便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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※ この作品は割と容赦なく主人公が殺ります。一応作中で説明がありますが脳無だからってのもありますけど。


No.76『保須市の動乱』

 事の始まりは今朝の被身子からモーニングコール。6時に掛かってきたそれに出てみればテレビ通話に出来ないかと言われ、疑問に思いつつ設定し直せば映されたのはかれこれ3日は見てなかった事務所。

 

 それに加えてこの時間からは珍しいくらいにただならぬ雰囲気の圧紘たちに私はすぐに思考を切り替え

 

「何かあったの?」

 

《おはよう所長、で早速なんだけど昨日、便利屋に届いた依頼にちょっと気になるものがあって聞いてもらおうかなって》

 

 曰く依頼が3つ来たらしい、内容は圧紘、仁、被身子が主だって処理している系列の物であるのだが揃いも揃って場所が保須市、しかも期限は今日。確かにこれで違和感を持つなという方が難しいわね。

 

「これ、間違いなく誘われてるってやつよね」

 

《だろうな、あからさますぎて逆に無関係かって思いたくなったレベルだ》

 

《一応、私達でも調べられる範囲で依頼主の情報を集めて見たんですけど多分架空の人物ですねみんな》

 

 或いは裏の情報が出せない人間の可能性もあるけど、その場合はもう弁明の余地なしに罠ですって言ってるようなもの、いや、架空の人物ってだけでも十分に罠だって分かるんだけど。

 

 舐められてるのかとも思うけど、依頼として、しかも各員の得意分野で出されてるとなると今までの実績から便利屋としては蹴るわけには行かない、これで行かなくてSNSで悪く言われ信用を落とすようなことも向こうはやってくるだろうし。

 

(乗るしか無い、か)

 

《バートリー、どうする? どう考えても罠だぞ》

 

《つっても、断ってハイおしまいって話でもねぇだろこれ》

 

《俺達は基本的に犯罪や(ヴィラン)からじゃないなら受けるスタンスだったからな。架空とは言え、名目は一般市民から、断ったらSNSとか使ってこき下ろしてきそうだ》

 

 全く、朝は弱いってのに頭を悩ます案件が来るとは思わなかったわよ……けど仁の言うように蹴ることは出来ない、出来ないなら。

 

「三人、依頼を受領して。こうなったら乗った上で罠ごと潰すわよ」

 

 リスクが無いわけではない、この誘いは間違いなく便利屋を潰す為の罠。けど、それを真っ向から潰せたなら相手に無視できない痛手にはなる。

 

 ならリスクを背負うだけの価値はある筈、私の指示に画面先の五人も異論はないと頷く、私が言わなくてもこれが勝負所だと理解している。

 

 そして、私の推測は見事に的中したわけ。目の前に【突如】として現れ、付近のヒーローと交戦状態になったそいつ、事情を知ってる人間が見たらこれは敵連合の攻撃だと自分達で言ってるじゃないって言いたいところだけど。

 

(ここまで大っぴらにするってことは、宣戦布告と見るべきね。いいわ、乗ってあげる)

 

 まさか敵連合様から便利屋に挑戦状を叩きつけられるとは思っても見なかったもの、軽く首を回す。色々と考えることはあるが今は目の前の障害を排除するのが先決よね。

 

 改めて【脳無】、USJ襲撃事件の際に敵連合が持ち出した生物兵器、しかも素材は人間の死体、或いは限界まで薬を投与された廃人をベースに複数人の人間をまぜこぜにし主人の指示を聞き動く存在。つまるところ、あれはもう【人間】と言う括りで数えていい存在ではなくなっている。

 

「インゲニウム、こいつ例の襲撃事件で出てきた生物兵器よ!!」

 

「っ!! まさか、脳無ってこいつの事か!」

 

 当たり前だけど、脳無についてはヒーロー間でも情報の伝達はされている。とは言っても実物を見れば流石のプロヒーローといえど怯んだとしても仕方がないだろう。

 

 何せ脳みそ剥き出しの人間離れした黒い肌の巨体、それだけだったら異形型の個性で済ませられるが感じられる気配に生気が感じられないとなれば不気味としか見えず初見なら、私も流石に軽く引くかもしれない。

 

 けれどそこはプロというべきかしら、直ぐに動き出し市民や街に手当たり次第に襲おうとする脳無にインゲニウムは突撃、その際に私には市民の救助を優先してくれという旨の指示を飛ばしてくるが私としてはそれは頷けないのよね。

 

「悪いけど、インゲニウム。ここからは〝便利屋〟として動かせてもらうわ!」

 

「だが、いや、わかった。無理だけは……バートリーくん!?」

 

 了承の言質が取れたと同時に私はトップスピードで脳無に突っ込む、黒いと言えばUSJに襲撃してきたときのやつを思い出すわね。まさかあれレベルだとは思いたくもないけど、仮に同等もしくはそれ以上となれば〝ヒーロー〟としての戦い方じゃ抑えきれない。

 

 相手はどう足掻いても救えない生物兵器、ならと自分の中でスイッチが切り替える。同時に思考の中からヒーローとしての、生徒としての〝余分〟を捨てる。最後に個性の手加減を捨てる。端から見ればきっとその瞬間の私は急加速したように見えるかもしれないという勢いで地面を蹴り、すれすれの超高速の低空飛行ですっ飛んでいく。

 

「■■■■■■■■■■■―――!」

 

 へぇ、この速度でも迎撃の攻撃は振れるの。でも感心こそするけどその速度は〝プリンセス〟を切るほどじゃない、なんだったらUSJで襲ってきたやつよりも遅い、あれレベルだったらもっと早くに反応してたわよ。

 

 振り下ろされる右腕の攻撃を急停止で、続けて左腕の薙ぎ払いをバックステップで回避、そこから再度急加速で懐へ、もしUSJの個体と同じ製造方法なら物理攻撃は【ショック吸収】、生半可な攻撃じゃ【超再生】で回復される。

 

 なら物理じゃない攻撃で一撃で屠れば良い。やつのそれらが個性だというのなら制御を司っている頭を、これ見よがしに晒している脳みそを一撃で、右手を貫手に昔の感覚を思い出しながら狙いをこの位置から脳みそに貫通できる部位に。

 

「ま、待てバートリーくん!!」

 

 どうやら私がやろうとしてることをインゲニウムは気付いたらしいけど、止めるつもりは毛頭ない。悪いけどここでこいつは始末させてもらうわ、そもそもの話だけどこの時点で私には外部の音が聞こえなかったってのもあるんだけど。

 

 次に私の耳が外部の音を拾うようになったのはグシャッという対象を貫いた生々しい音、とは言っても右手が貫いたという訳じゃない、ブラッドチェーンの応用で鎖ではなく貫手の上から形成された槍のようなもので貫いただけ。

 

 名付けるなら【ブラッディスピア】かしら、そしてこれが私が最も得意とする戦闘スタイル。ヒーローとして、もしくは生け捕りが基本である人間相手では手加減というものが発生してしまうが極端な話、殺してもいいという相手には私はそれなりの手札があると自負してる。

 

「沈黙を確認。どうやら脳みそが駄目になったら流石に止まるみたいね」

 

「君は……」

 

 手を振るって付着した血液を払っていると困惑したインゲニウムの声にそっちを見れば他にも複数人のプロヒーローが私を見ていた。えぇ、久しく向けられてなかった化け物を見る目で、そりゃそうよね子供が何の迷いもなく(ヴィラン)を殺めたんだもの。でもその中でインゲニウムだけはどうしてという人に向ける視線にちょっとだけ嬉しくなった。

 

 言うまでもないと思うけど殺しは初めてじゃない。当然、〝便利屋〟としては殺しはしていない、けれど〝レイミィ・バートリー〟としてなら公安に保護されてた時期に何度か生死問わずの(ヴィラン)を手に掛けたことがある。

 

 公には勿論なっていないので私に前科なんてないけど。向こうがこれをやり遂げたら便利屋の開業と個性の使用を許可するなんて吹っ掛けてきたから淡々とこなしたってのにその時も彼らと同じ目を向けられたわねと懐かしみながらインゲニウムに向けて

 

「改めて言うけど、私はここから〝便利屋〟として動かせてもらうわ。説教なら〝生徒〟としての私で後で聞くから、それじゃ」

 

「待ってくれ、どうして脳無を殺す必要があったんだ」

 

 あぁ、なるほどね。彼らはまだあれを〝人間〟として見てるって訳か。故にプロヒーローとしては捕縛が基本になる、なら返す言葉はこれしかないだろう。

 

「一つ言うけど、あれは〝人間〟じゃなくて〝生物兵器〟よ。もう救えない存在、壊す(殺す)ことでしか止められない、街と市民の被害をって考えるならそうしなさい」

 

 告げるだけ告げて私はその場から飛び去る。その間際、インゲニウムが何か言おうとしていたけど見なかったことにしつつ耳元の通信機に手を当て各員に通信を開始し状況報告を促せば、先ず返ってきたのは

 

《こちら圧紘、仁と行動中。多分だけど敵連合に雇われたか配下に入ったチンピラや(ヴィラン)がそこかしこで暴れててヒーローが対処してるね》

 

「仁、個性で増えて対処して頂戴、圧紘は他のヒーローのサポートへ。恩を売るだけ売ってきて!」

 

《了解、聞こえてたね仁!》

 

《おう!!》

 

 これで有象無象の制圧は時間の問題ね。それにしてもまた雇ったの、資金力はそれなりって見るべきか、或いは暴れたいだけの連中と話と付けて安く済ませたか、もしくは仲介人でも居ると考えるべきかしらね。

 

《こちら火伊那。嬢ちゃんが倒したの以外に腕が長い薄緑色のと羽根で飛んでる黄土色の脳無が、それと死柄木と黒霧、それと赤霧を確認した。位置情報を嬢ちゃんのスマホに送るから見てくれ》

 

「っ! やっぱり来てたか。そのまま監視を継続、動きがあったら直ぐに知らせて」

 

《あいよ》

 

 スマホで火伊那の位置を確認し、それから報告があった三人の位置を特定してみれば街を見下ろせる高所、どうやら高みの見物と洒落込んでるらしいわね。とりあえずこちらからはまだ手を出さないであげる、精々自分たちの計画が狂うさまを見てればいいわ。

 

 それにしても脳無が他に二体も、何体量産してるのかしらね本当に。もっと言えば、量産してるってことはどれだけ犠牲者が出てるか、早めに製造元を発見しなくちゃならないわよね。

 

《こちら血染、火伊那が報告に上げたその内の一体、薄緑色の脳無と接敵! ちっ、動きが良い》

 

「やれそう? 難しいならすぐに向かうわ」

 

《頼めるか。済まないが俺には一撃で倒す手段がないからな》

 

 見れば場所は割と近く、一気に飛んでいけば十数秒で到着できる距離ね。あとは被身子だけど、通信が来ない、何かあったのかしら、あの娘が簡単にやられるわけはないと思うのだけれど。

 

《こちらっ! 被身子!! ごめんなさい、ムーンフィッシュと戦闘中で、ちょっと、あっぶな!!》

 

「っ!? 平気なの!!??」

 

《大丈夫、です!! こっちは何とかするんで血染くんの方を優先してくださいっとと!》

 

 被身子が苦戦気味となると奇襲でもされたか。黒霧を使ったのかもしれない、声から察するにまだ余裕はあるかもだけど急いで血染が対処してる脳無を処理して向かったほうが良さそうね。

 

 グンッと更に加速する。プリンセスを使うことはしないがそれでも出せる最高速で向かえば、直ぐに戦闘中の血染の真上に到着、一気に向きを変え急降下爆撃のように薄緑色の脳無の頭部へ、手を振りかざせば向こうも気付き回避行動をしようとするがピタッと金縛りにあったように動けなくなるのを見て、笑いながら

 

「ナイスサポート、血染! それじゃ寝てなさいな!」

 

 剥き出しの頭部へ一撃を叩き込む。叩き込むって言ったけど物理攻撃じゃなく、さっきと同じように個性で今度は鋭い爪を生成しヤツの脳みそを切り裂いたというべきかもしれないけど。

 

 お陰でグローブ越しでも今度ははっきりと素手で(ヴィラン)の腹を貫いたあの時を思い出させる、その感触に思わず顔をしかめてしまう。初めてじゃないし両手の指程度は感じたことがあるが、やはり慣れそうにないわこれは。

 

「そんな顔するならチェーンで貫けば良かっただろ」

 

「確実性を持たせたかったのよ。それよりも怪我はない、血染」

 

 軽く手を振るえばあっさりと血液が落ちる様に本当に便利ねこれと思いながら血染を見るがかすり傷程度で問題は無さそうに見える。

 

 まぁあの程度だったら彼なら問題ないとは思ってたけど、今回の応援だって周りに味方が居なくて、倒し切る打撃力がなかったからってだけだしね。それにしてもこうして脳無を見てみると血染が靴に仕込んだ刃物で付けたであろう傷がそのまま残っている、つまりこいつは超再生を持っていないってこと?

 

「そうだな、だが多少の怪我なら無視して突っ込んできた。痛覚はないと見るべきだろう、兵器が痛みを気にしてたら使い物にならないから当然といえば当然の処置だろうがな」

 

「確かにねって、のんびり話してる場合じゃなかった。直ぐに被身子のところ行かな《嬢ちゃん。赤霧が動いた!!! 狙いはあんただ!!》!!???」

 

「なにっ!?」

 

 火伊那からの報告と同時、いや、彼女からの報告よりも早く私の目の前にそいつは現れ、構えを取ることも間に合わず、血染の介入も当然ながら間に合うはずもなく。

 

「グッ!?」

 

「邪魔をさせてもらう」

 

 赤霧が言葉を発したことに驚く間もなく腹部に強い衝撃とじんわりと広がる熱を感じながら、赤霧ごと建物を貫きながら吹っ飛んでいくことになった。




レイミィちゃんからすれば脳無っていうもうどうしようもない生物兵器を止めるんだったらこの方が早いし被害も抑えられるじゃんくらいの感覚です。

便利屋メモ
ブラッドチェーンは手加減及び捕縛のための技。
他は殺すための技、なのでヒーロー科としての彼女の場合は使えない。
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