便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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どれもこれも火伊那にとっては久し振りの新鮮な光景


No.63『筒美火伊那の新たな職場』

 初見での火伊那の感想は思いの外、デカいビルが拠点なんだなという感心だった。確かに渡された資料や副所長である血染と所長のレイミィからの話から聞かされては居たが多少は盛られているだろうと思っていただけに素直に驚いている。

 

 少なくとも入って早々に潰れることだけは無さそうだと思いながらレイミィ達に続いて車を降りてから

 

「んじゃ、お世話になりましたってわけでもねぇのか。公安とは思いっきり付き合いがあるんだったなここ」

 

「だね~、だから今後とも宜しく」

 

「依頼の関係上、雄英高校にも関わることになるわよ。もっと言えば私が雄英高校に通ってるから嫌でもってやつね」

 

「そうだった……はぁ、まぁ嬢ちゃんに雇われた身だから文句は言わねぇよ」

 

 ヒーローの卵と今の社会を形成している一流ヒーローの巣とも言える雄英高校。火伊那としては思うところがないとかいうレベルではないし、若干だか気乗りもしないのが本音ではある。

 

 自身が泥を被り続けて継続させられた社会の歯車の育成機関と書けば彼女の心情をある程度は理解できるかもしれない。そんな所から依頼を受けてお金を貰っていると言う事には、車内で読んだ資料で分かっていても納得はまだ難しい。

 

 そんな彼女の心情を理解しつつ、直ぐに問題にはならないでしょと考え触れないことにしたレイミィは助手席のホークスに一言。

 

「それじゃ、公安(おうえ)にしっかりと伝えておいて頂戴。AFOの件、しっかり遂行してあげるから約束は守りなさいよって」

 

「うん。伝えておくよ。出来れば君を怒らせたくないから下手なことをしないように釘も差しておいてあげる」

 

「そんな権限が貴方にあるならね」

 

 いやぁ、下っ端は辛いよと笑うホークスだが内心では本当に下手な横槍とかは入らないようにしないとなと本気で思っている。寧ろ入れたことによって歯車が狂う可能だってあるのだからと、それだけ彼女たちのことは評価しているし捕縛という観点から見ても便利屋の持っている個性はどれもお誂え向きとも言えるからだ。

 

 続けてレイミィは根津にも挨拶をするが、ついでに今の短い時間の会話だけで火伊那を信用するのかと聞けば

 

「勿論だとも。それに君ならば彼女を失望させることもないだろうからね、だろ火伊那くん」

 

「あぁ、流石にガキの頭を吹っ飛ばすのはタルタロス(あそこ)に戻った後に夢見が悪くなるからしたくないしな」

 

「ふふっ、ならご期待に添えられるように頑張るわ」

 

「ではね、バートリーくん。明日からまた学校だから忘れないように」

 

 忘れないわよと返しつつ昨日の事を思い出して、内心では忘れないわよねと微妙な感情が渦巻く。それを表に出すことはないが、そして彼らが帰ろうというタイミングであぁと思い出したかのように、されど血染にははっきりと演技だと分かる声で彼女は呟いた。

 

「悪いけど、二度目は通用しないわよ。運転手(会長)さん?」

 

「……は?」

 

「おい、まさかって」

 

「帰るわよ~」

 

 飛び出した言葉に驚愕する二人だったがレイミィは車に背を向けてヒラヒラと背中越しに手を振りながらさっさとビルに入っていってしまうので慌てて軽く会釈をしてから後を追い、ホークス達も車を発進させるが車内で彼は苦笑しながら隣の運転手へ。

 

「バレちゃいましたね」

 

「えぇ、流石に二度も見逃してくれるほど甘くはないということでしたね」

 

「HAHAHA、伊達に便利屋所長ではないってことだね彼女も」

 

 笑い事じゃないんだけどなぁとホークス、なお会長も根津も気にしてない感じに笑うだけの姿に自分だけが気にしすぎてるのかなこれと今日だけで何度目かわからない苦笑を浮かべるしかないホークスであった。

 

 一方、最後の最後で爆弾を爆発させたレイミィはというと事務所に向かうまでに間に先程のことを二人に聞かれていた。

 

「なぁ、あれってつまり運転手が公安の会長だったってことでいいのか?」

 

「みたいね、どうやら一昨日もやってたみたいだわ。その時は気付けなかったけど記憶を見て驚いちゃった」

 

「あぁなるほど、やめろよバートリー、会長の記憶とか何が眠ってるか分かったもんじゃねぇんだから」

 

 記憶? まるで他人の記憶を見ることが出来るという感じの会話に火伊那は疑問を感じるが詳細は事務所についてからねと暈すだけに留める。流石にこれは資料にも迂闊に書けないので仕方がないことであり、それよりも先に仲間たちを紹介したいという感情があるからだ。

 

 更に言えば、もう事務所前まで着いたからと言うのもある。着いたのにいつまでも扉の前で長々と会話をしていたら時間が勿体ないのもあれば被身子が煩いのもあるのでと扉に手をかけ

 

「じゃ、改めてようこそ便利屋チェイテへ。先ずは仕事場の事務所から紹介するわ」

 

 外見だけじゃなくて事務所も立派なんだからと扉を開けたレイミィを出迎えたのはパァン! という軽い音と様々な色の紙テープ、つまりはクラッカーである。

 

 刹那、空気が死んだ。下手人である被身子からはやばっと言う声が漏れ、レイミィは笑顔のまま顔だけを血染と火伊那に向けて

 

「二分、待ってて」

 

「あ、あぁ」

 

 ガチャリと閉じられる扉、中からはレイミィの激怒した『ひ〜み〜こ〜!!!』の声に続き被身子からの『ち、違うんですレイミィちゃん!!! いったーい!!!???』とまるでこうなるとは思ってなかった叫びに血染は強めの頭痛を感じるしかない。

 

 声は聞こえないが圧紘と仁はだから止めておけと言ったのにみたいな表情をしているだろうことも察してしまい、ため息を吐き、それを見た火伊那がなんとも言えない表情で

 

「賑やかな職場なことで」

 

「そう感じてくれるなら感謝しかねぇな、仕事はそれなり以上に出来るんだが」

 

 苦労人枠なんだなコイツと同情の念を送ってしまうのだが彼女は知る由もない。自分もまたその枠に入ってしまうことを、それを血染がほくそ笑みながら見られることを……とここで二分経ったようでガチャと扉が開かれ、出てきたのは入った時と変わらない笑顔のレイミィ。

 

「待たせたわね、入って頂戴」

 

 促されるままに入った火伊那から見た事務所は広く、絵に書いたような事務所だなという感想。自分の分の机も置かれているとしてもまだまだ広さは維持されており、その机や椅子も安物で済ませていないという部分もこの便利屋がしっかりと軌道に乗っていることを示していると感じることが出来るのも高評価だろう。

 

 もっともその事務所に圧紘と仁の間に挟まれて正座している被身子の姿がなければという前提が付くが。しかも涙目で本気で反省しているという姿に火伊那としてもどんな反応を見せれば良いのかわからないわけであり、隣の血染に視線を送るが返ってくるのは下手に触れるなという視線に困惑していると

 

「さてと、私と血染は良いとして。三人の紹介は必要よね。じゃあ、仁からお願い」

 

「おう、俺は分倍河原仁。個性は【二倍】で一応の役職が課長ってことになってる」

 

「私は迫圧紘、個性は【圧縮】で役職は部長。よろしくね」

 

「あ、私もう立って良いんですかね? えっと渡我被身子です! 個性は【変身】でレイミィちゃんの秘書をやってます!」

 

 三人のそれぞれの自己紹介に読んだ資料を照らし合わせてこの事務所が丸々(ヴィラン)側の人間じゃなくて良かったなと彼女は思う。ヒーローとしてそれなりに働いてきたからこそ分かる、便利屋は間違っても敵に回してはいけないと、単体でも厄介だと言うのにそれが集団で連携してくるなんて悪夢も良いところだと思いながら

 

「嬢ちゃんに口説かれて、今日付けでこの便利屋で働くことになった筒美火伊那だ。個性は【ライフル】、まぁ先輩方の足を引っ張らないように気をつけるよ」

 

 役職とかもあるのかと感心するが、その日の内にこれがあくまで仮もしくはカッコいいから付けているだけであり意味があるのが秘書と副所長と所長だけであるということを知り、ガキっぽい所結構あるんだなと思い知らされることを彼女はまだ知らない。

 

「火伊那ちゃんも口説かれたんですね。私もですよ~」

 

「いや、お嬢に口説かれたって言うならこの場全員そうだろ。募集を読んでって言うのは未だに無いし」

 

 なお働かせてくれと来たこともなければ、アルバイト関連で電話も鳴ったこともない。ほぼ100%で掛かってくるのは依頼かホークスか、偶に公安及び警察。これは資料には書かれていないことだったが彼女としてはまぁそうだろうなという感情しか無い。

 

 ヒーロー社会の今、便利屋という灰色過ぎる所に来るなんて自分のような訳ありだろうし、その訳アリも態々自分から飛び込んでくることなんてしない、それこそレイミィのように出向いてスカウトしなければ。

 

「んっん! とにかく、皆仲良く頼むわよ、じゃあ次はって言いたいけど……大体が資料で渡した通りなのよね。現状の依頼も雄英高校とオールマイト、それと轟家からってのがあるってことと他は日常業務のことだけだし」

 

「改めて名前を出されると、俺達便利屋も大物から依頼が来るようになったんだなって感慨深くなるな」

 

「しれっと書かれてて驚く暇もなかったんだがNo.1とNo.2から依頼が来るってどんなパイプを使えば起こるんだよ……しかも内容が弟子の特訓に家族問題の解決って」

 

 いくら便利屋が何でも屋だからって受ける依頼に見境なさすぎるだろと火伊那が呟いてはいるが、資料にもはっきりとその事は書かれていたので驚きというよりも灰色の便利屋という存在にも頼ってくる有名どころに何してんだかという感情のほうが大きい。

 

(いや、寧ろ灰色だからこそ頼めるのか)

 

 今のヒーローに変なことを頼めばそれが弱みになる。だが便利屋にならば確かに【借り】もしくはそれ相応の報酬が必要にはなるがそれ以上のリスクは発生しない、こちらだって信頼がなければ成り立たない業界なのは間違いないのだから。

 

 しかも資料にはどちらも社外秘とも書かれていたので尚の事、第三組織とも言える存在だからこそ頼めるのだろうと。もっとも、それだけの信頼を現状で稼いでいるから来ているという点も忘れてはならないだろう。

 

「さて、今日この後の予定なんだけど、ショッピングモールに出るわ。圧紘、バン出して」

 

「ショッピングモール? なんでだよ」

 

 便利屋について思考を深く回していた火伊那を引き戻したのはレイミィのそんな言葉だった。出来れば今日はゆっくりとしたいんだがと思っていると、向こうもそのつもりだったのだがと理由を話す、それは彼女も納得しか無かった。

 

「今晩の夕食の材料もなんだけど。貴女の服とか下着とか無いのよね、事前に貴女のサイズとかが分かってればよかったけど教えてもらえなかったし」

 

「私とレイミィちゃんのじゃサイズが全然違いますからね。お洋服の趣味もどんなのが良いのかっていう話もありますし」

 

「……確かにそうだな」

 

 思わずという感じに自身と二人のとある部分を見て火伊那は納得した。因みに部屋着だけはレイミィが大量に抱え込んでる予備と言う名の買ったはいいが結局まだ着てないオーバーサイズのTシャツとかやスウェットパンツがあるので問題ないだろうとのこと。

 

 男陣営はこの事については口出しできないが、明日から通常業務だと考えればスーツしかないのは問題だとして同意、まだ時間もあるのであれこれとついでに買ってしまおうとなり準備をし便利屋が中古で買ったバン(ハイエース)に乗り込み昨日も言ったショッピングモールに向かうのだが道中にてレイミィがああそうだと火伊那に問い掛ける。

 

「今日は貴女の歓迎ってことで私がオムライス作るんだけど、種類にリクエストとかある?」

 

「種類も何も、オムライスそのものも久し振りだからな。任せていいか?」

 

「ん、じゃあプレーンで良いわね」

 

「きっと火伊那ちゃん、レイミィちゃんのオムライス食べてびっくりしますよ」

 

 それはいい意味なのか、悪い意味なのかと不安になるが血染たちが普通に彼女にリクエストをしてるのを見るに食べれないということはないのだろうと判断、それよりもと被身子を見て

 

「つか、さっきから私を【ちゃん】付けで呼んでるが理由あるのか?」

 

「へ? 特にないですけど……?」

 

「そいつのそれは癖とかそういうもんだと思ってくれ、俺もプライベートじゃ【くん】付けだ」

 

 似合わねぇ。呟きながら窓から外の光景を眺める火伊那にレイミィは慣れれば気にならなくなるものよと笑い、被身子は変ですかねと仁に聞くが彼も慣れてしまっているし被身子のような人間性は嫌いではないので、そうでもないと答えるに留める。

 

 血染はそもそも気にしてないし、圧紘も仁と同じような反応なので割愛、一行は後はショッピングモールにて経費という事で火伊那のアレコレを購入しオムライスの材料も買って何事もなく帰宅。レイミィとしてはスーツにサングラスということで目立つかとも思ったが

 

「なんか、気にしすぎたかしらね。スーツじゃなくても殆ど反応なかったしっ、と」

 

「でも綺麗な人だとかの反応は沢山ありましたよね、私達がいなかったらナンパされてたんじゃないです火伊那ちゃん。あ、コンソメスープ出来ました」

 

「ナンパねぇ、三十路超えてんだがこれでも」

 

「いやいや、きれいな女性なら声をかけたくなるのが男ってもんだよ、火伊那ちゃん」

 

「てめぇはちゃん付けやめろ、鳥肌が立つ」

 

 結構本気な言葉に圧紘は素直に謝罪することしか出来ず、それを見てた血染と仁がそりゃそうだろと言う反応を見せる。そんななんてことないそんなやり取りも火伊那にとっては久し振りであり悪くはないと思っていると夕飯が出来たということでそれぞれリクエストをしたオムライスがテーブルに並べられる。

 

 正直に言えば、レイミィの料理の腕は平凡程度だろうと勝手に思い込んでいた、だが目の前に出されたプレーンオムライスはレストランとかで出されても文句はないという出来栄えに驚き思わずレイミィを見てしまい、見られた彼女はどうよという表情で自身の席に座る。

 

 これ、もしかして凄く美味しいのかもしれない。彼女の自信あり気な表情からそう思いながらお決まりの挨拶をしスプーンをオムライスに入れる、ふわっとした感触にすっとスプーンで切れる絶妙な卵、その下に眠るベチャッとしていないケチャップライスとともに一口、無言のまま味わってから出てきた感想は

 

「なんだろうな、ここまで美味いのを出されると敗北感が強いな」

 

「それ感想よね……?」

 

 料理とかとは縁がなかった身ではある、だがそれはそれとして同じ女性の自分よりも遥かに年下の相手からこれを出されたということに火伊那は微妙な敗北感を感じるのであった。




次回も火伊那さんの場面です、まぁここらで適当な過去話でもと。

どうも、水曜日はお酒を入れて寝て、木曜日はゼンゼロで新エリー都に行ってた作者です。はい、今後はタグにも書いたように(火)(金)(日)の3日間での更新になります、まぁそのすみません。

便利屋メモ
火伊那の家事能力は言うまでもない。
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