挨拶代わりの拳のぶつかり合い、コレに対する両者の反応はレイミィが苦しい顔をすることでどちらが優勢なのかをはっきりとさせる。
フルカウル5%、特訓での組手では個性の使用は無しでやってたので直に食らうのは今回が初めてであり、その一撃が思ったよりも重いと分かるや即座に反動を利用して距離を取り、右手を痛みを取るように払う。
「っ痛~、それで5%とか嘘でしょっ!!」
(来るっ!!)
《何だその動きってか見えねぇ!! 短く跳んでる感じの音が聴こえるんだが姿が見えなねぇぞおい!!》
《小刻みなステップとはまた違うな、ただ直線で動くんじゃなくて放物線を描くような動きでステージ上を飛び回ることで翻弄してるんだろうな》
タンッ! タンッ! タンッ! という音が絶え間なくステージ上の至る所から響くが姿は出久には捉えられない、居るのは分かるしそれが自分の隙を突くための撹乱だというのは今日までの組手で分かってはいるのだが問題があるとすれば、このパターンは今日始めて見たという点だろう。
今までとは違うパターンでの動き、確かに組手を通して殆どの動きを【理解】されているからやってくるだろうとは思っていた出久ではあるがだからといってここまでガラリと変えてくるようなことをしてきたレイミィには結構負けず嫌いだなぁ! という感想を思わず抱いてしまう。
「そぉれ!」
「っ!!」
数十、もしかしたら数百回のステップから彼女が現れたのは出久の眼の前、既に跳躍から繰り出された右の蹴り上げをバックステップで回避、直後にブォン! と強烈な風圧と共にそのまま半回転からの左足が振り下ろされたのを見て己の判断を間違えなくてよかったと軽く息を吐きだす。
もし防御を選んでいたら左の蹴りおろしで一撃を貰っていただろう。だがあくまで回避しただけ、出久が回避からの反撃をしようとする頃には彼女は既に間合いから抜け出した後であり、更に言えばまた不規則なステップの音、だが今度は短い撹乱からのしゃがんだ状態で現れたと思えば右アッパーカットが繰り出され、咄嗟に防ごうとする出久だったがスパン!! という何かに叩かれたような音ともに自身の身体が右側にたたらを踏む。
何が起きたと見ればしてやったりという表情のレイミィと私がやりましたと言わんばかりに動かされている彼女の左羽根、ようはアッパーカットを囮にして羽根で攻撃してきただけということなのだが出久にとっては盲点だったと言うしかなかった。
《アッパーカットからの左羽根のスラップが緑谷の頬をクリーンヒット!!! 凄まじく痛そうな音がスタジアム中に響き渡ったんだが、つか見てるだけの俺の左頬も痛くなってきた》
(抜かった! そりゃそうだ、羽根だって動かせるなら武器にしてきたって不思議じゃない!!)
早く体勢を整えないと連撃を貰うと足に力を入れ、直ぐに攻撃に備えるがレイミィは一撃だけを入れてまた距離を取るという動きに出久は向こうの狙いに気づくがプレゼント・マイクからは
《んん? 一撃入れたのに距離を離した? あのまま行けばチャンスだったじゃねぇか》
《緑谷には強烈な一撃がある。速さで勝ってるんだったらヒットアンドアウェイで削り続けたほうが合理的だという判断だろうな》
《なるほど!》
彼女の速さは天哉のレシプロバーストのように時間制限があるわけではなく自前の身体能力で繰り出されている代物、ならば無理して出久の間合いで殴り合いをしてカウンターを貰うリスクを負い続けるよりはこうして一撃入れては距離を離してのヒットアンドアウェイ戦法を徹底するほうが勝率が高い。
これがもし勝己や焦凍のように個性で中距離も遠距離も出来ますというのならば、或いは広範囲を一気に攻撃できますという術を持ってるのならば出来ないが
「デクのやつにはそういうのはねぇ、そこをあのコウモリ女は徹底的に突いてきてやがる」
「そっか、デクくんはこう、超パワーでのパンチとかだもんな」
「そこまでしてヒットアンドアウェイを徹底する必要あるのか、あいつ?」
ボソリと呟かれる焦凍の言葉、確かに出久の一撃は重くそれを連続で受ける危険性があるからの行動だというのは彼も理解できる、けれど一撃だけというのは疑問を覚えるし近寄りたくないのならばブラッドチェーンを使えばいいのではと続ければ、誰もがその技の存在を忘れていたとばかりの声を上げて
「そういや、どうして使ってねぇんだ?」
「レイミィさんの技は全てで血を消費してると聞いてます。それに鎖で縛ることで逆に力任せに引っ張られる危険性があり迂闊に使えないのでは?」
「でもグルグル巻きにしちゃえば良くないかなそれ」
間違いなくなにか考えがあるのだろうがそれが何なのかはわからない。手加減というわけでもないのは今繰り広げられている戦いからを見るにそれはない、今も三度目の出久が反応が間に合わない速度の確実にダメージを蓄積させている攻撃を放ってはまた距離を離している。
A組が覚えた疑問は開幕すぐに出久も抱えていた、だがすぐにまるで知らないパターンでの動きを【理解】するために思考を割いたため考える余裕がなかったがそれでも自身の身体には注意を払っており、だからこそレイミィも迂闊にブラッドチェーンを使えずに困っていた。
(流石に温存しすぎたわね。ブラッドチェーンを飛ばそうものなら直ぐに対処されるわコレ、仕方ないもう一度)
(撃ってこない、こないなら次で……来た!)てぇい!!!」
「あっぶな!!??」
《捉え、あああ!!! おっしい!! 拳は無情にも空振る!! 偶然か、それとも見切ったのか!!》
四度目の攻撃、まだ行けると踏んでいたバートリーは己の見立ての甘さに苦笑するしかなかった。正面に着地後にスライドするように左側面に最速で回り込んだ彼女を迎えた出久の裏拳を咄嗟に回避したのはいいのだが、今の動きはプレゼント・マイクの言うような偶然ではなく、見切り始めている、もっと言えば【理解】が完了し始めているもの。
かと言って足を止めるわけにもいかない彼女はすぐに動き出すが、対する出久は先程までの焦っているという感じはなくどっしりと構えて反撃の準備を整えている姿に保須市から呼び戻された血染が圧紘の隣に立ち
「バートリーのやつ、攻めあぐね始めてるな」
「おかえり血染、さっきまではガンガンに攻めてたんだけどね。多分、彼の反応が追いつき始めて困り始めたってところかな」
遊ぶからだと試合を見ながら吐き捨てる血染だが、その目は決してレイミィが遊んでいたとは思ってはいない、寧ろ彼女としては出久相手に最適解の戦法を選んだはずであり、その上から彼女を攻めあぐねさせていると言う事に思わず鼻が高くなってしまいそうになる。
「(四度目で反応してくるのはちょっと想定外だけど、ならまぁこうするしかないか)ブラッドチェーン!」
(来た、けど直接は当ててこないはず、見極めろ。バートリーさんなら速度に物を言わせつつ何処に撃って布石にしてくるか【理解】出来てるはずだ!)
自身に飛んでくる視線を利用した行動予測、彼だからこそ出来る手段を最大限利用し自分への鎖なのか、それともブラフなのかを随時判断していくがこれだけではまたジリ貧に近い状況も戻されてしまう。
出久もそれは理解しているしレイミィの狙いもそれであろうことは今日までの組手を通して理解している。ならばどうするか、自分が相手を【理解】していると同じようにレイミィも組手で自分の手札を知り尽くしている、と思っているはずだ。
(チャンスは一度、焦るなよ僕)
唯一見せていない札を彼は持っていた。特訓が休みになった雄英体育祭までの2日間でオールマイトに聞き見てもらった彼女たちも知らない切り札、もし使って倒しきれなければ負けるのは目に見えているからこそこのときまで出すことが出来なかった技。
音が四方八方から響く、ステップの音、鎖が飛びステージに突き刺さる音、それを利用し反動で更に加速したような風切り音、翻弄するようにそして詰将棋のように自分を追い込むように動き回るレイミィに対して慌てずにその瞬間を狙う。
「あの状況で落ち着いてられるとかすげーな緑谷」
「私だったらもうパニックだよ~」
「そんくらい慣れてるってことだよな、どんな特訓を受けてたんだアイツ」
後に聞けば出久の目から光が消えることを彼らは知らないという話は置いておき。膠着状態が続いて一分、互いに攻めることも出来ずに様子見のような時間が過ぎた辺りでこのままじゃ埒が明かないかとレイミィが動き出す。
《真紅の鎖が緑谷に襲い掛かる、その数ざっと10本!! コレをどう凌ぐ緑谷!!》
(コレは全部ブラフ、本命は……ここ!!)
「っああもう、これも合わせてくるっ!!??」
襲い掛かる10本の鎖の隙間を最小限の動きで回避、その後に強襲し、レイミィに対して出久は切り札を切ることを決断、バチッと身体中を走る緑のプラズマの勢いが増したと思えば彼の姿はレイミィの反応を一瞬でも超える速度で眼の前に来ていた事に彼女は驚愕することになる。
明らかに先程までの動きとは違う、ついでに言えば走ってるプラズマもなんか強くなってると。そんな風に一瞬の出来事に驚いてしまったが動きを止めるということはなく、来るならそれでと勢いそのままに振り下ろした蹴り、5%の状態であれば防御したとしても膠着が発生するはずのそれに出久が選んでのは全力の右アッパーカットによる迎撃。
蹴りと拳、開幕と違い拳と拳ではない分レイミィがまだ有利かと思われた衝突は彼女が大きく弾かれたことで覆された。しかもコレが均衡してからのではなく、一瞬の衝突で明らかな力負けという形での弾かれ方に驚きを隠せないという表情で出久を見る。
「っ!?(違う、これは5%じゃない!!)」
「フルカウル……10%!! 捕まえたよ、バートリーさん!!」
「やってくれるわね貴方は本当に!!」
セリフには余裕がありそうだが実際には殆ど無い。弾かれた僅かな膠着を見逃さなかった出久は瞬時に一歩前に出て彼女のもう片方の脚を掴まれており、その手を退かそうと言う動きすら許さない勢いと速さで彼お得意の一本背負いが炸裂、久しく感じてなかった身体中を叩きつけられる感覚に肺から空気を吐き出しながら懐かしい痛みだと、呑気なことを思ってしまう。
《決まったあああ!! これは相当なダメージが入っちまったんじゃねぇか!!》
「(ここから三分、一気に畳み掛けて終わらせないと負ける!!)はあああ!!」
「かはっ、ごほっ、ちぃ!!」
追撃の右拳の振り下ろしを転がることで回避、立ち上がるがそこまでの隙で詰めてきた出久にジャージの裾を捕まれレイミィは苦しい表情から抜け出せない、5から10に出力を上げただけでこうも変わるのかと、仮にそうだとしたらOFAの出力バグってるでしょと声に出して叫びたいくらいだと。
緑谷出久がフルカウル10%を会得したのは上記に書いたように雄英体育祭までの2日間、それもオールマイトに話を聞きほんの僅かな時間だけ可能かどうかを実際に行っただけのほぼ一発勝負、曰く
『個性の調整がそこまで上手くなって身体もあれから仕上がってきている。ならば今の緑谷少年ならば10%も可能だろう、ただ……』
『ただ?』
『今のを見た感じでは恐らくは三分が限界だ。仕上がってるとは言え5%のように常時は難しいだろう、それほどには出力が二倍に上がるという意味は大きい、だから使うとしても切り札にしておくべきだね』
オールマイトの言葉通りだと出久は全能感とも言える能力の向上をコントロールしながらレイミィに迫りつつ思う。プリンセスを発動してないとは言え、ほぼ全力を出しているレイミィに追いついている時点で色々と驚くしか無いし、迫られている側も巫山戯るなと言いたくなっている。
「あぁもう、こっの!!」
「くぅ、まだまだぁ!!」
「ちょっ!!???」
《飛ばしてきた鎖を引き寄せて殴り合いだぁあああ!!! 唐突に始まったチェーンデスマッチとも言える凄まじい殴り合い、どっちが、どっちが最後に立ってられるのか!!》
掴まれたジャージを咄嗟に脱ぎ捨て、間合いを空けすかさずブラッドチェーンを撃ち出すがそれを逆に掴まれ引き寄せられたことで再度殴り合いに、レイミィもここまで来たら下手に逃げを考えるよりも殴り倒すという思考で手数で殴り合いに付き合うことに。
もし、レイミィが本気で勝とうというのならば無理にでも距離を離すべきだろう。だが忘れてはいけない、雄英体育祭という青春のお祭りを楽しみたいという状況になっている彼女が逃げて勝って楽しいだろうか、いや、楽しくないと言えるくらいにはブレーキが無いということを。
つまり何が言いたいのかと言えば、全ての答えはこの盛り上がっている戦いを見ている血染の呆れた一言が全てだろう。
「あの阿呆、自分が知らない手札で一泡吹かせたもんだから楽しくなって勝敗がどうでも良くなりやがったな」
「所長らしいって言えばらしいけどね。あぁ、でも顔に痕とか残ると困るから終わったらリカバリーガールの所へ行ってくれるとおじさんは嬉しいかな」
《バートリーダウン、遂に片膝を突いた!!!! 良いのが腹に決まったか!?》
「はぁ、はぁ、はぁ」
「ゴホッ、ああもう(プリンセス使おうかしら、いや、うーん……)」
使えば勝てるだろう、けれどそれは何と言うか流石に大人気なさすぎるわよね。と笑みを浮かべてからゴロンと仰向けに倒れ、はぁと息を吐きだしてから
「緑谷、負けたわ……降参よ」
「バートリーさん、降参!!! よって緑谷くん、決勝進出です!!」
「っっ!!!!」
出久の声にならない喜びの声と自分と彼を称える大歓声を聞きながら、あぁでも悔しいわねコレと笑うレイミィであった。
速さ自慢なのにフルカウル10%でもう追いつかれるんですかとか書きながら思ってたり、多分今後もレイミィちゃんは一対一だと引き分けか黒星かを重ねるんじゃないんですかね知らんけど
あと、これは私事なのですが。恐らく近い内に、早ければ明日には日刊が途切れると思います。理由はまぁその、ネタ出しが厳しくなったってやつですね……許してヒヤシンス。
便利屋メモ
試合後、互いに顔中をボコボコになってる姿にリカバリーガールに呆れられたとか何とか。