雄英体育祭の打ち上げ当日、A組女子が木梛区のショッピングモールに集結した彼女たちは最後にやってきたレイミィの姿を見て、早々に盛り上がっていた。
今の今まで付き合いは学校の中でしたかなかったので当然ではあるのだが制服姿ではない彼女を見るのが今回が初めてというのもあるし、レイミィのプライベートでの私服というのは中々想像しにくかったのが要因の一つだろう。
「そんなに驚かれるとは思わなかったわ」
「驚いたって言うか、まぁ驚いたんだけど。悪い意味じゃなくて、そこまでガチって来るとは思ってなかった的な?」
どうやらそういう事だったらしく、これを聞きレイミィはやっぱり、被身子のやつ無駄に力入れて服とか用意したんじゃないと軽い頭痛を感じ息を吐き出す。友人との付き合いというのが無かったので被身子の言葉を鵜呑みしたがよく考えなくても、向こうだってプライベートで友人と出かけたっていうのは自分以外に聞いたこと無いと思えば、そりゃそうかとなる。
とりあえず、これは自身で用意した訳ではないと言う事は伝えたほうがいいというのは分かるとレイミィは彼女たちへ訂正を挟むことに。
「勘違いされてもあれだから言うけど、これ用意したの被身子だから、決して私じゃないわよ」
「え、そうなん?」
「私はあまり拘らないもの。正直に言えば、プライベートの服なんて楽ならば何だって良いと思ってたし……」
過去形の言い方に何があったのかはおおよそ予想がつく面々。事実、過去に被身子の前でこれを言い放った際に淡々と説教をされており、あの時の彼女の静かな怒りっぷりは今日まで見たこと無いとその時の話を始める。
それは被身子が住み込みで働くようになって初めての定休日だった。その時はまだヘアセットとメイク係というわけでもなく、休みらしい時間に私服姿で部屋から出てきたタイミングのレイミィとちょうど彼女に声をかけようと部屋の前に来ていた被身子がばったり顔を合わせたときだった。
『……レイミィちゃん、それ私服なんです?』
『えぇ、そうだけど』
はて、あの時の私はどんな格好だっただろうかと思い出す素振りを見せるがはっきりと覚えている。共にセールだったから買った大きめのサイズのTシャツとジーパンのみの姿であり、更に言えば髪も寝癖を直した程度でノーメイク、端的に言えば被身子はキレた。
素材が恐ろしいまでに良いと言うのにオフだからって何一つ活かさないどころか投げ捨てているような私服ということ、しかも問題にすら思っていないというレイミィに、これを問題視すらしていない血染と圧紘と仁に、被身子は決意した今ここで説教をして意識改革をしなければならないと。
『レイミィちゃん、部屋に戻って正座して下さい』
『え、なん……』
『私は今、冷静さを、欠こうとしています』
『あ、はい』
それから被身子はレイミィの世話係となって今に至る。と言うことを麗日達に話せば、大体の反応が被身子の気持ちは分からんでもないというもの。確かに私服は個人の自由かもしれないが、年頃の娘がTシャツにジーパンのみで活動しようとするのは怒りたくなるのも頷ける。
この調子だと今日の集まりも彼女は適当に選ぼうとして止められたのだろうと被身子の苦労を感じ取れ、ならばと芦戸は手を上げて意見を出した。先ずは皆で服を見ないかと、そこから続々と出てくる予定を聞きながらレイミィは隣に来ていた百に
「そう言えば、ここまで来るのに声かけられなかったかしら? 雄英体育祭の翌日だし有名人でしょ、貴方達」
「車で送ってもらったのでそこまででは、ですが聞いた限りだと電車で来た他の方々は掛けられたそうですわ。やはり、レイミィさんも?」
「この格好、一応の変装もあるからバレてないのよね。もっとも、今さっき名前を叫ばれたからか、視線を貰ってるけど」
言われれば、百もなるほどそういった側面もある選択だったのですねと感心する。上げ底のレディースサンダルで身長が、髪型もガラッと変え、そこに伊達メガネだけではあるがここまで姿が変われば中々気付かれないというもの、その辺りのことをしっかり考えてもくれるのでレイミィも被身子が用意する服も、余程変なのではなければ疑問もなく受け取ることにしている。
二人がそんな会話をしている時も向こうはあれこれと話し合っていたが、ふとレイミィと百にも聞くべきではと葉隠が身体を目一杯動かしながら
「おーい、二人は何かリクエストあるー!?」
「特には無いわね。そもそも友人と出かけたっていう自体が被身子を除けば初めてだし」
「私も正直に申し上げれば、あまり経験がないもので。皆様にお任せしますわ」
「おぉう、んじゃ今日はレミィもヤオモモも思い出に残るような打ち上げにしなくちゃね!」
任せろと言わんばかりに胸を張る芦戸の姿にこういう時に彼女のような性格の持ち主が居ると重力も跳ね返せるんだなと感心する麗日。思えば、受け止めるだけで跳ね返そうということはしてなかったなと思うも、それは彼女だから出来るんだろうなぁと羨ましくも思ってから、イヤ待てと頭を振った。
(そもそも、私が今まで聞いたのは重力云々というレベルじゃなかったんやない?)
「どしたん、お茶子。急に頭を振ったけど」
「へ!? あ、いや、なんでもないよ? それよりもほら、もう開店するみたいだよ!」
「やっぱり平日でも人が多いわね、逸れないように気をつけましょ」
「んじゃ、しゅっぱーつ!」
こうして始まる打ち上げと題した学生らしい休日の集まり、先ずはと服屋が固まる区間を目指す道中、レイミィに流石に来たことはあるよねと若干今更感があることを耳郎に聞かれれば
「そりゃあるわよ。雑貨とかはここで纏めて買いに来るし、依頼で来たりもするし」
「ここだけで何でも揃っちゃうもんね。それに毎日安売りとかあって来ると何かしら買っちゃうし」
「あ〜、それ分かるわ。見るだけのつもりが手に取っちゃうんだよね」
所謂、衝動買いというものなのだがレイミィはやったことがない。便利屋に関係しないことに関しては無頓着なのも手伝い物欲はあまりというのもあれば、常に資金繰りを考えなければならない立場故に出費にはある程度うるさいのもある。
あったとしても、これが足りない、残りが少ないから問題ない出費で購入するという程度だ。もっともその購入を血染に言い忘れたとかで怒られることもなくはないが。なんてことを歩きながら喋り、便利屋で衝動買いと言えばと続けて
「被身子なんかは給料日前になると毎回の如く唸ってる姿は見るわね。あの娘、趣味に結構な勢いで使ってるらしいから」
「当たり前だけど、便利屋ってお給料制なんだね」
何を当たり前のことをと口にしそうになり、そう言えば話したことなかったなと思いとどまる。言うまでもないが便利屋チェイテはしっかりと月々の給料を所員たちに支払われている。形としては一ヶ月の依頼などでこなし稼いだ額から諸々の月額の出費は纏めて払い、残った分から全員に分配と言う流れになっており、初めの頃は分ける分が残らないという事態も多々あったりもしたが今では安定してそれなりの金額を支給できている。
しかも全員が住み込みなので丸々、自分のお金として使えるはずなのだが被身子は毎度のごとく唸っている。今まではどうして金欠に成ってるのこの娘と割と疑問だったが、今朝のあれこれで彼女も理解した、自分の服などを買ってるからだと。
「はぁ、少しあれかしら自分でも買ったほうが被身子の出費も落ち着くのかしらね」
「多分だけど、自分が着せたいから買ってるってのがあると思うから意味はないんじゃないかな」
葉隠の言葉にレイミィはえぇと困惑の声を漏らす。自分が買わないから代わりに買ってるとかじゃないのかと、だが確かに買った割にはこれどうですかとかは言ってこなかったようなとなり、本当に趣味で買ってるだけなのかあれはと言う表情になる。
一応、依頼によっては服装も考えなければという時に被身子に聞けば、これなんてどうですと出てきたりもしていたがあれも趣味だったのかと。思えばこれを聞いた時の彼女の顔はえらく上機嫌の笑顔だったなと脳裏に被身子のあの笑顔が浮かんだ刹那、何かを感じ取ったレイミィが鋭い視線で麗日達にバレないように周囲を見渡す。
(今、さっきまでとは違う視線と殺気みたいなの感じたと思ったんだけど)
気の所為、と言うにはあまりにはっきりしていた。だが今は始めからそんなのはなかったとばかりに霧散しており、何だったんだともう少し探ろうとするが
「そう言えばレミィ、好みの服装とかってある?」
「好み? そね、動きやすいとかかしら、スカートよりはパンツスタイルの方が好みといえば好みね」
「ふむふむ、今日の耳郎みたいな感じってこと?」
「まぁ誰がってなったらそうなるかしら。で、急にどうしたのよそれが」
いやいや、ちょっとねとニコニコ笑顔で告げてくる芦戸を見ても、どういう事かは分からず、他の面々を見るも曖昧な笑みだったり、まぁまぁと言う感じだったりで答えは返ってこないことに眉を顰め、服屋に行くから来たのかという感じでもないしと耳郎に聞けば
「うーん、まぁ、頑張ってってところかな」
「悪いようにはしないからダイジョーブ、ダイジョーブ!」
何も大丈夫な感じしないんだけどと言う声はワイワイと盛り上がる彼女たちの声でかき消され、でもまぁ葉隠の言うように悪いことは起きないから深くは考えなくていいか、なんてことを考えた数分前の自分を彼女は蹴り飛ばしたいと服屋に到着してから二分で本気で思うことになった。
「これとかどうかな? 結構似合わない?」
「いや、レイミィちゃんって明るすぎる色よりはもう少し抑えた方が良くないかな、ほらこの色とか合いそうじゃない?」
無事に服屋についた女子一行は到着早々に芦戸と葉隠が慣れたように売り場に散り、蛙吹が更衣室前に誘導され気付けば、これはどうかな、あれはどうかなと着せ替え人形をさせられていた。圧が強すぎてレイミィも断ることも何も出来ず、とりあえず助けを求めてみるのだが、彼女は遠慮気味に何処からか選び持ってきた一式を手に
「あの、こういうのはどうでしょうか? レイミィさんに似合うと思うのですが」
「八百万!!???」
まさかの参戦に叫んでしまう。貴女ってこういう時は私側になるんじゃないのという顔と目をしてしまうが彼女が気付くこともなく、なにより百自身が楽しんでいるのを見てしまえばそれ以上は何も言えずに、今度は耳郎と麗日を見るが。
「レイミィって帽子を被るとしたらどれだろ、これかな」
「あ~、似合うかも。飾りベルトとかってどうかな、カッコよくない?」
「分かる。芦戸にこれと似合いそうなの選んでもらおうか」
その二人は二人で、帽子などの見ていた。ちょくちょくと自分を見ながら帽子や飾りベルトを手に取る光景に目から光が消えそうになるのを堪え、最後の砦である蛙吹を見つめてみるものの。
「ケロ、ごめんなさい。私にはどうすることも出来ないわ、それにどれを着ても似合うから見てて楽しいから我慢してちょうだい?」
どうやら救いというものはこの場には存在しないらしいことを悟る。別に嫌だとかはないのだがそれはそれとして着せ替え人形的な扱いされるのは被身子と服屋に来たことを思い出すのでなんとも言えない環状になる。
あの時も連れてこられたと思えば数時間近くこんな扱いだったなと。それに比べれば話し相手もいるし、まさか数時間もここで潰すことはないだろうという安心感もあるので、と思えば
「付き合うのも悪くはない、か。ほら、折角だから試着してあげるから、渡しなさいよ」
「お、レミィも乗る気になったならじゃんじゃん行ってみようか、じゃあ、まずはこれ!」
以降30分ほど、カジュアルやパンク、エレガントにスポーティー的なものまであれこれと着せ替え人形を演じ、最終的には試着した中でレイミィが気に入ったものはと言われたのでと手に取り会計に出したのは黒のブーツにジーパン、白のシャツに黒の若干丈が長めのパーカー、これを着た時の芦戸の感想が総意だった。
「イケメンって感じ、レミィの紅い髪がいい感じに映えるの良いよねこれ!」
「ふーん、こういう感じのは悪くはないのね。今度からこれを基本にしようかしら」
「でもお嬢様系ってのも捨てがたいと思うんだよなぁ、レイミィちゃんって喋り方からしてそうだし」
お嬢様系、その単語に便利屋の所長の時はその姿は割と多いわよと思わず言いそうになるのを堪えながら会計を済ませる。結構いい金額になるかと思ったが安売りだったのと雄英体育祭を見てたらしく、その関係で更に安くされたので彼女の財布へのダメージは低く抑えられたと内心では安堵の息を吐きだしていた。
こうして1つ目の予定は終わり、服屋から出て、邪魔にならない所で次は何処に行こうかと楽しげに会話を始める彼女たちだったが、それを人混みに紛れ見つめる影が三つある事に……
(やっぱ、何か居るわよねこれ)
レイミィを除いて気付くこともなく、その彼女も悪意は無さそうだし放置でいいかと正体には気付かない【ふり】をして流してしまうので誰も知ることはなかった。
トガちゃんはそのうち、服とか自作し始めるようになっても不思議じゃない。
この小説、段々と隔日更新になりそうですね(他人事
便利屋メモ
レイミィ自身の趣味は実は無い。なのでオムライスを作るための材料だったりイワシ料理の材料を買ったりでしかお金を使わないので溜まっている。
本人曰く、急な出費があってもいいようにしてるだけとのこと。