まさに瞬殺と言える二回戦目第二試合が終わり、次の第三試合が始まろうという所なのだが麗日は戻ってこないレイミィが気掛かりだった。彼女の相手だった塩崎は既にB組の観客席に戻っているというのにレイミィだけが戻ってきていない、何かあったのだろうかと。
「お手洗い、にしては長いよね」
「もしや、便利屋の方でなにかあったのではないか?」
「あぁ、かもしれないか。でもそろそろ轟くんと常闇くんの試合が始まっちゃうよ」
大丈夫かなと心配されている件の彼女はと言うと、あの試合の後に戻ろうとステージから廊下に戻った所で被身子と圧紘、そしてとある人物に呼ばれてスタジアムの奥にある一室に集まっていた。
パイプ椅子に深く座ったレイミィは自分をここに連れ込んだ人物に対してふぅと息を吐きだしてから、要件はだいたい予想できるけどと呟きつつ
「こうして顔を突き合わせるのは久し振りね、色男?」
「確かにそうだね、お嬢様、変わり無いようで安心したよ。それと悪いね、急に呼び出しちゃってさ」
人の良さそうな笑みを浮かべている彼はレイミィにとってのお上窓口であり何かとお世話になっているプロヒーロー【ホークス】その人である。彼が拠点である福岡から態々ここまで飛んできたということからなにか急ぎのようだということは理解でき、どうしたのかと聞いてみれば、ホークスは人差し指を口に持っていくポーズを取って
「ごめん、口ではちょっとね」
「はいはい、時間は」
「大体三十分前かな」
それだけを聞いてから自身の指から小さめのコウモリを生成、飛ばされたそれはホークスの肌から血を吸い取りレイミィの口へ。血を接種した彼女は目を閉じて映し出される記憶から読み取ったのはテーブルに置かれた一枚の紙、そこに書かれている内容を読み取り、目を開ける。
書かれていたのは30分だけ確保できたので雄英体育祭後に迎えに上がると言う内容。今しがたやったのは彼女がよくやる密談の手段であり、相手が紙などすぐに処分できる物に書かれたそれを記憶から読み取るというもの、普通に電話などを使うよりも機密性は格段に跳ね上がるので公安や協会、警察なども彼女のコレをよく利用するほどだ。
ともかく、レイミィとしては待ちに待っていた内容だけにクククッと嬉しさを隠せない笑いをしてからホークスに対して
「流石、速すぎる男。仕事の速さも一流なのは助かるわ」
「結構色々と根回しが大変だったけどね。公安も協会も君に作り過ぎた借りをさっさと返したいみたいで、割とすんなりだったよ」
「ふん、何も考えてない知らない子供だと思って使いすぎたツケよ」
もっとも、機密性の高さ故に彼らは当時まだ幼かった彼女を徹底的に利用し、レイミィも信頼と借りの稼ぎのためと従順を装って利用された結果。こうして彼女に自由を与え、更には多少の無茶も通さなければならないほどの借りが積み重なってしまっているのだが。
今回の彼女からの要望も本来であれば向こうは蹴りたい案件ではあるのだが、じゃあ蹴れるだけ自分たちが立場有利なのかと言われれば黙るしか無いという具合、なのでホークス曰く物凄く渋い顔をしながら許可の判を押してたとのこと。それを聞いていい気味よと吐き捨てるようなコメントにホークスだけではなく、被身子と圧紘も苦笑を浮かべるしか無い。
「それで圧紘と被身子も私になにかあるのでしょ? 言ってみなさい」
「じゃあそれは私から。副所長から『ターゲットと接触した』との連絡が入りました」
ピリッと急激に緊張を孕んだ空気に変わったことをホークスは肌で感じとった。つい先程までは生徒半分便利屋半分だった少女が今では便利屋モードに切り替わって、事態について聞こうという姿勢は雄英体育祭ではしゃいでいた少女と同一人物とは言われても思えないだろうと。
聞けば路地裏にてインゲニウムを襲撃し、彼が庇っていた子供ごと犯行に及ぼうとしていたムーンフィッシュを発見、これを割り込む事で阻止し共闘にて確保しようとするも相手は即座に撤退下とのことを聞き、レイミィの眉間に皺が寄る。
あのムーンフィッシュが戦いもせずに撤退? 曲げた左人差し指を口に当てて考え込むように目を瞑った状態で呟く、彼女の中でその行動はあまりに不可解でしか無く、ムーンフィッシュと言う人間の精神性を考えれば先ずありえないと言い切れるもの。
「そんなに不思議に思うことかな、ヤツだって捕まりたくないんだから勝てないと思えば撤退すると思うけど」
「撤退自体は不思議じゃない。けど、戦闘もせずに逃げたっていうのが不気味なの、ムーンフィッシュの精神性はそんなお利口なものじゃない、人体の断面を見たいから切断するっていうやりたいからやる、そんな子供みたいな思考を持ってる男なのよ」
だからこそたとえ数的不利だろうとも一度は戦いに入り、そこで勝てないと分かれば初めて逃げの一手を取るというのがムーンフィッシュと言う男。これは何もレイミィの推測だけではなく、彼の資料を読み解いてのプロファイリングであり、彼女としても間違ってないと豪語できる程度には精度を上げたものだ。
それを真っ向からぶん殴って否定してくるような行動にさしもの彼女も、もしかして読み間違えたかと考えてしまう。と、ここでステージから微かながらも観客の歓声が部屋にも届き、ホークスが話しすぎちゃったねと申し訳無さそうな声にレイミィは別に問題ないと割と素っ気ない答えに
「あれ、見に戻らなくていいの?」
「どうせ勝つのは轟と爆豪の二人よ。常闇も切島も強いけど流石に止められるほどじゃないと思ってるし、確認したいんだけどムーンフィッシュは血染と仁を見て撤退したで合ってるのよね?」
「そう聞いてます。あ、ただインゲニウムだけだったら戦ってたかもしれないと副所長が」
「ん? 待ってくれ、それはつまり君たちのことを知ってるからこそ撤退したってことにならないかい?」
ムーンフィッシュの行動は便利屋チェイテを知ってて、勝てないからの撤退にしか見えずホークスが思わずそう聞けば、レイミィもそうなるわよねと同意する。確かに便利屋の所長と所員のことはホームページでも見ればすぐに分かることであり、知ってても不思議ではない。
けれど撤退したとなるとこちらの能力を知っているのかもしれないということに繋がる。けれど、そうなると今度はそこがおかしい話になってしまうのだ。
「俺達の個性関連は可能な限り秘匿してて、特に
「でも知ってなきゃ、即撤退なんて動きは取れないわ。聞いてる感じだとまるで戦った瞬間に逃げれなくなると分かってたみたいじゃないの」
過去に言ったかもしれないが便利屋の個性は全員して初見殺しを得意としている。だからこそ各自の個性は世間に出回らないように立ち回っているし、特に
だと言うのにムーンフィッシュは二人の顔を見るなり撤退した。コレを疑問に思うなという方が難しい話であり、その後の行方を聞けば
「仁くんが分身を使って追ったみたいですけど、途中で痕跡が途絶えたみたいなんです」
「彼曰く、ある場所を境に忽然と姿を消した、らしい」
「……これ、思った以上に厄介かもしれないわ」
忽然と姿を晦ますような形で仁の人海戦術による追跡を振り払った。忽然と、その単語に彼女の中で嫌な予想が組み上がり始める、もしそうだとすれば彼女の言うように思ったよりも厄介なことになっているし、便利屋は最悪しばらくは保須市に出張り続けないといけないかもしれないと。
出された言葉にホークスがどういう事なのかと、もしかしてムーンフィッシュが忽然と姿を晦ましたカラクリが分かるのかいと問いかければ
「多分というかほぼ確定だけど、ムーンフィッシュは敵連合の配下になってるわ。あそこなら黒霧っていう転移系の個性持ちが居るし私達のことも知ってるから指示を出してたと考えれば辻褄が合う」
「なら、奴は連合からの指示で君たちを誘き出す、もしくは君たちの動きを確認したいためにってことかい?」
だとしたらまんまと嵌められた事になるわねとレイミィ。詳しい目的は分からないが、それでも向こうは自分たち便利屋を警戒しているのは確かだ、プロヒーローではないのでそういった部分からは情報が出てこない集団、それを確実に追うとなれば確かにこの手の手段は有効になる。
ともすればこの後の動きはどうしたものかと悩む、このまま依頼を継続させるか、或いは一度退かせて対策を考えるか。とは言っても受けた依頼は雄英体育祭が終わるまでの保須市の警邏である以上は中断させるのは難しい、軽く悩んでからレイミィが二人に出した指示はこうだ。
「圧紘、保須市の血染をここに呼び戻して。被身子、私に変身して保須市まで飛んでって頂戴」
「え、私が行くんですか!!??」
「圧紘に向かわせるには時間が掛かるでしょうが、いいから行く!」
「ぶー!!! うぅ、分かりましたよぉ」
「あはは、じゃあ副所長には連絡をしておくよ」
お願いと答えた所でホークスはこれからどうするのかと聞けば、この後のことがあるのでこのまま雄英体育祭を見ていくとのこと。それを聞いてからそう言えば、試合はどうなってるのだろうかと部屋のモニターをつければ爆豪対切島が行われている光景、どうやら焦凍と常闇の試合は終わり、彼女の予想通り焦凍の勝利で終わっている。
それはそれとして思ったよりも長話をしてしまったということでその場は解散、ホークスも周りにバレて騒がれない場所にいるからということ、圧紘は担当区域に戻りながら血染に連絡、被身子はぶーたれながらスタジアムを出て【レイミィ】に変身してから保須市に飛んでいくだろう。
まさか雄英体育祭中にこんな面倒なことになるとは思いもしなかった、そんな事を思いながらA組の観客席に戻れば
「あ、レイミィちゃん!! 今まで何処に? みんな心配してたよ」
「ごめんなさいね、ちょっと別件で立て込んじゃって」
別件。これでA組の全員は便利屋の方で何か合ったんだということを悟り、そっかとなる。よく見れば若干だが疲れている様子もあるので、焦凍と常闇の試合の間に戻れないほどに立て込んでいたのだろうというのがよく分かるほどだ。
「で、あぁやっぱり轟が勝ったのね」
「あぁ、悔しいがあの炎の輝きには黒影も相性が悪い……」
「騎馬戦で上鳴の放電で弱ってるように見えた、だから試してみたんだが予想が当たって助かった」
どうやら試合内容は初めこそは常闇の黒影による猛攻で優位に立つが焦凍が炎を全力で使い始めたことでその光で黒影が弱体化、逆に攻め切られて最後は凍結で降参という流れだったらしい。レイミィもまぁそうなるでしょうねと呟きながら勝己対切島に視線を向ける。
切島の硬化は勝己のカウンターからの爆破にも怯み一つしないほどの硬さ、その硬さを利用しての攻めの姿勢によって勝己は反撃もできずに回避を強いられている。
「かっちゃんが回避しか出来ないなんて」
「硬さだけはピカ一ね。けど、彼のことだから弱点だって見破ってそうだけど」
寧ろその弱点のために回避に専念しているとも見えなくはない。切島からの攻撃を避けつつも彼から目を逸らしていない勝己の姿にレイミィはそう感じざるを得なかった、まるでなにか一瞬だけでも生まれる綻びを見逃さないようにしているとも言える動きと視線、出久もそれに気付いたのか勝己ではなく切島に目を向けて【理解】をしてみようと試みる。
「……もしかして、硬化してるのは息を止めて発動させてるようなものなのかな」
「理由」
「えっと、切島くんはかなり体力に自信があるはず、なのに避け続けてるかっちゃんよりも攻撃してる切島くんの方が息が上がってきている様に見えた、から」
「ま、待ってくれ、あの爆破の中でそこまで見えたのかい緑谷くん!?」
う、うんと頷く彼に天哉も、周りも驚くしかなかった。レイミィだけは合格よと微笑んでた所で試合は動き出し、避け続けていた勝己が切島の攻撃に合わせて脇腹への再度カウンター爆破、今までであればよろけることもなかったはずの一撃だが今度は大きく『よろけた』
《ああー!! 効いたぁ!!??》
「これはもう決まったわね。硬化までに一発でも当てれれば尾白の時みたいに行けたんでしょうけど」
そう呟きながらグッと立ち上がる、見ればついさっき戻ってきたばかりだが次は自分の試合、そして相手は同じタイミングで立ち上がった彼、緑谷出久。
「あら、もう行くの?」
「それはバートリーさんもじゃないかな。多分もう、この試合はかっちゃんが攻め切ると思うから」
「あ、これってもしかして師弟対決ってやつでは!?」
そう言えばと言う感じの芦戸の言葉に確かにそうだわと笑いながら答え、勝己の勝利を告げるプレゼント・マイクの実況を背に二人は控え室に、そして数分後ステージの上で相対していた。
《さぁお前らついに準決勝だ!! ここまで圧倒的スピードで速攻試合、準決勝でもそれを見せてくれるのかい吸血姫!!! レイミィ・バートリー!!!!
「……ふぅ」
《初戦こそヒヤッとしたがそれ以降は堅実な戦いで着実にコマを進まてきた、まだ見せてない超パワーで圧倒的スピードをねじ伏せてみせるのか!! 緑谷出久!!!!》
「……」
不気味なほどに静かな二人、だが纏う空気は今までの試合とは比較にならないほどの何かを蓄えているのが誰にでも分かり自然と歓声が静まり返る中、レイミィが先に口を開いた。
「今日までの二週間、貴方には私にも喰らいつける程度の事は仕込んだつもりよ。だからこそ、私は貴方に負けるつもりはないわ」
「バートリーさんらしいね。でも僕も負けるつもりはない、僕が来たって示すためにも、二週間の特訓の成果が無駄じゃなかったってバートリーさんや赤黒さん、渡我さんに示すためにも」
言ってくれるじゃないのと構えるレイミィ。コレくらい言わないと後で文句言うでしょバートリーさんと苦笑しながら同じく構えを取る出久。
互いに笑ってはいるがその実、互いに簡単には勝てないと分かっているからこその笑みであり、そして……
《START!!!!》
「フルカウル5%!!!」
「疾っ!!!」
開始のゴングと同時に互いの拳がぶつかる音がスタジアムに響き渡った。
いよいよ雄英体育祭も終りが見え始めてるんやなって……いや、まだだなコレ(どっちだよ
便利屋メモ
保須市送りに成った被身子は仁に延々とそれを愚痴っているとか何とか