便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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後日談だが一日の終りではない。


No.4『入試の後日談』

 薄暗い一室、そこに集まる複数人の大人、彼らは皆、書類や部屋に映し出されている複数のモニターを見ては言葉を交わしているここは雄英高校。集まっている大人たちは教員でありプロヒーローの面々である。

 

 今こうして集まっているのは入試試験の結果を確認するためである。少し時間が経ち、映し出されていた映像がランキング表にパッと切り替わってから。

 

「実技総合成績、出ました」

 

 表示されたランキング表にズラッと書かれる受験者の名前と獲得ポイントに顔写真の映像。職員たちはそれを見て一人ひとりの実技試験の映像を元に盛り上がりつつ、評価をしていく。

 

「今年の首席の男子、爆豪勝己ってやつ、凄いな。撃破P78、救助Pが10の88P、ここ数年じゃトップクラスじゃないか?」

 

「成績だけで見りゃそうだが、この少年も0Pロボを一撃でぶっ飛ばしちまったじゃねぇか! 思わずYEAH! って言っちゃったしな―」

 

 盛り上がっていると部屋の明かりが付き、続けて扉が開かれ、入ってきたのは長い黒髪に無精髭のくたびれた姿の男性とその人物の肩に乗るスーツを来ているネズミのような外見の動物。盛り上がっていた職員たちも二人が入ってきたのを確認すると一旦静かになったのだが、ネズミの方がぴょいとモニター前の教卓に乗ってから申し訳無さそうな声で。

 

「あぁ、盛り上がってたのに水を指してしまったようだね」

 

「校長、今までどこに?」

 

 一人の職員の質問に校長と呼ばれたネズミ【根津】はこれだよとリモコンを操作すれば、ランキング表に変動が起きる。一位の部分に欄が増えて一人の名前が追加、それを見た、入試試験での司会進行を担当していた【プレゼント・マイク】が驚いた感じに口を開いた。

 

「おいおいマジか。あんな重いハンデを課されてたってのに首席と同着かよ!?」

 

「確か救助Pは30を上限にしてヴィランロボは一律で1Pって話でしたよね。それで撃破Pが58、救助P30、つまり単独でしかも他にも受験生が居る中で58体倒したって事だから……」

 

 末恐ろしいわね。感心するように呟かれた女性職員の言葉にほぼ全員が頷く。モニターに写っている映像には制限時間いっぱいまで暴れまわる一人の真紅の少女、最後に0Pロボを撃破したところで無精髭の男【相澤 消太】は片手に持った資料に目を落とす。

 

 そこに書かれているのはその受験生【レイミィ・バートリー】について、今日までの経歴に個性、そして雄英高校に受験した理由までもが書かれており、一度は読んでる彼が思うのは。

 

(便利屋【チェイテ】所長にして、協会から要注意人物として上げられている人物。こいつの経歴を考えれば、この成績も不思議じゃないだろう)

 

 口には出さずにそう考えながら、だがそれはそれとして彼の中では警戒がないわけではなかった。便利屋【チェイテ】、聞く限りでは犯罪に手を染めているということはないそうなのだが、依頼達成のために白寄りとは言えグレーなことをしているとも噂されている会社。

 

 従業員は彼女含めて5人と少数ながらも個性の使用を許可され、民間からの様々な依頼から始まり、件数は多くないとは言え公安や警察からの依頼も相応の報酬であれば遂行するという集団であり、今の社会を揺らがしかねない存在。故にヒーロー側からは【公認ヴィジランテ集団】とあまりいい目では見られていない。

 

 事情を聞いているとは言えそんな事務所の所長が雄英高校のヒーロー科に入ってくるとなれば警戒するなという方が難しい話だろう。最も一人の職員がそう思ったところで結果を覆したりなどは出来ないのでどうしようもない話でもあり、相澤もそれは理解しているので小さくため息を吐き出すに留め、とりあえず業務を終わらせることに集中し、終わったところで。

 

「相澤君、少し良いかな?」

 

「何でしょうか?」

 

 校長からの唐突な指名に疑問に思う相澤、呼ばれるようなことはしてないのは分かっているのであるとすれば何か突然の仕事の頼みだろうかと思いながら話を聞いてみる。

 

「来週なんだけど、便利屋チェイテに向かおうと思ってね。その時に同行してほしいんだ」

 

「俺がですか? 構いませんが……」

 

 校長からの頼みとなると断れないので頷きはしつつも、なぜ自分なのだろうかと疑問には思う相澤。それを察してか、或いは顔に出ていたのか根津はふふっと意味深に笑ってからこう告げる。

 

「君も彼女になにか聞きたいことがあるんだろ?」

 

「……まぁ、無いと言えば嘘になりますね」

 

「なら、その時に聞くといいさ。けどこれだけは言えるよ、彼女は君が警戒するような存在じゃないとね」

 

 まるで会ったことがあり、会話もしたことがあるという言葉に相澤は根津に視線を向けるが、そこには根津の姿はなく、やれやれという感じに彼は資料に再度目を落とす。確かに根津の言う通り彼には彼女に聞きたいことがある。

 

 どうして、茨の道とも言える便利屋をやっているのか。この疑問も来週には晴れるのだろうかと、そしてそれが自分が納得できる理由なのだろうかと……

 

「ただいま~、ふぅ、流石に疲れたわね」

 

 なんて思われてることは知る由もないレイミィ・バートリーが事務所に帰れば、どうやら全員揃っていたらしく、おかえりなさいと言う返事が返ってきて満足気に笑みを浮かべつつ、自身のビジネスチェアへと座り込み、圧紘から出されたコーヒーを感謝を述べつつ飲んで、ホッと息を吐き出す。

 

「それで入試はどうだったのかな、所長」

 

「筆記も実技も楽勝ね。けどまぁ余裕の首席か、と言われるとちょっと自信がないわ」

 

 実技試験の時を思い出すかのように目を細めながら呟いた言葉に被身子と仁が驚いたように目を見開き食らいついた。

 

「え、もしかしてレイミィちゃんに食らいついてきた子がいるんですか?!」

 

「素直に驚愕だなおい」

 

 二人にしてみれば、プロが相手ならばまだしも実戦経験が全くない素人しかいないと思われていた入試にそんな逸材が居るとは考えていなかったらしい。と同時にむ? となったのは血染、彼女がそこまで言うということはだと少ない情報を整理して出てきた結論に、いや、まさかなと思いながらも聞いてみる。

 

「バートリー、まさかだとは思うがあの悪癖を抑えられなかったとかはないよな?」

 

 この言葉が飛んできた瞬間、レイミィはコーヒーを飲んで何のことだかという雰囲気を醸し出そうとするも、目は若干泳いでおり血染もそれには気付き、圧が込められる視線。

 

 少しの無言の間が空いてから、彼女は圧に耐えられなくなった感じの表情に変え、申し訳ないという雰囲気で血染に顔を向けて

 

「えぇ、まぁ、ちょっと色々な記憶を覗いちゃったわよ」

 

「それもだが、それではない」

 

 スッと顔を血染から逸らすレイミィ、逃がすかとばかりに先程よりも強い圧を込めた視線を送る血染。彼女もこの件ではないだろうなとは勿論思っているが淡い期待で発言したらしいが返ってきたのは無慈悲な切り捨て。

 

 どうする、どうするか考えるのよレイミィ。冷や汗をかきながら仕事でもないのに頭をフル回転させる姿に、観戦をしていた仁がポツリと。

 

「あれで黙秘のつもりなんだろうかお嬢。どう見ても白状してるが」

 

「レイミィちゃんって、わたしたちの前だと隠し事下手っぴですよね~」

 

「でもまぁ年頃の女の子って感じでおじさんは良いと思うけどね?」

 

 外野三人の野次に反応したいレイミィだったが、未だ視線を飛ばしてくる血染がそれを許さない。もういっそこのまま黙秘で通らないかと思いたくもなるが、絶対に許されないとも思っている、つまりは言い訳を考えているが上手く纏まらない状況であり、だが纏まらないがこのままでは埒が明かないと腹を決めた彼女はゆっくりと口を開く。

 

「ふぅ、そうね。まぁ、うん、ね?」

 

「試験会場にレイミィちゃんが気に入るくらいにカアイイ子が居たんですよね?」

 

 とりあえず言葉にしてから言い訳を組み立てようとしたレイミィへ被身子からの質問が突き刺さる。表情は彼女の特徴とも言える笑顔であり、質問という体は取っているが言外にいた事を分かってるというのが込められている。

 

 ここで一つ、レイミィ・バートリーは被身子のことを親友と思うくらいには気に入っている。ともすれば彼女からのそんな質問に、さっきまで言い訳を並べようとか考えていたはずの彼女はつい笑顔になってしまい、それを確認しゆっくりと立ち上がる血染、これから起こることを理解して心の中で冥福を祈る仁と被見子。

 

「あ、やっぱ分かっちゃう?」

 

「そうか、歯を食いしばれ」

 

 え? なんて声を出す間もなく振り下ろされた拳骨と鈍い打撃音、一拍置いてから事務所に響いたのは少女の絶叫、ここ周りに住宅とか無くて本当に良かったなぁと圧紘は一人想う。

 

「いったぁぁぁぁぁぁい!!!???な、い、いきなり暴力とかどういう神経してるのよ……あぁ、はい」

 

 涙目のまま反論をしようとしたレイミィだったが、割と本気で怒ってる様子の血染を見れば、段々とが尻すぼみになっていき、最後には目を逸らし、これから説教をされる子供のような姿になってしまう。

 

「俺と圧紘はお前に耳にタコが出来るくらいには言ったはずだよな? 記憶の方は仕方がないとしてもそっちの悪癖は早急に治せって」

 

「はい、いやでも今日まではずっと抑えられてたのよ」

 

「出来てたんなら今日も抑えろ」

 

「うぐっ、それを言われるとその通りなのだけど……」

 

 事実、レイミィのこの悪癖と言うべきか、ちょっと特殊な好みとも言うべきものが判明した時から血染と圧紘はいつか問題になる前に矯正するべきだと思い、彼女に言い聞かせていた。これがもし個性から来る衝動ならば厳しくは言わなかったが、そうではなく彼女個人の物だと言うことも分かっているので尚の事である。

 

 己が興味を持ち、気に入った人物から自身に屈折した感情をぶつけられるように振る舞う悪癖。普段は鳴りを潜めているのか決して現れないそれは、爆豪勝己のような存在を前にすると浮き彫りになってしまう。ただ、血染達も言い聞かせるだけではなく、カウンセラーに診てもらうこともしたのだが……

 

「そこまでにしておこう血染。所長だって分かってることだし、それにカウンセラーさんも言ってただろ? これは幼少期の出来事が原因だから抑えることが出来ても治せないだろうって」

 

 圧紘の言葉が、担当したカウンセラーの言葉。彼女のあまりにショッキングな幼少期での出来事に直面した結果生まれてしまったモノ、抑えられても治せない、まるで彼女の個性の吸血衝動と同じように。説教をしている血染もカウンセラーのそれは聞いているので、頭を掻き説教を止めてから確認するように

 

「……分かってるんだな?」

 

「えぇ、ごめんなさい。貴方達の気持ちも理解できてるし、実際これが良くない癖なのもね……駄目ね、所長だと言うのに」

 

「はぁ、焦るなよバートリー。学校での暮らしが始まれば変わるだろうからな」

 

 少し今回は言いすぎたかもしれん。血染もそう思ったのだろう、本気で凹んで反省しているレイミィの頭にそっと手を乗せ、不器用ながらも優しく撫でながら励ましの言葉をかけ、レイミィもまたそれを跳ね除けたりせずに身を委ねる場面を見せられた外野三人は誰もが和んでいるという表情のまま

 

「やっぱり、親ですよねあれ」

 

「まぁ、これだけ見たら親だよな。保護者でも良いかもしれんが」

 

「でも血染は否定するんだよねぇ」

 

 好き勝手に感想を述べ始める三人に、今朝も似たようなこと言われてたなと思い出しため息を吐き出す血染だったが、ふと唐突にレイミィによって手を止められ、どうしたのかと見れば、珍しく顔を若干赤くさせている彼女の姿。

 

「も、もう良いわ。流石にそこまで子供のつもりはないから」

 

「ふん、貴様も照れるんだな」

 

「うるさいわよ。ほら、今日はもう事後処理して終わりにしましょ!」

 

 恥じらいを振り払うように声を上げながら手を叩き、社員たちも指示に従い今日こなした依頼の報告を上げつつ整理、翌日以降の動きも現時点でできる程度に確認し、便利屋としては業務終了を告げる。とは言っても彼らは全員この事務所ビルに住んでいる身なので、業務終了の宣言と同時に空気も日常のそれへと変わり、このタイミングで近くに居た圧紘へレイミィが

 

「ところで、今日の夕食は何かしら?」

 

「材料が安かったから、青椒肉絲だよ」

 

 青椒肉絲。何気なく、それでいて今日の最後の楽しみを聴いたのに出てきたその単語にスンッと彼女から表情が消えた。思い出されるは過去、まだまだ便利屋家業もそこまで軌道に乗ってなかった時期の自分たち、その時に出た圧紘手製の夕食。

 

「……『特製*1』じゃないわよね?」

 

「ハハハッ、あの時の事務所の経営状態じゃないから大丈夫さ。あれ、被見子ちゃんも仁くんも不安な表情しなくても平気だってば」

 

「俺は、嫌いじゃないんだがなあれ」

 

「惨めなのは、辛いんです」

 

「貧乏は本当に辛いな。あぁ、辛い」

 

 当時を思うと、私達って稼げるようになったのね。遠い目をしたレイミィの一言に全員が笑いつつ二階の住居スペースに戻ってから全員が分担して家事を行ういつもの光景。夕食に舌鼓を打ち、被見子とお風呂を楽しみ、家族のような団欒として仕事以外の雑談を楽しみ、レイミィが自室に戻ったのは21時。

 

 今日も疲れたわと言いつつも寝間着姿の彼女が足を運ぶのはベッドではなく様々な書類や本が収められてたり積まれていたりしている机。それに備え付けられている座り心地を重視された若干高めの椅子に座ってから、肩を軽く回しペン立てに入れてあったシャーペンを取り出してノートと本を一冊を開き勉強を始める。

 

 所長として、学生として、そのどちらも手が抜けない彼女は毎日のように21時以降から短くとも一時間、長いと二時間ほど勉強をすることにしている。確かに個性を利用しての知識の蓄えは可能だが、だからといってそれに胡座をかくつもりはなく、実際に読み書きを挟むことで確実なものにすることにしている。

 

 真剣な表情で本を読み、ノートに纏め、また次のページを捲る音が支配する部屋。他に存在する音は時計の針が進む音と外から微かに聞こえる虫の声、最もこの2つの音は集中しているレイミィの耳には入っておらず、彼女の耳にこれが届くとなるとそれは勉強を終える時となるほどに一度集中したら反応がない筈だったが、今日は突然、ハッと何かを思い出すかのように顔を上げた。

 

 次に慌てるように時計を見るが時刻は既に22時回ろうとしていたのを見て、表情が苦いものへと変わる。どうしたかと言えば

 

「しまった。今日見た記憶について向こうに伝えることあったんだった……」

 

 声に出してしまうくらいには、やらかしたなこれと思っている彼女だったが、部屋に置かれたアンティーク調のダイヤル式電話が鳴り響き、もしかしたらと表情が戻ってから受話器を取れば聴こえてきた声は男性のだった。

 

《やぁお嬢様。こんな夜分にごめんね、ちょっと声が聴きたくなってさ》

 

「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃないの色男」

 

 望んだものだった電話の主に思わず本気で嬉しそうな声で向こうの軽口に答えれば、向こうは驚いたようになにか良い事でもあったのかと聴いてくる。

 

「えぇまぁね。それにしても丁度良かったわ、私も貴方に話したいことがあったのよ【ホークス】」

 

 ニヤリと笑みを浮かべながら告げた言葉に。電話先の主、プロヒーロー【ホークス】はこれから胃が痛むかもしれないと言う謎の直感を拾い苦笑するのであった。

*1
ピーマンのみの物を指す




この作品の胃痛枠の登場です。

便利屋メモ
【圧紘の特製青椒肉絲】
ピーマンのみで作られた青椒肉絲、もはや青椒肉絲とは言えないがお金がない時は言えるらしい(元ネタ カウボーイビバップ)
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