不穏、この組み合わせの戦いを何も知らない第三者が一言で表すのならばコレに限るだろう。だが二人を知っているA組もたしかにそれを感じるのはあるが、それと同時に出久が言った顔が笑ってないという言葉に彼が決して麗日を見下していないということにも気がついた。
考えればそうだろう、麗日の個性は五指で触れた相手を問答無用で無重力状態にしてしまう。いくら勝己が爆破の個性で空中でもある程度は行動できるとしても限界は存在し、最終的には敗北もありえてしまう。
「だからこその警戒、そう言えば緑谷。貴方さっき飯田と彼女のところへ向かってたわよね、なにかアドバイスでもしたの?」
「しようと思ったんだけど、断られちゃって」
「緑谷くんに頼らずに自分でと言う考えだろう、だが……」
大丈夫だろうかと心配する天哉に、あの娘がそこまで言ったのならばなにか策は考えているのかもしれないわねとレイミィが答える。無策で挑めるような相手ではないと麗日も分かっているだろう、ともすればこの戦いは不穏の一言で片付けてはいけない。
「さて、どんな戦いを見せてくれるのかしら麗日?」
「こうあれだよね、レイミィちゃんが笑みを浮かべながらそのセリフを言うと黒幕って感じが物凄くするね」
「……葉隠、もしかして騎馬戦でのこと割と根に持ってる?」
「ソンナコトナイヨ」
《START!!!》
露骨過ぎる片言での返答に、ごめんと謝ったタイミングで試合開始。開始と同時に麗日が選択したのは速攻による突撃、出久も彼女に伝えようとした案はコレだったらしく、特に勝己が初めの一撃は右の大振りだということも麗日は知っているからこその初動だったのだろう、が彼女を迎えたのはたしかに右の大振りではあった。
だがそれは麗日の反応では避けきれない勢いの爆破、女子相手にモロに直撃させたことに観客席からは戦慄するような声が上がる光景に逆にレイミィは驚いたという表情をしながら
「真剣勝負だってんだからその程度は当たり前でしょうに何を引いてんだか」
「レイミィちゃん、その辺りはかなりシビアな考えよね」
シビアも何も普通でしょ? と蛙吹に返しがどうにも手応えが悪いことにむぅとなりつつ試合の方へ視線を返す、納得はしてないが今はいいだろうという気持ちである。ステージの方はあの一撃で爆煙が立ち昇り勝己の周囲を包みこんでおり、麗日はその中に潜んでいるのだろうということが分かる。
勝己もまたそれは分かっているので警戒し、煙幕の中から這うように現れた影に追撃を加えようと手で押さえつけたが感触が明らかに人体のそれではないということにしてやられたという表情に、彼が掴んだのは麗日が着ていた上着だったのだ。
「っ!?」
《上着を浮かせて、這わせたのかぁ。よー咄嗟に出来たな!!》
ブワッと勝己が罠に引っかかったのと同時に背後から煙幕を突き破って現れる麗日。これならと観客が思う中、レイミィはただ一言、相手が悪すぎると呟く、確かにここまでの運びは良かったし並の相手だったらこの奇襲で勝負アリとなっていただろう、しかし勝己という少年は態度に似合うだけの能力を持ち合わせている、つまりは【並】の相手ではなかったということだ。
「見てから動いてる……!?」
「彼ならそのくらい出来ても不思議じゃないわ。それにしたってデタラメじみた反応速度だとは思うけど」
「あの反応速度なら煙幕はもう関係ねぇな」
完璧な奇襲であったはず、だと言うのに勝己に即座に反応をし地面を削りながらの爆破で迎撃され転がることになる麗日。それでもと即座に受け身を取り叫びつつ再突撃するも遅いの一言で即座に迎撃されるが彼女は諦めない、諦めずに『低くした姿勢を保ったまま』勝己に向かっていっては爆破で迎撃されるのを繰り返される。
それは最早、唯一の策が通じなかったから自棄になったと思わせる光景、それでいて勝己はそんな彼女をいたぶっているように見えたのだろう、耳郎があいつそんな趣味がと口にするがそこで待ったをかけたのがレイミィだった。
「違うわ、彼は叩き出そうとはしてる。けど麗日が咄嗟の部分で踏ん張ってるのよ、ほら、指と靴の汚れが地面に突き立ててるような感じに見えるでしょ」
「……? 確かにそう見えなくはないけど、てかよく見えたね」
「何か、お茶子ちゃんは策を講じているのかしら?」
そもそもにして勝己の爆破は相手の怪我を考えなければ強いが、そうじゃない場合の調整は難しい代物。特に必要以上の怪我をさせないで、この場合は命を脅かすようなのはクソみたいな威力は出さないで麗日を場外に叩き出すという火力をいきなり出せるかと言われるとさすがの彼も何回かの調整が必要になる。
しかもそこに麗日が根性を見せて耐えてますとなれば都度調整が必要になり、結果としていたぶっているような光景に繋がってしまっている。そして麗日はそこを狙った、いや、もしかしたらそれは偶然かもしれないがともかく、彼女はとにかく粘ることでなにか策を仕込んでいるというのはレイミィの目からははっきりと分かる。
もっとも、第三者からはそうは見えないもの事実であり、段々と抗議の声が上がり遂にはプロヒーローから『女の子をいたぶって遊んでんじゃねぇぞ!』とブーイングが発生。
発生したのだがコレに対して偶々近くで聞いてた被身子と圧紘、そして遠くながらも聴こえたレイミィたちはここぞとばかりに、示し合わせたかのように口を開く。
「うわぁ、あれ見て遊んでるって言えちゃうんですか、そうですか、流石プロヒーローですね」
「うーん、ちょっと、ね? 流石にヒーローの質が低下しすぎじゃないかなぁって思うよ、おじさんも」
「驚いたわ、プロヒーロー様にはこれでもお遊びに見えるらしいわよ。何処の実力者のブーイングかしら」
唐突に始まる便利屋による煽り、しかもこれをにやける表情ではなく失望しましたと言う感じでありながら声量はしっかり相手に拾える程度で口にするという、全力で喧嘩を売りに行っている態度にそれをされれば、ブーイングを飛ばした本人がガンを飛ばそうとするがその動きが出る前にプレゼント・マイクから肘鉄でマイクを奪った相澤の鋭く冷たい声で場が固まることになる。
《今遊んでるっつったのプロか? 何年目だ? シラフで言ってんならもう見る意味ねぇから帰れ、帰って転職サイトでも見てろ》
認めてるが故に警戒し、本気で勝とうとしてるが故に手加減も油断も出来ねぇんだろうが。場の歓声を一気に沈めるほどの言葉、そもそも、プロヒーロー達が居る観客席でその発言ができることすら件の人物の実力程度を嘘偽りなく示してしまっているともレイミィは言葉にする。
勝己が麗日をいたぶっていると見え、麗日が自棄になっていると思ってしまう観察眼、一般人ならまだしもプロヒーローがそれを言ってしまうというのは圧紘が言うようにヒーロー飽和社会の弊害、質の低下とも言える事象に繋がってしまっているのだろうことに彼女はため息交じりに。
「血染が一度は職業ヒーローを贋作呼ばわりして血の粛清をしようとするのは分からなくはない感情よね、コレを見せられるとさ」
「な、中々物騒な事を考えてたんだね、赤黒さん……」
「あいつ、私が拾わなかったら今頃は有名な
え? と出した声は誰のものか。スッと上に立てた指の先にあるのは中に浮かぶ無数の爆破で砕けたステージの瓦礫、彼女は何も自棄になって突撃を繰り返していたのではない。初めの速攻も、上着を使った奇襲も、それを利用することで勝己の視線を自身に集めることを目的として布石に過ぎなかった。
初めから速攻での勝利は出来ないと分かっていた。だからこそ確実に勝つために己を囮にひたすらに時間を稼ぎ、根性で場外負けしないように耐え続け、その成果が今、上空に実ったのだ。
「ありがとう爆豪くん、油断してくれなくて」
このことを知っていたのはレイミィや実況席という一番の高所から見ていた相澤、この手の策を巡らすのが得意な物間もまた試合開始から少しして気付いた一人であり、彼はブーイングを飛ばしたプロを馬鹿にするような声で、爆豪の視線ならともかく客席でブーイング飛ばしてるプロは恥ずかしい的なことを言ってから、B組の面々に教えるように
「低姿勢での突進で爆豪の打点を下に集中させ続け、武器を蓄えてた。そして絶え間ない突進と爆煙で視野を狭め悟らせなかった」
「勝ァァァあああつ!!!」
《流星群ー!!!???》
《気付けよ》
プレゼント・マイク貴方気付いてなかったの!!?? とレイミィが思わず驚愕したのは置いておき。彼の言うように叫びとともに麗日の個性が解除、上空に漂っていた無数の瓦礫は流星群と言う形で勝己に降り注ぎ、それと合わせるように麗日も走り出す。
何もコレで勝てるとは思っていない、だがこの流星群を前にすれば必ず隙が生まれ、その隙に勝己に触れることが出来ればそれで無力化出来るはず。麗日の策はそれであり、瓦礫が降り注ぐ中の特攻とも言える行動に出久が思わず
「そんな捨て身の策を……麗日さん!」
「格上相手なら捨て身と言われるほどの策じゃないと勝ちの目すら無いってことよ」
「けど、コレなら行けるんじゃ!」
耳郎の言葉にレイミィは無慈悲に切り捨てた、コレがもし爆豪が相手じゃなければねと。次の瞬間、勝己が右手で支えながら突き上げた左腕から発生した大爆発とそれに伴う轟音、それにより【一撃】で塵と化した流星群と爆破の余波で転がる麗日の姿に観戦してた全員が絶句。
「デクのやろうとコウモリ女とつるんでっからなてめェ、何か企みあるとは思ってたが」
《会心の爆撃!! 麗日の秘策を堂々──正面突破!!!》
「危ねぇな」
嘘だろと誰かがまた言う、けどそれは個人の感想ではない。見ていた殆どの人物も、何より目の前で打ち破られたのを見てしまった麗日も抱いた感情、確かに破ることが出来ても彼ならば不思議ではないと思っていたがまさか一撃でとは誰も思わなかった。
麗日が弱いというわけではない、彼女の作戦は普通だったら必勝とも言えるものだったのはレイミィも否定はしない。けれど、能力の差というのは時に残酷に彼らに知らしめてしまうと言うだけである。だがレイミィ自身も何も驚いていないと言うわけではない、流石に一撃で全てを塵にするというのは少し想定外だったと素直に認める他ない。
「でも正直、ここまでの火力を見せられるとは思ってなかったは本音にあるわね。あんなの向けられたら私もちょっと厳しいものがあるってのは確かよ」
「レイミィちゃん、爆風で吹っ飛んじゃうもんね……」
「葉隠、後でたこ焼きでも何でも奢るから機嫌直して頂戴、本当に」
なんかこの娘段々と私に対するトゲが鋭くなってないかしらと彼女に対して若干の恐怖を覚えながら試合を見れば、秘策を破られても立ち向かおうとした麗日の身体が崩れ落ちるように倒れる場面、爆破によるダメージもあるだろうが根本的な原因は
「
「あれだけ浮かせればそうなるでしょうね。起死回生の一発勝負、それがあの娘の作戦だったのよ」
限界なんてとっくに迎えてたのかもしれない。だからこそ、策が無情にも破られたことで身体の力が一瞬でも抜け、そこから連鎖して倒れてしまったのかもしれないと淡々とレイミィは語る。
淡々と語るが、声と表情には敬意に近いものが含まれているのを出久達は分かった。その彼女の視線の先では限界を越え、言うことを聞かない身体を立ち上がらせようとする麗日と側まで駆け寄り状態の確認に入るミッドナイトの姿。
指の先から爪先まで力を加え立ち上がろうとするが最後には『父ちゃん』と呟き、遂に気絶、それはつまり
「麗日さん、行動不能! よって爆豪くん、二回戦進出!!」
審判の声に先ほどまであったはずの麗日への声援がピタリと止み、代わりに少ししてから健闘を称えるような拍手の波がロボによってリカバリーガールの元へ運ばれていく彼女へと贈られていく。
レイミィもその一人であり、彼女は同時に勝己へのも含む、彼も決して余裕の勝利と言うわけではない。見れば大爆発に使った左は若干ながらも小刻みに震え、威力に比例した反動を受けているのが見てとれた。
もし、もし彼女がもう少しだけ突撃をし爆破を使わせていれば流石の彼でも一撃での正面突破は難しかったかもしれない、それほどまでには追い込まれてはいた。
「素人が見れば一方的、けどその実はかなりギリギリな攻防だった。強いて彼女の敗因を言うならば最後の最後、焦ってしまったって部分でしょうね」
ステージを去っていく勝己の背中を見つつレイミィが呟き、こうして第一回戦が終わりを告げた。
次回から二回戦だけどこっちも纏められるなら何とかやっていきたいね(願望
便利屋メモ
ブーイングしたプロヒーローを煽ったがしれっと周りに溶け込んでるので意外とバレていなかったりする