便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

56 / 190
長かった雄英体育祭編の締めです


No.56『デブリーフィング便利屋』

 タルタロスからまた時間を掛け帰宅途中、その車内ではスカウトが大成功し上機嫌な様子で窓から外を眺めているレイミィ、深く座り腕を組んで目を瞑っている血染の二人をバックミラーで見つつホークスが口を開く。

 

「それにしても、本当に引き込んじゃうなんてね。俺もいざとなったら便利屋に転職しようかなぁ」

 

「あら、歓迎するわよ? もっともお上が貴方を離してくれるとは思えないけど」

 

「そもそも貴様を引き抜いたとなれば流石にいい顔はされんだろうがな」

 

 この時、二人は気付いてないが声が本気のそれだったので運転手は若干頬を引き攣らせてた模様。とは言ってもホークスは確かに本気ではあるが、彼自身はヒーローに嫌気を感じてるなどはないので、転職はないだろう。

 

 それはそれとして、レイミィの窓口は増やしてくれないかなとは思っているが、現実はNo.3ヒーローにも優しくはない模様。コレは彼らが知る由もないがその窓口役のお陰で彼の未来が一つ変わってるとかなんとか。

 

 とりあえず、今日はこのまま事務所まで送るということで車は便利屋まで走ることに。道中で適当な雑談こそあったが逆に言えばそれだけであり、内容は割愛とさせし場面は便利屋のビル前に車が到着し二人が降りたところになる。

 

「助かったわ、それと今回の件は本当に感謝してる。お陰で雄英からの依頼も無事に遂行できるための手札が増えたし」

 

「それなら胃を痛くした甲斐があったよ。じゃあ、明後日に迎えに来るからそのつもりで」

 

「その時は俺が同行できるか分からんな……最悪、バートリーだけで向かうことになるが構わないか?」

 

「大丈夫大丈夫、あぁそうだ、今回のことは出来ればお嬢様から雄英に伝えておいてほしいかな」

 

 向こうとしても便利屋に一人増えたということは知っておくべきだろうから、レイミィとしても初めからそのつもりだったので当然だと頷く。

 

 ただここで気をつけなければならないのが火伊那の個性は時が来るまで徹底して隠す必要があるということ。今日彼女を迎えることに成功したということは敵連合の面々にはまだ自分たちには遠距離からの攻撃手段がない組織だと思われているはずだと。

 

 ならばその優位を有効に活用しなければ、AFOの捕縛すら難しくなるだろう。しかも何が問題かと言えば、火伊那が何処まで世間的に有名なのかという部分もある、少なくともレディ・ナガンと名乗らせるのマズい事案だというのは分かると難しい顔をしていると

 

「大丈夫かい、お嬢様、何か悩み事かな?」

 

「火伊那の変装云々でちょっと悩んだってだけよ。あまり窮屈なことはさせたくはないなぁって」

 

「レディ・ナガンのニュースは世間にも大々的にニュースになってる。だがそれも10年以上は前のニュースだ、多少の変装し【レディ・ナガン】と名乗らせないだけでも問題ないとは俺は思う」

 

 それでも彼女をスカウトすることは止めなかったし、今もやっぱ無しとは言わないのが彼女の美徳かもしれないとレイミィを見つめてから

 

「じゃ、俺も帰るよ」

 

「っと、そうね、重ね重ねになるけど今日の件、本当にありがとう」

 

 こっちも借りの返済のためだよと返し、ホークスを乗せた車は発進、車が見えなくなるまで見送ってから二人も便利屋へと帰っていく。その姿を車内のバックミラーで見てからホークスは隣の運転手の方を見ないまま、まるで上司を相手にしているように改まった態度を取ってから

 

「……ふぅ、あの様子ならバレてないようですね」

 

「そのようですね。私の演技もまだ捨てたものではないということですか」

 

「いや、流石に誰も思わないと思いますよ。公安の会長が運転手に化けてるなんてことは」

 

 引き攣った顔のホークスの言葉に運転手、【会長】である熟年の女性がそう返す。返されたホークスとしてはこの人ってこんなんだったっけなと思いつつ、彼女がここまでの事をしてレイミィに近付いた理由には察しが付いていた。

 

 レイミィ・バートリー、元公安の孤児院預かりであり将来的には公安直属のヒーローとして活動してもらおうと彼女自身が目を付けていた少女。だが蓋を開けてみれば自分たちを徹底的に利用し便利屋の開業と個性の使用許可をほぼ脅す形で認めさせられたという存在。もっとも脅したのはその時だけであり、被害も一度目を蹴った際に不正やらが世間などにリークされ責任を取らされた予てより怪しまれていた幹部数人だけ、それ以降は依頼という形であれば公安にも協会にも協力してくれるビジネスパートナーのような関係になっているのだが。

 

 そんな彼女から飛んできたタルタロスに居るレディ・ナガンとの面会及びスカウトの許可、これには公安内部は荒れに荒れたものだと今でも思い出せる。だからこそ彼女自身が変装し見定めるという手段を取ることに、そんな公安の会長という闇を知っている彼女から見てもレイミィという少女に内部が危惧するような物は感じられないと思えた。

 

「良いんですか、彼女を便利屋に入れちゃって。コレに反対してた連中、かなり五月蝿くなりますけど」

 

「えぇ、それが彼女との契約ですから。それに我々が思っている以上に彼女は善側ですから彼らが危惧するようなことは起きないでしょう」

 

 本来であれば白の住人だった筈が母親殺しという咎と路地裏に捨てられたという事実、血から得た知識とそれに伴った精神の成熟が合わさり自身を灰色の住人と題しているが彼女自身が善人だというのは今日までの活動がはっきりと証明している。

 

 ヒーローではないからこその世のため人のためという活動、最早それは公安も協会も無視できるものではなくなっており、だからこそ便利屋チェイテを危惧し便利屋そのものを人質に雄英高校と言う監視できる場所へと入れたのだから。とは言ってもこれを押し進めたのは彼女に弱みを握られている者たちや派閥、しかも会長初めとした一部職員幹部からは逆に目を付けられている黒の者たち。

 

「それに騒ぐなら騒いでもらったほうが我々としても対処がしやすい。自分たちが探られれば困るようなことを抱えていると言ってくれてるようなものですから」

 

「まぁ、レディ・ナガンに関しては公安って組織そのものが危うくなるからってのもあると思いますけど……」

 

 なにせ、彼女は公安の闇そのものだ。出てくる情報のどれか一つでも利用されようものならば即座にヒーロー社会そのものを手軽にぶっ壊せてしまう、だからこそ反対だという話は山のように出てきていたし、便利屋を取り潰すべきだという声もホークスは一応の納得はできなくはないとも思っている。

 

 思っているだけで賛成しているというわけではないのだが。また会長の言う通り、騒ぐ連中は大体が脛に傷持っているような者たちであり自分たちが気付いてないとばかりにあれこれとそれらしいことを言う姿はホークスから見れば中々に滑稽なモノだと思い出し笑いが出そうになるほどだ。

 

「逆に聞きますがホークスはどう思っています? 彼女たちが手段を選ばずになにかするように思えますか?」

 

「それはまぁ、あのお嬢様が誰もが思い付くような手軽な手段なんて【つまらない】って言うようなことはやらないと思ってますよ」

 

 レイミィ・バートリーと言う少女は気高いお嬢様のような演技から分かるように、安易な逃げを決してせずに下手なプロヒーローよりもヒーローの精神性を持ち合わせている。灰色の住人として便利屋を営んでいてもそこは変わらず、コツコツコツコツとひたすらに実績を稼ぎ信頼を得ることで社会を変えたとしても混乱が可能な限り少ないようにしようとしている。

 

 故に今回、レディ・ナガンもとい筒美火伊那を迎えたからと言って、何か警戒する必要があるかと言われれば『無い』と断言できる。それくらいには便利屋は信頼を得ており、それを思えば

 

「なんと言いますか、お嬢様に絆されてるって感じしかしないですね」

 

「もしかすれば、我々もレディ・ナガンが言ったように彼女の目に惹かれているのかもしれませんよ」

 

「否定しきれないのがなんとも……」

 

 助手席の窓から表情を少し緩めた顔で返答し、それを聞きハンドルを握っている会長も見た目相応の穏やかな笑みを浮かべる。本当ならもっとしっかりと彼女を見て、白のままに生きてほしかった、なんてことを思いながら……

 

「ところで運転変わりましょうか?」

 

「いえ、今日はこのまま走らせたいので大丈夫です」

 

「いえいえ、会長を運転させて自分は助手席に座ってるだけって知られたらどうなるか」

 

 この人、本当にこんなキャラだったかなぁ? なんてコント染みたやり取りをしながら車は走っていく。一方その頃、便利屋に戻ったレイミィと血染はと言うと帰ってから先に戻っていた被身子、圧紘、仁に帰宅の挨拶をしてから各自の席に座り軽いデブリーフィング中、聞けば圧紘の方は表彰式も含めてなにか事件はなく平和そのものだったとのこと、続けて被身子と仁、雄英体育祭が終わり変わりのヒーローたちが来るまで保須のパトロールを続けるも。

 

「その後にムーンフィッシュは目撃情報もなく、私達も発見はできませんでした……」

 

「影も形もなしってやつだ。すまねぇ、お嬢……」

 

「そう、お疲れ二人共。それに関してなのだけど恐らくは敵連合に抱え込まれているのかもしれないわ、黒霧を利用されたとすれば追えないのも無理はないし」

 

「ワープっていうのは本当に厄介だね」

 

「しかもだ、俺達の個性も完璧ではないとは思うが向こうにバレ始めてる。特に、仁の個性は既に知られていると思うべきだろう」

 

 【二倍】という単純にして強力な個性を持っている仁を敵連合に知られたというのは中々に手痛い、下手をすれば直接的に彼を狙ってくる可能性も視野に入れたほうが良いかもしれないと言えるレベルに近い。

 

 けれど彼を控えさせるなんてことは出来ないのも事実、そんな事をすれば向こうの思うツボであり便利屋にそれを出来る余裕もない。

 

「仁、とりあえず今後は周囲に警戒をしなさい。コピー体を周囲にばら撒いての警戒も許可するわ」

 

「了解だ。けどそうすると被身子とかも危ないってことにならないか?」

 

「極論言っちゃえば、便利屋全員が狙われても不思議じゃないのよね。だから仁だけじゃなく、各員も気をつけるように、これは所長命令よ」

 

 彼女が命令と付ける時は余程のことであるのでその言葉に全員が真剣な面持ちで頷いたのを確認してから、最後にと自身の雄英体育祭後の行動、つまりは筒美火伊那のスカウトについての報告を始める。

 

「筒美火伊那のスカウト、結論から言えば成功したわ」

 

「おぉ! 初めてのトガよりも後の所員です!」

 

「貴女よりも年上だからね? それでここに来るのは明後日、だから空き部屋の状況とかの確認とか必要なものの購入とかを本当は今日したかったんだけど……」

 

 時計を見る。針はもう既に夕食時少し前を示しており、出来なくはないが足りない家具の買い足しなどは先ず無理な時間であり、だが時間に関してあれこれ文句を言うのも馬鹿らしいと思ったのだろう、彼女は見なかったことにするような感じに

 

「その辺りは、明後日に火伊那の意見も聞きながら買うってことにしておきましょう。まぁ、ともかくそういうことだからよろしく」

 

「丸投げってやつですねレイミィちゃん、因みに空き部屋の家具は大体揃ってますけど埃被ってますね!」

 

「じゃあ、明日利用して掃除しておくか? ちょうど便利屋も定休日だし」

 

「あぁそのことなんだけど、明日と明後日の連休にするわ。偶には良いでしょ」

 

「連休明けの依頼が殺到しそうだけどね。でも良いんじゃないかな、あ、そうだ所長に伝えておくことが合ったよ」

 

 思い出したかのように圧紘が懐から取り出したのは一枚のメモ紙、それを受け取り広げてみれば書かれていたのは【芦戸三奈】【麗日お茶子】【葉隠透】【蛙吹梅雨】【耳郎響香】【八百万百】の電話番号、それと麗日の字で【明日、良かったら女子組で雄英体育祭の打ち上げをやるから来ないか?】という内容が書かれており、読んだレイミィはこれは? と聞けば

 

「雄英体育祭が終わってからA組の女子の皆からこれを所長にって渡されてね。みんな、何か合ったのかって心配してたよ?」

 

「あ~、まぁ急用としか伝えてなかったからそうもなるか。分かったありがと、でも明日か、うーん」

 

 明日と言えば火伊那の部屋の用意やら足りないものの買い物、更には1人分増えるので雑貨などもついでに買い出ししておきたいしと悩んでいると

 

「行って来い、事務所が休みならこっちが勝手にやっておいてやる」

 

「そうそう、レイミィちゃんはお友達と楽しんできて下さい!」

 

「うん、おじさんもその方が良いと思うよ。それにほら、選手宣誓で青春を楽しみたいって言ったのは所長だしね?」

 

「あれは俺の心にも響いたな。お嬢、だから気にせずに行ってきてくれ」

 

 温かな言葉と表情、それらが心からの気遣いだというのはレイミィに直ぐに分かり、少しどころではないくらいに気恥ずかしくなるも何とか表情などに出るのを抑えながら、貴方達がそこまで言うならと髪を弄りつつ。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて楽しんでくるわ。なんか、悪いわね」

 

「照れてますね!」

 

「て、照れてないっての!!!」

 

 抑えていたはずだと言うのに被身子の指摘一つで顔を真っ赤にしながら叫ぶレイミィとそれを見てニヤニヤとした笑みを浮かべる所員たち、こうして雄英体育祭という長い長い祭りの一日は終わりを告げるのであった。

 

 因みに雄英体育祭の彼女の成績である三位に関してだが、便利屋面々的にはまぁ妥当じゃないかなということになっていたりする。寧ろ、準決勝の緑谷戦で殴り合いを始めた時点でレイミィがただただ楽しんでるだけだから、そうなるだろうなという感情のほうが強かったりすると最後に書いておくことにしよう。




何やってるんでしょうね、公安の会長さん……(他人事)それにしてもこの章だけ馬鹿みたいに話数多くなってしまいましたが今後はもう少し短くしたいです(願望

便利屋メモ
本当ならばレイミィに直接連絡をしたかった麗日達ではあったが、誰もレイミィの携帯の番号知らないじゃんとなってこの形になった模様
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。