No.8『依頼初日、入学当日』
依頼を受諾した日から時が進み、無事に中学校も卒業をし、雄英高校の入学当日の朝。彼女は自室にて登校の準備をしていた。なお、現在の時刻は朝の5時、本来であれば6時に起きても十分間に合うのだが登校初日の今日だけは顔合わせがあるので早く来てほしいと根津から連絡を受けている。
それならば仕方ないけどとレイミィは思いつつも朝が弱い彼女としては少々辛いものがあるのも事実、気が緩むとつい欠伸が出てしまうのも御愛嬌というやつだろう。
(顔合わせねぇ。はてさて、どんな反応されるやら)
露骨に嫌な顔されなきゃ良いけどと制服に袖を通し確認できる範囲で服に乱れやゴミが付いてないかを見ながら、軽く制服に触れた時、え? と思わず驚いた表情になって今度はじっくりと触り、それから少しだけ動いてみれば。
「恐ろしいほどに良い生地ね。このままでも戦えるんじゃないこれ」
重さをそこまで感じないが故に動きを全く阻害しない、しかも中学の時の制服と比べると頑丈さもある。軽く分析できる範囲で高性能すぎない? と雄英高校の財力と技術力を実感させられ顔が思わず引き攣る。
お金があるってこのレベルのものを量産できちゃうのねと何故か敗北感を感じながら学校側に今日提出する書類などを鞄に仕舞っていると扉をノックされてから、元気いっぱいな声が響いた。
「おはようございます、レイミィちゃん! 入って大丈夫です?」
「開いてるわよ被身子」
「失礼しまーす! おぉ……すっごいカアイイです!」
入室するなりレイミィの制服姿に感動する被身子。事務所で待っていれば見れるというのに此処まで来た理由はいの一番に見たかったというのもあるが、もっと重要な事のために着替え終わるタイミングでやってきたのだ。
「それじゃ、パパっと身嗜みを整えちゃいますね~」
「お願い、はぁ、本当に吸血鬼としての弱点が殆ど無くなるならこれも無くして欲しかったわ」
彼女の個性『吸血姫』は吸血鬼っぽいことが出来るようになるものでありながら【日の光】【銀】【ニンニク】【流水】などと言った弱点と語られる物はほぼ無効化しており日常生活においても苦労することはないのだが、唯一【鏡に映らない】だけは何故か残っており、自身で髪のセットやメイクなどを施すことが出来なくはないが難しくなっている。
なので毎朝になると被身子がこうして部屋に来て、レイミィ自身が出来ない範囲の支度を手伝っている。だからだろう、彼女自身のメイク技術などは上がりに上がっており、それだけで依頼を受けれるレベルになっている、というのは余談なので置いておこう。
「まぁまぁ、鏡に映らないってだけで良かったじゃないですか。もし太陽とかも駄目とかの吸血鬼そのままお出しされてたら、もっと苦労してたんですよ?」
「それはまぁそうだけど。もっと疑問なのは鏡は映らないくせして、カメラとかは許されてる部分よ。中途半端すぎないかしらこれって思うの」
「うーん、でもカメラに映らなかったら写真も取れません。それじゃ、寂しいじゃないですか」
しんみりとした感じに出された被身子の言葉にレイミィは少しだけ沈黙する。数分も無い短い沈黙、それはメイクが終わったというタイミングで破られた。
「寂しい、か。そうね、記憶だけじゃ忘れられてしまうから、記録も必要よね」
「はい! それに今日から高校生、思い出はたくさん作らないと損です損!」
「ふふっ、その通りね。さて、事務所行くわよ、時間が思ったよりもないから朝ご飯のパン食べながら朝礼しなきゃ」
パタパタと急ぎ足で事務所に向かえば、男三人組が既に揃っており、それぞれに挨拶をしながら袋からパンを2つ取り出してから自身の席に座る。
「はい、コーヒー。うんうん、よく似合ってるよ所長」
「と言うかお嬢は何着ても似合う気がするぞ。だろ、血染」
「偶に買ってくる変なTシャツ姿でもそれが言えたら認めてやる」
見向きもしない血染の一言に仁は目を逸らし、圧紘は苦笑、つまりはそういうことである。 これには被身子もフォロー出来ないので我関せずを貫き、本人であるレイミィはそれを言われようが好きで買ってるんだから良いじゃないのと文句を口にする。因みに大体が表面によく分からないキャラや浮世絵が描かれているTシャツである、本人曰くプライベート用だし安いから良いじゃんとのこと。
こんな感じに始まった朝食だが、途中で今日の流れの確認を始める。とは言ってもと便利屋としてはあまり動きが変わるということはない、と言うのも流石に初日から彼ら全員が出動になるようなことは起きないだろうというのが便利屋と雄英高校の総意だからだ。
「だから今日は私が向こうで色々と確認するのが殆どね。こっちは通常業務でお願い」
「分かった。そっちは任せたぞバートリー」
「任されたわ。あとは、私からはないけど何かあるかしら?」
「ん~、特にはないですね。要はいつも通りってことですもん」
圧紘も仁の両名の顔を見れば、向こうも無いらしく頷き返される。ならもう良いかと朝礼は終わりにし、朝食を食べ終わらせたレイミィは再度鞄の中を確認してから手に持ち立ち上がり、所員に行ってくると伝え、事務所から出ていく。
所長の彼女が学校に行ったのならば、自分たちはいつも通り業務を始めるだけ、というタイミングでふと、仁が思ったことが合ったらしく口を開いた。
「友達できると良いな、お嬢」
「それ、レイミィちゃんが聞いたら怒りますよ? 私がコミュ障みたいな言い方やめろって」
「でも仁の心配も分かるかな。結局、中学じゃ被身子ちゃん以外に友達居なかったらしいし」
ヒーローではなく便利屋の所長、中学生とは思えない知識量と精神、だと言うのに驕るわけでもなくフレンドリーな性格。これらが噛み合った結果、クラスメイトとして話すなら良いけど、友達になるのはちょっとと遠慮され、レイミィの中学時代は被見子以外の友人は一人も居ないという悲しいものとなっていた。
とは言っても本人はその事についてはさほど気にしていない。此処で重要なのは【さほど】であり【全く】ではないという部分、こうして誰かにそれを指摘されたら若干凹みはするので仁も彼女が出ていった後に口に出したのだ。
「で、話に入ってこないけど、副所長は気にならないのかい?」
「俺達が気にしても仕方ないことだろ。それに環境がガラッと変わればあいつも上手くやる、そういうやつだからな」
「これはまた随分と厚い信頼。保護者の肩書は伊達じゃないですねっと、トガちょっとお仕事してきまーす!」
バタバタと逃げるように事務所から消えた被身子を睨みつける血染、そしてそのやり取りと見て笑う圧紘と仁、こうして今日も便利屋【チェイテ】は開業するのであった。
そんな賑やかなやり取りをしているとは知る由もなく、また友達関係で心配されてるとは思ってもいないレイミィは現在、雄英高校の正門前に居た。まだ登校時間とは言えない時間、だが門の前には一人の男性の姿があり、その知った顔にレイミィから声を掛ける。
「おはようございます、相澤先生」
「来たか。おはよう、早速で悪いが校長室に案内するからついてきてくれ」
「時間は有限、だからこそ合理的に。えぇ、勿論、それで構わないわ」
返答に特に反応を見せるわけでもなく相澤は歩き出し、レイミィも分かってたとばかりに肩を竦めて後ろについていく。道中、どれも大きいわねぇと呑気な感想だけを抱きながら校舎内を観察しつつ、すれ違う職員に軽く、それでいて丁寧な会釈をしておく、どうせ後で職員室で会うことになるのだから此処で好印象をつけていきたいという考えからの行動だが、向こうからすると相澤が真新しい制服を纏った女子生徒を引き連れて校長室に向かっているという光景に、彼女はなにかしたのか? となっている。
「着いたぞって、どうした?」
「いえ、校長室の見た目は普通なのねって」
「……そうか。校長、バートリーを連れてきました」
職員たちの間で軽く噂になりそうになっている二人は校長室に到着。相澤がノックしてから、そう伝えれば間もなく校長の声で入ってくれと返されて、二人は失礼しますと入室すれば特に変わりのない如何にも校長室ですという内装に机、その上に根津の姿があり、彼はバートリーを確認すると笑顔で迎える。
「おはようバートリーくん、こんな朝早くから呼び出して申し訳ないね」
「おはようございます校長。そこはまぁ気にしてないわ、顔合わせともなれば時間はかかるものだと理解はしているし」
あとこれ頼まれてた物よと今日までに纏めておいた書類を手渡し、向こうも受け取ってからパラパラと読み流しているのではないかという速さで目を通して
「うん、読みやすい資料ありがとう。さて、それじゃ職員室に行こうか」
「いよいよね……」
ヒョイと慣れた感じに相澤の捕縛布の隙間に入り込んだ根津だったが、緊張してるという声でそう呟いたレイミィにふむ、となにか声を掛けるべきかと思考を巡らす。便利屋という立場上、プロヒーローたちから良くは言われていないのは彼も知っているのでレイミィの心配はそこだろうと、ならばと彼は優しい声で。
「君の心配も分かる。けれど安心してほしい、此処に居るプロヒーロー達は君たちのことを寧ろ評価してる者しか居ないよ」
「それにだ。お前たちを悪く言ってるのは自分の未熟を自覚してねぇ奴らだけだからな」
ボソリと言う感じではあるが確かにこちらに向けられたフォローの言葉に、思わず相澤を見てしまうレイミィが相手が反応を見せないことにあまり見るにも悪いかと前を向き直してから
「気遣いに感謝するわ。あまりプロヒーローの集まりというのに慣れてないのよ」
「これから嫌でも行くことになるんだ、さっさと慣れてくれ」
先ほどと打って変わっての手厳しい言葉に苦笑してしまうがご尤もなので頷くことで返答。根津も何も言わずに三人は職員室に到着し、そのまま入室すればその場に居た全員の視線が三人、もといレイミィに集まりそれだけで質量を持ってるのではないかと錯覚させるほどだった。
だがレイミィは怯む様子もなく澄まし顔のまま相澤の隣に立ち、彼から出てきた根津が集まっている職員に向けて挨拶を始めた。
「やぁやぁ、入学式当日の忙しい時に集まってもらって悪いね」
さて注目してほしいと続ければ視線は根津になり、それを確認してから彼はまずは朝礼、本来だと根津の得意である長話になるのだが今日が入学式当日であること、それと彼女の紹介があるのでと短めに終え、それからレイミィに視線を向けてから彼女は例の依頼を受けた便利屋の所長であることを伝え、バトンタッチ。
バトンを受け取ったレイミィは一歩前に出てから集まるプロヒーローの視線にふぅと呼吸を整え、笑みを浮かべながら
「今、校長先生より紹介された便利屋チェイテのレイミィ・バートリーよ。本日より依頼の遂行のため、そして生徒として雄英高校に通うのでご指導ご鞭撻の方もよろしくお願いするわ」
丁寧に、深々と頭を下げた彼女を迎えたのは温かい拍手。顔を上げれば、形だけの拍手をしてるということは全く感じられない職員の姿、寧ろ妙に暖かい視線すら感じたレイミィは隣の校長か相澤に聞く形で
「一つ聞きたいのだけど、私、というか便利屋についてどこまで話したのかしら?」
「全部さ」
「え?」
「全部話した。下手に隠すよりもそのほうが合理的だったからな」
まず根津が答え、それに嘘でしょと言う表情を晒したと同時に相澤が追い打ちをかけるように答える。さっきまでの凛とした表情は消え去り、そこにあるのは想定外の展開に驚愕する少女の姿。
とは言え、彼女の反応も無理はないだろう。便利屋について全て話したということは、経営理念からレイミィ自身の最終目標すらも此処に居るプロヒーローたちの耳に入っているはずなのだから。
だと言うのに歓迎の空気に流石のレイミィも戸惑いを隠すことが出来ない。だって、自分たちは今の社会を混乱を一度は引き起こすと言ってるのだぞと、彼女のその言葉に答えたのはプロヒーロー【ミッドナイト】だった。
「その混乱が社会を無意味に崩壊させるようなものなら止めるわ。でも貴女が言ってるのはそうじゃない、必要な混乱、社会を良くするためのね」
「……」
「寧ろこちらが謝りたいわ。本来であれば、プロヒーローである私たちがやらなくちゃいけないことなのに貴女のような娘に背負わせてしまったということを」
沈痛な面持ちで話すミッドナイトの姿に、レイミィは己のヒーローに対する視野の狭さに自分自身に舌打ちしそうになった。今日までのヒーローからの自分たちの言葉や態度から便利屋は毛嫌いされているとばかり思い込んでしまっていたと。
「聞け、バートリー。俺達はな、人々のために『ヒーロー』を名乗ってんだ。だからこそヒーローと言う肩書の所為で手を伸ばすことすら出来ない部分を、掬い上げようとしてる便利屋に悪く言う阿呆は居ねぇよ」
「寧ろそんな奴が居たら俺がぶっ飛ばしてやるぜ!」
「フフッ、そうね。ならその時はお願いしようかしら山田先生」
「マイク先生で頼めるかな!?」
あぁ、自分は少々悪い方に考えすぎたらしい。ふっと急に軽くなった肩の感覚と同時に己の所長としての仮面が外れかけたのを感じ取り、情けない表情を晒す前に言うべきことがあると唐突に頭を下げる。急な行動にどうしたのかと職員たちが聞いてくるよりも前に彼女から口を開いた。
「ごめんなさい、今日まで私はヒーローの事を見誤っていたわ。此処に居る貴方達は確かにヒーローよ」
「HAHAHA、何気にすることはないよバートリーくん。君たちの今日までを考えれば無理もないさ。っとと、そろそろ一旦解散としようか」
「バートリー、先に教室に向かってろ。俺も準備を終えたら向かう」
まだ時間は早いが、少し早めに向かいクラスメイトと交流をしておけということだろうと根津と相澤の言葉から判断し、失礼しましたとレイミィが職員室を後にする。
それを見送ってから、職員たちもそれぞれ必要な準備のために行動を開始するが、プレゼント・マイクがふと呟く。
「にしても、すっげーしっかりしてたな」
「あの歳で便利屋の所長なのだから当然でしょ? ただちょっと、無理してるんじゃないかと思わなくはないけど」
心配そうな声のミッドナイトに根津が答える。確かにさっきまでの彼女を見れば大人びていると、けれど教室に向かえば少女らしい表情になるはずさと。
「バートリー?」
そして事実、レイミィ・バートリーは1年A組の教室の扉を開けて早々に表情には出さず、内心で白目を剥き絶句して叫びそうになっていた。
let's go!(例のBGM)
便利屋メモ
レイミィの吸血鬼としての弱点は本編でも書かれたように殆ど消滅している。寧ろシャワーは好きだし、仁が作るペペロンチーノは好物の一つでもある。
それはそれとして原作入るまでに8話ってマジ?