便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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便利屋始まって以来の大仕事


No.7『理由と依頼』

「白と黒しか許さない今の社会に楔を……?」

 

 便利屋をやっている理由を聞いて返ってきた答えに怪訝な表情になる相澤。言葉だけを聞けばなんとも物騒なものではあるのだが、レイミィもそれは自覚してるからか直ぐに手を振って否定を挟む。

 

「何も国家転覆を狙ってるだとかそういう話じゃないわよ?」

 

 そもそも、そんな事したかったら便利屋を開くなんてしないし。本気でそう思われるのは心外だという態度から分かるように、便利屋は開業してから一度たりともヴィランからの依頼は受けたことはなく、依頼遂行の手段も白よりのグレーはあれど違法な手段は取っていない。

 

 最も、他人の記憶を読み取っての行為が黒じゃないかと言われるとレイミィとしても強くは出れないが。ともかく、彼女たちの今日までの行動からそういった理由などで便利屋をやっている訳ではないというのは相澤も理解している。

 

「私はね、白に居れたはずの人間が黒に落ちるのを見てきたの。危うい人もね」

 

「……」

 

「レイミィちゃん……」

 

 仕事という空気が消え始めたからか秘書モードから戻りつつある被身子の呟きに視線だけで戻すように伝えてから、相澤に視線を戻し、ポツリと語り始める。

 

「ヒーローか(ヴィラン)か。白か黒か、個性が絡めば今やこの両極端な世間一般の思考によって社会は色々と歪んでしまったわ」

 

 個性がヒーロー向きじゃない、或いはヒーローらしくないだけで潜在的ヴィランだと謂れもない中傷や虐め、異形系の個性は見た目だけで差別され、やがて白で居られた筈だと言うのに心が折れ黒に落ちる。まるで何人も何年も、そういった事例を見てきたという感じに語る声に誰も何も言えない。

 

 彼女の言葉は暴論で極端であり、確かに中にはそれでも歯を食いしばりヒーローになる者も、なにか別の道を見出して進む者も居る。と言うのは簡単だろう、けれどそうじゃない、レイミィ・バートリーが言いたいのはその歯を食いしばったり、器用に別の道を選べる人達だけではないということ、そんな者達が黒に、ヴィランに落ちることを防ぎたいから。

 

「両極端しか無いが故に白から黒になってしまう。なら私たち便利屋がその社会に灰色と言う楔を打ち込み……」

 

 ヒーローでないと個性の使用が許可されない社会に自分たち便利屋という例外を作り、社会に新たな変化を促す。相変わらず言葉だけだと悪役のそれに血染が頭痛を感じたような表情で額に手を当てるが、雄英側の二人は言わんとしてることは理解してる様子で彼女を見ている。

 

「あとそうね、私個人がって言う話なら。私はもう灰色でしか生きられないから、ここで出来ることで人の助けになりたいってところかしら」

 

 灰色でしか生きられない。憂いを帯びた表情で呟くように出された言葉に載せられたその感情は彼女自身の今日までの過去から来るもので、心から自分は白には相応しくないと思っている。

 

「それは2歳の頃の話があるから、という事か?」

 

「だけじゃないわよ。便利屋を開くまでに生きるためとは言え、ヴィランから死なない程度にコウモリを使って血を吸ってたし、現在進行系で協会と銃口突きつけ合ってるのよ? そんな人間がヒーローになったらマスコミが煩いじゃないの。そっちだって協会から言われてるでしょ、私に免許関連は受けさせるなって」

 

「確かに来てるね。正確に言えば、君たちはもうヒーロー免許と同等のものを持ってるから必要ないって話だけどね」

 

「でしょうね。さて、これが私から貴方への回答だけど、ご満足いただけたかしら?」

 

 微笑みを浮かべ相澤を見れば、向こうは何かを考えるような表情をしているのが見える。さて、もしかしたらまだ何かあるのかしらと思ってしまったが少ししてから

 

「ふぅ、分かった。すみません、校長、自分からはこれで大丈夫です」

 

「良いの? いや、納得してくれるならこちらとしても助かるのけれど」

 

「お前自身に悪意がないのは分かったからな。便利屋自体は今日までの活動の時点で問題ないと判断している、だと言うのにこれ以上をとやかく言うのは効率的じゃないだろ」

 

 それだけ言うと相澤はズズッとお茶を飲み、これ以上話すことはないという空気を醸し出す。まるで便利屋を含んだ全てを信頼することにしたという言葉に、目を丸くするレイミィだが下手に突くのも悪いかと触れないことにしようとした所で根津から

 

「それじゃ、次の話をしていいかな?」

 

「お願いするわ。けどその声からすると次のが今回の本命って感じかしら?」

 

「あぁ、所で確認するのだけど。この部屋は『万全』だよね?」

 

 言われると同時に視線だけを血染と被身子に向ければ、二人は頷く。それを確認してから真面目な表情を崩さないまま

 

「この部屋は元々そのための部屋。信頼してくれて良いわ、で、そろそろ話して頂戴」

 

「HAHAHA、少し焦らしすぎたね。話というのは君たち便利屋【チェイテ】に依頼を受けて欲しいってことなんだ」

 

 へぇとレイミィの声が漏れるが想定していたのか驚きはない。だが血染とその後ろの被身子の顔は面白いくらいに驚愕に染まっていたが、まさか天下の雄英から依頼が来ると思えという方が難しいだろう。

 

「雄英高校が私たちに依頼、ね。確かにそれはこの部屋が万全か聞くのも不思議じゃないわ、続けて頂戴」

 

「どうやら今年のヒーロー科の受験生の中にとあるヴィランの内通者が混ざっていると匿名から情報提供を受けた協会から連絡が来てね」

 

「あら、随分と親切な受験生が居たのね。それで、その【とあるヴィラン】とやらの正体は?」

 

 うわ、白々しい。と根津を除いた全員がは口に出さなかったが内心で思いながら、そんな視線を彼女に向ける。無論、レイミィは気づきながらも黙殺し余裕の笑みを浮かべながら続きを促す。

 

オール・フォー・ワン(A F O)、裏社会での悪の支配者とも言われた強大な存在さ」

 

 出されたそのヴィランの名前だが、レイミィ以外は明確な反応を見せてものは誰も居ない。正直に言えば知らない誰それというのが感想であり、被身子はその表情のまま血染に

 

「……? 知ってますか、副所長」

 

「いや、だが所長は知ってるだろ」

 

「詳しくは知らないわ。偶々、2年前に協会に呼ばれて向かった時に記憶を見ただけよ。しかも人伝みたいな感じで、オールマイトが殺したってことしか分からなかったし」

 

 オールマイトが殺した。この一言に目を見開いた血染だが、重度のオールマイトファンである自分がそんな戦いがあったなんて知らないが? と言う驚愕なので彼をよく知っている被見子は呆れた表情をさらす。

 

 また相澤はレイミィの堂々とした記憶の盗み見に近い発言に眉間に皺が寄り、入学したらその辺りは矯正するかと人知らず決意する。だが今は真面目な話の最中なのでそれぞれ気を取り直し二人の会話に集中する。

 

「そう、そのヴィランは五年前にオールマイトによって倒された。その筈なのだが手先が受験生に紛れていたとなれば僕たちとしても無視できない」

 

「模倣犯の可能性はあるのではなくて?」

 

「あるだろうね。けれど、AFO本人の手引の可能性も否定できないのも事実、その受験生を弾けば一家が死体になるかもと言われれば、嫌でも引き込まなくちゃならない、だからこそ……」

 

「誰にも悟られずに記憶を読み取れる私に白羽の矢が立ったと言うことね。ふぅ、良かったわ、ホークスはきっちり売り込んでくれたみたいで」

 

 ホークスくん、疲れた声してたけど優しくしてあげてね。と根津の言葉に別に彼に何もしてないけどと口元を引くつかせながら答えるレイミィ、血染と被身子は知らない所で何やってると彼女を見つめ、相澤は自由すぎるレイミィに副所長と秘書を名乗る二人に若干の同情の念を向けてしまう。

 

「それで確認だけど、内通者の名を教えてくれるかな?」

 

「記憶から聞き取れた名前は【優雅】、声からして男よ。申し訳ないけど名字は記憶からは分からなかったわ」

 

 記憶から聴こえた声は震えていた。プレッシャーに潰されそうというのもある、けれどあれは何か他の大きなもの、例えばそう、罪悪感に近いものを振り払おうとした人間の声。

 

【僕が、パパンとママンを守るんだ】、あらゆるものに潰されそうになりながら出された決意の言葉、それがレイミィにはどうしようもなく羨ましかった。それを思い出してしまい、寂しげな表情をしていると恐らくは合格者の名前を思い出していたのだろう根津が目を開き

 

「『青山 優雅』。ヒーロー科の合格者の中で唯一該当するのは彼だけだ」

 

「……そう、声を聞くにここで合格を取り消したら駄目よ。死人が増える、間違いなく」

 

「しないとも、雄英高校に入学したのならば守るべき生徒だからね。だから、君たちにこの依頼を持ってきたのさ、相澤くん」

 

 相澤が持っていた鞄から取り出され、レイミィに差し出されたのは数枚の書類。それを受け取り、まず一枚目を読んで見れば内容は依頼についてのようで事細かに内容が書かれている。

 

 依頼としては入学から三年間、内通者の監視及び情報収集、また授業などの際に便利屋としてサポートを要求する場合もありと他にも細かく書かれているが大体はそんな内容に隣で読んでいた血染から

 

「依頼の内容は幅広いように見えるが、結局は所長が入学することを考えればその流れでできる範囲ではあるか」

 

「そうね、事と次第によっては便利屋総出になるかもしれないけど……校長、事務所に居る二人も呼んでいいかしら。流石にこの規模の依頼となると三人だけでは決めかねるわ」

 

「あぁ、構わないとも」

 

 許可が降りてから事務所に待機している仁と圧紘も呼び出して経緯を説明、便利屋全員で依頼の内容を確認していく。雄英高校からの依頼で無いとは思うが万が一こちらに圧倒的に不利な内容が無いかというのも同時に見ていくが

 

「うん、特に不審な内容は確認できないね。寧ろ、この便利屋の得意分野じゃないかなこれ」

 

「俺もそう思う。まぁ、その得意分野を活かせた依頼は指の数で足りる程度だが」

 

「全員出た場合、こちらの業務が止まるが補填もあるのか。至れり尽くせりってやつだな」

 

「あ、それで思い出したんですが報酬ってどんな感じです所長?」

 

「ん? あぁ、じゃあそっちも確認して構わないかしら?」

 

 相手側に聞けばニコリとした笑みで頷いた姿に、なんでそんなに笑みを浮かべる必要がと疑問に思いつつ報酬が書かれた書類をレイミィが手に取り読んだ瞬間、彼女は固まった。

 

 依頼人とのやり取りで見せたことのない反応にどうしたのかと便利屋の面々も彼女が手に持っているのを覗き込むように読み始め、全員同じ反応になり、まず復活したのはレイミィ。

 

「確認するけど、これ、誤植とかそういうのは無いのよね?」

 

「間違いなく、そこに書かれている内容が君たちに雄英高校が支払う報酬さ。雄英高校としても、そして僕個人としてもそのくらいに君たちを買っているし、まだ足りないとも思っているよ」

 

「月に80万、有事の際には別途の報酬、また授業や行事の際の便利屋の出勤でも同上、更に所長が現状払っている人工血液や設備の費用を8割負担でか?」

 

 血染が読み上げるだけでも冗談のような破格な報酬に軽く引き笑いが出そうになる便利屋面々。しかもこれでまだ足りないと思われているほどにこちらが買われているとも言われ、もはや言葉が出ない状況に陥る。

 

 もしやドッキリじゃないんですこれ? と被身子が割と失礼なことを考えてしまうが眼の前の雄英高校の二人の真剣な眼差しからそれはないとも分かるからどう反応すれば良いんですこれとなり、所長であるレイミィを見れば

 

「フッ、クク……」

 

「レイミィちゃん?」

 

「そう、そうなのね。フフッ、ハハハッ」

 

 笑っていた。ついさっきまで自分たちと同じように固まっていたはずだったがいつの間にか復帰し、笑いだし、それから

 

「参ったわ。そうも本気で口説いてくるなんて、ちょっと困るじゃないの」

 

「おや、積極的なのは苦手だったかな?」

 

「いいえ、寧ろ大好きよ、だからこの依頼、便利屋『チェイテ』が喜んで引き受けるわ。これだけのものを提示され、評価され、口説かれたのだから無論、こちらも全霊を持って掛からせてもらうわ」

 

 不敵な笑みで彼女は宣言し、書類にサインを走らせ根津に差し出そうとして、サイズ的に受け取れないなと気付き相澤に差し出す。相澤はそれを受け取ってからサインを確認して鞄に仕舞い、それから

 

「確かに。これにも書かれていたと思うが俺がお前の担任となるが、仕事で来てるとは言え生徒として扱う、問題行為や成績不振などが合った場合は除籍させるからそのつもりで」

 

「勿論その扱いで頼むわ。下手に特別扱いすれば内通者に悟られてしまうもの」

 

「HAHAHA、仲良く頼むよ。さて、もう少し長々と雑談したいけど、すまないね。このあと予定が詰まっているんだ」

 

 言葉から察するにどうやら入学初日に向けて色々とあるんだろうなと察し、なら仕方ないわねとレイミィ。時計を見れば確かに良い時間でもあるのでと最後に入学当日に教室よりも先に職員室に来るようにと伝えてから根津は来たときと同じように相澤のマフラー、もとい捕縛布の隙間に入り込みそのまま相澤と共に便利屋を去っていった。

 

 それを便利屋の面々は全員で見送り姿が完璧に見えなくなった所で事務所に戻り、そこでふぅと示し合わせたかのように息を吐き出す。

 

「いやぁ、とんでもない依頼来ちゃったねぇ。おじさん、びっくりして殆ど喋れなかったよ」

 

「だがチャンスでもある。これを達成できれば便利屋の実績は無視できるものじゃなくなるからな」

 

 雄英高校から依頼を成功させたとなれば協会どころかヒーロー界隈にも、そして社会にも自分たち便利屋が認知される。そうとなれば様々なところは重い腰を上げることになるだろうと圧紘と血染は考え、何が何でも成功させるぞと決意。

 

「お嬢の目的にまた近づけるってわけか。それと合格おめでとう、お嬢」

 

「ですね! 依頼も大事ですけど合格を祝うのも大事ですよ!」

 

 仁と被身子の言葉もその通りであり、この後どうするんだと血染がレイミィに聞けば、グッと真剣なやり取りの後だからか固くなった身体を伸ばしてから。

 

「ま、今日は難しい話は此処までにして、二人の言う通りパーッとやりましょ? そうねぇ、回転寿司が良いかしら」

 

「……そこで回らないって選択肢が出ない辺り、所長だよね」

 

「高いからな。流石にそっちが案に出たら反対するぞ」

 

「高いとたくさん食べれませんからね」

 

「ネタも色々とあるし、俺は回らないよりも回ってるほうが好きだ」

 

 事務所の扉の掛け看板をCloseに変えて、彼女たちは楽しげに会話をしながら歩き出す。彼女たちが受けたこの依頼によって、本来の流れから大幅に変わるこの世界、されどそれを便利屋の面々も、雄英高校も、いや、この世界の誰一人知る由もなく、知る必要もないだろう。

 

「うーん、やっぱり鰯は美味しいわね」

 

「レイミィちゃん、さっきからそれしか食べてないです……」

 

 ただ分かるのは便利屋という本来ならば居ないはずの存在が、この先を賑やかにしていくのだろうということとその中心に居るのはレイミィ・バートリーの二点だけだろう。




便利屋メモ
レイミィの鰯好きは相当なものであり、可能なら一週間でも一ヶ月でもイワシ料理を作って提供できるし飽きないらしい。

作者メモ
鰯好きの吸血鬼という事で分かるように彼女のキャラモデルの一つはディスガイアの閣下が混ざってます
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