最終種目の組決めが終わり、順位などは気にしない誰もが楽しむレクリエーションを彼女、レイミィは全力で楽しんだ。
それはもう、予選や本選よりも楽しんでるんじゃないかと周りに思わせるくらいに、しかもチアガール姿のまま、お陰で一部男子や観客は大いに盛り上がったとか何とか。
無論だが流石にそのままは止めておいた方が良いとA組女子は止めたが、ブレーキぶっ壊れ少女となっている彼女が止まるわけもなく、逆に動きやすいし盛り上がるから良いじゃないと言う言葉に麗日、遂に叫ぶ。
「羞恥心とかないんかなレイミィちゃん!!!」
「あったら、あの発言しないよお茶子」
「レイミィちゃんも私の事を言えなくないかな!?」
「葉隠ちゃん、貴女よりはレイミィちゃんの方が健全よ」
かなり慈悲の無い蛙吹の言葉に固まり再起動してから、周りに意見を求めるように身体を動かす葉隠、だが返ってくるのは優しい笑みのみ、つまりはそういう事である。
言葉に出さないのは最後の優しさか、はたまた言ってはならない最後の一線だと理解しているからなのか。なお、葉隠はこの事でなにかダメージを受けたとかはない模様、それはそれとして私は不健全……? と軽く悩みはしたらしいが。
「何やってるのかしらあの子達」
「バートリーが借り物競争に出るのはレギュレーション違反だろコレ!!」
「自由参加のレクリエーションよ、レギュレーションなんてあるわけ無いじゃないの」
峰田はチアガール姿のレイミィの後ろを走ればスカートの中を合法的に見れると信じていた、例えそれがスパッツだとしてもそれもありだと。だが現実は何時だって彼に厳しい、STARTの合図と同時に彼が目視できたのは先頭にすっ飛んでいく吸血姫、そもそも視認できる距離まで追いつけないのだ、気付けば既に遥か彼方、何より彼が激怒したのはお題が書かれた紙を呼んでから彼女が抱えてきた存在に対してだった。
「なんで青山をお姫様抱っこしてるんだよ、借り物の内容なんだよ!! オイラなんか背脂だぞ、どうしろってんだよ!!」
魂の叫びがスタジアムに響き渡すが、直後に観客席から背脂あるよと言われ、あるんかよ!! と更にツッコミを入れることになる。そんな叫びを背中で聞きながら青山をお姫様抱っこしたまま駆け抜けるレイミィは彼に謝罪をしつつ。
「悪いわね、『キラキラした人間』ってあまりに抽象的なお題で思いついたの貴方だけだったのよ青山!」
「そそそそ、それは非常にここ、光栄なんだけど、うぉ!?」
「口を閉じてなさい、舌噛むわよ!」
結果はぶっちぎりの一位、だが代償として青山はジェットコースターに突如乗せられたかのような体験をしてしまい、顔を青くしレイミィが焦る場面が生まれたりしたがレクリエーションは盛り上がるの末に幕を閉じる。
他にもレクリエーションの競技はあったのだが、流石に最終種目があるからと周りに止められた模様、本人的には余裕なんだけどと言いたかったが止めに来た人物が皆、かなり真面目な表情だったので引き下がったとも言う。
そんな余談はおいておき、閉じた、ということは次からはいよいよ最終種目の始まりである。現在はプロヒーロー【セメントス】が特設ステージを設営している最中、第一回戦は緑谷出久、もう片方は……。
「……ふぅ」
心操人使は控え室でその時を待っていた。ここに来るまでに普通科のクラスメイトに先ずは最終種目まで登れたことを称賛され、お前ならこの先も行けると背中を叩かれた彼だが現実をしっかりと見ていた。
最終種目のトーナメントの組が決まり、初戦の相手、緑谷出久の名前を見た時、合わせた訳では無いが彼と目が合った。
「まさか、一回戦目からとは思わなかった」
「ぼ、僕もかな」
コレが本来の流れならば話し掛けた所に尾白が止めに入るなどの物があったが、今日まで付き合いがあるのでただ二人して少しだけ気まずい感じに笑い合うだけになり、それから出久が真剣な表情で彼に宣誓する。
「全力で、行くから」
「あぁ、俺もだよ」
もしマトモにやりあえば自分に勝ち目はない、けれど幸いなことに騎馬戦でもレイミィが彼らに近寄らなかったお陰で心操の個性はバレていない。なら、何とかなるかもしれない、と思ってはいるがそれでも不安は拭いきれていない。
ヒーロー科A組、ここまでの競技で決して調子付いているだけの集団ではないと知った。確かな実力と機転の高さもあることも、だからこそ勝てるだろうかという気持ちが心に生まれ始める。その気持ちを抑えるように深呼吸をしていると、コンコンと控え室の扉が叩かれ、思わずむせそうになるが、まだステージが完成する時間じゃないはずと扉を開ければそこにいたのはレイミィの姿。
「ば、バートリー?」
思わず驚いたという表情と声で名前を呼べば、その反応に想定通りだったと笑い出す彼女。その姿に見惚れそうになってしまうが、何か用があるのかと聞いてみれば、勿論あるからここに来たと答えてから
「いよいよだけど、気分はどうかしら?」
「どうって言われてもな。正直、勝てるかどうか分から無いとしか言えない……それだけじゃないんだろ?」
彼女が自分を鼓舞するためだけに来る人物じゃないと思っているからこその言葉にレイミィはなら、と真剣な面持ちに切り替えてから彼を見据えて問い掛ける。
「そろそろ、答えを貰おうかしらって思ってね。決まってるのでしょ、あの日の誘いに対する答え」
不思議とそれを聞かれるような気が心操の中でしていた。何時から気付いていたとかの疑問は彼の中にはない、寧ろ気づかれて当然だろうなとしか思えない、だからこそレイミィの言葉に驚きもしなければ、同様もせずに彼女からの視線から逃げずにその問いかけに頷く。
頷かれたレイミィはならばと雰囲気を生徒から所長へと切り替えて、改めて心操人使へと手を伸ばし問い掛ける。
「改めて言うわ、私の、便利屋チェイテへ来ないかしら心操人使。決して悪いようにはしない、私達とともに楽しくやっていかない?」
彼女の姿も相まって、悪い事の誘いとかではないはずのコレが心操には悪魔の囁きに聞こえてしまう。仮に頷いて手を取ったしてもそれはそれで悪いことはならないだろう、楽な道ではないがそれはヒーローを目指しても同じなのだから、ここで確実性をとっても良いのではないかと思わないわけではない。
けれど、そうじゃない。便利屋でも自身の『自分の個性を人助けに生かしたい』の想いは叶えられるだろう、けれど彼がそう思い、そして雄英高校にまで来てそこでヒーロー科に上がろうと足掻いているのはただこの想いを叶えたいだけじゃない。
自分は憧れたんだと。あの日レイミィから誘われ悩んで、改めて気付かされた自身の純粋な願いがあるが故に彼は頭を下げて
「悪い、その誘いは断らせてくれ」
「……理由、聞いても?」
「俺は、この個性を人助けに生かしたいと思って、そこからヒーローに憧れたんだ。だから、便利屋ってのも悪くはないと思うけどこの気持ちを裏切りたくない、だから断りたい」
スッと顔を上げ、真っ直ぐとした視線と憑き物が落ちたかのような顔でそう告げた心操にレイミィはそう、と分かってはいたが何処か残念そうな声で呟く。彼が断るのは分かっていたことなのだが、それ以上に周りにどう言われようともヒーローを目指したいと思い続けることが出来る彼がA組の面々と同じような煌めきを感じて羨ましく思えた。
雄英高校に来てる時点でそうだろうなとは思っていた。態々、ヒーロー科にまで足を運んできて顔を見に来ている時点で、彼はヒーローになりたい人間なのだろうと分かってはいた。それでもスカウトしたのはもしかしたらを期待したからに過ぎない、けれど真っ直ぐな言葉と表情をぶつけられて、思わずという感じに彼女は微笑んでから
「それが貴方の選択なのね」
「あぁ、だからその、悪いな」
「良いわよ。それにまぁ貴方はヒーローの方が似合ってるかもしれないわね、応援してるから頑張りなさい」
儚げで、優しい笑みで送られたエールに心操は少し気恥ずかしそうに目を逸らす。その反応にどうしたのかと不思議に思いつつもこれ以上は彼の集中の邪魔になるといけないからとA組の観客席に戻ろうと背中を向けた時、その背中に向けて心操が声を掛けた。
「なぁ、便利屋には入れないけど。その、俺の力が必要な時は言ってくれよ、ゆ、友人として手伝うってことはしてやるから」
この時のレイミィ・バートリーの表情を心操人使は生涯忘れないだろう。彼の言葉に振り向いた彼女の笑顔は今までのどれにも属さない、本当に少女らしい笑顔に今度こそ見惚れてしまった、よほど嬉しい言葉だったのかなこれと思ってしまうほどの笑みを浮かべた彼女はそのまま
「ありがと、その時は声を掛けさせてもらうわ心操」
だからウチの弟子との戦い、頑張りなさいね。と告げるだけ告げれば彼女は今度こそ観客席に戻っていく、そのタイミングでステージの設営がそろそろ完了するというアナウンスが入り彼もまたゲートへ向かうことになるのだが道中で心臓がなかなか落ち着かずに困る彼の姿があったとか。
一方、観客席に戻ったレイミィはまだ試合が始まってないことに安堵の息を吐き出しつつ、耳郎達の近くに座れば何処に行ってたのかと聞かれることに。
「あぁ、ちょっと心操の所に顔を出しに行ってたのよ」
「心操って、今から始まる一回戦目のデクくんの相手だよね。え、応援とか?」
やはり青春か。芦戸がガタッと立ちそうになるのを蛙吹がそっと肩を押さえることで阻止、なお違う箇所で今の話を聞いた峰田と上鳴が白くなってたが誰も触れないのでなかったことにされる模様、ともかく顔を出しに行ったとなれば何を話したかが気になるのが女子とというもの。
なのでストレートに聞いてみれば、レイミィは少し悩む素振りをしてから言葉を見つけたようであぁ、と大爆発を引き起こす発言をした。
「そうね、言うならばフラレちゃったってところかしら」
「え?」
「おい、峰田と上鳴が灰になって散りそうだぞ!!」
「……」
なるほど、阿鼻叫喚とはこの事か。女子勢の殆どは固まり、男子組の一部も面白いことになっている光景にレイミィは呑気にそんな事を思っていると耳郎が物凄く呆れた声で補足説明に入る。
「それって、便利屋云々の話だよね? フラレたってことは断られたってことでいいんだよね?」
「えぇ、そのつもりで言ったのだけれど」
「言葉選びなよ、普通フラレたって言われたら告白したとかそういう話になるんだから」
へぇとまるでそうなるとは知らなかったという声に耳郎は少し本気で頭痛を感じるしかなかった。それから普段、彼女のその手のことを教えている麗日に視線を向けてから彼女に対して今度は自分も手を貸すぞと頷いておく。
意図は伝わったのか、ありがとうと言葉にしなくても分かる表情に苦労してるんだなコレと。そんな感じにA組周りが騒がしくなり始めた頃、ステージの設営が完了しプレゼント・マイクの実況でついに始まる最終種目、その第一回戦。
《一回戦!! 成績の割になんだその顔、ヒーロー科緑谷出久!!
「いぶし銀って褒められるのは初めてだな」
「そうなんだ、ふぅ」
ルール説明がなされる中、心操と出久は見つめ合う。心操としては出久のパワーなどの警戒を、出久は彼の個性が未だ分からないが故の警戒をしているが心操が肩の力を抜くと同時に
「なぁ、バートリから特訓を受けてるって聞いたが本当か?」
「え、あ、うん、付けてもらっててお陰で個性の調整も上手くいくようになったんだ」
「へぇ……やっぱり厳しいだろあの人」
申し訳ないと思うつつも彼は厳しい特訓を課すレイミィの姿を想像して苦笑しつつ出したその言葉に個性を乗せた、なんてことない本当に雑談とも言える軽いノリで出された言葉に出久と言えど気付けるわけがなかった。
確実に勝つために、騎馬戦で彼女から言われた煽りではなく無言で答えるのが難しい会話に個性を乗せるという方法で。
《START!!》
「そう、だね。とても厳しいけど、お陰で実力も付いてるか……ら……?」
「……ふぅ、危うくフライングするところだった。悪いな、確実に勝つためなんだ」
開幕の合図から少し遅れて出久が返答した刹那。彼の身体が完全に停止、プレゼント・マイクも何が起きたかと騒ぐが相澤は冷静に纏めて持ってきた資料から心操の個性を、そして
《だからあの入試は合理的じゃねぇって言ってんだ》
(それはそう)
無機質には彼の個性【洗脳】は通らない、だからポイントは稼げずにヒーロー科からは落ちてしまう。今日までにそんな受験生が沢山出てたはずだと言うのにレイミィもあまりにもったいないと思う、もし違う形があれば彼は今頃ヒーロー科の門をくぐれるはずだったのにと。
「そのまま振り向いて場外まで歩け」
《ああー!! 緑谷! ジュージュン!!》
抵抗もせずに無言で場外へと歩き出す出久を見てレイミィは冷静にこれは決まったわねと思う。初見殺し特化の彼の個性をこうも見事に食らったとなれば抜け出す手段はないと、だからこそブォ!! という強烈な風圧と同時に目を見開き驚いた表情で振り向いた出久に驚愕することになった。
「動いたですって!!??」
「見ろ、指が折れてる。暴発させて抜け出したってことか」
焦凍が冷静に解説する。だが確かにそれだけの痛みならば洗脳状態から解除されるが、そもそもにして洗脳されればその手の行動はできないはず、だからこそ心操も、レイミィも勝ちを確信していたのだから。
「(あれが何だったかは後だ、二度目はないここで一気に決める!)フルカウル5%!」
(何が、あれは単独で解除できるはずが!)
もし、もし彼がA組に居て襲撃事件を体験していたら想定外の事柄が起きようとも迎撃という形を即座に取れたかもしれない。動揺してしまった心操に出久はフルカウル状態で一気に接敵、そこでやっと迎撃体勢を整えようとするがそれよりも速く、水面蹴りで身体を浮かせられ
「おおおおおお!!!」
「くっ!!??」
浮かんだ身体を掴んだと思えばジャイアントスイングの要領で投げ飛ばされ、受け身も取れずに転がってしまい、そして起き上がろうとした彼は自身の足が丁度ラインを超えているのを見てしまい、負けを悟った。
「心操くん、場外! 緑谷くん、二回戦進出!!」
《二回戦進出、緑谷出久!!!》
大歓声がスタジアムを包む、だが両者の顔は互いに驚きに満ちており、だからだろうか立ち上がりながら心操から出久へ
「何、勝ったやつが驚いてる表情してんだよ」
「え、あぁ、いや」
「指、大丈夫じゃなさそうだな……」
思わず顔を顰めてしまう程に出久の二本の指は酷い有り様になっていた、確かにコレなら洗脳からも抜け出せるだろうとは思うが、本当にやろうとはなかなか思えることではない。
これがヒーロー科でヒーローを目指すやつってことかと思いながら、出久に手を差し出して互いに握手を交わした所で普通科のクラスメイトからも励ましの声が掛かる。
耳を澄ませば、プロヒーローも評価をしていることが聞こえ、あぁと心操は嬉しくなりつつ、出久に語る。
「俺さ、便利屋に入らないかって誘い断ったの少し後悔してる部分があるけどさ。やっぱ、ヒーローになりたいんだ」
「心操くんなら、なれるよ。って僕が言っても皮肉とかになっちゃうのかな」
「そうかもな。けど、まぁ俺を倒して進むんだから、この後にみっともない負け方だけはしないでくれよ?」
「うん! あっ」
あっさりとまた洗脳に引っかかる出久に大丈夫かこいつと心配になるがすぐに謝りながら解除し二人はステージから去っていくのだが続いての試合、飯田天哉対発目明のカードで開幕早々、レイミィ・バートリーは死にかけることになる。
「アッハッハッハ!! ブフッ、ヒーヒー、あれ、あれなに!! クっフッフッ、ヒュー……ヒュー……ゲホッ、フッフフ……!!」
「あ、やばいなこれ誰か、酸素持ってきてー」
「な、なんで飯田くんはフル装備なんだ」
冷静に見えるが緑谷出久はクラスメイトが生死の狭間にいる状況が急に生まれてテンパって冷静になってるだけである。なお、レイミィはこの後に百が創り出した酸素スプレーで一命を取り留めたが試合は発目明がただ単に天哉を利用して自身のサポートアイテムを観客席に居るサポート会社に売り込みたいだけの彼女に徹底的に翻弄され最後にはもう思い残すことはないと自ら場外へ。
「すみません、利用させてもらいました」
「嫌いだぁあああ!! 君ー!!」
天哉、二回戦進出となるがその陰でレイミィがひたすらに死にかけていたと聞かされて微妙な表情になったとか。
あ、別に心操くんルートとかあるわけじゃないよ。ただレイミィちゃんは青少年の心がわからないからテロの如く情緒ぶっ壊していくだけだよ。
ところでなのですが、ストックもとい予約投稿があと残り一話しかないと言う事実に震えております
便利屋メモ
彼女が少女らしい笑みを浮かべる相手はレイミィが心から信頼しているという人物に限っている。