便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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あそこから人が出所しますとか冷静に考えると知られたらヤバい案件


No.62『タルタロスへお迎え』

 轟家でのあれこれから翌日、便利屋自室のレイミィ・バートリーは昨日の一件が未だに尾を引いているようで顔色は決して良いとは言えず、朝の弱さも相まって何もない空間をぼんやりと見つめては

 

「あ~」

 

 などと声を上げてしまう程度には気分もそこまでよろしくはない。無いのだがだからと言って今日は寝て過ごすことも出来るわけがない、本日は一昨日スカウトに成功した筒美火伊那を迎えに行く日であり、それから一日と掛けて彼女にはあれこれと説明しなければならないからだ。

 

 動かなければ、そんな気持ちでベッドから落ちるように這い出たのだが、その際に割と派手な音が部屋の外まで響いたようで血相を変えた被身子が飛び込むように入ってくる

 

「何か凄い音しましたけど、レイミィちゃん大丈夫で……って感じじゃないですね」

 

「おはよう被身子、まぁ何時もよりは断然マシだわ。顔洗ってくる」

 

 マシな人間はベッドから落ちるように起きないと思うんですけどなんて言葉は彼女には届かず、洗面所に消え数十秒してから、戻ってきたがその顔は先程よりも遥かに良い状態にはなっているのを見て被身子は息を吐きだしてから

 

「今日は火伊那ちゃんを迎えに行くんですよね。なら、所長モードで整えちゃいますね」

 

「頼むわ。ふぅ、昨日は本当に情けない姿を見せちゃったわね……」

 

「でもあの場に居た皆は事情分かってますし、そこまで気にしなくても大丈夫だと思いますけどね」

 

 そもそも最低でも週二でそんな状況になってるんですし今更ですよと笑顔でトゲを刺してくる被身子にレイミィも苦笑するしか無い。もっとも彼女もトゲを刺したいとかではなく、事実を羅列しているだけだというのもレイミィは理解しているからこその反応でもあるが。

 

 数分後、仕事モードもとい被身子曰く所長モードの準備を終え、服装も昨日のようなカジュアルな感じではなくビシッとした女社長を思わせる物で居住区から事務所に移動、いつものように朝の挨拶をしてから自身の席にてゼリー飲料と人工血液を飲みきってから

 

「今日は分かってると思うけど火伊那を迎えに行くわ。そのためにまぁ休みにしたわけだし、血染、来れるわよね」

 

「あぁ、寧ろ今のお前を一人で向かわせるほうが心配だ。まだ体調は戻りきってないんだろ」

 

「いつものやつよりは遥かにマシだけどね。まぁありがと、それで三人はここに残って部屋の掃除とか事務所に彼女の机も準備をお願いするわ」

 

「了解、予備はまだ物置に眠ってるから引っ張り出してくるよ」

 

「じゃあ部屋の掃除はトガと仁くんでやっちゃいますね」

 

「おう、任せておけ」

 

 当たり前というべきか、この便利屋の拠点となっているビルはそれなりに大きい。なのだが人数が人数故に大半の部屋は物置となっており、中にはいつか所員が沢山増えるからと言うレイミィの根拠が欠片もない考えで購入した机や椅子、ネームプレートなどが大量に埃を被っている。

 

 しかも机と椅子に関しては良い値段をしたのを買ったが為に血染から説教されていると言う余談は置いておこう。

 

「それでホークスはいつ来るんだい?」

 

「早い時間とは聞いてる。あまり目立ちたくないことだから丁度、帰る頃に周りに紛れる事ができる時間にしたいからって」

 

「だろうなとしか言えん、タルタロスから人を出所させたなどと知られれば騒ぎにしかならんからな」

 

 主にマスコミがと口にはしないが全員の共通認識となっている。あれは(ヴィラン)よりも厄介であり、こと情報という面だけを見ればレイミィも(ヴィラン)でしょあれと思ったことは一度や二度ではない。

 

 あの時の記憶が頭に浮かびそうなるが今は必要ない話だと無理やり蓋をし時計を見れば、そろそろだろうかという時間。

 

 そう思い、窓から通りを見れば丁度よく一台の車がビル前に停止し助手席側から現れたのは一昨日見た色男ことホークス、どうやら窓からの視線に気付いたようでニコリと笑みを浮かべ手を振る姿を確認してから

 

「血染、出るわよ。それじゃ、三人はさっき言った通りに頼むわ」

 

「あぁ、にしても目立ちたくない言ってる奴が普通に車をこの閑散としてるビルの前に停めるのはどうなんだ?」

 

 血染の至極真っ当な疑問ではあるが、便利屋のビル周辺は閑散としているのが答えである。ともかく、レイミィと血染は三人からの行ってらっしゃいを聴きながら玄関口まで降りれば、向こうから演技掛かった仕草と声で

 

「お迎えに上がりました、お嬢様」

 

「ふふっ、この光景を貴方のファンに見られたら私が嫉妬されそうね」

 

「いや、背中に気をつけるのが先だな。過激なやつは普通に殺りに来るぞ」

 

 オールマイトガチ勢の貴方が言うとまるで冗談に聞こえないんだけどと言うレイミィのちょっと引いてる声に返ってきたのはホークスからの曖昧な笑みのみ。それは言外に彼女に伝える、ありえてしまうことなのだと、事実そんな話を人伝だったりで聞いてしまっているからこそ見られたらヤバいだろうなぁと思うことしか出来ない。

 

 二人の反応を見て本当にあり得るのねと苦笑しようとした時、ゾワッと背中に寒気を感じ取り思わず周囲に視界を送ってしまうがこの時間帯のこの通りに人っ子一人の気配も存在するはずもなく、だがはっきりと分かった寒気に冷や汗が流れる。

 

「どうしたバートリー」

 

「い、いえ、何でもないわ、えぇ。さっさと行きましょ?」

 

「声が震えてるけどお嬢様、まぁいいや、んじゃ行こうか」

 

 なんだったのかしらあれと思いつつ車に乗り込むが、この寒気に関しては判明することは一切ないので彼女は今後もこれに偶に思い出しては悩むことになるという話は置いておき。二人を乗せた車は前回とは違うルートでタルタロスへと走らせていく、こういう地味ながらも追跡等を回避するための努力は分かっているが苦労してるし面倒ねと呟いた声に反応したのはホークスでも血染でもなく、この場に居るとは思ってもなかった少し高めの声だった。

 

「HAHAHA、だが対策もせずに走らせれば我々が何かを秘密裏に何かをしていると教えているようなものになってしまうからね、必要なことなのさ!」

 

「……校長? え、なんで居るのよ」

 

「それは勿論、君がレディ・ナガンをスカウトしたと聞いたからさ。私個人としても彼女には会いたいと思っていたからというのもあるね」

 

「まぁ遅かれ早かれ顔を合わせることにはなっている。それが今日になったと言うだけだろ?」

 

 そうとも言うね! 彼の言葉にレイミィもまぁそれもそうかと納得し、思えば彼とも2日3日ぶりかと気付き雄英体育祭は早退して申し訳ないと伝えれば向こうは君の事情というものだから仕方がないことさと笑い。

 

「相澤くんもそこは理解しているから安心してくれていい。オールマイトは少し残念がっていたけどね!」

 

「残念がられようが知らないわよ」

 

「HAHAHA、相変わらず彼には辛辣だねぇバートリーくん!」

 

 エンデヴァーよりはマシだわと肩を竦めながらの言葉に根津は更に笑い、ホークスは血染にやっぱりまだ仲悪いんだねと聞けば彼は呆れながら頷き

 

「第三者が居ない場所で出会ったら数秒としない内に喧嘩を始めるくらいにはな」

 

「彼に喧嘩を売れるっていうのがもうすでに凄いことなんだけどね。お嬢様、もう少しこう、何とかならない?」

 

「悪いけどエンデヴァーにはかなり譲歩してるからね私、本当に」

 

 鼻を鳴らしながらのレイミィの言葉に取り付く島もないとはこのことかぁと笑ってしまう。笑いつつも、彼は少しだけ疑問に思うことがあった、確かにエンデヴァーのあれこれは聞いてるしそれを理由に嫌うのも理解できるのだが、それを加味しても嫌い方が尋常じゃない気がすると。

 

 それは家族というものを自分からバラバラにしていることに対する彼への怒りだと言われればその通りだと思う。思うのだがレイミィからエンデヴァーへのそれは仇を見るような、と考えてからいやいやと頭を振るう。

 

(まぁ単純に相性が悪い所に家族問題って所だろうね)

 

「なに、ホークス。さっきから人を見てるけど」

 

「いんや、お嬢様も子供らしいところがあるんだなって思っただけ」

 

 ここまでの行動にそれらしい所合ったかしらと眉を顰める姿にホークスは先程の疑問は投げ捨てることにした。確かに気にはなるが、現状でなにか悪いことが起きたということでもないことを考える余裕がないとも言うが、そんな彼らを乗せた車は数時間と掛けタルタロスに到着。

 

 このまま、また内部に行くのかと思ったのだがホークスは車内で待っててくれと告げて出ていき、暇になったなと思っていると根津からそうだそうだと何かを思い出したようで

 

「雄英体育祭を見てプロヒーローから君宛の指名が来てて、明日その話をすることになっている」

 

「指名って、私はその辺りは免除というか、やるなって話じゃなかったの?」

 

 そもそもプロヒーローから指名されようが私は便利屋をやってるから断るしか無いんだけど。無論、根津もそれは分かっており、だがと言葉を続ける。

 

「ヒーロー基礎学の単位として職業体験には行かないとマズいんだよね」

 

「あ~」

 

「こいつがプロヒーローの所で職業体験か、笑える話だな」

 

「本当よ」

 

 面倒というか、下手なところに行ったら何言われるか分かったもんじゃないからなぁ。ここ最近は周りのプロヒーローが基本的に一流で人間も出来ているから忘れがちだったが便利屋はヒーロー界隈からは好かれていないし、自分たちを見ればあまりいい反応をしない者たちが大体となっている。

 

 だと言うのに職業体験は必須だから行かなければならないというのはレイミィ的には苦痛、とまでは行かずともうへぇと言う声も漏らしたくなる。

 

「なにかオススメとかないかしら?」

 

「BARじゃねぇんだぞ、自分で資料でも貰って選べ」

 

「うーん、そうだね。君に合いそうでかつ便利屋にも寛容的な所を見繕ってみようか」

 

「あるのかよ」

 

 思わずツッコミを入れるがハイスペックである根津がこの事を予測できないわけがなく、言われると思っているのですでに選定していると言われても不思議じゃないなと思う血染。事実、そうだったようで明日のヒーロー情報学にて纏めた資料を渡してくれるとのこと。

 

 どれか一つでも気に入ってくれると嬉しいと彼は言うがレイミィも血染も、気に入るのだけをピックアップしてきてるんだろうなとは口にしないで思うだけに留める。なお、その思考も彼には読みやすい類なのでわざとらしくHAHAHAと笑って返していたと同時くらいだろうか、コンコンと車の窓をノックされた音にその方向を見ればホークスとサングラスを掛けたスーツ姿の女性が居るが直ぐに誰かは理解したレイミィが窓を開ければ。

 

「や、待たせたね。お約束の人物を連れてきたよ」

 

「お疲れ様、一昨日振りね。火伊那」

 

「あぁ、とりあえずドタキャンはされなかったみたいで安心した」

 

 失礼すると扉を開けてレイミィの隣に座ったスーツ姿の女性こと火伊那は乗り込んでからぐっと伸びをしサングラスを外し、それからはぁと大きく息を吐きだす。

 

 彼女にしてみれば本当に久し振りのシャバの空気、それを堪能するような反応を見つつ彼女が乗り込み車が走り出してから。

 

「どうかしら、久し振りの外は」

 

「悪くねぇ、これだけでも感激のあまりに泣きそうだよ私は」

 

「あらあら、だったら今日は泣きっぱなしの一日になるわね」

 

 じゃれ合いだろうか、そんなやり取りを挨拶代わりに行ってから先ずレイミィは自身のカバンから昨日、死にそうな彼女に変わり圧紘が纏めてくれた便利屋に関する資料を火伊那に手渡し、詳細等はこの中に書かれているから今のうちに呼んで欲しいと伝え、火伊那もふぅんと思いの外しっかりしてる資料をペラペラと捲りながら読みつつ

 

「思ったよりもあれだな、しっかりと企業してる感じなんだな」

 

「正確にはただの事務所で企業とかではないけど、きちんと骨組みは作ってるわ。じゃないと安心して所員が働けないでしょ?」

 

「そりゃまぁその通りなんだが……」

 

「と言うか、校長はさっきから静かだけど何か話があるんじゃなかったの?」

 

校長、その単語に火伊那は資料を読む手を止めて眉を顰め、誰のことだと聞くよりも前にヒョコッとホークスの方から現れた根津に彼女は驚いた表情をしてから

 

「お前は……」

 

「初めまして、私は雄英高校の校長を務めている根津さ」

 

 名乗られれば【ハイスペック】の個性持ちの動物が居るという話を思い出し目の前のネズミがそうなのかとまた驚く。彼女のその様子にHAHAHAとまた笑ってから、話というほどでもないけどと付け足し

 

「君の話は聞いていてね、もしバートリーくんを利用して外に出てきたとかだったら宜しくないと思って顔を見に来たと言うだけなのさ、もっともこの様子を見るに杞憂だったようだがね」

 

「ちょっと、私がスカウトした彼女を信頼してなかったのかしら?」

 

「いや、普通の反応だろ」

 

 鋭くも素早いツッコミ、それを見た血染はなるほど俺と同じタイプかと誰に言うわけでもなく一人納得する。彼女ならばレイミィにもそれなりには厳しく接してくれると思えば、彼としても嬉しい限りであると。

 

 その後も火伊那は資料を読み進めたり、時折レイミィやホークス、根津と血染との会話をしていくのだが最後に事務所ビルまでもう少しという所で読み終えた彼女の一言はこれだった。

 

「何でも屋って通称とかじゃなくて本当に何でもやるんだな」

 

「えぇ、犯罪以外は何でも、よ」

 

「……人手不足だから接客の手伝いもかぁ」

 

 彼女は知らない、後に本当にやることになることを……




書いてから、これ根津校長をこの場面に入れる必要なかったなとか思った。

便利屋メモ
移動中にそう言えば火伊那用の服って私や被身子のじゃサイズ合わないじゃんということに気付く
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