

 

「いいかしら、弾かれたからってポテンシャルがないって答えじゃないのよ。雄英に受かる時点でポテンシャルはあって、手を伸ばせるかどうかの差なのよ」

 

「……言うのは簡単だろそれ、お前たちはその席にいるから」

 

 ヒーロー科の自分が言っても確かにそう聞こえてしまうだろうねと思いながら、彼女は一つの詩を呟いた。何処かで聞いたような、もしくは誰かの記憶の話だっただろうかと思い出しながら

 

「『二人の囚人が鉄格子の窓から外を眺めたとさ。一人は泥を見た。一人は星を見た。』心操、私が何故便利屋にと誘ったか覚えてるかしら、気に入ったからなのよ、貴方のその星を掴むという意思がしっかりと宿っているその目を」

 

「星を……俺が?」

 

「自覚がないとは言わせないわよ」

 

 分かってるんだからという感じの声に心操は自身の昼食を見つめ、考え込む。その様子を黙って見ていた他四人の内、麗日が

 

「もしかして、アレって心操くんを励ましてるとかなのかな」

 

「かもしれないな。少々言い方ややり方が不器用とは言えなくもないが」

 

「あはは、でもそれがバートリーさんらしいって僕は思うかな」

 

「懐かしいな、俺の時もあんな感じに発破かけられた」

 

 益々どんな状況で知り合ったのか気になるようなことをボソリと呟く焦凍、いつか聞きたいとは思うのだがコレは本人たちも妙に口が堅いので聞けずじまいの案件であり、モヤモヤとするのが本音だ。

 

「なぁ、バートリー、俺はその、伸ばしたら届くのか?」

 

「届かないなんてことは言わないわ。ただ簡単でもない、けれど雄英体育祭なら?」

 

「活躍できれば、って元からそのつもりだったと言えばそうなんだが」

 

 じゃあ答えは始めから出てるじゃないのとちょっと呆れ気味のレイミィの声に、心操は不思議と嫌な気分はせずに寧ろこうして普通に接してくれる彼女にありがたいと思い始めてもいた、いや、彼女だけじゃない。

 

「ならば俺達はライバルってことだな」

 

「お、そういう事なら負けないよ~」

 

「うん、よろしくね、心操くん」

 

「それは俺も混ざって良いのか?」

 

「良いんじゃないのか? まぁその、よろしく」

 

 ヒーロー科、ただそれだけで彼女たちを毛嫌いしてしまっていたがこうして話してみると気のいい人たちなんだなと心操は思いながら会話を楽しみ、その後もこうして席を一緒にすることが多くなったとか。

 

 そんな事がありつつも、時間は進み、それぞれがその日まで特訓を積み重ねる、それはもちろん

 

「明日及び明後日は体を休ませることにする。だから今日で仕上げられるところまで仕上げるぞ」

 

「はい!!」

 

「レイミィちゃんレイミィちゃん、2日連続で例のフラッシュバック来てるんですけど、流石に当日は大丈夫ですよね?」

 

「大丈夫だと思いたい」

 

 そして……その日、世間も注目する雄英体育祭当日になった。




次回はいよいよこの作品を書く理由の一つの場面です。

便利屋メモ
レイミィ・バートリーは読書感想文とかも苦手だったとかなんとか
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