便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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まるで、話が、進まない。


No.79『嵐の前の箸休め』

 背負われた状態で事後処理が行われている場所に着いたら緑谷と轟が居た。ん? 轟が居るってことは、そこに思考が辿り着いてしまった私は見える範囲で顔を動かし巨体の炎を纏った姿を視界に入れたと同時に声が漏れた。

 

(うげ……)

 

 そりゃまぁ居るわよねエンデヴァー。まぁ良いわ、ヒーローとしての彼はまだ信頼できるし今はそれどころじゃないし。と現実逃避から戻ってきて視線をエンデヴァーから目の前に戻す、とりあえず目の前の緑谷と轟と飯田達に説明とかをするべきよね。

 

「あぁ、その、死にはしないわ」

 

「どんな説明だ。安心しろ、多少無茶をしただけだ」

 

 向こうが用意してくれたらしい簡易ベッドに血染が私を寝かせながら補足説明を始めるけどね、言っておくけどまだ長々と話せる余裕はないから、分かってるとは思うから補足してるんでしょうけど。

 

 その間に周りに改めて視線を向けてみるけど、街の被害はそれなりと言った感じだろうか。三体の内、二体を私が速攻で潰したのは間違っていなかったのだろう、一体だけでもこの被害なんだものと思い出したところで自分の手を見つめる。

 

(久し振りに殺したけど、存外何も感じないものね)

 

 昔、と言うか公安から提示されて初めて殺しをやった時はそれなりに動揺したってのに。感覚が麻痺したってことなのかしら、いえ、単純に脳無を人間としてみて無かったからか。

 

 そんな事を考えていると影が私に被さり、顔を向ければヘルメットを外したインゲニウムの姿。顔には言葉にしなくても分かるほどに心配の表情が浮かんでいる、そう言えば、二体目の脳無を殺した辺りから向こうには連絡取ってなかったわね。

 

「バートリーくん、大丈夫かい?」

 

「まぁ、それなりには」

 

 ちょっと顔を合わせづらいわね。そりゃ、便利屋として動くと伝えて彼に責任問題とかは行かないようにしてるけど、それはそれとして要らない心配を掛けてしまってるもの。

 

 だからだろうか、自然と謝罪を口にしていた。まぁ、独断行動じゃなくて心配を無駄にさせてって内容だったのけれど返ってきたのは苦笑。

 

 待って、苦笑される要素あったかしら今? 割と本気で疑問を覚えていれば、血染と被身子から補足説明をされたであろう三人がお通夜染みた表情で近づいてくるのでとりあえず

 

「被身子」

 

「すぐに親友を疑うのはどうかと思いますよ!」

 

「被身子」

 

「ごめんなさい、全部話しました」

 

 大方、赤霧との戦闘の件を話してからの流れで私が腹に穴を開けられたってのを聞いたから今の空気でしょうね。全く大げさよね、こうして普通に生きてるんだし気にすることもないっての。

 

 って割り切れるほど経験を積んでるわけじゃないし、彼らの視点からすればクラスメイトがまた危ない橋を渡ったって認識になってると考えたらこの反応も当然といえば当然かも知れない。

 

 なので私は手っ取り早く三人を安心させる手段としてコートを捲り、その下の脇腹付近の貫かれ、ドレス自体は穴が空いているが傷が塞がっている部分を見せてから

 

「ほら、傷も無くなってるしもう大丈夫よって……何よその反応」

 

「いいいい、いや、その、ええっと!!???」

 

「ば、バートリーくん! 分かったからそうやっては、肌を無防備に見せるのは止めたまえ!!」

 

「本当に綺麗に傷がねぇな」

 

 顔を真っ赤にして携帯というかそういう機械みたいにバイブレーションのように震える緑谷と同じく真っ赤にして顔を背けながらそんな事を叫ぶ飯田、もしかしてこの程度で恥ずかしがってるわけ? いくら何でも初心過ぎないかしら、ほら、轟は至って冷静じゃないの。

 

「レイミィちゃん! 思春期の男の子にそういう行動をしちゃいけないってそれなりに言ってきてますよね!!」

 

「五月蝿いわね、怪我が大丈夫かどうかならこうすれば早いじゃないの」

 

「早さだけを求めて他人の情緒を考えないのは駄目です! それと焦凍くんはレイミィちゃんがお家にお泊りした時にお風呂上がりで無防備すぎる格好を見てるからってだけですからね!」

 

 えぇ……なんか被身子が物凄く怒ってるんだけど、それに血染も被身子の後ろで天を仰いでるしその隣で火伊那も火伊那で呆れた感じにため息を吐いてるし、仮面付けてるままだけど。

 

 どうしてこんなに怒られなければならないのだろうか、私は何も間違ったことをした記憶はないのだけれど。

 

「間違いだらけです! もう少しレイミィちゃんは女の子だってことを自覚するべきなんです、その頭の中に羞恥心ってのは入ってないんですか!」

 

「だから何を恥ずかしがれってんのよ、別に胸を見せてるとかじゃないんだから」

 

「あ~、と、副所長さんだっけ。バートリーくんって何時もああなのかい?」

 

「一応だが最低限の羞恥心はある。逆に言えばそれだけだ、それとバートリーが世話になってるな、インゲニウム」

 

「いや、今回はこっちの方が助けられてしまった。もし彼女が居なければもっと被害は出ていだろう」

 

 何やらインゲニウムと血染が話しているが今は被身子をどうにか落ち着かせることを考えなければならないので内容を聞き取る余裕はない。てか、今更なことをどうしてこうも怒っているのか、ああ、もう分かったわよ。

 

「今度からは気を付けるでいい?」

 

「本当ならもう一声欲しいところですが……」

 

「何騒いでるんだ、被身子。お嬢、大丈夫か?」

 

「見た感じ所長がまた何かやらかしたんじゃないかなこれ」

 

 被身子がギャーギャーと騒いでる声が聞こえたのだろう、仁と圧紘もやってきて三人にも挨拶を交わしている。思えば、緑谷も仁と圧紘とはまだ顔を合わせたことはなかったわね、特訓の時も私と被身子と血染だけだし、別に二人も呼んでも良いのだけれど依頼はそれだけじゃないからタイミングが合わないってだけなんだけど。

 

 そう言えば……そう言えばそうじゃない、反動の激痛で頭から吹っ飛んでたけどムーンフィッシュってどうなったの!?

 

「血染、ホークアイでもいい、ムーンフィッシュは?」

 

「仁の分身体が回収済みだ。奴ら、あいつを置いていったらしい」

 

 その言葉に眉間にシワが寄った。置いていったらしい? これに疑問を持つなという方が無理だろう、向こうだって戦力が潤沢にあるわけじゃないのは今回の襲撃でチンピラを再度雇っていることからも分かるし、あのムーンフィッシュは普通じゃなく、個性を2つも所持している存在、だと言うのに回収しなかった?

 

 グッと簡易ベッドに腰掛ける形で身体を起こし、血染が指を指す方を見れば厳重に縛られ連行されていくムーンフィッシュの姿。偽物とかそういうのではない、ともすれば罠を仕掛けているのでは?

 

(なんとか、連行される前に記憶を読み取れないかしら)

 

 間違いなく宝の山とも言える記憶を持っているはず。どうやって個性を2つ得たのとかは分かればそれだけでも十分に進展が起こり得る情報、そうじゃなくてもムーンフィッシュ自身になにか罠が仕掛けられてないかを調べることだって出来る。

 

 ただ、私がそれをできることはインゲニウムに、それどころかこの場の全員にだって伝えてない。なのでどう切り出せばと困ることになるわけで、うーん、チラッと圧紘を見るが彼も思案する素振りを見せているところを見るに浮かばないのだろう。けどこのままじゃと思っていると緑谷から声がかかり、そこで閃いた。

 

「バートリーさん、どうかしたの?」

 

「ちょっとね。ねぇ、緑谷、どうして敵連合はムーンフィッシュを置いてったと思う?」

 

「え、うーん。状況を見てないからはっきりとは言えないけど、回収できなかったとかじゃないんだよね?」

 

 少なくとも被身子が人質に取られ、私達は動けなかったので出来なかったはないだろう。と聞けば、ブツブツブツブツと頭の中の情報を整理するために緑谷が呟きながら考え始め、そして

 

「もしかして、ムーンフィッシュに何か仕込んである、とか? え、じゃあ、ちょっと待って!?」

 

「っ!? 確かにあり得るかもしれない、にい、じゃなかった、インゲニウム!」

 

「あぁ、直ぐに伝えてくる!」

 

 完璧ね、これでモスキートを飛ばして帰ってくるまでの時間は稼げるはず。あとはあまり期待は出来ないけど翼を生やした脳無の方へも数を飛ばしておきましょ、あ、脳無で思い出したわ。

 

 私が仕留めた二体はどうしたのかしら、いやまぁ、回収したとは思うんだけど、あれからも記憶は見ておきたいわねって。

 

「何よ、エンデヴァー」

 

「なに、貴様が完敗したと聞いてな。何があった」

 

「親父、その言い方はねぇだろ」

 

「一々煽らないと気がすまないのかしら貴方は。例の敵連合の切り札【赤霧】と戦って負けたってだけよ」

 

 轟が何時までも戻ってこないからとやってきたエンデヴァーにことの詳細を話す。え、そういう時は素直に話すんだなって? 私だって時と場合ってのは理解してて、赤霧相手ならエンデヴァーは有利を取れるから伝えておいて損はないでしょって話よ。

 

 まぁ、それが母親だというのは流石に伏せておくけど、知られたら絶対に面倒になるし、もし冷さんの耳に入ったらどうなることやら……

 

「なるほどな、USJ襲撃の報告書は読んだが、その時よりも今は強くなってるという見方で良いんだな」

 

「えぇ、恐らくは私の【吸血姫】と同じことを私以上に使えると思って」

 

「……同じ個性、ということか?」

 

 あ、やべ。そうよね、そりゃ気付くわよね、えっと、どう誤魔化そうかしらこれ、なんて考えていたけど向こうは私が黙ってしまったことに何かを感じ取ったのか知らないが、それ以上は何も聞かずに轟を連れて現場指揮へと戻っていく。

 

 なんだか気を利かされたような感じがしてムカつくが感謝しておこう。続いて今度は緑谷の職場体験先のプロヒーローが私の、正確には緑谷を呼び戻しにだとは思うけどやって来きた。

 

 姿は小柄な老人がヒーローコスチュームを纏っているとしか言えず、けれど向けられた視線に感じる圧はそこらのプロヒーローとは格が違う事がよく分かる。警戒、それに近い物が込められたそれを受け取りつつ、私は微笑った。

 

「こんにちは、そしてはじめまして【グラントリノ】」

 

「え、あ、あれ、僕、バートリーさんに職場体験先のヒーローの名前伝えたっけ?」

 

「なるほどな、伊達にその歳で便利屋なんて怪しさ満点の組織の長はしてねぇってわけか」

 

 御老体の見た目にそぐわない強烈なプレッシャーに私は笑みを深める形で答える。彼は今のやり取りだけで私が何が出来るかというものを何と無しに感じ取ったのだろう、そしてそれを悪用してるのではないかという疑惑も同時に生まれたからこそのこのプレッシャー、流石オールマイトのお師匠様だこと。

 

「あ、あのグラントリノ。バートリーさんというか、便利屋は初日に話したように悪い組織とかじゃ」

 

「んなことは分かってんだよ小僧。どうやら俺が思ってる以上にこの小娘は油断ならねぇってことだ」

 

「貴方のようなヒーローにそう言われるとは光栄ね。それで、どうかしら緑谷は」

 

 曰く、丁寧に鍛え上げて仕込みやがったなとのこと。もっと端的に言えば予想以上に緑谷は強かったらしく、彼との特訓では一撃を入れたらしい、流石ね。

 

 と、このタイミングでモスキートが戻ってくる。とりあえずグラントリノ達にバレないように……あの、何を見てるのかしら?

 

「小娘、今のコウモリが例の奴だな?」

 

「……あぁ、オールマイトかぁ」

 

 どうやら私はいつの間にかグラントリノの策に嵌っていたと言うべきか、彼がオールマイトの師匠というのならば私のことは伝わっててもおかしくないわよね。

 

 つまり何が言いたいかと言えば、彼は【吸血姫】を知っている。それは記憶を読み取れる能力のことも含まれている、ついさっきまでのやり取りは確認だったってわけか。でも嫌なタイミングでこの事を切り出してくれたじゃないの。

 

「今のコウモリ? もしかして、その小さいヤツのことですかグラントリノ」

 

「あぁ、って嬢ちゃんから聞いてないのか小僧は」

 

 幸運にも飯田はマニュアルに呼ばれてこの場に居ないけど、緑谷はグラントリノがここに居るんだから当然そこにいるわけで、今の会話に疑問を持つのも不思議じゃない。

 

「あ~、ん~」

 

「緑谷、悪いが今のは見なかったことにして聞かなかったことにしろ」

 

「え、あ、は、はい」

 

 悪いわね血染、それと緑谷も。彼が意味もなく口外するとは思わないけど、万が一を考えれば知られたくないのよ、そういう意味じゃグラントリノには面倒なことをしてくれたわねという感情が湧くんだけど、当の本人は後頭部を軽く掻いてから頭を下げてくるので、便利屋としてもこれ以上は何も言えない。

 

「すまん、あまり出して良い情報じゃなかったな」

 

「別に大丈夫よ。さて、プロヒーロー立会なら説得力増すでしょうし早速、ムーンフィッシュと脳無の記憶を覗かせてもらいましょ」

 

 そしてムーンフィッシュと翼を生やした脳無の記憶、片方は死ぬまでの一週間だけど。ともかく、それを映像としてみた私から言えるのはただ一言『ふざけるな』だった。




だから人数増やしても捌き切れないんだからヤメロって!!

便利屋メモ
轟家の泊まりの際には事務所感覚でスウェットパンツにオーバーサイズのTシャツを着るので焦凍は結構な回数、はだけた所から彼女の肌を直で見ているので慣れている。
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