その後、夕食、入浴も終え火伊那とも親睦を深めるための雑談をし、今日は早めに寝ようかと21時に自室に戻ったレイミィだったが、寝る前に職場体験先でも決めちゃうかと安楽椅子に座り根津から貰った職場先一覧を読んでいた。
関東圏の様々なプロヒーローの名がズラッと並び、そのどれもが有名何処に固められているが彼女からすればネームバリューはどうでもいいことである。
(副業とか言ってTVに出るような所は勘弁願いたいわよね……)
例えばプロヒーロー【リューキュウ】なんかがそれに該当する。彼女の事務所ではCM出演なんかがあると聞いたことがあるし、本人の記憶からも確認済みなのであまり変な目立ち方は避けたいレイミィとしては除外の一択しかない。
そんな感じにペラペラと読みつつ、除外と保留を仕分けする作業をしていると窓からコツンコツンと誰かが外から叩く音が部屋に響くがレイミィはそれに警戒するわけでもなく音がした方の窓に近付き、ほんの少しだけ開く。
僅かに開かれた窓から飛び込んできたのは一匹の小さなコウモリ、大きさにしてモスキートよりも大きいがそれでも飛んでる姿を目視するのは難しいだろうというサイズのそれを手の甲に止まらせてから
「お疲れ様、【リピーター】」
一言告げれば、コウモリもとい【リピーター】は彼女の机の縁付近まで飛び、身体から数匹のモスキートを分離させ消失。これはモスキートを遠方に配置した場合、それを回収するためのコウモリ【リピーター】、流石に長距離となるとモスキートでは途中で力尽きる可能性があるために編み出された手段の一つである。
そんなリピーターが運んできたモスキートは彼女が学校からの下校途中で放った依頼用のものであり、彼女は机の上を一旦片付けてからノートパソコンを起動してから一匹一匹を取り込み記憶を確認、確認した記憶を元に報告書を作成する作業を始める。
内容は基本的には轟燈矢の情報収集と浮気調査に信用調査など依頼に関することであり、レイミィ曰く信用調査はまだ良いのだが浮気調査は大体が生々しい光景すら映像として脳内に流れるのでげんなりすることが多いとか。そんな余談はおいておき、最近ではもう一つだけ追加された事があり、それが
(青山は特に動き無しっと。これだけ見たら平和な家族って感じなんだけどね)
内通者である青山優雅の監視。彼がいつ何処で何を敵連合に情報を流すか、流した上でどの情報だったのか、向こうから接触があるかもしれないなど、そういった事を確認するための学校がある日は毎回モスキートを彼に忍ばせ、深夜に回収するということを行っている。
無論、青山も毎日敵連合に情報を流しているということもなく、殆どが家族との暖かいやり取りなので、それを覗き見していることは悪いとは思っているが依頼である以上仕方がないのでと割り切りながら内容を吟味していく。
どうやら今回も特には進展が生まれるような情報は無く、映像は終了し息を吐き出す。これは安堵か、はたまた彼の母親の優しさを見てしまったからなのか……
(っと、感傷に浸ってる余裕はないわよ。報告書纏めて、職場体験先も選ばないと)
これは今日も寝るのが遅くなるわねと思いつつカタカタとキーボードを叩き報告書を慣れた感じに書き上げていき、保存してからプリントし提出用のファイルに収める。
それから職場体験先のリストを改めて読み始め、先程中断された仕分けから再開、因みにこの時点で時計は22時半を過ぎている。
この調子だと日付変更線は超えるだろう思われていたリストを読む手がとあるページのとある名前でピタリと止まった。止まってからレイミィは何かを確認するために今日までに便利屋に届いた依頼が纏められた書類の束を引き出しから取り出し、目的の一枚を探し始める。
(確か圧紘が……あった)
一分と掛からずに見つけ出した一枚を手に取り、内容を確認、改めてこれが目的の物であると依頼内容に目を通し微笑む。どうやら、彼女の中で決定が下されたらしい、と同時にまだ残っているリストの存在は綺麗サッパリと無かったことにされ、学校で渡された希望体験先のプリントにそのプロヒーローの名前を記入する。
これにて、あとはもう寝るだけ、とならないのがレイミィ・バートリーと言う少女。確かにもうやることは全部終わったし寝ようかというタイミングでふと、夕食の時の血染と火伊那の会話を思い出した。
(そう言えば、緑谷の特訓に火伊那もって話だったわね)
伸びをした際に少しだけ机から離れた安楽椅子を戻し、机の棚から一冊のノートを取り出して開く、そこに書かれているのは出久の今日までの特訓の内容及び反省や気付いたことなどが事細かに記されており今開いたのはトレーニング内容のページ。
(火伊那が来るなら遠距離攻撃の特訓も出来るようになるけど、確か彼女はクロスレンジの勘を取り戻したいのよね、だとすると暫くは……いやでも、時間を分けてでも狙撃の対処などは覚えさせてみたいし)
レイミィ、血染、被身子で模擬戦や様々な状況を想定した特訓を記していたが火伊那が来るならば此処を組み直さなければならない、別段コレが苦であるとかではないのでレイミィは真剣な眼差しであーでもないこーでもないとペンと頭を動かし始める。
なお、この時点で時計の針は23時半を示しているのだが集中している彼女は全く気付く様子はない。それにプラスしてかなり興が乗ってしまったというもの手伝ってしまった結果、ハッと彼女が時計を見たときには日付変更線は疾うの昔、現在の時刻【1時半】、そして起床は6時、しかも彼女は別に布団に入れば直ぐに眠れるという人間ではなく早くとも30分とか掛かったりもザラであり、つまり残された睡眠時間は【4時間】であると気付いたレイミィは真剣な面持ちで。
(……これ、いっそ貫徹した方が良いんじゃないかしら)
割と本気でそれを考えたが、間違いなく支障が出るしバレた場合はとんでもなくありがたい説教が所員全員から飛んでくるのは確実でありレイミィは諦めて、ついでに早く寝ることにしようと思考がそっちに向かったので机の上を片付けないままベッドに潜り込んだ。
そして翌朝、いや、彼女的には翌朝もへったくれもなく4時間後というべきなのだろう。深い深い眠りについていたはずのレイミィだったがバンッ! という豪快な扉の開閉音とバサッ! と勢いよく捲られる掛け布団、そして
「夜ふかしレイミィちゃん!!! 朝です! 今すぐ起きてください!!!!!」
「うる、さい。あと、いちじ、かん、だけ」
縮こまるように体を動かしそんな事を宣うレイミィを見て被身子は彼女が昨日夜更かししてたことに、そもそも扉をノックした時点で欠片も反応がない時点でまさかとは思っていたがここまで酷いのは久し振りだとばかりにレイミィの身体を激しく揺さぶりながら
「あぁ、これ相当夜更かししてたやつです! 駄目ですよ、ほら、起きてください! じゃないと血染くんと、今そこにいる火伊那ちゃんから説教してもらいますよ!」
「所長を説教とかどうしろってんだよ」
火伊那がここに居るのは別に彼女から来たわけではなく、朝起きたタイミングが被り、更に部屋を出るタイミングも被身子と同時だったので折角だから今日も二人でお越しに行きましょうと巻き込まれた形である。
それはそれとして昨日と違い部屋をノックしても反応がないことに火伊那も何かあったのかと思ったが実態は夜更かしだということに何やってんだかと呆れつつ、ふと見た机の上を見て
「ん? なんだこれ、依頼書に報告書、あとはノートにっておい、ノーパソも立ち上げっぱなしじゃねぇか」
「もしかして片付けないで寝たんですか?」
「うあ……? あぁ、いや、作業してて気付いたら1時半で、くわぁ~」
寝不足と低血圧が悪魔合体したかのような酷いとしか言えない表情のレイミィがそう答えれば、火伊那はなるほどねと書類を分類ごとに纏めておくことに。その際にちらっと内容も見えてしまうが、その時に見えたのが浮気調査の結果であり、割と生々しい内容に思わず
「15歳が見たらアウトな記憶すら見れちまうってのは言葉に困るな」
「あはは、私もレイミィちゃんに変身した時は記憶の読み取りもできちゃうんですけど、その、正直、キツイんですよねあれ」
15歳と16歳の年頃の少女が見るにはあまりに生々しいものだったらしい。言葉を濁しているが言いたいことは伝わってしまった火伊那もどう言葉を掛けて良いのか分からず、曖昧な表情を浮かべたまま作業をするしか無かった。
そんな空気の中、洗面所から顔を洗い終えフラフラとレイミィが出てくる。だがいつものようにそれだけで覚醒とは行かなかったようでドスッと身体が重くなったかのような勢いで椅子に座り込み、またあくびを一つ。
「あ~、ひっさしぶりにやらかした」
「1時半だっけか、なら大体4時間くらいしか寝てねぇってことか、そりゃキツイだろうな」
「もう、何時も言ってるじゃないですか。何か作業する時はアラームでも何でも掛けておいて集中しすぎないようにするって」
プンプンと言う効果音すら聞こえそうな被身子の勢いにレイミィは気圧され目を逸らすことしか出来ず、火伊那はその様子を見てクツクツと笑うのであった。
なんてことがあったと準備を終えて事務所にて朝食を食べている時に被身子が語れば、血染は深い深いため息を吐き出してからギロッとレイミィを睨み
「ったく、報告書とかは別に夜じゃなくてもいいだろ」
「別に報告書だけならもっと早く寝てたわよ。ただちょっと緑谷の特訓メニューを組み直してたら楽しくなっちゃって」
「なっちゃってじゃねぇ。一応の社会人ならその辺りもしっかりと意識を持てって話だ」
ご尤もな血染の指摘にレイミィはぐうの音も出ずにはい、と答えるしか出来ず、その二人のやり取りをパンを食べながら眺めていた外野四人、もといこの中ではまだ見慣れてなかった火伊那はボソリと
「親子みたいなことやってんなあの二人」
「この中じゃ一番付き合いが長いから遠慮がないって話らしいけどね。因みに書類上だと保護者だよ、血染」
「でもこの話をすると凄い不服そうな顔するんだよな、ほら、今もしてる」
「いい加減認めちゃえば良いと思うんですよ、トガは」
見ればお前らその話は何度目だと言わんばかりの顔で四人を見る血染、彼としては所長としてしっかりしろと言ってるだけであり別に親代わりのつもりもなければ、保護者という肩書も当時のレイミィには必要だったからという話に過ぎない。
なので親子だなんだというのはあまりに的外れだろという感情しか抱けない。とは本人は思っているがやはり第三者からするとそうとしか見えないのだがこれ以上は流石に野暮だということで話は打ち切り、次に出たのは職場体験の話。
「そう言えば、所長は職場体験先は決めたのかな?」
「えぇ、これも昨日の夜に決めておいたわ」
「それも原因かよ……」
幾つもの案件を一度に片付けるのはやめろって言っただろという血染の言葉はスルーされ、希望体験先と書かれたプリントを彼らに見せれば、その事務所の名前と住所を見て圧紘が気付いた。
「もしかして、所長が行くのかいあの依頼」
「そのつもりよ、細かいことは当日に話すけど。それにここなら私も色々と学べることが多いと思うし」
「この場合の学ぶってのは何を学ぶんだ? まさかヒーローの心構えじゃねぇだろ?」
「多分だが、事務所経営とかのいろはだと思う。お嬢、その辺りも独学だしな」
「10人に聞いたら8人位は巫山戯るなって言いそうな理由ですよね」
「今更だろ、にしてもこいつか。もし昔の俺だったら【贋作】だなんだっていって斬り掛かってたかもな」
便利屋の朝はそんな感じに時間が過ぎていき、またそこから時間は飛んで雄英高校、昼食の時間にも職場体験の話になりそして各々が何処にということになればレイミィは素直に答え、我先に反応したのは天哉だった。
「兄さんの所に?」
「えぇ、言ったでしょ。インゲニウムは個人的にファンだって、それに彼の事務所は多数のサイドキックを雇ってるのもあって事務運営とか得意そうだし、教わろうかなって」
微笑みながら告げたようにレイミィが希望体験先に選んだのは飯田天哉の兄である【飯田天晴】もといインゲニウム、理由は上記の言葉通りであり、更に言えば保須市からの警邏の依頼も同時に済ませてしまおうという魂胆からの選択。
だが、それ以上に彼女は感じていた。もしかしたら保須市で何か大きな事が起きるんじゃないかと。それが自分にとっても、そして敵連合に切り込むための切っ掛けになることかもしれないと……
次回も食堂での1幕からスタートです。偶には心操くんとか出したいし
便利屋メモ
過去に何度か貫徹もしたことがある