便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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いつもの朝の光景


第五章【大きく変われ、世界の流れ】
No.65『一人増えても変わらない便利屋の朝』


 早朝、火伊那は便利屋ビルの自室にて目が覚めた。覚めてから全く見覚えのない天井とタルタロスのにしては妙に寝心地の良いベッドにここはどこだと古典的な事を思ったがすぐに事を思い出す。

 

(あぁ、便利屋に雇われたんだったな。くっ、うーん)

 

 時計を見ればタルタロスに居た頃の起床時間、どうやらあそこから離れても身体はしっかりと覚えてしまっている時間に起きてしまうらしいと頭を掻きつつ、ベッドから降り身支度を始めることに。

 

 本日から本格的に便利屋の一員として働く、とは言ってもレイミィ曰くレディ・ナガンとしての知名度が何処まで高いか、一般市民は大丈夫だとしてもプロヒーローやマニアとかなら彼女の顔を見た瞬間に身バレしてもおかしくないとも言っておりそこは対処を考えておくとのこと。

 

(確か、私が捕まった時はニュースで大々的に流れされたとか聞いたな。十年くらい前だが覚えてるやつは覚えてるだろうな)

 

 人というのは意外と顔を忘れないものだ、それに加え彼女自身もプロヒーローとしての活動がそれなりに長く活躍もしていたのでファンも多かった。ならばレイミィの懸念も決して杞憂とかではない、寧ろ当然のことであり、仮にそこを考えてなく大丈夫でしょとか宣っていたら火伊那は今すぐこの場所を辞めていただろう。

 

 所長としてのリスク管理は徹底していることには火伊那も感心するしかない。そんな事を思いながら昨日の買い物で購入した服に着替え、姿見で変なところはないかと軽く確認してから部屋を出れば、丁度通り過ぎたタイミングの被身子の姿があった。

 

「あ、おはようございます、火伊那ちゃん!」

 

「おはよう、随分と早起きなんだな。なんか日課でもあるのか?」

 

 当たり前だが便利屋面々の趣味やルーティンはまだ殆ど知らないので、親睦を深めるついでに聞いてみれば返ってきたのはレイミィを起こしに行くとの内容。

 

「……朝弱いのか、嬢ちゃん」

 

「すっごく弱いですね。放っといたらギリギリまで部屋から出てきませんし」

 

「そりゃ余程だな。付いていっていいか?」

 

 折角だからと聞けば、勿論と嬉しそうに頷かれ二人はレイミィの自室へ。道中では面白いものが見れますよと伝えられたが一体どんな姿を見れるのやらと期待半分で扉の前に到着、いつものように被身子がノックして

 

「レイミィちゃ~ん!  起きてますかー!」

 

 辛うじて、本当に耳を澄ませてやっと聞こえる音で聴こえたのはベッドから落ちたかのような音とそこから段々と扉前まで近付いてくる足音、そしてガチャリと開かれた扉から出てきたのは嘴にアイスを突っ込まれた丸い鳥のイラストが描かれたTシャツに黒のスウェットパンツを履き髪の毛は寝癖で荒れ放題、顔はまだ覚醒していませんというのをありありと伝えてくるレイミィの姿。

 

 これは思ったよりも酷い。目の前に今居る彼女が本当に自分をスカウトした彼女と同一人物なのかと本気で思いたくなる姿に火伊那は呆れた表情を晒すことしか出来なかった、ある意味で子供らしいと言えなくもないが所長としてはどうなんだこれはと思いつつ被身子の挨拶に続く形で

 

「おはよう、嬢ちゃん。ヒデェ顔になってんな」

 

「あ~? 火伊那? 気にしないで……朝は何時もこうだから」

 

「はいはーい、じゃあ準備しちゃいますんで戻って洗面所で顔を洗って頭を起こしに行って下さいね!」

 

 グイグイとこれまたいつものように反転させて背中を押しながら被身子に促されるようにレイミィは部屋に戻っていき、被身子の後を追うように火伊那も彼女の部屋に入る。

 

 所長の自室、普通だったら所員が早々に入れない部屋なのは間違いないのだが先程のやり取りでこいつはその辺りは気にしてないし、大丈夫なんだろうなと部屋の内装を観察するが感想としては良く言えばシンプルに纏まり整理整頓がなされている。

 

 だが、悪く言うとすれば殺風景とも言えてしまう。彼女くらいの年代ならもう少し物があったり、小物とかが飾られていてもおかしくない筈だが殆どが仕事の資料や書類、勉強に使う参考書などで趣味に当たるものはほぼ見当たらない。

 

 強いて言うなら彼女の机の上に丸い鳥のぬいぐるみが一体置いてある程度だろうか。いや、あれはなんで飾ってあるんだよと言う新たな感想が生まれるが辛うじて飲み込むことに成功する。

 

「ん?」

 

「どうしました、火伊那ちゃん」

 

 飲み込み、改めて部屋を見渡し彼女は違和感を感じた。何かが足りないような、例えるならパズルのピースが一つだけ足りない感覚。

 

 絶対にではないが基本的に置いてある何かが、そこまで思考を巡らせ気付いた。

 

「なぁ、この部屋って鏡は置いてないのか?」

 

「無いわよ。私が鏡に映らないからね」

 

 先程よりもハッキリとした声でおはよう二人と挨拶と共に現れたレイミィの言葉に個性のデメリット部分であり確かに昨日の夕飯の時に地味な部分で面倒な個性と言ってたなと思い出し納得する。

 

「だからトガが毎朝、ヘアセットとかメイクをしてあげるんです」

 

「へぇ、大変だな。毎朝、手のかかる妹を起こしてヘアセットとメイクなんて」

 

「誰が妹よ、誰が」

 

「レイミィちゃんが妹、アリですね! 今度その設定で依頼なんてどうですか?」

 

 依頼の中には身分を偽って活動するというものは確かに存在する。なので一概に嫌だとは言えず唸ってしまうレイミィ、それを見てニコニコ笑顔のままヘアセットから始める被身子。

 

 二人の関係性というものをはっきりと映すやりとりに火伊那は親友と言うのは確かなんだなと口にはせずに、静かに彼女の準備を眺めてることにする。

 

 もう慣れているので手際よく進めていく被身子に信頼しきって大人しくするレイミィ、やはりこれだけを見ていると親友同士というよりは姉妹なんだよなぁと思っていると

 

「そう言えば、昨夜はよく寝れたかしら?」

 

「急だな、快眠だったよ。未だにあそこにいる連中に申し訳ないと思うくらいには」

 

「比較対象が底も底なんですけど……」

 

 タルタロスの名誉のために補足しておけば、別に備品の品質が悪いとかは無い。どれも普通のものが使用されているので火伊那が言うのは空気的なニュアンスである。

 

 分かりやすく言えば閉鎖空間とそうでない自室、どちらが気持ちよく眠れるかという話。なのでそりゃそうだろうとしかレイミィも言うしか無く、被身子もここでそういう意味かと悟りなるほどな~と納得する。

 

 それから数十分ほど掛けて、雑談をしながら髪のセットやメイクを終わらせ制服姿になったレイミィと共に事務所に。部屋には既に血染、圧紘、仁も起きてきており、ここの朝はタルタロスの時とほぼ変わらないくらいでいいんだなと学習しつつ三人に挨拶を交わし、まだ座り慣れていない自身の事務机の椅子に腰を下ろす。

 

「あ、火伊那。朝ご飯はそこの菓子パンを自由に持ってって、コーヒーは圧紘に言うか、自分でやるかね」

 

「あいよ、この感じだと昼も各自ってところか?」

 

「そうですね~、各自だったり誰かとだったり日によるってところです」

 

「まぁ基本的に皆で集まってっていうのは定休日か、夕食のときだって覚えてもらえればいいかな」

 

 便利屋の依頼が多種多様が故に昼時に集まってというのは中々に難しい、だからこそ夕食や定休日では揃って出かけたり食べたりをしていると説明されれば、それもそうかとあんぱんを齧る。

 

「さて、食べながらでも良いから朝礼を始めるわ。知っての通り、今日から火伊那にも依頼に入ってもらうんだけど、一つ注意してほしいのは一般市民なら良いけどプロヒーローが関わる依頼は暫くは向こうに顔を見られないようにしてほしいの」

 

「昨日の話から髪型も現役の時と変わってるせいで一般人には気付かれなかったが、プロヒーローは個性で、もしくは顔で気付く可能性があるからってことだよな」

 

「成り立てとか、ここ数年のヒーローなら大丈夫だろうが。長く現役をしてる相手だと一発アウトだろうな」

 

 仮にバレたとしても便利屋としては何のダメージはない。無いが間違いなくマスコミが連日煩いことになるし公安と協会から何言われるか分かったものではないから、対策を考えるまでは極力バレないようにもしくはバレたとしても、向こうが事情を把握している人物だけに留める。

 

 これが現状の便利屋が出来る対策。それでも一般人に相手なら伊達メガネとかしただけで変装としては十分な状況は恵まれているものであると火伊那も思いつつも

 

「悪いな、なんか面倒なことになってるみたいで」

 

「気にしなくて良いわ。そこも折り込み済みで迎えたわけだし、悪いのはマスコミと公安と協会連中よ。ともかく、今日中に雄英でなにか変装に使えるサポートアイテムが無いか聞いてみるわ」

 

「サポートアイテムか、有ればいいけど流石に向こうもタダでってわけには行かないかもよ」

 

 うぐっとなるが圧紘の言う通りことが事なのでそこは仕方がないことだとレイミィは返す。経費か、いや、自身の溜まりに溜まっているヘソクリを崩すこともやぶさかではないと脳内で試算するが流石に時間が足りないと一旦打ち切る。

 

 だがこれは必要なことであり、絶対条件の一つでもあるので今回ばかりは向こうにかなり譲歩する交渉になるかもしれないとジャムパンを食べ圧紘が淹れたコーヒーを飲んだところでふと何かを思い出して自身の机の引き出しからとある物を取り出して

 

「これ公安から用意された銀行の通帳とキャッシュカードね。ここ以外では口座は作れないし、クレジットカードも作れないから現金で取り扱うのが基本になるわ」

 

「了解、まぁクレジットカードは当然の処置だろうな」

 

 納得した感じに頷く火伊那だが、実態はそれもあるが根本的な話で申請が通らない、確かに公安や協会、政府から認められている便利屋ではあるがグレーなのは変わらないので正式な形、つまりは表向きでは認められている風に取り扱ってはいない。

 

 なので銀行側から見れば怪しさ満点の集団なのである。けれどクレジットカードが無いのは不便すぎるとしてレイミィはホークスに拝み倒して公安にも借りの消化ついでに頼み込み一枚だけの取得に成功している。

 

「一応、すっごく交渉して所長の私のだけは許可貰ったけどこれも迂闊に使うと書類とかが面倒で滅多に使ってないのよね」

 

「移動用の普通車とバンを購入した時だけだよな、それ使ったのは」

 

「あの日も購入してからすぐに帰ってきて物凄い勢いで書類制作してましたねレイミィちゃん」

 

 だって遅れると本当に面倒なんだもんと当時を思い出しゲンナリした表情のレイミィ。上記のようにかなり無理を押し通して作っているので使用のたびにその日の内にかなり詳細な書類を制作し提出しなくてはならず、コレが物凄く面倒というのは便利屋の総意である。

 

 なので便利屋の買い物は現金での一括払いが基本である。そのための財布なども昨日の時点で購入しているので火伊那はそれにキャッシュカードをしまい込み、通帳は後に自身の自室の机に仕舞われるだろう。その後も軽い確認を行いつつ、人工血液を飲み終えたタイミングで

 

「とりあえずこんなところかしらね。あとの詳しい話は血染から聞いて、頼めるわね」

 

「任せろ。そっちの件も忘れるなよ、バートリー」

 

「流石に忘れるような案件じゃないから平気だってば。あっと、もし何かあったら連絡をしてちょうだいね、じゃあ、いってきます」

 

 鞄を手に持ち全員に言葉を掛けてから事務所を出てパタパタと走っていったレイミィを見送ってから、血染が書類を片手に立ち上がり

 

「今日の流れを確認しておく、被身子は火伊那とコンビを組んで依頼をこなせ、連休明けだからかストーカーの相談がかなり来ている、それから手を付けてくれ」

 

「……ちょ、ちょっと待ってください。連休明けを考慮してもおかしい量じゃないですこれ!?」

 

「なぁ、16の少女にストーカーの対処依頼をやらせるのかここは」

 

「え、あ~、まぁもう散々やってるから。それにここの一番の稼ぎは所長の浮気調査だよ?」

 

「言葉にすると本当に思春期の少女が得意としちゃいけない依頼だよなそれ」

 

 続けるから静かにしろと言われ黙るが火伊那としては、便利屋ってのは本当に大変なんだなと思わされた一幕である。因みに本日だけで被身子が片付けなければならないストーカー案件は10件と少しなので彼女が叫ぶのも無理はない。

 

 寧ろストーカー多すぎじゃないですこの辺りは! その叫びに火伊那も、いや、便利屋全員が、あの血染ですらも思わざるを得なかった。だとしても依頼は消えるわけではないのでこなすしか無いのだが。

 

「圧紘も仁も流石の連休明けだという量が来ている。今日は初めから俺も動くので片っ端から片付けるぞ」

 

「助かるよ、それにしてもヒーローじゃなくてここに来るっていうのは、そういうことなのかね」

 

「かもしれねぇな。ん、保須市からまた来てるな、どうする?」

 

 見れば、警邏の依頼だが日付にまだ余裕があるのを見てとりあえず保留となりミーティングは終了、各自行動を開始するのであった。因みに火伊那は今日は念の為と被身子が囮をしている最中に長距離から目の良さを生かした監視をしストーカーを発見するというやり方で遂行の貢献をすることになる。




火伊那さんが割と常識人的なツッコミ入れてるけど多分数話もすれば染まる。

便利屋メモ
被身子としては大人の女性と依頼をするというのに新鮮味を感じて楽しんでたとのこと
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