第一回戦の全組み合わせが終了し、小休憩を挟んでから二回戦を開始するというアナウンスが流れる中、二戦目第1試合の出場者である出久と天哉は麗日の様子を見に行き、そのまま控え室で待機してるということで姿を消している。
先の試合は終わってから冷静に内容を見てみれば確かにもてあそぶと言う感じではなかったかもしれないと声がチラホラと聞こえてることに遅いってのと思いながら観客席でセメントスがステージを修復してるのを眺めていると
「そう言えばさ、レイミィはお茶子の所に行かなくてよかったの?」
耳郎からの言葉にレイミィは暫し言葉を迷う。行かなくても良かったのかと言われれば、行っても良かったかもしれないと答えられなくもないから、けれど
「今、私が言っても何か言えるわけじゃないのよね」
「って言うと?」
「得意じゃないのよ、負けた相手への慰めの言葉を掛けるのって。まぁ、良くやったとかいい試合を見せてもらったとかは言えるんだけど、今の麗日へ掛ける言葉じゃないわよねぇって思って」
だから動かなかった。それに自分が行かなくてもあの二人ならば問題ないだろうという信頼もあった、特に出久は何だかんだでその辺りはうまく感じ取れる方でもある、出力ができるかというのはまた別問題に成ってしまうが。
それに、と、このタイミングで戻ってきた勝己に視線を向けて笑みを浮かべるのを耳郎は見てしまい、あぁうんそう言うことかと一人納得してしまう、仮に彼らとともに麗日の所へ行ってしまったらこっちの相手できないもんねと。
「おかえり、爆豪。中々堂に入ったヒールっぷりだったわ、場の空気が空気だったらスタンディングオベーションすらしたかったくらいに」
「んだぁ……クソコウモリ女ぁ……!!」
「戻ってきた爆豪に一秒と掛からずにその言葉を送れるのは正直もう尊敬レベルなんよ」
誰がどう聞いても健闘を称える言葉ではなく、爆豪も間違いなくキレかけている目と声でレイミィを睨むが本人はどこ吹く風という態度でいると舌打ちをしてから向こうから彼女に対して
「お前、アイツになにか仕込んだのか?」
「貴方のことだから緑谷からも聞いてるでしょうけど全部、麗日が考えた策よ。自分よりも格上である貴方に喰らいつくために考え抜いた策、中々に楽しめたんじゃないかしら?」
ニヤリと笑いながら投げ掛けるがそれを受け取った爆豪は何かを言うわけでもなく、上鳴の隣に座るのをつまらなそうに見てから、まぁ良いけどという表情でステージの状態に目を向ける。
どうやら修復は完了し、二回戦の第1試合も間もなく始まるとのことなので話は自然と出久対天哉に。どちらも方向性は違えど体術をメインとする戦闘スタイルということでどちらが勝つだろうかとなる。
「飯田は騎馬戦で見せたあの超速度を使うだろうけど、緑谷は確かそれに反応できるんだっけ?」
「ってバートリーは言ってたな。確か特訓を手伝ってたんだろ? 具体的に何したんだ?」
上鳴と砂藤が話してると思っていたら急に振られた話題にレイミィは何をしたと言うかとその時のことを思い出しながら、彼女がその質問に答えたタイミングで控え室から戻ってきた麗日は復帰早々に叫ぶことになる。
「何でも……?」
「待って、待って待って、何でもって何!? デクくんをどうしたん!?」
「いや、あの子の才能だと一点特化で終わらせるのは勿体ないって事になってとりあえず、詰めれるだけ詰めるって方針になったのよ」
飲み込みも早く、物事を噛み砕くのも得意であり、見せれば見せるほどに【理解】と言う形で吸収していくというのは教える側も非常に楽しいものなのだ。なので私は悪くないとも言うのだが絶対にやりすぎた部分があると思われているのは今日までの信頼だろう。
そう、彼女たちの懸念は大当たりだった、基本的に自制はあるのだが興が乗るとブレーキが壊れ始めるのはレイミィだけではない。あの場で彼の特訓に付いた他の二人、血染と被身子もまた似たような存在であり雄英体育祭まで後二日という日までそれはもうみっちりと鍛えた。
「本人も強くなれるならって感じでやる気十分だったし、だからこう、ね?」
「楽しくなっちゃったと」
「いや、楽しいだけじゃないわよそりゃ。キチンと真面目に教えてあげたし、お陰で入学当初からは比較にならないくらいに彼は強くなったし」
「楽しくなっちゃったのは否定しないんだ……」
そこもまぁ事実だしと開き直りが若干入った笑顔で告げられれば周りはそれ以上何かを言えるわけでもなく、そうかぁと諦めにも似た納得をするしかない。
同時に、彼女たちが鍛えたというのはここまでの競技で片鱗は見れており、少し前だったら自傷していたはずの個性を完璧に調整していることからよく分かることだ。と盛り上がっていれば時間はすぐに流れ、プレゼント・マイクのコールとともにステージに現れる出久と天哉。
《さぁ行くぜ、二回戦第1試合!! 互いにここまでの成績は上位! まさしく両雄並び立ちの1戦!! 緑谷
「まさか、こんなにも早く君に挑めるとは思ってなかった。だが騎馬戦で言ったように緑谷くん、君に挑戦したいと思っていたからな、嬉しく思っているよ」
「あはは、そうだね。でも、うん、僕も飯田くんに挑戦したいと思ってたんだ……だから、負けないよ」
構え、見合う両者。この時点で戦いは始まっていると言っても過言ではない、特に出久からすれば天哉の個性エンジンによる速さと騎馬戦で見せた【レシプロバースト】による驚異的な加速とレイミィに匹敵しうる速度は初手での読み合いに失敗すればそれだけで負けが確定してもおかしくないほどの代物。
だからこそ意識を集中させて思考をフル回転させ、天哉の動き全てに注意を払う。彼のことは今日までの学校生活で【理解】している部分は多い、だからこそ驕らずに焦らずに彼の初動を見極める。
(飯田くんも僕がレシプロバーストに反応できることは騎馬戦でも見てるし、その後のバートリーさんの言葉で知っているはず。だからこそ開幕から切ってくるとは思えない)
更に言えば彼は非常に、それこそ上鳴などに言わせればクソ真面目とも言える性格の持ち主。それは美点でもあるだろう、だが出久のようなタイプと相手するとなるとそれは簡単に動きを読まれやすくなると言い換えられなくもない。
視線が何処を向いているかで次の行動の大凡の位置が、手や脚の筋肉への力の入れ具合でどの部位での攻撃をしようとしているのか、或いはそこが個性に関連する箇所ならば大技を打とうとしてるのかどうかまで、今の出久ならば【理解】出来ている相手に限るがそこまで読み取ることが出来る。
出来るからこそ彼の視線が自身から逸らされておらず、身体全体に力が入っていることに気付き天哉の初動を見極めることに成功した。
(緑谷くんが何処まで強くなったかが分からない、だからこそ……)
(違う、僕を警戒してるなら……)
《START!!!》
ゴングと同時に出久の視界に入ったのは空中で回し蹴りを繰り出そうとしている天哉の姿、彼の中でレシプロバーストは確かに速いというのは知っていたがそれを加味してもここまで迫ってきたことが辛うじてでしか見えない速度に驚愕しつつ、即座にフルカウル5%を発動、姿勢を咄嗟に低くすることで回避からのその姿勢のまま、両手を支えに一気に体を捻って蹴り上げを放つ。
放たれた蹴り上げは回し蹴りを回避された勢いを利用し着地から再度飛び上がり、縦回転からの蹴り降ろしとぶつかり合うのだがそこで、ぐぅと唸るような声を上げ顔が歪んだのは出久だった。
「威力負けしたわね。フルカウル状態は強いけど、エンジンの勢いが乗ってる蹴りと相殺出来るほどじゃないでしょうに」
「脚大丈夫なんあれ!?」
芦戸の懸念通り、あの一撃で出久は右脚から嫌な感触が来たのを感じ取ってしまい、自身の選択のミスを悟る。あの場面では反撃ではなく回避を選ぶべきだったと。レイミィとの特訓でも速度が載った彼女の攻撃は防御しても痛かったというのに、エンジンという推進力を上乗せされている蹴りは冷静に考えなくても受けるべきではないと。
《開幕から激しい攻防!! かなりレベルの高い蹴り合いだとか、あの速さに当たり前のように反応してるとかイレイザー、オメェの所は本当にどういう教え方してんだよ!!》
《俺じゃねぇし、しらねぇよ。アイツラが自分で鍛えあってるってだけだろ》
(やらかした、右脚はまだ動くけどもう一度は出来ない……!!)
(まさか本当に対処してくるとは、残り8秒で行けるか!)
対して天哉もレシプロバーストの残り時間が8秒と少ないことに焦りを感じずにはいられなかった。本来であれば開幕のこの一瞬でダウンさせてからの場外を狙っていた彼からすれば反撃すらしてきた出久に驚きしかない。
だがいつまでも驚いている時間はないと再着地して推進力とレシプロバーストの速度を活かした蹴り技で攻め立てるべく再突撃をしてくる天哉に出久は冷静に彼の視線、脚の動きに力の入り具合を見極めその全てを回避ないし手で受け流していく姿に観客席は勿論、プレゼント・マイクの実況も熱が入る。
「うぉおおおお!!!」
(落ち着け、レシプロバーストは使った後にエンジンが止まる筈、攻めるのはそこからでいい耐えるんだ……!)
《捌く捌く!! 飯田の目にも止まらない嵐の蹴り技を緑谷は的確に捌いていく!!》
「んだ、あれ……」
「もしかして攻撃が全部見えてるのあれ、普通に受け流してるけどさ」
勝己が絞り出すような声を出し、耳郎が驚くような声をしてしまうのも無理はない。少し前までは素人だったはずの彼がステージ上でヒーロー一家の一人として訓練を受けていたはずの飯田の攻撃を本格的な武術の動きで捌いているを見せられているのだから。
何を仕込んだんだお前は。勝己の言葉にしないでも分かる視線にレイミィは試合から目を逸らさずに多々一言答えた、言ったでしょと。
「『何でも』よ」
「くっ……!?(しまった、時間切れだ!!!)」
《おっと、飯田の動きが急に悪くなったぞ!! いや、エンストかぁ!?》
《時間切れってことだろう。緑谷はそれを狙ってたからこそ開幕以外は反撃せずに攻撃をいなすことに集中してたわけだ》
「(今しかない!!)はぁあああ!!」
プスンという音とともに天哉の速度が一気に落ち込んだ隙を今の出久が見逃す筈もなく、10秒前とは打って変わり反撃に出る。だがその反撃の動き一つとっても素人のそれではなく武術を前から嗜んでましたと言われても頷けるような動き。
大本は血染の提案でサバットを主軸とはしているがそこに血染と被身子が持ち合わせている技術と彼自身が持っていた素質を伸ばすという方針を二週間で注ぎ込むだけ注ぎ込んだ結果、天哉相手にもこうして張り合えるくらいには成長するまでに至る。
「確かに言われると様々なものが混ざっていると分かりますが、それをああも違和感なく組み込んでしまうというのは……」
「そこは彼の才能と言うしかないわね。だからこそ私達も徹底的に仕込んだわけだし」
楽しかったわよ、教えたらすぐに組み込んで実戦に使ってくるのを見せられるのはと当時を思い出してか微笑みながら言われるがそれはつまり今後も更に成長の余地があるという他ならないことにその場の全員が気付き出久に視線を向けてしまう。
なお、その様々な技術と血染の殺人術も含まれていることは流石の彼女も黙っていることにした。もし言っただろうなるかなんて火を見るよりも明らかなので当然といえば当然なのだが。などと彼女が思っている間にも試合は出久優勢のまま進んでいく、天哉もエンジンが停まった状態とは言えそれでも攻撃を繰り出しているのだが、速度が乗らないそれでは彼に当てることも敵わずに逆にカウンターを貰う場面が増えていく。
「くっ、まだ、まだだ!!」
「(凄い、個性が使えない状態でもここまで粘ってくるなんてでも)これでええええ!!!」
「しまった!!?」
ステップを踏み、天哉の背後に回り込み、回り込まれたからだろう、彼が放った回し蹴りを掴み取ってから一本背負い投げ、ドンッ! と音を立てて天哉が投げられた先はステージのラインを超えた先、彼はそれを見て悔しそうに目を閉じてから
「……やるなぁ、緑谷くん」
「はぁ、はぁ、あ、ありがと飯田くん」
「飯田くん場外!! よって緑谷くん、三回戦進出です!!!」
《うぉおおおお!!! 緑谷、三回戦進出!! メチャクチャ熱い戦いだったぜ!!!》
時間にしておそらくは三分もないはずだと言うのに見るものにそれを感じさせない白熱として戦いに観客からも大歓声が響き渡る中、レイミィは分かってたとばかりに控え室に向かう。
向かう前に彼女は焦凍に一言告げていた、それは聞く人が聞けば傲慢とも言える言葉、だが彼にはそうとは聴こえずただこれから起きる事実を伝えてると感じ取れる内容。
「轟、直ぐに次の試合の準備しておきなさい」
「バートリー?」
「すぐに終わらすから」
すぐに終わらすから。それがどういう事なのか、それは第2回戦、第二試合であるレイミィ・バートリー対塩崎茨の開幕すぐに分かることだった。互いに語ることはないとばかりに無言でステージに上った両者、それは油断が全くできないからの態度であり塩崎は彼女を強敵と分かっていたからこそ開始と同時に個性で行動を制限しようとしていた。
だが、その認識は正しくもあり、それでも甘かったと言わざるを得なかったと彼女は知ることになる。START! の声が聞こえたと思った彼女が気付けばレイミィに抱えられ場外に居た。
「良いこと、瞬殺っていうのはこういう事を言うのよ」
「……え?」
《え、お、え? 塩崎がもう場外に!!!????》
バサッと羽根を折りたたむ音が聞こえ、状況を認識したミッドナイトがレイミィの三回戦進出を告げる声がしてやっと自身が負けたことに塩崎は分かった。
「悔しいですが、なるほど、最速は嘘ではなかったのですね」
「飯田みたいな推進力は無いけどね。貴女相手に時間かけたくなかったのよ」
レイミィ・バートリー、三回戦進出。つまり次の彼女の相手は緑谷出久ということになり、レイミィはふぅと溜息を吐き出して、さてどうしたものかと笑みを浮かべながら考えるのであった。
サブタイトルのネタが段々と苦しくなってきてる作者です。ちなみにレイミィちゃんの二回戦目を速攻したのは単純に話数圧縮のためです
便利屋メモ
実は塩崎戦でコンマ秒だけヴァンパイアプリンセスを使ってた