便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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あの家、めっちゃデカイよねとレイミィは毎度思う


No.60『少しマイルドな地獄の轟くん家』

 電話を受け、約束の時刻。圧紘の運転で便利屋は如何にもな和風の豪邸の門の前に到着、何度来てもその大きさに圧倒されそうになるし、レイミィの隣で被身子が圧倒されている。

 

 ここは轟家、エンデヴァーもとい轟焦凍たちの家であり少し前までは割としょっちゅう夕飯の招待を受けて足を運んでいた屋敷の門を潜り、玄関のインターホンを鳴らせば出てきたのは焦凍だった。

 

「バートリーとえと、久し振りです、皆さん」

 

「貴方が出てきたってことは冬美さんは調理中ってことか、悪いわね急に誘われちゃって」

 

「久し振りです、焦凍くん!」

 

「話は聞いてたが元気そうだな、焦凍」

 

「こんばんは、焦凍くん。あ、これ途中で買った和菓子、良かったら皆で食べてよ」

 

「よっ。あと優勝おめでとう、焦凍」

 

 圧紘からの手土産を受け取りながら、血染達に礼を告げる。彼的にはレイミィ以外の便利屋面々も彼女と同じくらいに恩人であり、便利屋の大人組のことは家族とは違う頼れる存在として見ている節もある。

 

 とりあえず、何時までも玄関先で立ち話もということで彼の案内のもとで居間に向かう、とは言ってもここに来るのも彼らも初めてでもなければ間取り位は覚えるくらいには来ているので慣れた感じに移動し居間に到着、引き戸を開ければレイミィからすれば相変わらず広い居間に大人数が座っても余裕がある大きめのテーブル、そして

 

「親父、夏兄。便利屋が来た」

 

「……」

 

「久し振り、元気そうっていうか、それよりもあれか、雄英体育祭三位おめでとう」

 

「ありがとうございます、夏雄さん。それとこんばんは、エンデヴァー」

 

レイミィちゃん、声! 声!!

 

 轟家の長男である【轟夏雄】からの祝いの言葉には心から感謝の意を示してからのエンデヴァーに対しては絶対零度とも言える声で様式美程度の挨拶に被身子も小声で指摘するも彼女本人は素知らぬ顔であり、向けられた方も軽く一瞥する程度で反応を示さない態度に血染が軽くレイミィの頭を小突いてから

 

「いたっ」

 

「邪魔してる立場で済まない」

 

「いや、いつものことだから大丈夫だけど」

 

 夏雄が言うように夕食に招かれるようになってから、エンデヴァーが居る場合はこのやり取りが毎回行われている。小突かれ頭を擦っているレイミィ的には挨拶をするだけ良いじゃないと思っているが客人としてきてるんだから立場を考えろと血染はその都度思っているので今後も小突かれるだろう。

 

 これの困ったところは小突かれた所で彼女自身に治す気があまり無いというところだろうか、一応礼儀は大事だということで最低限の挨拶などはするのはするのだが声に乗せる感情が全く持って追いついていないので本当に形だけで済ませる気しか無いのだろう。

 

「とど……焦凍、二人は台所よね? ちょっと挨拶してくるわ」

 

「あぁ、ってもう来ると思うんだがって行っちまった」

 

「私も一緒に行ってきますね、配膳とか手伝っちゃいますし」

 

 顔も合わせたくないという態度のままレイミィは冷と冬美が居る台所へ向かい、被身子もそれに追従し消えていく姿に血染はため息を吐き出してから、失礼と適当な位置に座り、焦凍と仁と圧紘もそれに続いてから

 

「本当にごめんね、所長もあれでも改善されてきたんだけどさ」

 

「いやまぁ、俺も同じようなもんだったと言うか……」

 

 夏雄もまた父親であるエンデヴァーに対しては過去の付き合いから彼を父親と言うよりも家族らしい思い出もなかったがために他人程度の扱いをしていた。なので轟家の中で唯一家から出て大学に通いつつ一人暮らしをしここには滅多に帰ってこなかったのだが、便利屋の介入、そこから母親の件で以前よりは家に顔を出す回数が増えたとのこと。

 

 もっとも、エンデヴァーのことに関しては彼もまだない心ではどうしていいか分かっておらず、だが冷の精神が快方に向かってから自分たち家族に今までのことを地面に頭を付けてまで謝罪する姿と自分以上にはっきりと嫌悪感を見せるレイミィの姿を見て、とりあえず冷静に彼と接してみようという程度には軟化しておりと言うよりも。

 

「バートリーを見てると、妙に冷静になるっていうか、な?」

 

「自分よりも怒ってる人間を見るとってやつだな」

 

 だからこそ、以前からは考えられないくらいにはエンデヴァーと真正面から会話をしたりも出来るようになったと言う。もし彼女の態度がなければ、自分はまだ燻っていたかもしれないと。

 

 一方、そんな話題を出されているとも知らずに台所へ向かったレイミィと被身子は向かい途中で先程のことで被身子からも駄目だと思いますよと苦言を漏らされるが、レイミィはそれを出されると仏頂面でこう答える、分かっていると。

 

「分かってるなら尚の事だと思うんですけど……」

 

「うっさい、これでも譲歩してるわよ」

 

 まるで反抗期の娘みたいな態度だと口には出さないが思う。そう考えると轟家に居る時のレイミィは普段、つまりはプライベート状態に近いのだろう、だからこそエンデヴァーにはそんな態度を取ってしまうし、台所に着いてから失礼しますと声を掛け入った所で冬美と冷を前にしてほんの少しだけ緊張するような素振りを見せてしまうのだろう。

 

「久し振りレイミィちゃん、被身子ちゃん。もしかして手伝いに来てきてくれたの?」

 

「お久しぶりです、冬美さん、そのつもりでね。冷さんも、まさか料理もできるくらいになってるとは思わなかったわ」

 

「ふふっ、お陰様でね。でも本当に久し振りの包丁を握ったから不安ではあるわ」

 

「おぉ! 焦凍くんのお母さんの料理、楽しみですね。配膳とかドンドン言って下さい、トガもレイミィちゃんもバンバン手伝いますから!」

 

 母親の手料理、か。誰にも聞かれない程度の声でレイミィは呟く、自身には縁もゆかりも無い物、本当なら己にも合ったはずの大切な思い出、自分から断ち切ってしまったそれを思い出してレイミィの目には虚しさが浮かび上がりそうになる。

 

 数少ない母親の手料理に関する記憶はオムライスが得意ということだけ、まだ一歳の自分にいつか作ってあげると笑顔で告げていたその光景だけ、あの人のその約束は果たされることもなく私自身が血の海に沈めてしまった。

 

 気付けばレイミィはあれこれとお皿に出来た料理を盛り付けていく冷を見つめていた。もし、自分の母親が生きていたらこういう光景を見ていたのかなと、それ以上に母親殺しをしてしまった己が他人のとは言え母親の手料理と言うものを感受してよいのかと。

 

(私、冷さんの手料理を食べる資格あるのかしらね)

 

「……? レイミィさん、私を見てなにか?」

 

「え……? あっ、いえ、元気そうで良かったと思っただけです」

 

 それよりもこれを運べば良いんですよねと口早にお盆を両手で持ち台所から居間へと向かっていくその後ろ姿を見て被身子は何処か悲しい目で見送る、あれは自分がこれを受け取って良いのだろうかと悩んでいる時の顔だったと。

 

「レイミィちゃん、なにか悩み事でもある感じだったけど……」

 

「多分ですけど、冷さんの料理を食べて良いのかなって思ってるのかもしれないです。レイミィちゃんにとって【母親】ってそれだけ大きいですから」

 

 それを聞き、冬美も納得するが同時にそんな事無いのにとも思ってしまう。冷もまた同じであり、彼女もレイミィから一度だけその事を聞いており、その時もそんなことはないですよと伝えているが、彼女の中のそれは消しきれていないことに心が痛みを覚えてしまう。

 

 自分の心を治してくれた彼女が一番壊れそうなものを抱え、便利屋所長として生きている。その事実が冷にも、冬美にも重くのしかかり、自分たちが受けた恩のためにもどうにかしてあげられないだろうかとも感じているからこそ、こうして夕飯に誘ったりしているのだ。

 

 それから数分後、料理も並べ終わりお決まりの挨拶から夕食が始まり、便利屋の面々は相変わらず自分たちが作るよりも美味しい料理に舌鼓をしている中、レイミィは箸を手にほんの僅かに迷う素振りを見せてから鰯の梅煮から食べ始めたことを両隣の被身子と血染、そして真正面の冷と冬美は直ぐに気付く、恐らくはどれが冷が作ったものなのかの迷いだろうと、だからこそ冬美は飲み込んだのを確認してから。

 

「どうかな、それはお母さんが作ったんだけど」

 

「へ、あ、えぇ、とても美味しいわ。私が作るよりも凄く」

 

 声が震えそうになる、レイミィは四人の考えの通りあの一瞬でどれが冷本人が作ったものなのかが分からずに迷ってしまった。自分の中でまだ迷っているからこそ、初手からは避けたいと、だと言うのに一発で引き当ててしまったことに動揺が生まれてしまった。

 

 勿論、美味しかったという感想は嘘偽りではない。けれど、この美味しさに慣れては駄目な気がして、それは自分の中で存在していない己の母親の味がこれで固定されてしまうのを怖がっているのかもしれないと。その恐怖を振り切るように彼女は並べられた料理の数々を見て気付いたことを疑問として打ち明けた。

 

「ところでなのだけど、イワシ料理多くないかしら? 轟家って鰯が好きな人居たっけ?」

 

「俺が今日はバートリーを呼ぶって姉さんに聞かされたから、そう言えば鰯が好きだってことを伝えた」

 

「は? え、ちょ、じゃあなにもしかして」

 

「うん、折角だからと思ってイワシ料理で揃えちゃった」

 

「姉ちゃん、凄い張り切って鰯を捌いてたなそう言えば」

 

 ニコニコ笑顔の冬美の言葉に困惑するしか無いレイミィ。因みにどれが冷が作ったかと言われれば、確かに冬美が手伝いなどをしたが完成させたのはほぼ全てということなので彼女には始めから逃げ道なんてものはない。

 

 それで良いのかと焦凍、夏雄、エンデヴァーを見るが二人は問題ないとばかりに、寧ろここまで鰯づくしは初めてで新鮮だという感じに食べており、エンデヴァーは反応すら無いことに口元を引きつかせてから息を吐きだして

 

「あの、えっと、ありがとうございます?」

 

「疑問形にするな」

 

「わ、分かってるわよ。ありがとうございます、私のためなんかに手間を掛けさせたみたいで」

 

「なんかじゃないですよ。返せてなかったお礼の一つですから」

 

 ニコリと優しい微笑みの冷からの言葉にレイミィはつみれ汁を飲むことで気恥ずかしさを誤魔化す。その姿に被身子が照れちゃってカアイイですねと呟くが即座に小突く程度の威力の肘鉄にうぐっと唸ることになる。

 

 圧紘と仁も滅多に見れない彼女に微笑ましいものを感じつつ、口には出さない。なお、焦凍もまた反応をしていないが内心ではアイツってあんな顔するんだなとか思っているし、夏雄も年相応な姿に安堵を覚えている、基本的見せる姿が所長としてのしっかりとしたというのが多いので子供らしい姿には年長組は安心感しかない。

 

 それからは一度食べたからというのもあるのかレイミィの食事の速度もいつもの調子に戻り、程々な会話を挟みながら食事は平和に終わってから後片付けや食器洗いを手伝っている最中、食器を台所へ持っていき、居間に戻ったレイミィへエンデヴァーから少し良いかと声を掛けられる。

 

「なによ、悪いけど今からさっきまでの態度で説教なんて聞くつもりもないから」

 

「貴様のあれはいつものことだ、子供の癇癪に一々目くじらは立てん。今日、貴様を呼んだ理由を話そうと思ってな」

 

 は? とレイミィから声が上がる。自分を招待することにしたのはてっきり冷か冬美のどっちかだろうと思っていたのに蓋を開けてみればエンデヴァーからでしたというのは彼女的には何いってんだ冗談にしては笑えないんだけどと言う感情しかない。

 

 だがこの場面でそんな冗談や嘘を言う必要もなければ、エンデヴァーがそんな事ができる人間とも思っていないので隠すつもりが一切ない大きなためきを吐き出してから彼と向き合い

 

「ふぅん、不倶戴天の仲とも言える私を呼ぶなんてなんのつもりなのかしら」

 

「……」

 

「ちょっと、早く言いなさいよ」

 

 何を言い淀んでいるんだこいつと言う目も態度も隠さないレイミィ、ここに血染が居れば間違いなく拳骨一発は降っていたが彼はまだ食器を運んでから戻っていない、だがすぐに戻るとすればさっさと話してくれないかしらと苛立ち始めていたタイミングで彼は口を開いた。

 

 それは今日まで隠していたこと、エンデヴァーいや、轟炎司として無かったことにしてはいけない事柄、この場に居ないもう一人の家族のこと。

 

「燈矢について、冬美、夏雄、焦凍に話そうと思う」

 

「それ、意味分かって言ってるのよね?」

 

「あぁ勿論だ。だが、冷にバレた手前もう隠し切るのも難しいと判断した」

 

 つまりは家族会議のために、そしてその内容的に自分も関わっているがゆえにこうして夕食に招待された。無論、冷のお礼がしたいというのも嘘ではないと思っているがそれはそれとして、彼女の善意を利用したようにも聞こえる内容に思わず嫌味の一つでも言ってやろうかとも考えてしまったレイミィだが、ことが事なので強くも言えずに

 

「はぁ……良いのね、間違いなく荒れるわよ」

 

「覚悟の上だ」

 

 しっかりとした目でレイミィを見るエンデヴァーに彼女はまたため息を吐き、それから分かったとばかりに頷く。そして後片付けも一通り済んだ所で居間にて全員が再度集まったタイミングでエンデヴァーから切り出した。

 

「今日は、お前たちに話したいことがある」

 

「……話すのですね、炎司さん」

 

 本来であればもっと未来で明かされる事実がこれから彼らに、エンデヴァーの口から話されようとしていた。




地獄の扉、開いちゃった! それはそれとして母親関連になるとレイミィちゃんが凄まじい勢いで心ボロボロになってくのカアイイね。

便利屋メモ
今回は鰯づくしだったが前回はオムライスだったりと毎度、轟家に夕食を招待されると彼女の好みの料理が並ぶ
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