なんか色々と発目明の作戦勝ちと言える戦いも終え、続いては塩崎茨対上鳴電気。今度こそは先程の二戦と違い個性的に派手な戦いになるのかなと控え室でレイミィが思っていると疲れた表情の天哉が戻ってくる。
何がどう疲れたかは聞くまでもないので触れないが、これから始まる二人の戦いにどうなるだろうかと聞かれれば
「うーん、塩崎の勝ちかしらね。上鳴も強いっちゃ強いけど、いかんせん継戦能力がねぇ」
「やはり、限界まで放電すると本人曰くアホになってしまうのがネックということか?」
「それもあるけど、塩崎の個性が放電に対して相性がいいのよね。切り離せば実質無力化出来ちゃうし」
もし放電に指向性を持たせることが出来るのならば話が変わったかもしれないがと彼女は言うが、サポートアイテム無しではそれが出来ない。もし彼に勝ち筋があるとすれば開幕から速攻を仕掛けるだけなのだが、上手くいくかと言われると彼女も半々? という感じに首を傾げるしか出来ない。
「ふむ、君の予想ではどちらが勝つと思う?」
「贔屓と主観増々で良いなら塩崎でしょうね、彼女意外と正面戦闘は強そうだし」
思い出すは騎馬戦での塩崎の動き。自分や心操の咄嗟な指示にも反応して個性を操っていた姿から、見た目はお淑やかに見える彼女だが見た目で騙されてはいけないタイプだろうということを天哉に言えば
「ともすれば、彼はあっさりと騙されて負けそうに思えるのだが」
「だから塩崎って言ったのよ。それよりも速く観客席に戻ったら、緑谷たちも待ってるだろうし」
「それもそうだな。では戻るが、バートリーくん、応援してるからな」
「ふふっ、芦戸も応援してあげなさいよ」
勿論だと告げてから天哉は控え室から出ていく。それを見送ったレイミィではあるが特に緊張とかはしておらず、今控え室に居るのも塩崎と上鳴の戦いは早く終わりそうだなと思ってから事前に準備をしているだけという側面が強い。
それでも時間はまだあるだろうと脳内で芦戸三奈についてを纏め上げる。彼女には良くしてもらっている、ノリが良く友達想いだということが今日までの生活で理解でき、何かと渾名を他人に付けたりして仲を深めようとしてくるムードメーカー。
また切島とも中学からの知り合いであり、彼から芦戸の戦闘スタイルとか聞いてみたが返ってきたのは
『アイツか? ダンスやってるからそういう動きとかじゃねぇかな』
言われ思い浮かぶのは変幻自在故にダンスの動きも当たり前のように取り入れている被身子の姿、なるほどその手のタイプかと思えば対策も立てれなくはない、とは言いつつも個性の【酸】がどの程度のものなのかは計り兼ねているのでそこが今のところの不安要素と彼女は思っている。
(まぁ、まさか本気で溶かすレベルの物は使ってこないとは思うけど)
彼女の性格と命を脅かすようなのは禁止というルールから考えれば、来たとしてもリカバリーガールで治しきれるレベルだろう。レイミィとしては真剣勝負なのだから命とまでは言わずとも当たれば体が溶けるというレベルを使っても良いんじゃないかとは思うが、来なくてもそれを甘いとは言わない。
(言わないけど、もしそうなら遠慮なくそこを突かせてもらおうかしらね)
後はまぁ出たとこ勝負でとグッグッと身体を軽く解していると控え室のモニターから瞬殺と言う無慈悲な言葉と、映像にはツルに雁字柄にされ放電の反動でアホになってる上鳴と彼に背中を向けて祈る姿の塩崎。
どうやら、見事に上鳴は塩崎に負けたらしいと自身の予想通りの結果に特に何か思うこともなく、では行きますかと控え室から出ていきゲートに向かう。その途中、塩崎が向こうから来たので突破おめでとうと声をかければ彼女もありがとうございますと頭を下げてから。
「応援しております、貴女なら勝ち上がってくると思っていますので」
「その場合、次は貴女と当たるけど?」
「えぇ、ですが不思議とバートリーさんが負ける姿を想像できないもので」
「買い被りすぎよ、負ける時は私だって負けるわ」
じゃ、行ってくると歩き去っていくレイミィに再度、頑張ってくださいと塩崎がエールに背中越しで手を降って答えてからゲートを抜ければ大歓声とプレゼント・マイクのコールが辺りに響く
《さぁさぁ、ドンドン行ってみよう! A組!? いやいや一年最速の吸血姫!! ヒーロー科、レイミィ・バートリー!!!》
「持ち上げるわね~」
《最速? そんなの自慢の酸の前には無意味にしてやれ!! 同じくヒーロー科、芦戸三奈!!!》
「うっし、やったるよー!」
まさかこの場で堂々と一年最速と紹介されるとは思ってなかったと特設ステージ中央で相対した芦戸に苦笑気味に言えば、向こうは事実だからねぇと彼女らしい笑みで答える。
答えてから直ぐにキュッと真剣な表情に変わり、それから彼女はレイミィに宣誓した。
「レミィ、私全力で行くから」
「……」
「勿論、足元にも及ばないかもしれない、だけど私の全力を受け止めて欲しい、もうレミィにあの技を使わせないくらいに私達だって戦えるってことを知ってもらうから」
芦戸が語るのは襲撃事件でのレイミィの姿だろう。脳無と言う強敵にも恐れずに躍り出て、自分たちを守るために戦い彼女たちもそれが頼もしい姿に見えた、まるでヒーローみたいだと。
けれど実態は凄まじい負荷の技を使っての戦いであり、本人は言ってくれないが明らかに何か削ってはいけない物を削っていると悟ってしまったからこそもう、そんな事をしなくて良いと彼女が思えるようにぶつかっていくと言う真っ直ぐな覚悟に対しレイミィはフッと笑ってから。
「なら、遠慮はいらないわよね」
「初めから手加減なんてするつもり無いでしょ」
思い返せば確かにトーナメントの組み合わせが決まった時点でそんな事話してたわねと笑い合ってから、互いに構えを取り
《START!!!》
「加減するけど、当たれば痛いからね!!」
叫びとともに繰り出されるのは両手からカーテンのように広げられた酸、彼女は組み合わせが決まると同時にひたすらに考えていた。どうすればレイミィと張り合えるかということを。
先ず考えたのはレイミィの武器、ブラッドチェーンも強力だがそれ以上に彼女自身の身体から繰り出される圧倒的スピード、それを出されたらどうしようもないと考えた芦戸は先ずその動きを制限することを思い付く。
速いと言ってもワープしてるとかではない、直線移動があるのなら酸を思いっきり広げれば行動の阻害にはなると考えた故のこの技、後に【アシッドベール】の雛形とも言えるのを閃き、実行するに至る。
《開始早々に芦戸が仕掛けた!! こりゃすっげぇ酸のカーテンだ! しかも溶解度も決して低いようには見えねぇぞ!!》
《動きの阻害、それを狙ったんだろうな。確かにバートリーに好き勝手動かれるのは不利にしかならねぇ》
プレゼント・マイクの言う通り、一部がステージに付着すればそれなりの音を立てて溶けている。もし無理に強行突破をしようとすれば無傷とはいかないだろう、もしこれが普通の生徒同士の戦いとなれば後ろに退くか、或いは態とらしく開けられた左側に回避を選んだかもしれない。
だがレイミィ・バートリーは違った。彼女自身の実戦経験からあれだったら突破しても行動不能にはならないなと確信し取った選択は最速で最短で一直線の動き、早い話が自身の羽根で顔などを守りつつの正面突破からの右ストレートが芦戸に襲いかかった。
「っ!!!?? う、うそ、突破してきたぁ!?」
「動揺しない!!
《マジかよ!!??? バートリー、あの酸の幕を正面突破! 芦戸を一気に攻め立てていく!!》
《ただ闇雲に突破しただけじゃない、正面の中でも比較的に薄い所を狙っての突破だ。無傷じゃないが動けるなら問題ないというのがアイツの考えだろう》
先ほども言ったように芦戸が展開した酸の幕は無傷で突破できるほどの溶解度ではない。何も芦戸は突破されたことに動揺したのではない、彼女の中であり得るだろうなとは思っていた、だがまさか溶解度が一番高い正面からというのは想定外であり、突破の際に掛かった酸で羽根の一部と着ているジャージ、その下の肌が僅かに溶けているのを見てしまったが故に動揺してしまった。
そこを彼女は的確に突く、真剣勝負なのだから当たり前だが。そして接敵してしまえば後は乱打の嵐が繰り広げられる、そこでレイミィは芦戸が思った以上に動ける子だなという印象を新たに抱くことになった。
たしかに今は自身の策のために一部の攻撃は意図的にしないようにして、基本的に拳での攻撃だけだがそれでも彼女は致命打になりそうなものだけをギリギリで捌き続けて耐えている。
「うわっとと、速い! 速いから!?」
(目が良いと言うよりも勘がいいって感じかしら)
明らかに目では追えていない。けれど、フェイントを絡めた気絶を狙った一撃は的確に捌かれるか避けられる、だがそうじゃない一撃に関しては、例えばそう小細工なしの左ジャブを最速で放てば
「ふぎゃ!? ぐぬぅ、み、見えない!」
「見えないのに避けてる攻撃があるの怖いわよあんた」
思わずという声がレイミィから漏れる。この間も決して芦戸から反撃がないわけではない、ダンスのような身体の靭やかさを利用したパンチやキックを繰り出すがレイミィからしてみれば筋は良いが遅いし直線的だと言わざるを得ない、だからこそ見てからの回避すら可能でありその光景にプレゼント・マイクが叫ぶ。
《バートリーが攻める攻める攻める!! 芦戸も反撃するが当たらない、全てが圧倒的速さで見てから回避余裕でしたってかぁ!?》
《あれで全力の速さじゃないってんだから恐ろしい話だ》
「うーん、バートリーさん、なにか考えてるのかな」
ふと観客席で見てた出久が呟いた。特訓で毎回のごとくボッコボコにされてきたからこそ違和感に気付けた、彼女ならばもう既に勝負は決めれるはずだと、初めはもしかして酸の幕を突破したことのよる負傷で思った動きが出来ないのかと思ったがそうではないらしいと。
「手を抜いている、ということかい緑谷くん」
「いや、そうじゃなくて、うーん……」
「ねぇ、思ったんだけどレイミィちゃん、キックとか使ってなくない?」
あっ、と麗日の言葉でその事に気付いた面々、確かに勝負が始まってから使ってるのはパンチだけ、キック系を出したのを見たこと無いと。
別に足技が不得意とかではないはず、だというのに出さないのは明らかに何かを狙っているのは間違いない。その何かがわからないが、事態が動くのはそこから1分後、レイミィがボソリと呟いた、もう良いかと。
「芦戸、貴女の気持ちと全力は分かったわ。筋も良い、怠らずに今後も鍛えたら化けるのは私が約束してあげる」
「はぁ、はぁ、へへ、レミィにそこまで言われると嬉しくなるね」
「それとは別に色々と言いたいのがあるけどまぁ、一つだけ」
何かが来る、芦戸の直感は間違ってはいなかった。だが今の今までレイミィがひたすらパンチだけで、芦戸の視線を常に上半身の位置から動かさなかったからこそ刺さる罠に彼女は嵌ってしまった。
次に芦戸が感じることが出来たのは足元が地面から離れたということと身体を包む浮遊感、そしてニコリと笑みを浮かべるレイミィ、もっとも彼女にはそれが死刑執行前の残酷な笑みにしか見えないのだが。
「足元不注意よ。歯を食いしばりなさい、手加減はするけど痛いと思うから」
下された冷酷な一言に芦戸が反論するよりも先に腹部への強烈な一撃、確かに手加減してるのだろうがそれでも十分に痛い一撃を喰らいそのまま地面を転がり続け、そして
「芦戸さん、場外!! バートリーさん、二回戦進出!!!」
《決まったあああ!!! 足払いからのローキック一発で場外送り!! 中々に情け容赦一撃にちょっとビビったぞおい!》
「さっすがレイミィちゃんです!! やりましたね!!!!」
ビビられるほどだったかしら思いながら歓声に混じって被身子の声に適当に手を上げながら答えつつ、お腹を手で抑えながらゆっくりと立ち上がろうとしている芦戸に近付き、手を貸しながら
「大丈夫かしら?」
「割と痛い、けどレミィがあの日に受けた痛みよりは全然マシだと思うから平気! 寧ろ羽根とか大丈夫?」
「……あれと比べるのはちょっとお勧めしないけど、それとこの程度ならリカバリーガールに頼めばすぐに治るし平気よ」
そう言えば、怪我してたわと自身の身体を見て思い出したかのような言葉に芦戸はえぇと困惑しつつ、互いに握手を交わしてステージ後にしリカバリーガールのところへ向かったが早々に
「はぁ、あんたもしかして動けるなら怪我にカウントしないとか言う人間かい?」
「時と場合による、かしら?」
そんな小言を受けたとか何とか。レイミィにとって、戦いとはそういう認識なのであるし、そもそもにして寿命を当たり前のように削る技を使ってるので今更でしょと思ってもいる。
今回の戦いでの怪我の内約は羽根が少々、肌が少々程度らしい。
便利屋メモ
なんだったら、骨が折れるような怪我を前提とした戦闘の仕方も過去にやってるのはクラスメイトには黙っておこうとレイミィは思っている