便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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この便利屋、下手に敵に回すと段々と面倒になってきてるな疑惑


No.55『意訳 貴女が欲しい』

 ホークスが用意した車に乗り込み、彼女たちは目的地へと向かっている途中。助手席に座っていた彼から今日の雄英体育祭に付いての話題を触れられることになる。

 

「ところで、表彰式には出なくてよかったのかい? 別にそれくらいの時間だったら大丈夫だったんだけど」

 

「オールマイトがサプライズで出てくるあれに? 嫌よ、私別に彼からメダルを貰う趣味ないし」

 

「……お嬢様、本当にオールマイトが嫌いなんだねぇ」

 

「こいつのは過剰だろ、( ヴィラン)でもないし逆張りって性格でもないがここまでアイツを嫌うのは中々居ないぞ」

 

 嫌いなもんは嫌いなんだから仕方ないでしょうがと窓から視線を外さずに告げる彼女に苦笑するしかないホークスと血染。因みに運転手は彼、というよりは公安が用意した一般職員であり彼女のその言動に眉を顰めてたりするが関わってこないので割愛しよう。

 

 とは言いつつも、彼女も出れば良かっただろうかとは思わなくはない、ないのだがオールマイトが何を口走るか分かったものじゃないという懸念があったというのも同時に存在する。流石にテレビ放映されてるのであのヒーローも考えてはくれるだろうが、うっかりの気質があるオールマイトがもし変なことを、そう例えば

 

「私に学生以上の実戦経験がある的なことを口走られると面倒になるのよね、絶対に」

 

「あ~、言うか言わないかで言えば、確かに言いそうだねぇ」

 

 便利屋という単語を出さないだけ褒めれるかもしれない。エンデヴァーに対してもだが、オールマイトにも割と容赦ない言い様であるが、まだ面と向かって普通に会話ができるだけオールマイトのことは嫌ってこそいるが、エンデヴァー相手みたく顔も見たくないふざけんなお前というレベルでは無いだけ遥かにマシである。

 

 そんな出だしから始まった雄英体育祭の話題、続けて出るのは準決勝の話。そこでレイミィの顔が引き攣った、窓に顔を向けているので二人にはバレてないが間違いなく言われると、主にブラッドチェーンの扱い方で血染からと思っていれば予想通り。

 

「バートリー、お前どうして途中で殴り合いに移行した。ブラッドチェーンを利用すればどうとでも有利は取れただろ」

 

「え~、あ~、折角の祭りに逃げ一辺倒はつまらないなぁって思っちゃったのよ。それにフルカウル10%なんて私の知らないのを出されたから、こう、彼の得意距離で付き合ってもいいかなって」

 

「アハハハ、お嬢様らしいね。でも彼に付き合ったとは言え、それで殴り合えるんだから彼、えっと、緑谷くんも凄い優秀なんだね」

 

「あいつはこのまま成長していけば間違いなく、上位に食い込めるポテンシャルはあるからな」

 

 それはそれとしてまだ未熟だったりの部分は多いがなと彼にしては珍しいくらいに語る姿にレイミィもホークスも本当に気に入ってるんだなぁと感想を抱く、口にしないのはした場合の展開が面倒だからに過ぎない。

 

 また決勝での彼の異質さも血染は感じ取っていたらしく、どうしたものと思いつつも結局、それが緑谷出久と言う人間ならば下手に手を出さないほうが良いだろうと言うことで決めたらしい。

 

「さて、もう少し雑談をしたいけど一度、本題に入ろうか。バートリーちゃん、これから向かう所は分かってるよね?」

 

「えぇ、勿論。貴方のオススメの焼き鳥屋って冗談だから、その目は止めて血染……はぁ、タルタロスでしょ?」

 

 睨み殺さんとばかりの視線を受けてレイミィは肩を竦めながら答えれば、ホークスはバックミラー越しにそれを見て苦笑するも直ぐに真剣な表情に戻し、声もまた仕事の時のに切り替えて彼女たちへ概要の説明を始める。

 

「今回、便利屋が指名した人物との面談は30分。それが公安及び協会が用意できた時間、それ以上の延長は一切認めないし今回でスカウトの話が破談したら今後は会えないと考えて欲しいとのこと」

 

「一時間じゃない所にお上の悪足掻きを感じるわね。余程、ウチに引き入れられると困るみたいねそっちは」

 

「まぁうん、だろうねって感じなんだけど。そしてスカウトに成功した場合、公安から便利屋へ出される条件が『AFOの捕縛及び排除』、コレが飲めないという場合はこの面談は即刻破棄になるから、そうなら今言ってほしいかな」

 

「言わないわよ、期限は?」

 

「君が雄英高校を卒業するまで」

 

 素晴らしい無茶振りにレイミィは思わず笑い出し、血染はやれやれという感じに眉間を揉む。普通に考えれば出来ないということは向こうだって分かっているだろうにと言葉にしつつ、そんな事を言うってことはと彼女はこう指摘を返す。

 

「ヒーロー連中じゃ出来ませんって公言してるようなものじゃなくて?」

 

「どうだろ、もしかしたら俺達ヒーローが先に捕まえたら契約不履行ってことにしたいのかもよ?」

 

 狡いマネするわねと口から出てしまうのも無理はないだろう。仮に引き入れても何とかして件の人物をタルタロスと言う闇に葬り去りたいという思惑が見え隠れしていることに疲れたようなため息を吐き出してしまう。

 

 だから、この社会が段々と狂い始めるんじゃないかと。臭いものに蓋をする、確かにそうすることで今の社会の平和を維持できていただろう、けれどそれはもう限界に来ているということを自分ですら分かるのにお上が分かってないはずないだろうにと。

 

「舐めたマネしてくれるわよね本当に。受けて立とうじゃないの、そしてとことん後悔すると良いわ、便利屋チェイテを甘く見たことをね」

 

 鋭く冷たい視線と言葉がホークスと公安の運転手に突き刺さり車内が沈黙に包まれる。なんてことがあったのが数時間前、では現在の彼女たちはと言うと5kmに及ぶ本島から伸びた橋を渡り、既に目的地のタルタロスに到着、唯一の出入り口である門の前で待機していた。

 

 先にホークスが向かい手続きなどを済ましてくるとのことで、暇つぶしに外を眺めているのだが、窓から見える範囲でも厳重を通り越した、まるで現代の要塞とも言える絶対の牢獄という造形を眺めてレイミィは、これでも過剰と言えない現代が恐ろしいわねとボソリと呟く。

 

「あまりキョロキョロするなよバートリー」

 

「しないってば、てか長いわね……」

 

「おまたせ、じゃ案内するから付いてきてよ」

 

 数十分程度経った所でホークスからの呼び出しの声がかかり、やっとかと思いながら車を降りた二人はそのまま彼の後ろを歩いていきタルタロス内に入っていくことに。

 

 内部もまた厳重な作りであり同時に外以上に重々しいと思わせる空気を感じ取りながら面会室の前に到着、少し待っててと言われ部屋の中に入っていったホークスを見送り、ふぅと息を吐き出す。車内であそこまで言ったが彼女は確実に成功するとは思っていない、だが失敗も出来ないというスカウトに軽くだが緊張していると、ポンッと血染が彼女の肩に手を乗せ。

 

「お前なら大丈夫だろ。あの日、俺を誘ったあの時の目をしたお前ならな」

 

「……ふふっ、ありがと」

 

 彼なりの励ましに軽く笑った所で入室許可が降り、目も表情も纏う雰囲気も、全てを便利屋チェイテ所長としてのものに切り替えてから堂々と扉を開け面会室へと足を踏み入れれば、そこに居たのは真剣な表情のホークス、そして仕切りの向こう側に囚人服を来た一人の女性の姿だった。

 

 その女性がレイミィを見た時、思わず笑わなかっただけ褒めて欲しいと本気で思った。牢獄で腐るように過ごしていた自分に話がある人物が来ていると言われ、連れてこられたここで、始めはホークスがと思った彼女だが

 

『いや、俺じゃない。今外で待たせてる人物が君に話がある』

 

『はぁ? じゃあ早く入れろよ。さっさと戻って寝たいんだ私は』

 

 どうせ、公安とかだろと高を括っていたが入室してきたのは抜き身の刃みたいな雰囲気男。こっちはまだいい、寧ろひりつく様な感触には心地良さすら覚えそうになっていた。

 

 問題はもう一人だとそっちを見る。居るのは深紅の髪の少女、雰囲気だけを言えば大人顔負けとも言えなくは無さそうだが着ているのが雄英の制服、これに彼女は鼻で笑ってから

 

「ガキが何の用だってんだ、サインでも欲しいって言うなら書いてやるからさっさと帰れ」

 

「あら、サインをくれるの? それは願ってもない申し出だけど、先ずは話を聞いた方が良いんじゃなくて、【レディ·ナガン】、いえ【筒美 火伊那】?」

 

 ここに来て、己が現場から離れ鈍っていたことを悟る。そもそもこんな所に来るような子供が普通な訳がなく、何よりも目の前の少女もといレイミィの目を見て火伊那は寒気すら覚えた。

 

 狂気だ。それもとびっきりに濃いと言えるほどの狂気の色をした目を15歳の少女がしておきながら狂っていないということに言葉を失い、彼女が着席した音でやっと我に返って

 

「お前、何者だ。どこからの差し金だ、公安か? 協会か? それとも政府か?」

 

「そうね、時間はあまりないけど自己紹介は大事よね。私はレイミィ・バートリー、便利屋チェイテの所長を務めてるわ。それであっちが副所長の赤黒血染よ」

 

 便利屋、聞き慣れない単語に眉をひそめる。ヴィジランテとかとは違うらしく、ヒーローと言うわけでもない、そもそも火伊那から見たレイミィはヒーローを目指すような目ですらない。

 

 だからこそ、向こうが何のために自分に会いに来たのかが分からずに警戒を強めてしまえば、レイミィはそれに驚いたように、だがすぐに納得した感じに頷いてから

 

「別に貴方に悪い話がとかじゃないわ。時間も短いし単刀直入に言わせてもらうと便利屋に貴方をスカウトしに来たのよ」

 

「……はぁ?」

 

 思わずそんな声を出してしまった火伊那を責めれるものは誰も居ないだろう。タルタロスと言う一度入れば出てこれないと言われるようなところに居る自分をスカウトしに来たと言われればそうもなろう。

 

 しかも本気だというのが手に取るような声と表情だというのも彼女の困惑を強める要因になっている。続けて、少し待ってくれと急に頭痛を感じ始めた頭を片手で抑えながら、ふぅと息を整え

 

「(正気、な訳ねぇか。だが狂ってるって感じもしねぇ)どうして私なんだ?」

 

「貴女の狙撃手として腕とか個性とかまぁ色々とあるけど、大きいのはこの今の社会を嫌ってるから、白と黒しか認めない許さない、そしてそれを維持しようとする歪な社会を認めてないから」

 

 だからこそ私は貴女を迎えたいと思ってここに来た。真っ直ぐな狂気の瞳で、正気のまま出された言葉に火伊那は判断に困ったと同時に、この少女が面白いとも思えてきた。

 

 その年で偽り(ハリボテ)の社会を認識し、あまつさえ反旗を翻そうともしていることに、その手段がなぜ便利屋なのかはまだ分かっていないが……

 

「そうそう言い忘れてたわ、因みに今の社会を壊す方法は真っ当なものよ? 便利屋が社会に認知されるくらいに実績を積み続けるそれだけ、信頼は実績から生まれるっていうでしょ?」

 

「あぁ、そうかい」

 

 思い出したかのようにパンっと手を叩いてからされた説明を受けて火伊那は疲れたような息が出てきてしまった。見れば血染も同じような動きをしているので話の振り方が急すぎるだろと思われているらしい、彼とは仲良くやれそうだと別に入ると決めたわけでもないのそんな事を思ってしまう。

 

 実績から信頼が生まれ、それを利用し職業ヒーローを自分たちと同じ立ち位置に落とす。そのうえで個性の使用をヒーローだけの特権じゃなくし、等など云々を説明していくが結局のところ、コレに繋がる。

 

「偽りでヒーロー社会を塗り固めようって言うなら、私たち便利屋がそこに楔を打ち込んで社会に変革をもたらす。悪いようには絶対にしないし不本意な殺しもさせない、何かがあれば私が全て泥をかぶって見せる」

 

 だからそのために筒美火伊那、あなたに来てもらいたいの。言葉で心が動いたのは何時ぶりだっただろうかと彼女はレイミィを見つめ、己の右手に視線を下ろす、映るのは血で濡れた右手、忌々しいそれを見ながら

 

「数え切れないほどに人を殺したし公安だって黙ってないだろ、それでも私を迎えようってのか?」

 

「はんっ、それが何だっての。寧ろ公安は私にまだ借りがたんまり残ってて頭を下げる側よ、それに殺しって言うなら……私だって同じ、人数なんて関係ないわ」

 

 だから灰色に居るんだし。と先程までとは違う弱々しい年相応な声を聞き、あぁ、こいつもまだ子供な部分はあるんだなと何故か安堵してしまう、それと公安が頭を下げる側という言葉にふぅんと反応を示してから

 

「それって、私が入っても変わらないってことで良いのか?」

 

「えぇ、なんだったら協会も警察も同じよ。伊達に便利屋やってないわよ、私たちは」

 

 あぁ、参ったなと火伊那は笑う。まだ15分ちょいしか話していない初対面の少女だったというのに、もう絆されているのが分かってしまったから、もしかしたら彼女自身のカリスマというものなのかもしれない。

 

 けれどそれが不快だと感じない。もしかしたら狂気の瞳をしておきながらここまで正気で物事を見ている彼女に、惹かれたとも言うのかもしれず、だからこそ火伊那はレイミィを見据え答える。

 

「そこまで生意気なこと言えるんだったら近くで見せてくれるか? まぁそれでダメそうだったらお前の頭を打ち抜いてここに帰ってくるだけだ」

 

「ふふっ、その脅しは副所長からも受けてるから安心して頂戴。じゃ、交渉成立ってことで、ホークス文句ないわよね?」

 

「あ~、うん、うん、じゃあそれで公安には伝えておく、ね?」

 

 顔だけを向けてにこやかな笑顔で聞けば、微笑を浮かべたまま胃を擦る彼の姿に珍しいものを見たとばかりに笑う火伊那。それから血染の方に目を向け、何も言わないけどそっちは良いのかと聞けば

 

「バートリーが決めたってんなら口は挟まん。それに俺としても来てもらえると助かるのは確かだしな」

 

 今まで居なかった大人の女性、それが一人でも入るというのは便利屋としても依頼の幅が広がる。本来ならば便利屋について詳しい話をしたいところだが時間も残り少ないということで続きはタルタロスから出てきてからということに。

 

 そこで、スカウトしたは良いけど彼女は何時出れるのかという問題に気付き、ホークスに聞いてみれば今度はかなり自然な笑みを浮かべたまま

 

「実を言うと成功すると思っててさ、明後日には出れるように手配しておいてるんだよね」

 

「じゃあなんでさっきは、あんな態度取ったのよ」

 

「いや、いざ成功を目の当たりにしたらこう、来るものがあった」

 

 主にこれを公安に伝えるということがとても辛いとのこと。それは知ったことではないレイミィはそれでも明後日かと若干不満だという態度を見せてから火伊那に、これからよろしくお願いするわと言ってから

 

「それはそれとして、ごめんなさいね。本当だったら即日が理想だったのだけれど」

 

「仕方ねぇよ。私を外に出すってことはそれだけ公安にとってヤバいってことは理解してるつもりだし」

 

「普通に考えたら、帰りに俺達が消されても不思議じゃねぇんだよな」

 

 その場合はこの社会ごと自爆するしかないわねと笑い話にならないことを微笑みながら口にされ、ホークスとしては反応に困るという感じの笑みを浮かべるしかない。

 

 仮にやるかやらないかで言えば、やる。やれなくは無いが、便利屋が作ってしまった実績がそれを実行するのを邪魔してしまっているのも事実、つまりは彼女たちの今回のスカウトは成功したとしても見逃すしか選択肢がないのだ。

 

「(救いは彼女が善側の人間であるってことだよね~)じゃあ、とりあえず帰ろうか」

 

「はいはい、それじゃ火伊那、また明後日迎えに来るわ」

 

「ドタキャンは止めてくれよ、所長さん?」

 

 その言葉にするわけ無いじゃないと言わんばかりの笑みを返してから面会室を出ていく、続けて血染も彼女に軽く頭を下げ退室し、最後にホークスが

 

「一つ聞きたいんだけど、なんでスカウトを受けたのかな。貴女ほどの人間だったら危ない橋は渡らないと思ったんだけど」

 

「……狂気しか込められてない目のくせして、今の社会に真っ向から挑める精神をしてるのが気に入った、それだけだ」

 

「ふぅん、そう言えば副所長も同じこと言ってたかな。だとしたら便利屋に居る面々は皆してあの目に惹かれた集まりってことか」

 

 納得したように呟いてからホークスは、それじゃと出ていくのを見送り自身も看守に連れられて自身のあと2日間しか居ない独居房に入ってから床に寝転がり天井を眺め

 

「ったく、今思い出しても生意気なことしか言ってねぇガキだったな」

 

 何でスカウト受けちまったんだかと言葉にしながら顔はここに来てから今までないくらいに穏やかな表情で彼女は思う。どうか、自分の目に狂いがありませんようにと、レイミィ・バートリーの言葉に嘘がありませんように、と。




 はい(はいじゃないが)ということでなんかこう上手く話が書けなかったですがレディ・ナガンもとい筒美火伊那さん参入です!

 因みに昨日の更新がなかったのはウマ娘の生放送を見て、情報量で殴られて満足して寝ちゃったからです(ガバ)

 それと今後なのですが基本的に水曜日は更新が無いと思われます、すみません……まぁなんとか筆が乗ったら更新するかもしれませんが……

便利屋メモ
ホークス、残業確定
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