雄英体育祭本番当日、その専用スタジアムのA組控え室にてレイミィ・バートリーは壁際のパイプ椅子に座り目をつぶって、自身がする選手宣誓(仮)を脳内で思い出して問題ないかを確認していた。
前日にも一応で通しているので忘れているということはないのだが、それはそれとして問題があるとすれば周りの反応だろう。何をどう見繕ってもこれは選手宣誓と言うよりも己がこういう風にしたいから楽しもうとエゴを押し付けているようなもの、しかもそれをヒーロー科の首席である自分がするってんだから最悪は炎上も覚悟しなくちゃならないかもしれないとボンヤリを考えている。
因みに緊張云々は彼女には存在しない、命が掛かってるならまだしもそうじゃない学園行事に緊張する理由がないというのが本音であり、寧ろ全力で楽しむ気満々である。
だがどうやら周りからはこの姿は緊張してないという風には見えなかったようで、近くに居た耳郎が彼女を見て
「お、レイミィも緊張してるん?」
「んなわけ無いわよ、寧ろこの選手宣誓でワンチャン炎上するかもとか考えるくらいには余裕よ」
「炎上は心配しすぎじゃないかしらね……」
人の闇は深いのよとニヒルな笑みで蛙吹に答えれば、触れちゃいけなかったかしらと心配そうな表情をされ慌てて、平気平気とレイミィは手を振りながら答える。
「そう言えば、コスチュームで出場できなくて残念だなぁ。折角、レイミィちゃんからのアドバイスで新調したのに!」
「公平を期すために着用不可なんだよ。それにしても本当に新調したんだな」
「……あぁ、そう言えばそんな話したわね。良かったじゃないの葉隠、これで活動しやすくなったのでしょ? 」
「うん! 私の髪の毛を使って作ったから透明なコスチュームの完成したって! あれ、じゃあデザインとか見せられないのでは?」
まぁそうだねとしか言いようのない事に場は笑いに包まれる。おかげで緊張がほぐれた者も居るようだがここで時計を見ていた天哉が、むっと反応したと同時に
「皆、準備はで出来てるか?! もうじき入場だ!」
「いよいよね、緑谷、いい加減に腹を括りなさい」
「う、うん」
「よっしゃ、やるぞー!」
天哉の言葉でそれぞれが席から立ち上がったり、身体を解しながら控え室を出ていく、その途中で焦凍が宣戦布告か、或いは彼を認めてるからこその発破かは分からないが
「緑谷、それにバートリー。悪ぃが負ける気はねぇからな」
「てめぇ、そこで俺を上げねぇ辺り舐めてるみてぇだな、あぁ?」
「言うまでもないってやつでしょうよ、来なさい。全力で楽しんであげるから」
「僕も、本気で天辺取るために特訓してきたんだ、負けないよ」
急な宣戦布告もとい宣言に更に盛り上がるA組はテンションそのままに入場口へと突き進んでいけば、段々と聴こえる観客の歓声と実況のプレゼント・マイクの声。
《どうせ、てめーらアレだろ、こいつらだろ!?
「なんか物凄い持ち上げられ方してるんだけど、止めて欲しいわね。私の選手宣誓の炎上率が跳ね上がるんだけど」
「マズいよ、レイミィちゃんの眉間に物凄く皺が寄り始めてる!」
確かに雄英体育祭はヒーローのスカウトの場としての側面が非常に強いことは理解している。しているが彼女は今日までろくすっぽ体感することが出来なかった学園行事での青春と言うものを楽しみたい、だと言うのに開幕からコレではギスギスするだけだろいい加減にしろと纏う雰囲気からテンションが下がり始めていることに気付き、ざわつき始めるA組女子。
即座にフォローに入ったのは蛙吹、彼女は入場ギリギリのところだがとレイミィの隣にスルッと向かってから
「大丈夫だわ。貴女の選手宣誓は一度読んだけど、心に響くのは確かだから、そこにレイミィちゃんの気持ちをたくさん詰め込んであげなさい」
「フフッ、励ましてくれてるの? ありがと、そうね、難しく考えすぎたわ」
成果があったようで皺が寄っていた眉間は元通りになり、勝ち気な笑みを浮かべたままゲートをA組と共にゲートを潜れば、出迎えたのは大勢の歓声と視線、そして
《ヒーロー科!! 一年!! A組だろぉぉ!!??》
「わああああ、人がすんごい……」
「胸を張りなさい、プロになったらしょっちゅうな視線になるんだから」
「その通りだ緑谷くん、大人数に見られてる中で最大のパフォーマンスを出すことが出来るか。これもまたヒーローとしての素養を身につける一環だ」
A組に続き、B組、普通科、サポート科、経営科も続々と入場してくるのだがプレゼント・マイクの言い方がオマケとも言える感じに一部生徒からは不平を感じたのだろう、そんな視線にレイミィは気付かれないように溜息を吐き出してから、チラッと見れば
(あ、心操だ)
「……あっ」
どうやら向こうも彼女に気付いたようなのでとレイミィが軽く手を上げれば、心操は少し迷ってから手を上げかえし、それを目撃した彼のクラスメイトから誂われるのを眺めて笑う。因みにだが普通科からヒーロー科へはまだ屈折した感情を持ってるものが多いが、レイミィ個人となると割といい感情を持たれている。
やはりと言うべきか、あのファーストコンタクトのインパクトが強かったようで普通科としても彼女なら信頼しても良いんじゃないかとなっていると同時に心操が彼女を気にかけていることをちょくちょく話のネタにしては心操も巻き込んで盛り上がってるとかなんとか。
「選手宣誓!!」
こうして入場が終わったタイミングでピシャン! とムチが撓る音とともに現れたのはミッドナイト、高校に18禁ヒーローが居て良いのかと誰もが思うが今年から居るわけではないので問題ないのだろう。
因みに校長こと、根津は三年のステージで長話をしている。彼の長話は雄英では語り継がれるほどに長い、レイミィとしては是非とも自分たちの時は止めて欲しいと願っている。
「選手代表!! 1-A、レイミィ・バートリー!!」
「さて、行ってくるわ」
「いってらー」
軽いわねぇと思いつつ向かうのだが、その途中で彼女がヒーロー科首席ということを誰かが言い、それに対して対抗心にも似た声に彼女はやれやれと思いながら台に上がり、ミッドナイトからマイクを受け取り一つ呼吸。
周りを見る、探るまでもなく視線は全て自分に注がれているという状況に、流石の彼女もこの人数は初体験ねと笑みを浮かべてから、ミッドナイトの方を一度視線を送り、頷いたのを確認してから
「ふぅ。私は今日まで青春と言うものを体験したこと無いわ……だから、このままヒーロー科以外が蔑ろにされる雄英体育祭を始めるのは嫌よ」
シンっと彼女の一言目で場は静まり返った。誰一人、言葉を発することも出来ず、ただ少女へ視線を送ることしか出来なくなる。そのまま顔を上げたレイミィは更に続ける、これは選手宣誓なんて言うものではない。
「そんな、ただヒーロー科だけが持ち上げられるような祭りは私は嫌よ。例え雄英体育祭がヒーローの卵をスカウトする下見を重視してるとしても、それが本質だとしても、そんな祭りは嫌いよ!」
「あいつ……」
バサッと羽根を軽く動かす。思考を便利屋所長にスイッチを入れればマイクを持つ手に自然と力が入り、不敵な笑みが浮かび、声に熱を持ち始める。
「私には、体験してみたいことがあるわ! 平凡で、他の人からすれば大した事ない体験だけど……これだけは決して譲れない青春が!」
「スゲーよ、選手宣誓を真っ向からぶっ壊してるのに場を完璧に支配しちまった」
「うん、なんだろ、これがレイミィちゃんの本気」
因みにコレを観客席から見ている被身子と圧紘は物凄いカリスマの無駄遣いっぷりにはっちゃけてるなぁと、彼女が本気で楽しんでいるということを嬉しく思ってたりしている。
「友と競い合いながら種目を楽しみ、努力が相応に報われ、例え辛くとも友人と慰めあって……! 苦しかったり悲しかったりしようとも最後には皆が笑顔になれるような! そんな青春の祭りが好きなの!」
一気に言葉が大きくなる、熱がさらに強くなる、彼女の瞳に、挙動一つに全員が目を逸らせない、彼女の言葉に誰もが耳を向ける。これは選手宣誓なのだろうかという疑問は遥か彼方に消え去った。
これをヒーロー科首席が言ってるはずなのに何も嫌味に聞こえない、これはただ純粋な少女の叫びだと皆が自然と気付く。
「誰が何と言おうと、何度だって言い続けるわ! 雄英体育祭は決してヒーロー科だけが持ち上げられるような祭りじゃないと、私たち雄英生徒の皆で作り上げる青春の1ページだと!!」
バッと右人指を天高く掲げる、さぁ、締めの言葉を唱えよう。この凝り固まってしまった雄英体育祭の在り方を、この一言でぶち壊し、新たな青春イベントに塗り替えてしまおう。
「さぁ、始めるわよ! 今日までの固定概念をぶっ壊して、私たちの雄英体育祭、私たちの青春の祭りを!!!!」
一年A組、レイミィ・バートリー。やりきった、最後に自身の名を告げ締めた彼女の表情はその一言に集約していた。もはや何の未練もない、このまま退場させられても許せてしまうほどの表情、そして……
一つ、二つ、と段々と拍手が起これば、連鎖し観客全員の大喝采と拍手、それだけじゃない、雄英生徒たちからも拍手と同時に
「おお!! なんかすげーなおい!」
「選手宣誓じゃなかったけど、あんな事言われたらいがみ合うのも馬鹿らしくなってくるっていうか」
「そりゃまぁ、いきなりこの感情は捨てられないけど、そうだね。楽しまなくちゃ損だよね」
普通科もサポート科も、経営科も、それぞれがヒーロー科へ持っていた屈折した感情が全てではないが少しは消え、彼らを見る目が柔らかくなったのを感じることが出来た。
それはB組もだった。もっともA組をライバル視してるのは【物間 寧人】が基本であり他の生徒はそうでもないのだが、決して無いわけではなかった。
けれど今のを聞いて彼らもまたなにか感じるものがあったのだろう、素直に拍手を送り、歓声も上がる。上手くは言えないが胸に熱いものが宿ったようだと、因みに物間が【拳藤 一佳】の足元に転がっているのは彼がレイミィの宣誓を聞き終えてから彼女を煽ろうとしたのを先行で潰された結果である。
「素晴らしい、素晴らしいわ!!」
「うぉ、ど、どうも。ふぅ、えっと、戻っていいのよね」
「えぇ、戻って頂戴、素晴らしい選手宣誓をありがとう」
えらく感動しているミッドナイトに挨拶をしてから、選手宣誓だったかは審議に掛けたほうが良いと思いますと軽口を言いながら、そして戻る途中で選手宣誓に感動した生徒達に揉みくちゃにされながらA組に到着すればこちらでもまた揉みくちゃにされてから
「すっごかったなレイミィちゃん!!!!」
「なんかこう、場を支配するってああいうやり方もあるんだって勉強になったと言うか、うん、凄かったよ」
麗日と出久が言うように大半のクラスメイトはそんなふうに感動するのだが、そこはレイミィ・バートリーと言う少女に慣れているA組、耳郎が先程のは確かに凄かったんだけどと感想を置いてから
「何と言うか、途中から楽しくなってテンション上がり続けてたでしょレイミィ」
「分かっちゃう? いや、フフッ、やっぱりああやって堂々と好きなことを言えるって気持ちがいいのよ」
「いやまぁ否定はしないけど、多分この後ずっと皆あのテンションだよ?」
指を指した方を見れば尋常じゃない盛り上がりでミッドナイトの次の言葉を待つ生徒達。それを見てふむ、とレイミィは考える素振りを見せた後にそれはもう輝かしい笑顔でこう告げる。
「別にいいんじゃない? 折角のお祭りを楽しむには丁度いいとすら思うわ」
「ハハッ、やっぱりレイミィって面白いやつだよね。でも、嫌いじゃないよ」
「ケロ、私もギスギスしてたさっきの雰囲気よりも良いと思うわ」
「うんうん、でも勝負は勝負、手は抜かないからね~!」
もし葉隠の言葉をレイミィの選手宣誓前に言ったら、きっと何言ってるんだこいつという空気になったかもしれない、けれど今はこっちもやるからには負けるつもりはないからと言う彼女が望んだ爽やかな青春という感じの声と雰囲気に、満足気に頷いていると
「それじゃあ早速、第一種目行きましょう!」
「雄英って何でも早速だよね」
言われ考えてみれば確かに早速という言葉が飛び交う頻度が多いことに気付くレイミィ、急にツボに入り蛙吹に背中を擦ってもらう事態に。
「いわゆる予選よ! さっきの宣誓からこんな事言うのはちょっとあれかもしれないけど毎年ここで多くの者が
「ふぅ、ふぅ、ま、まぁそこは仕方ないわよね、一応は体育祭だし」
「無理しないでレイミィちゃん、第一種目を前に倒れそうよ」
「さて、運命の第一種目!! 今年は……これ!」
モニターに出された種目名、それは
「障害物競走……」
この人数が一度に!? レイミィ・バートリーはその事に驚くが雄英高校はそういう高校なのである。
正直、この選手宣誓が書きたくてこの小説始めたまである。因みに分かる人には分かると思いますがブルアカのエデン条約編のヒフミ宣言もといブルアカ宣言を元にした改変です。
と言うか章を変えてから雄英体育祭に入るのに6話は多すぎでは……?
便利屋メモ
レイミィ・バートリーとしてはブーイングされるだろうなと思ってたら意外とウケて、ちょっと照れくさくなってる。