便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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なんか、学校の場面よりも便利屋の場面を書いてるほうが筆が進む


No.69『便利屋本日の統括』

 同日、便利屋事務所にて火伊那は自身の席でやっと一区切り付いたと息を吐きだしていた。理由は言わずもがな、便利屋の所員としての初日が故になれないことのオンパレードで疲れたと言うだけである。

 

 基本的に被身子とパートナーを組んでの業務だったがそれでもヒーロー活動とはまるで違う内容にミスこそしなかったが、危うかった場面は多々あったり、依頼主との会話もかなり神経を使ったりと言う場面だらけで流石の彼女も疲弊するというものである。

 

「ありゃ、火伊那ちゃん、大丈夫ですか?」

 

「ん? まぁ見ての通りって感じだが、被見子お前、凄いな、私と違って身体を張って全く疲れてねぇんだから」

 

「慣れてるってだけですよ~」

 

 二ヘラと笑う彼女に慣れてるってだけでも十分凄いのだがと肩を回しながら思うと同時に火伊那は便利屋の個々の戦闘力の高さにも舌を巻いていた。

 

 今日のストーカー案件、連休明けということもあり数件ほどをこなしたのを見ていたが現行犯で大人しく確保されるのが大体の中、一部は抵抗や、逆恨みから激怒し被身子を殺そうとしてくる輩も存在したがそんな相手にも彼女は慌てる様子もなく対処、あっさりと無力化してしまっていた。

 

 あっさり、言葉にすれば簡単ではあるがあまりにスムーズに行われたそれは柔術などの複数の技術を合わせ、その上で独自のものに昇華させ使いこなしてる姿は公安から色々と仕込まれた彼女から見ても素直に称賛できる実力の高さでしかなく、その時を思い出して無意識に真剣な表情で火伊那は考えた。

 

(こりゃ、鈍ってる身体を早く戻さないとマズいな)

 

 火伊那が上記のように焦るのも無理はなく血染も圧紘も仁も便利屋という関係上、ヒーローのようにアイテムが使えないという理由で近接戦闘の実力は相応にあるらしく所長たるレイミィも当然それを有している。

 

 だとすれば自身も早く足手まといにならない程度には実力を取り戻さなければとなるのも無理はないだろう。もっとも、現状でも近接は並以上に出来るのでレイミィからすれば焦らなくともとなるが。

 

(流石に個性による狙撃だけで食っていける業界でもないだろうしな)

 

「神妙な顔つきになってどうした、悩み事か?」

 

 自身を鍛え直さないとなと決心していた火伊那の表情を見て、初日からなにか悩みかと聞いたのは血染。これでもレイミィから副所長を就任された身として新入りが悩んでいるなら一応聞いておくかと言う心構えからの行動であるのだが、どうにもそれが彼女には意外だと感じつつ。

 

「いや、自分が思ったよりも鈍ってたなって気付かされただけだ」

 

「十年以上あそこにいたとなりゃそうだろうな。ふむ……火伊那、一つ案がある」

 

「案?」

 

 思わずオウム返しをしてしまう火伊那。話の流れ的には自身の鈍っている身体を解消するためのものだとは思うが特訓にでも付き合ってくれるのかと首を傾げれば、今度は被身子が血染の考えに気付いたのか声を上げてから

 

「もしかして、出久くんの特訓に付き合わせるって話ですか?」

 

「出久って確かオールマイトの弟子だってやつだろ。あぁ、そういう事か」

 

「そういうことだ。今は俺とレイミィと被身子の三人で回しているが公安仕込みの技術は流石に俺達も知らないから教えられなくてな」

 

 言うまでもないがこの三人、もっと言えば便利屋面々は我流でしかなくちゃんとした武術というものは誰も扱えないのが現状。なのでこの機会に公安仕込みというものも吸収させ彼のさらなる飛躍をというのが血染の考え、同時に今の彼ならば火伊那の悩みも解決するだろうというのもあるが。

 

「強いのか、そいつは」

 

「やつの弟子を名乗れるだけの素質はある。まだ荒削りではあるが鍛え続ければ相当化けるぞ」

 

「ふぅん、なら私の鈍りの解消に利用させたもらおうか」

 

「じゃあ、レイミィちゃんが帰ってきたら話しておかないとです……ん?」

 

 噂をすれば影がと言うべきだろう。被身子が耳に拾ったのは複数人の足音、その中の一つにレイミィの物が混ざっていると分かればニコニコ笑顔で扉を見つめるが、これだけ足音が混ざっているので何で分かるんだよと火伊那が呟けば

 

「へ、そりゃレイミィちゃんが大好きですもん」

 

「なぁおい、こいつってそういうやつなのか?」

 

「いや、ただ惚れっぽいだけだ」

 

 惚れっぽいだけで足音まで判別できるとかそれはそれでどうなんだと思うが、これ以上は触れないでおくかと結論を出した所で扉が開き、先ず仁が、続けて圧紘、最後にレイミィが帰宅、それぞれが火伊那達に挨拶をし彼女達も返してから三人同時なんて珍しいという話になる。

 

「偶々所長が依頼を片付けてる時に合流してね」

 

「俺達の依頼とお嬢の依頼が近所だったんだよな」

 

「知ってはいたけどね、ただピンポイントでバッタリ会うとは思ってなかったけど」

 

 当たり前という言えば当たり前だが、レイミィも学校がある日でも放課後を利用してきちんと依頼を片付けている。今日は連休明けで溜まっていた浮気調査と信用調査の仕込みのためにあっちこっちと文字通り飛び回り、最後の仕込みを終えた所でバッタリと二人と出会い、そのまま帰宅ということらしい。

 

 因みに仕込みと言うのは対象へモスキートを飛ばすだけのことを指す。これが一日で数件を一気に片付けることが出来る秘密であると同時に彼女が夜更かししている理由でもある。

 

 そんな余談はおいておき、自身の席に座りグッと伸びを身体全体でしてからレイミィは火伊那に初日だった今日はどうだったと聞く、ただ内心では彼女の顔から疲れたんでしょうけどとは思っているが。

 

「正直に言えばヒーローの頃とはまるで違うってのもあって結構疲れた。それと一般人なら問題ないって思ってたが商店街の爺さん婆さんとかには危うく身バレしそうになったな」

 

「あっ、そうよね。ご年配者なら知ってても不思議じゃないか……ごめんなさい、盲点だったわ」

 

「トガが何とかフォローしておきましたし、あそこの商店街の人達は便利屋の事情を理解してくれてるので言い触らしはしないと思いますけどね」

 

 被身子の言うように便利屋を開いてからの付き合いがあるこのあたり近所の住人はこの組織が事情持ちだというのは察している。これは当時まだ幼かったレイミィが所長として先ずは近所からの信頼を得ることを名目に便利屋を売り込んでは依頼をこなしていたからであり、だからなのか火伊那も何処かで見たことあるようなとは言いつつも他人の空似という被身子の言葉にそうかと納得してくれている。

 

 だが問題なのはそこではなく、ある程度の年齢なら彼女を認識してしまうかもしれないという部分にある。変装すれば大丈夫だろうというのがあまりに浅はかだったとレイミィは謝罪してから

 

「早急に対策が必要ね。でも流石に一日中仮面ってのはキツイわよね」

 

「仮面?」

 

「もしかして今朝言ってたサポートアイテムかい?」

 

 そう言えばそんな話もしてたなと今日の忙しさにど忘れしていた火伊那が思い出せば、レイミィがえぇと頷き鞄からケースを一つ取り出す。それから火伊那の方に向けてからカパッと開いて彼女が覗き込めば丁寧に仕舞われた一枚の仮面。

 

 手に取ってみなさいと言われれば、指示に従いケースから取り出すが見た目の割に軽量であることに先ず驚く。

 

「これが、例のそれってやつか」

 

「えぇ、サポート科との取り引きで譲ってもらった試作品。私も一度付けたけど、きっと貴女も気に入ってくれると思うわよ」

 

 自信満々の言葉にじゃあ試してみるかと装着してみれば、感嘆の声が漏れそうになった。付けているとは思えない軽さと違和感の無さ、また視界も狭まるとかはなく下手すれば装着してるのを忘れてしまうのではないかと思ってしまうほどに良好であり、だが視界に映る様々な数値が確かに仮面を付けていることを知らしめている。

 

「こりゃ凄いな、ズーム機能に距離の測定まで出来るのか」

 

「ふふっ驚いたでしょ? それをサポート科の一年が仕上げたっていうんだから、勿論だけどサポート科の先生、パワーローダーのお墨付きだから」

 

「一年の作品だと? しかも教師のお墨付きか、将来が楽しみなやつだなそれ」

 

「そう、将来性は物凄く期待値が高いのよ。だから、雄英高校のサポート科と契約結んできたわ」

 

 唐突にぶっこまれた言葉に所員の視線がレイミィに向けられる。主な内容は手が早いなというのが大半だが、一部はまた勝手に手を広げてるというのも混ざっている。

 

 一部混ざっているとは言ったが主に血染がそう思っているというのが正しいのだが。時たま彼女はそういう事をしては事後報告してくるので若干頭痛の種になっていたりもする。

 

「お前なぁ、いや、いい、契約書はあるのか」

 

「後日パワーローダー先生が相澤先生経由で渡されるわ。それで依頼もその時に受けてるのよ、内容は今回のように試作品のテスターをしてくれというもの」

 

「ふむ、試作品とは言えサポート科のアイテムを便利屋で使えるようになるのは助かるね」

 

 今までこの手のバックアップは無かった便利屋からすれば試作品のテスターと言う形で支援を受けれるようになるのは圧紘の言うように便利屋としては嬉しい限りである。

 

 しかもテスターと言う体でこちらからある程度の注文もできると続けられれば

 

「破格な依頼ではあるな、注文は何処まで出来るんだ?」

 

「流石に殺傷能力があるものは難しいと考えたほうが良いかも。でもそれ以外なら結構ノリノリで作ってくれそうな空気はあったわ、今回も光学迷彩が欲しいと伝えたら作っておくって話になってるし」

 

「光学迷彩って、簡単にできるんかよそれ……」

 

 有れば確かに便利だがと火伊那は呟くが、出来てしまうのが雄英高校である。だがとレイミィがむーんと難しい顔をして唸り始め、被身子がどうしたのかと聞けば

 

「確かに雄英高校からのサポートがってのは嬉しいんだけど、ちょっと向こうに借りを作りすぎてるかなって思ってね」

 

「依頼の契約書には便利屋へのサポートは惜しまないと書いてあったんだ、あの校長のことだからその辺りも折り込み済みだろ」

 

「どうせ、お嬢がそう考えてるってことも予測されてそうだがな」

 

「はは、ありえるかも」

 

 圧紘の笑えない冗談、いや、冗談ではないかもしれないそれにレイミィも言葉が見つからない。見つからないが脳内で『HAHAHA!!』と笑う根津の姿がありありと浮かび、考えても仕方がないかと割り切る。

 

 レイミィが割り切った所で彼女をフォローするように火伊那が口を開く、【借り】云々のことで悩むのは確かに分からなくはないと。

 

「ここも公安に借りをかなり押し付けて向こうが苦労してるんだしな。それを見てりゃ、嬢ちゃんの悩みも無理ないだろ」

 

「因みに公安だけじゃなくて協会と警察と一部政治家にもあるんですよ此処、いつか消されないと良いですよねって昔言ったことあります」

 

 シレッと出てきた単語に嘘だろと言いそうになるが、レイミィの個性と昔の演技のことを思えばありえない話じゃないかと納得する。

 

 ここで借り云々の話は終わり、ともかくとレイミィが全員の注目を集めてから

 

「今後、火伊那がプロヒーローと関わりそうな依頼に出る際はその装備を忘れないで、着用しておけば私で誤魔化しておくから、あとでその仮面の取説も渡しておくから目を通しておいて」

 

「あいよ、まぁ触った感じ衝撃には弱そうだなってのはわかるが」

 

「実際、精密機器だから気を付けて。さて、他に誰か報告ある?」

 

 見渡して聞いてみるが特にはない模様。あったとしても夜にレイミィが自室で報告書に目を通しておけばいいという物しかない、なので本日の業務はこれで一旦締めることに。

 

 締めてから、レイミィは鞄からまた書類の束を引っ張り出す。唐突に出てきたそれに、何かと被身子が覗き込めば書かれているのはプロヒーローの名前と事務所の住所、はてと小首を傾げてから

 

「なんです、これ」

 

「ヒーロー基礎学で今度、職場体験があるの。これはその向かう先の一覧、此処から一つ選んで一週間お世話になるってこと」

 

「職場体験ねぇ、どれくらいオファー来てるんだ、嬢ちゃんは」

 

「でもよ、お嬢が便利屋やってるの向こうだって分かってんだから、そんなに来ないだろ」

 

「どうだろ、意外と情報収集してなくて雄英体育祭の結果だけ見て送ったってのもあるかもよ」

 

 気になるなら見てもいいけどとバサッと机に書類を置き、所員全員で見てみれば書かれている指名の数は四桁、そこから根津が徹底的に吟味した上でそれでも三桁に登る指名数に被身子がボソリと

 

「え、もしかして圧紘くんの言う通りなんですこれ?」

 

「だろうな。或いはバートリーが雄英高校に居るから問題ないと思ったやつか、どちらにせよそう見られてるってことだ」

 

「全く困っちゃう話よね。ただ単にお上に脅されて、校長から依頼されてるから在籍してるってだけなのに」

 

 やれやれという感じにそう言うが火伊那からすれば、普通の奴らはそんな事を想定できるわけ無いだろと言うしか無かった。

 

 言ってから、彼女は悟った。多分、便利屋の奴らってその辺りの常識とか抜けてるんだなと、もしくは自分たちが出来るんだからヒーローも出来るでしょという煽り体質なのかもしれないと。




仮面に光学迷彩まで装備した火伊那が超長距離から狙撃してくるとか嫌がらせが過ぎるでしょ……

便利屋メモ
この日の便利屋の夕食は圧紘お手製の中華料理だった模様。
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