彼、【ホークス】はレイミィ・バートリーにとってのヒーロー協会窓口であり、私の子守りなんて大変ねと思ってるし、逆にホークスからはヒーロー協会から要注意人物として警戒せよと伝えられているが話してみると悪い子には見えないし、寧ろ過去を考えれば苦労してるね君もと、互いに立場的に大変だねとある程度の信頼関係が出来上がっている。
がそれはそれとしてホークスは彼女のことになるとそれなりの頻度で胃もしくは頭を痛めることがある。別段、彼女が問題を起こしたとかではない、寧ろプロヒーローと言う立場で見るなら有益な情報を個性を利用して手に入れて流してくれるという点では助かっているだろう。
ただし流されてくるものが比較的小さなものであれば、と言う注釈が付く。中にはもし実行されてた場合、国に多大な被害が出ていたテロの計画ですら記憶から読んだという魔法みたいな言葉で窓口係であるホークスに届けられるのだが、その場合は流石の彼も肝が急激に冷える感覚を覚えたり、胃が痛んだり、頭痛を感じたりすることもあり、今回のように向こうから伝えることがあると言われた日には覚悟を決めろと言われてるのと同意義に近いのだ。
《へぇ、それ俺が聴きたくないなぁって言ったら流せる?》
「構わないけど、その場合はお上に直接になるわよ。窓口が拒否したって伝えながら、怒られるでしょうね貴方、まぁ私は気にしないけど」
声から察するに断ったら本当に実行するなことを感じ取ったがゆえに容赦ないなこの子。とは思いつつも口には出さないで苦笑で誤魔化すホークス、逆に言えば今回絶対に言わなければまずい内容だというのも感じ取れる声に何が飛び出てくるんだろうかと真剣な表情に変わり、腹を決めるもその覚悟は向こうからの一言で崩される。
「けどそっちの要件から聞きましょうか」
《あぁ、いや、今日は入試だったじゃん、大丈夫だったかなって》
「貴方ね。この回線を世間話に使いましたって怒られるわよ?」
呆れた感じの声ではあるが表情にはその感情は混ざっていない。真剣な表情で彼女はホークスの言葉は嘘であると推測、確かに入試のことが気になるというのは彼の本心の一部ではあるだろう、とは彼女も思いつつも長々と雑談はよろしくないなと考え
「で、本題は?」
《あっれ、もしかして俺って信頼されてない?》
「いいえ、貴方は個人的に信頼してるわ。けれど、この回線はその程度のことで使えるほどに安くはないし、協会は私を信頼してないでしょ?」
クルクルと絡まない程度に受話器コードを弄りながらレイミィの言葉にホークスはだよねぇとこの短い電話で何度目か分からない苦笑を浮かべる。実際、彼女の部屋のこの電話に繋がる回線は協会が特別に用意した物であり、盗聴などに対してあらゆる対策が施され、同時に利用には協会から要請がある場合か窓口係のホークスかレイミィがとても面倒な手続きを処理してからの手段しか存在しない。
だからこそ彼女はホークスのそれが嘘だと判断した。向こうもすぐに気づかれるのは想定していたので態とらしく咳払いをし雰囲気を真面目なものに切り替えてから
《んじゃ聞くけどさ。なんで【ヒーロー科】だったんだい?》
ホークスは知っている。レイミィ・バートリーはヒーローを目指すような人間ではないと。それは性格などの問題ではない、過去に彼女自身から自分はヒーローになるには大きすぎる咎を背負っているからと聴いているから。だからヒーローを本気で目指すために選んだわけではないと分かっているからこそ、彼女の口から理由を聞きたかった。
「……別に深い理由がってほどじゃないわよ。ただヒーローについて専門的なものを知りたいというのもあったし、私自身の能力を上げるにも丁度いいと思っただけ」
当然ながら今日まで個性や戦闘スタイルに関しては全て現場での実戦と我流で鍛えていたものであり専門的なと言う部分ではまだまだ薄いと自覚している。故にこの機会に雄英高校というハイレベルな知識を得たいと答えれば、電話先のホークスも一応の納得の反応を見せる。
協会としても納得しない理由ではないだろう、だがもう少し理由がほしいかなと思い切って聴いてみればまず返ってきたのはため息、それから
「何よ、まだ必要なの?」
《いやぁ、悪いね。俺は君が変なこと考えてないって理解してるし信用もしてるんだけど、上はね?》
「はぁ、貴方達が用意した首輪の中で一番高いのを選んであげたって話、そのほうが余計な苦労もないでしょ?」
首輪、早い話が監視の意味。協会が彼女を雄英高校に入れたい理由に行動を監視させるというのも含まれていることをレイミィも気付いている。同時に向こうから受ける科の指定がなかったのでどうせならとヒーロー科に決めたとのこと、無論だが上記の理由も本当ではあるものの、どちらかと言えば協会への嫌がらせの部分が若干強い。
対してホークスはそれを聴いて苦笑してしまう。というのも彼女がヒーロー科を受けるという話を貰った協会側はまさか彼女がという感じに大騒ぎになり、大変な目にあったと言うのを知っているからなので
《それはまぁそうだけど、急に一番高いのを強請られたから協会は大変だったみたいだよ?》
「指定しないほうが悪いのよ。私、なんでも良いって言われたら一番高いのを欲しくなる性分なの」
それを言われてしまえば確かにそうなのだがとしか言えないホークス、レイミィの言う通り指定してたわけではなく、協会が勝手に大慌てになったと言うだけなので彼女を責めることは出来ない。
《参りました。協会にはこれを伝えておくよお嬢様》
「えぇ、お願い。で、本題に入っていいかしら? 色男」
流れる沈黙、出来ればこのままお開きを狙っていたホークスだったが上手くいかなかったことを理解して深いため息を吐き出してから、若干重くなった口をなんとか開いて、数秒後にやっぱり電話を切るべきだったと後悔することになる。
《あ~、うん、聞こうか》
「今年のヒーロー科の受験生の中にオール・フォー・ワンの内通者が混ざってるわ」
放り投げ込まれた爆弾はホークスの想定をかなり超えた火薬量だった。思わず言葉を失いどころか思考すら完全に停止してしまう程の火力と言うくらいの衝撃だった、一応で言えば何もこれを想定していなかったというわけでもない。AFO、個性社会にてヒーローにオールマイトという光が居るようにヴィランにも闇の象徴とも帝王とも魔王とも言われる存在が居る、ならばヒーローの卵が集まる雄英高校に手の者が紛れないなんてことはほぼありえないし、雄英側も十二分に警戒して対策している。
が、今回の問題はタイミングがあまりに悪いという点だろう。今までであれば別段ホークスもそこまで問題視しない、この事実を雄英高校に伝えてお終いとなるのだが、今年というタイミングに紛れ込ませてきた、この事実がホークスの中に最悪の考えが浮かび上がらせる。
(奴が、生きてる?)
「聞いたわよ。AFOはオールマイトによって『死んだ』って、だと言うのにおかしな話よね?」
《誰からの記憶とかは不問にするよ。で、確かなのかい?》
「確かよ。ただ読み取れた記憶から推理するなら弱みを握られてって感じね、【パパンとママンは僕が守る】って呟いてたし」
この言葉から推測するなら、下手に弾けば死体が増えるでしょうねとどこか羨望も含まれている声で付け加えられた言葉に対してホークスは返答に迷う、彼女の境遇を知っているからこそ、家族を守りたいと思えるその人物が羨ましいのだろうと。
迷ったが故に触れないことにした。向こうも触れてほしいわけではないのだろうと考え、なるほどねと呟いてからレイミィが思ってるであろうことを口にする。
《つまり、その人物を体よく利用したいってところかな?》
「えぇ、こっちが何もしなくても動きを制御できるなら利用するべきでしょ? もっと言えばヒーロー科の生徒達にヴィランというものがどんなモノかって直に経験もできるいい機会にも出来そうよね?」
《うーん、否定はしないけど、それつまりクラス一つを餌にしますって言ってるようなもので賛成は難しいかな》
レイミィが提案してきたことはホークスの言う通りのことであり、プロヒーローである彼からすれば流石にそれはと言い淀んでしまう。しかしレイミィはその反応に対して本日何度目かのため息を吐いてから、じゃあ何? と面倒そうに言葉を続ける。
「ヒーロー科に入ってくる卵たちは卒業するまで無菌室に放り込むような育て方しますって言いたいの?」
《……ヴィランは待ってはくれないってことか。痛い所突いてくるね》
「痛いも何も無いでしょうに、現実は甘くないって話なだけ。それに何のための私たち《便利屋》よ」
勝ち気で自信に満ち溢れてる声で出てきた言葉、それを聞いてホークスはやっと彼女の言いたいことを理解した。理解して思わず笑ってから
《オーケー、とりあえず話を通しておくよ。多分だけど雄英高校から話が来ると思うからよろしく》
「悪いわねって、もうそろそろ時間じゃないかしら?」
言いながらレイミィが時計を見れば通話を始めてからそろそろ20分が経とうとしていた。この回線での通話は当たり前といえばそうだが時間が制限されており、それが30分、一応多少の超過は見逃されるが、それでも二人とも協会からいい顔はされないので基本的には守っている。
《おっと、もうそんな時間か。じゃあ、おやすみ、お嬢様》
「えぇ、おやすみなさい色男」
向こうが電話を切ったのを確認してから自身も受話器を置く。置いてから今の会話を思い出し、ふぅと息を吐き出す、とりあえず伝えるべきことは伝えた、これでホークスが協会と雄英に話を流せば、あとは勝手に向こうが進めてくれる。
ここまでしたならあとはもう出来ることはないと区切りをつけて、背凭れに体重を預け、グッと伸びを挟んでから体勢を戻す。
(ヒーロー、か)
さっきまでその話をしてたからだろう、ふとその単語が頭に浮かび思わず自嘲気味な笑みが顔に現れてしまう。自分はそれに成れるような真っ当な人間ではないのだと言うのにホークスに理由を聞かれたときに、一瞬でも成ってみるのもいいかなと言う言葉が出そうになったからだ。
そんな自分に馬鹿らしいと心の中で吐き捨て、唐突に口元の牙に触れた。無意識の行動であり特に意味があってのものではなかったはずだったのだが、指が牙に触れた瞬間、粘着質な何かに触れた感触に手を離せば血に染まった自分の指を見て、思わず自身の行動に後悔した。
(ッ!?)
だがその後悔も長くは続かない。血を認識したと同時に来たのは口の中に広がる血の感覚と味、何も口には入ってないというのにはっきりと分かる肉の感触を感じたと同時に込み上がってきた吐き気に手で口元を抑え、可能な限り静かに、素早くトイレへ駆け込むように消える。
暫くしてから少々青くなった顔で出てきた彼女は洗面所に向かい蛇口を捻り、勢いよく出てくる水で何度も、何度も口を濯ぎ始める。けれど口の中の血の感覚も味も、牙から来る肉を噛む感触も全く消えることはない、とは言いつつも彼女自身はそれに慌てることもなく、単純に口の中に残ってる吐瀉物を洗い流してるだけなのだが。
(はぁ、慣れてきたとは言えキツイのには変わりないわね)
ようやく吐き気だけは落ち着いてきたからと水を止めて洗面所を見つめるが、映るのは水が飛び散ってるだけで汚れは『一つ』も存在しない白い洗面器、口の中ではまだ血の味や感覚が残っているし彼女が手で牙や口元を触れば血液特有の感触を感じることもでき、手にはべっとりと血も付着している。だがそのまま手を洗面器に触れても、その血が付着することはない。
ここまで書いて分かるようにこれら全てはレイミィ自身が見ている幻覚。2年ほど前は毎日だったが今は週に2~3回の頻度でこれに襲われ、その都度このようにトイレに駆け込むというのを繰り返している。
(とりあえず、今日はもう薬を飲んで落ち着いたら寝るしかない、か)
本当ならもう少し勉強するつもりだったのだけれど。と思いながら重い体を動かしベッド横のサイドテーブルに置いてある薬を包装シートから2錠取り出してから口に含み、ペットボトルの水で流し込む。その際にも血の味しかしないはずだがレイミィは慣れてるとばかりに表情を変えない。
更に言えばこの幻覚の原因も分かっている。彼女はこの血の味も、肉の感触も知っている、ベッドに仰向けで横になって目を閉じれば、今でもはっきりと思い出せる2歳の頃に起きた個性事故、彼女の幻覚の大元。いや、あれは個性事故とかいう言葉で片付けてはいけないと自身の言葉に力なく笑う。
(なにを被害者ぶってるんだか。吸血衝動を抑えられずに母親の首元に牙を突き刺したのは誰でもない私だってのに)
瞼の裏に浮かぶのは、女性の白い肌に噛み付く小さい口、そこから吸い切れずに溢れる血、徐々に冷たくなる感覚、そして正気に戻り始めた彼女が見た女性の表情は……そこで薬が効き始めたのかスゥッと映像が消えていき、口にはっきり感じてた幻覚も無くなり始める。あの時の母親はどんな表情をしてたのか、近くに居たはずの父親はどんな感情で母親を殺した私を見て、そして路地裏に捨てたのか、毎回のことだがこの部分が思い出せずに幻覚は終わる。
(……いえ、きっと恨んでるし恐怖してたわね。寝よ)
割り切るように、或いは思い込むように思考を切ってから体の力を抜くレイミィ、思ったよりも疲れてたのかそのまま彼女の意識は闇の中に落ちて行った。なお翌日、げっそりとした表情で事務所に現れ、事情を知る全員から午前は休めと言われた模様。
週に2~3回は午前休になる所長が居るらしい
便利屋メモ
【バートリー専用回線電話】
物凄く面倒な手続きを通して使用できるホークスとバートリーの専用回線。過剰なまでに対策が練られているので秘密の会話がしたいときなどには重宝される。