ハムっと屋台で買ったたこ焼きを一つ頬張る。やはり雄英高校の体育祭だからだろう、屋台一つとっても味は何処も最高の一言であり、このたこ焼きも店主は態々大阪からここまで出しに来たと言うだけありカリカリのふわふわ、タコもしっかり大きめの物が入っていると大満足の一品に仕上がっている。
惜しむらくは彼女、渡我被身子が一緒に食べたかった相手がエンデヴァーに呼び出されてしまったことだろう。そこまで考えて被身子はやっぱりと頬張ったたこ焼きを飲み込んでから思ったことを口にした。
「私も着いていくべきだったんじゃないですかね」
「多分、エンデヴァーから帰れって言われるだけだと思うよ、被身子ちゃん」
圧紘の言葉で容易に想像できてしまうその光景が目に浮かび、ムムムとなる被身子。二人は便利屋チェイテの秘書と部長であり現在は雄英体育祭の臨時警備スタッフという体で根津から受けた依頼を遂行中である。
とは言っても例年の五倍に警備を増やしたというのは伊達ではなく、プロヒーローも全国から呼び込んだ結果、便利屋の二人は割りかし暇をしていた、それこそ競技に出ている所長であるレイミィを被身子が全力で応援できるほどには。
「それにしても凄い人ですよね。ヒーローもそこかしこに居ますし」
「スカウト目的が大半だろうけどね。雄英であれば何処も喉から手が出る程に優秀なのは間違いないから」
見渡し目に入る範囲でもメモを片手に悩んでる姿や、午前の競技内容から誰某をウチに呼びたいなどの声が聞こえるのだが中には実力や個性で選ぶのではなく、ビジュアルや人気が出そうと言う理由もちらほらと聞こえることに被身子は眉をひそめながら。
「なんか、血染くんが一度は今の贋作を粛清しようと考えてたのがちょっと理解できちゃいそうです。見た目とかってヒーロー活動に重要って思えないんですけど」
「今のヒーローが昔みたいな概念じゃなくて、職業になってしまった弊害だろうね。飽和してるからなおのこと生き残るにはその辺りも気にしないといけなくなってしまったって事だろうし」
とは言いつつも圧紘自身も、それはそれであまりよろしくない流れではあると思うけどとは続ける。無論、概念としてのヒーロー、例えば特撮ドラマなどではデザインがカッコいいから好きというのも存在した、だがそれは確立した強さと精神性が先にあってからの話であり、能力などを度外視して初めからそこしか見ずにスカウトするというのはヒーローじゃなくて良いんじゃないとは思わなくはない。
もし血染がレイミィに拾われずに今日まで居たら確実に粛清の嵐だっただろうなぁと別の場所にて依頼を遂行している副所長を思い出して圧紘は沁み沁みと思いつつ、周囲や目に見える範囲で怪しい動きをしてる人物は居ないかをしっかりと見ているのだが、それらしきものは全くと行っていいほどに存在せず、だからこそ逆に唸ってしまい
「どうしたんですか、急に唸って」
「これだけ人が集まってて、あまりに平和すぎるなって思ってね。確かに右見ても左見てもプロヒーローが居て、警備スタッフが居ての状況とは言え、例の敵連合の影が一つもないってのはちょっと怪しい気がするんだよね」
「考えすぎじゃないです? そもそも現地に来なくたってテレビで見れちゃいますし、潜り込んでテロしますって言うのも情報が欲しい相手からすれば逆に悪手だとトガは思いますよ?」
ふむと彼女の意見に圧紘は考える。確かに、雄英生徒の個性を知りたいだけならば現地に来る必要もなく、テロで体育祭を台無しにするというのも無くはないだろうがそれを行った場合のメリットというのはあまりに少ない。
ともすれば確かに自分の考えすぎかもしれないと思考をリセットする。どうにもUSJでの敵連合襲撃でレイミィが無理をしたのを見てしまった所為で神経質になっているのかもしれないと自身の思ったよりも過保護な思考に苦笑を漏らせば、それを見たのか、被身子が特徴的な笑みを浮かべ
「それよりも、今日は雄英体育祭を楽しんじゃいましょう!」
「いや、仕事はキチンとするようにって所長に言われてるでしょ、被身子ちゃん」
「でも暇ですよね?」
真顔での即答にいやまぁ、そうなんだけどさとしか返せない。上記でも書いたように絶賛、この二人は暇なのだ、それこそ血染と仁の二人は今も保須市を隈無く動き回っているのに対して自分たちは担当区域をブラブラとパトロールしながら、雄英体育祭を楽しんでるということに申し訳ないと思うほどには。
もっとも、思ってるのは圧紘だけであり被身子は全くと良いほど感じてない。なんだったら二人へのお土産話とかになりそうなものとかもっと起きませんかねとか思いつつパンフレットで次の競技の確認すらしている、彼女は基本的に自由な気質なのだ。
「次は……レクリエーションみたいですね。全員自由参加みたいですけど、レイミィちゃんはやるんでしょうか」
「最終種目前に体力は使いたくないって普通は考えるだろうけど、所長だからなぁ」
記憶に今も残る、あの選手宣誓をした彼女のことなのでそんな事を気にせずにレクリエーションに参加しても不思議ではない。午前の部の競技二つ見ても全力で楽しむことだけを考えているという姿を見れば、不参加なのは勿体ないとか言ってそうな姿を想像できて思わず圧紘は笑ってしまう。
「そう言えばバートリーさん、毎年だけど午後の始まりにレクリエーションがあるらしいけど、参加するの?」
「参加しない理由を提示して頂戴? 不参加なんて勿体ないじゃないの」
「まぁ、だろうな」
なお、約十分ほど前に轟夫妻との会話を終え、待機場所へ戻る道中でそのレクリエーションの話題になっており、全員の前で圧紘が想像した通りのセリフを吐いていたとか。寧ろそんなのがあるなら速く教えておきなさいととすら出久に言い、彼を困らせてるとは二人も知らない。
さて、そろそろ午後の部も始まるし自分たちも警備の仕事に戻らないとなと考えている最中、ふと視界に入った大柄の男性、もといエンデヴァーを発見。どうやらレイミィとの話も無事に終わったようで良かったと圧紘は安堵したが、その隣りにいる女性を見て驚愕することに。
「あ、あれエンデヴァーと……轟くんのお母さんでは?」
「へ? あ、本当ですね。あれでもまだ入院中だったんじゃ?」
「その筈だけど、もうそこまで回復してたってことじゃないかな」
でも間違いなく所長はエンデヴァーにどうして連れてきたってキレたんだろうねと思いつつ、けれど遠目とは言え無理をしているという感じでもない冷の姿に二人も良かった良かったと胸を撫で下ろす。
轟家の母親のことは勿論ながら便利屋全員も知っているし、その治療のためにレイミィが毎日、彼女が入院している病院まで足を運んでいたということも。それも依頼でどんなに遅くなろうとも必ず出向いてたことに彼らは冷へ何か特別なものを感じているんだろうなとも気付いていた。
「あの様子なら、所長も嬉しいんじゃないかな」
「でもでも、レイミィちゃんは冷さんを前にするとすっごく緊張しちゃうんですよね、カアイイですよね」
二ヘラとまた彼女特有の笑顔で語る被身子だがその心の奥底ではちょっと冷さんが羨ましいとかも思ってる部分はある。レイミィが緊張しながらも相対するということは彼女の素を特別長い付き合いがなくても引き出せてしまうということ、自分だって中学時代とか便利屋を初めてからやっと少しずつ引き出したものをあっさりと全部開帳されたというのは悔しいし羨ましいと。
そうは思うが、レイミィが冷に向けてるのが母親へのそれだとも分かっているので割り切ってはいる。だからこそカアイイと評価する余裕があるし、茶化すことだって出来ている、もっとも茶化した場合は即刻開戦になるのでそちらは滅多にやったりはしないが。
「(まあそれも照れ隠しとかだとは思うんですけど~っと)なっ……!!」
なんてことを考えていたら昼休みが終わり、プレゼント・マイクが最終種目前にレクリエーションをやるぜ! という内容の軽快な実況を聞き、視界をグラウンドの方に戻した被身子は驚愕した。
ついでにプレゼント・マイクも困惑しているその視線の先には何故か『チアガール衣装』のA組女子の姿、ほぼ全員が死んだ顔をしてる中、レイミィは堂々としており寧ろそんな彼女たちを見て
「え、分かってて峰田と上鳴の話に乗ったんじゃないの貴方達」
「わ、分かってたなら教えて下さいませ!! 騙しましたわね、峰田さん、上鳴さん!!!」
「まぁ良いじゃない、どっちでも。チアガール衣装を着る機会なんて滅多にあるわけじゃないんだから、楽しみましょ?」
「駄目だよヤオモモ、今のレイミィにブレーキなんて無いんだからこうなるって分かってたじゃん……」
という風な会話が繰り広げられているが被身子と圧紘からの距離だと微妙に聞こえず、もっと言えば被身子に関してはそれどころではなかった。チアガール姿のレイミィとかあまりにレア過ぎる光景に彼女の語彙力はほぼ壊滅、辛うじて残っている部分だけを動員して出された声は
「か、かかか、カアイイ!!! カアイイ!!!」
「はいはい、落ち着こうね、被身子ちゃん。顔がすごいことになってるし、言葉がカアイイの四文字だけしか出てきてないから」
あまりに強すぎる衝撃に被身子のテンションも暴走。圧紘の身体を右手だけでガクガクと揺らしながら空いてる左指でレイミィを指を差しひたすらにカアイイを連呼するだけの機械と化す。最早このままだと依頼どころではなくなってしまうのは困るのでと落ち着くように伝えるが、興奮が収まる様子はなく、続けてできてきた言葉は
「どうしてこういう時にカメラが手元にないんです!!」
「仕事で来てるからだね」
「うぅ、スマホの写真で我慢するしか無いのですか……!!!」
そこまで悔しがることなのかなぁと思うも被身子としてはそうなんだろうなと既の所で言葉を飲み込んで、グラウンドを見てみればミッドナイトが現れ、それに伴ってプレゼント・マイクが最終種目は一対一のガチバトルだということが伝えられる。
一対一、ともなればレイミィの独壇場とは先ずいかない、それどころか相手によっては苦戦ないし敗北だってあり得る形式に圧紘はまだ名前が入っていないモニターのトーナメント表を真剣な眼差しで見つめるレイミィの様子に
「所長にとって不利な戦いが殆どだろうね」
「エヘヘ、大満足ですって一対一? あ~、確かにレイミィちゃんは不得手の形式ですね。特に焦凍くんとか、あの手から爆発させてる男の子とかは相性最悪ですよ」
どーんとかバーンとかされたらレイミィちゃんどうしようもないですしと何とも雑な言い方をする被身子だが間違っているわけではない。これがもし二人とも実力がレイミィと比べて圧倒的に下とかならば問題なく勝てるだろう、けれど焦凍は言うまでもなく、エンデヴァーのシゴキを耐え、個性も十分に操れるほどの実力を持ち、勝己も持ち前のセンスと今日までの努力でレイミィに食らいつけるほどのポテンシャルを持つ少年。
何よりも、出久もまた今日までの特訓で実力をつけており、その過程でレイミィとの特訓もしているということは彼女の癖なども【理解】しており彼女とぶつかったとしても圧倒されることはないだろう。けれど、だからってレイミィに勝ち目がないのかと言われれば、それはないと圧紘も被身子も断言できる。
「それに所長、もう楽しみだって顔してるからただで負けるつもりはないんだろうね」
「寧ろ決勝まで行くつもり満々ですよあれ、なんだったら優勝すらもぎ取る気満々ですよ」
言うまでもなく、彼女は諦めるような人間ではない。寧ろ困難があるのならば徹底的にぶっ壊してでも突破するという根性論を引っ張ってくるまであるのがレイミィと言う少女であり、また一対一も苦手というだけで弱いという意味でもない。
「まぁ問題があるとすれば、テンションが上りすぎて『ヴァンパイアプリンセス』を使っちゃわないかってことが心配かな」
「レイミィちゃんなら、有り得そうなんですよねそれ」
負けたくないから使いました。二人の脳内でそんな事を堂々と言い放つレイミィの姿が思い浮かんでしまい、不安が急に胸に広がる始める。流石に初めから全力で使ったりは彼女だって分かってるから使わないと思う、けれどギリギリの所でほんの一瞬だけとかは割と普通にやりそうな気がするのだ。
曖昧な表情で見つめ合う圧紘と被身子、そして出した結論は万が一使った場合はリカバリーガールと血染に怒ってもらおうという丸投げ、その結論が出たと同時に組が決まったらしく、モニターのトーナメント表に名前が表示される。
レイミィの雄英体育祭最終種目、第一戦目の相手、それは……
「お、お手柔らかにとか、駄目?」
「あら、連れないこと言わないで頂戴、全力で楽しみましょ芦戸」
ひえぇ、ニコリとした笑みで返された言葉に初戦の相手、芦戸三奈は震えるしかなかった。
次回から最終種目だけど、どう進めたものかコレガワカラナイ
便利屋メモ
チアガール姿レイミィは暫く被身子のスマホの待ち受け画面になった。