便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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まぁ特に捻るがあるわけでもなく、なんだったら話も進んでないわけで。


No.78『赤霧の正体』

 思考が停止した。まだ騒動は収まっているわけでもないのに、目の前の赤霧は血染の個性で一時的に無力化しているだけだと言うのに、その顔を見た瞬間に私は何も考えられなくなった。

 

 いや、正確に言えば考えてはいるかもしれない。けれどそれは〝なぜ〟〝どうして?〟〝どういうことなの〟と言う困惑と疑問だけの思考。

 

 赤霧の顔は確かに記憶の中のお母さんと瓜二つ、けれどあの人はこんなに鋭い目をしてなかった。もっと柔らかくて、優しい顔だった、そう違うの、これはあの人じゃない。

 

 だから否定するための言葉を口にしようと動かすが出てきた声は我ながら酷く震え、しかも問いかける形になってしまう。

 

「だ、れよ貴女……」

 

「バートリー? おい、バートリー、どうした!?」

 

 血染が何か言っているが耳がそれを拾わない。そしてこの問いかけに赤霧は何も答えない、まるで分かってるだろと言いたげな雰囲気すら感じ取れる、いや、もしかしなくても私の勘違いだろう。

 

 改めて顔を見て記憶のお母さんの顔との相違を見つけていく、ようは認めたくないだけだった。あの人はこんなに怖い顔をしてなかったとか、鋭い目をしてなかったとか、言葉もあんなに厳しくなかったとか。

 

(違う、違うのよ。こいつは(ヴィラン)、ただ恐ろしいほどに似てるってだけの)

 

 否定要素をひたすら頭の中に並べる。じゃないと認めてしまいそうになるから、そこでやっと私は手に持っていたはずの赤霧の仮面を取り落としていたことに気付く、あぁ、だから血染がそんな顔で私を見ているのか。

 

 いや、待っておかしい。彼が私が動揺してる程度であんな顔する? そもそも何で血染の顔がこんなに近くに……っ!!??? 唇を噛み切る音が耳に響き、口の中に鉄の味が広がったところでやっと自分が何をしていたかが理解出来た、と同時に八つ当たりに近い怒りが脳内を駆け巡る。

 

「はぁ……はぁ………やって、くれたわね」

 

「まさか、自力で解放してくるとはな」

 

「流石に、肝が冷えきったぞ」

 

《いきなり仲間割れを見せられる身にもなってくれ、撃つかどうか本気で迷ったんだからな》

 

 噛み切った唇から流れてくる血を手で拭いながら、顔スレスレまで突きつけていたブラッディスピアを解除して跨っていた血染から降りつつ謝る、勿論、通信越しに火伊那にもね。さて、何が起きていたかと言えば【魅了】を食らっていたと言うだけの話、その結果、血染を殺そうとしてしまうなんて情けない限りよ。

 

 じゃあ何時やられたのかと言えば、血染が凝血で動きを止め、私が赤霧に近寄ったタイミングだと思う。そもそも戦闘中だってのに拘束しないで仮面を外そうって思考に至った時点でおかしいっての。

 

 ともかく、幸いにも吸血姫として魅了を使うからか、それに対する耐性があったからこそ既のところで異変に気づいて唇を噛み切ることで魅了から脱することが出来たんだけど。

 

「血染、まだ効果時間のはずよね」

 

「のはずだがな、普通じゃねぇんだろ」

 

 本来、血染の【凝血】は対象の血液型で拘束時間は変動するものの最短でも二分は発動するはず。そして赤霧に発動してからはまだ二分も経っていないはずだと言うのに、奴は身体を僅かにだが動かし始めていることに血染も若干だが声に余裕がなくなる。

 

 一応、まだコウモリに変換した赤霧の血液があるがそれも残りは数匹、これで拘束したとしても力尽くで抜け出されるのがオチだろう。なら、殺すか? 仮面を装備していないなら頭部への一撃は通るはずだし。

 

「……ホークアイ、撃てる?」

 

《いつでも、けど良いのか?》

 

 良いのか。その言葉に含まれている意味は様々でしょうけど、一番にあるのは私の反応を見てこれが母親なのではという意味でしょうけど、今更なことよ。

 

 私は便利屋の所長、相手が似てるからって、いえ、もし仮に本人だとしても手を抜くことなんて許されない。だから、ここで壊す(殺す)ことが最善の手段だとするのならば私はそれを選ぶわ。

 

「構わないわ。とりあえず、私が先に動くからもし殺しきれなかったらお願い」

 

「申し訳ございません、それは我々には困ることですので止めていただきますでしょうか。」

 

 一度やったことなのだから、今度も私がその血を。その想いで動いた足は聞こえた声に止まることになる。誰? なんて聞くまでもない来たのは黒霧、どうやら私達のことを監視していたらしく窮地に陥った赤霧を救いに来たって感じでしょうね。

 

 時間を掛けすぎたと言わざるを得ない。今この場には圧紘が居ないから黒霧を無力化出来る術がないのよね、それにまだ気絶している被身子に僅かな靄が漂ってるってことはそういうことなのでしょ?

 

「月並みの言葉となりますが、見逃してもらえないとなれば我々もそれ相応の手段を取らせてもらいましょう。こちらも手駒が全滅したので逃がしてもらえるのならば何もしませんと約束します」

 

「どうする、バートリー」

 

「どうするも何も、圧紘と仁はまだ来れないとなれば打つ手がないのよね」

 

《流石に靄を撃ち抜ける弾丸は無いからな》

 

 火伊那と言えど実体があるかどうか怪しい靄の相手はキツイわよねそりゃ。被身子が目覚めてくれるのが一番なんだけど、あの様子だとまだ無理そうだし、考えに考えるも打開策は浮かばず私はため息を吐き出しながら両手を上げて分かったと言うしか無かった。

 

「では便利屋チェイテの皆様、また」

 

 相手も私達とこれ以上事を構える時間がないらしく、私達の反応に態とらしく礼をしてから被身子からは靄を離し赤霧周りに展開、そして彼女は私の方に視線を向けてから。

 

「血、きちんと吸っておきなさい」

 

「は?」

 

「じゃないと、吸血姫は生きられないから」

 

 まるでそれは娘を心配するような言葉だった。それだけを告げ去っていく赤霧に対して私が出せたのはそんな素っ頓狂な声だけ、いや、何なのあいつ本当に……いえ、これ以上は目を逸らすことは出来ないか。

 

 認めたくない、けれど魅了された時に見えたあの顔は間違いなくお母さんだった。そりゃ、目と顔とかが記憶とは違ったけどそれだけなのよ、後は全部あの人と一致、ならもう認めるしか無いわけで。

 

「クソっ……」

 

「あそこまで相手のペースに乗せられるとはお前らしくもない。何があった」

 

 そんな表情をしていれば血染も当然、私の異変に気づき聞いてくるけど、どう答えたものかしらね。バカ正直に言っちゃっても良いような気がするけど、まぁいいか。

 

「赤霧の顔見たでしょ。あれ、私の記憶にあるお母さんとそっくりだったのよ」

 

「っ! なるほどな、それで動揺したところを魅了……いや、待て、魅了を仕掛けてきたってことはだ」

 

「えぇ、ヤツの個性も【吸血姫】だからこそ、通りが悪くてギリギリのところで貴方への攻撃を止めることが出来たってことだと思う」

 

 私が赤霧をあの人だと認めなければならない理由の一つがこれだ。USJで見た時からまさかとは思っていたのだけれど、今回の戦いではっきりと赤霧が【吸血姫】の個性持ちだということが確信できてしまった。

 

 あれの類似品があるとは思えない、だとすれば肉親だと考えるのがまぁ妥当だろう。酷い話だとは思う、けれどお母さんが敵連合に居るのは大元を辿れば私の責任、それから目を背けるつもりはない。

 

「とりあえず、被身子を起こしましょ。それと、そろそろプリンセスを解除するわ、圧紘、状況報告」

 

《こちら圧紘、鎮圧は完了して事後処理を行ってるよ。脳無も最後の一体は無事に取り押さえてるね、そっちはどうだい?》

 

 そう言えば翼を生やした脳無がいるとか言ってたわね。まぁあれ一体だけならプロヒーローが数揃えれば楽勝だと思ってたから良いけど、にしても向こうは無事に事を済ませたってのに私達は敗北したっていうのは情けない限りね。

 

 なんて思いながら私達側の状況を報告すれば結果に何か言うわけでもなく、今でもプリンセス状態の私に対して

 

《大丈夫かい所長? 話から考えるに過去最長でプリンセス状態を維持しちゃってるけど》

 

《俺達も直ぐに向かおうぜ圧紘、被身子もヤバいんだったらリカバリーガールに連絡も必要だろ?》

 

「私はまぁ多分大丈夫だと思うけど被身子は確かに心配ね。仁、お願いできる?」

 

 お嬢も十分心配だぞと言われるが、自分のことは自分で分かるしそのうえでまだ問題ないと言ってるのだけれど。でも間違いなく、長時間は動けないかもしれない、インゲニウムにも通信を入れたほうが良いのかしら……あぁ、いや、後で良いや。

 

「ふぅ、血染、後よろしく」

 

「分かった。火伊那、直ぐに俺達と合流して被身子を頼めるか」

 

《直ぐに向かう》

 

 無意味だけど息を整え、ヴァンパイア・プリンセスを解除。刹那、今までとは比較にならないほどに心臓に激痛が走り、ほぼ同時にプリンセス状態でダメージを受けた箇所からも同じように容赦のない激痛が私に襲いかかる。

 

 声が出せない、それは逆に言えば情けない悲鳴を聞かれることがないということでもあるのだが、意識の方もギリギリを保つのが精一杯だというのがよろしくない。

 

 まだ事後処理とかが待っているというのにここで気を失ったら起きるまでのどれくらい掛かるか。なので痛みで意識を失わないように歯を食いしばって只々唸り声を上げる。

 

「あの技の反動ってやつか。おい、被身子、起きな」

 

「今回は今までで一番長い使用時間だ。正直に言えば、こいつの身体にどれだけの悪影響が出てるかわからないレベルとも言える」

 

 外野が何か言ってるけどそれを拾う余裕は勿論ながら無い。身体中が弾け飛びそうだし、筋肉なんて常に千切れては再生してるんじゃないかって痛みだし、内臓は多分もうぐちゃぐちゃにかき混ぜられてるって幻覚すら覚えるし、何より心臓がヤバい。

 

 心臓だけ、何度も握りつぶされては再生して、また潰されてを繰り返してるんじゃないかとすれ思ってしまう。てか、実際にしてるんじゃないのこれ、口から血が止まらないんだけど……

 

「マズいな、圧紘、聞こえるか救護の要請を近くのプロヒーローに頼めるか。バートリーを背負ってそっちに向かう」

 

《了解。近くの医療班に声を掛けて準備をしてもらっておくよ》

 

「火伊那、被身子はまだ駄目か」

 

「素人のパッと見ではあるが命に別状がって感じじゃねぇな。あれだけ派手に殴られてこの程度のダメージで抑えてるのは流石だ」

 

「ならいい、そっちを頼む、これから圧紘たちと合流するぞ。バートリー、動かすが我慢しろ」

 

 何かを言われたが聞こえないっての、でも口の動きから見るに動かすってことかしら? とりあえず、頷いておけばグイッと出来る限り衝撃が行かないように私を血染が背負う。とは言っても完璧に殺せるわけでもなく、僅かな衝撃が身体を襲えばくぐもった声が口から漏れ、ついでの彼の肩あたりを少しだけ血で汚す。

 

「ご、めん……」

 

「無理に喋るな。それと謝るならこの後の事後処理で巻き返せ、あれだけ血を残していったんだ、お前の個性の独壇場だろ」

 

「それ励ましてんのか? 随分と不器用なんだな、あんたも」

 

 少しだけ反動も落ち着いてきたので謝れば、そんな言葉が返ってきた。火伊那の言う通り、彼なりの励まし方であり、指摘されても血染は特に反応は見せない。昔から彼はこうだ、突き放すようできちんと意味を理解できれば励まされてるんだなと分かる言葉、まぁおかげで少しは気が紛れるから助かってるんだけど。

 

「ん、ううぅ、頭が痛いです……って、あれ?」

 

「起きたんなら自分で歩いてくれねぇかな、思ったよりも重いぞお前」

 

「ボロボロのトガへの開口一番酷くないです?」

 

 良かった、被身子は元気そうね。ということは割と殺しにかかってきたのは私に対してだけ? いや、それにしては最後の言葉が気に掛かる、あんな心配そうな言葉を掛けておきながら殺しにかかるってどういう精神よ。

 

 痛っ! まだ思考を回せるところまでは回復してないか。今は止めておきましょ、でもかなり収まってきた、息も落ち着いてきたし身体中の痛みもそれなりにマシに、心臓のほうがまだちょっと激痛過ぎて歩けないけど。

 

「ふぅ、けほっ、あ……」

 

「はぁ、これが血が落ちやすい仕事着じゃなけりゃ染みになって大変なことになってたな」

 

 ごめんってば、気をつけてるつもりだけど咳からの吐血はどうしようもないのよ。なんてやり取りをしている後ろでは、被身子が火伊那に言われおんぶから降りたのだが、降りて早々にグッと身体を自分の腕で抱きしめるようなポーズを取ってから。

 

「うっ、身体がまだ痛い、激痛です、おんぶしてください」

 

「歩け」

 

 何やってるんでしょうねと思いつつ私達は圧紘と仁が居る場所まで向かえば、そこには捕らえられたチンピラたちと報告にあった黄土色の翼を生やした脳無の姿。

 

 そして背負われている私を見て直ぐさま駆け寄ってくる、インゲニウムとマニュアルと共に居たはずの飯田、それとちょっとこれは私も想定外だとしか言いようがないんだけど。

 

「バートリーさん!?」

 

「バートリー、大丈夫なのか?」

 

 なんで緑谷と轟がここに居るのよ……そんなこと思いながら二人に対してまだ心臓から来る痛みに堪えながらぎこちなく微笑むしか無かった。




赤霧をちょっと強くしすぎたなこれという顔。まぁ、轟とか爆豪とかの範囲持ちとチーム組めば倒せる塩梅だし良いか!
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