先ずはムーンフィッシュから血を回収してきたモスキートを口に含み、いつもの様に目を閉じれば、頭の中に今や見ることすらないブラウン管テレビが浮かび上がる。
なんでブラウン管テレビなのかって? 私が知りたいわよ、しかも無駄に大型だし。
ともかく、画面が数秒の馴染み深いノイズの後、テレビが映したのは思ったよりも小綺麗なBARと思わしき場所、カレンダーとかはないが基本的にこの能力は一番古いのから見せるので1週間前だろう。
居るのはカウンター席に座ってる私服姿の死柄木とマスター風な服装の黒霧なんだけど、割と様になってて変な笑いが込み上げたのは仕方がないことよね、えぇ。
それと赤霧の姿は確認出来ないけどあいつって割と自由に動いたりするのかしら。
『ムーンフィッシュの調子はどうなんだ、黒霧』
『個性を授けたことによる拒絶反応は出ていませんし、運用も問題ない様子です』
『これいいな、肉が簡単に見れる』
この時点で既に個性は2つってことは、こいつかなり前から敵連合に拾われていたか。出来ればその瞬間とか見れたら嬉しかったんだけど、まぁいいわ、流石にそれは高望みだろうし。
にしても視界しか動かないわね。まさか、拠点内でも縛り上げられてるのコイツ、それとも命令には素直に聞いてるってだけ? ありえなくはないか、褒美を用意しておけばなんだかんだで言うことは聞きそうだしこいつ。
それよりも他に拠点の情報とか無いわけ、これじゃどこにでもありそうなBARってだけなんだけどって。
『どうやらムーンフィッシュは上手く馴染んだようだね、死柄木』
『確かに強いけどさ先生、こいつだけじゃ便利屋は無理だぞ』
モニターが点灯したと同時に流れてきた機械音声に近い男の声、聞いたことは勿論ないのだが死柄木が先生って呼ぶってことは、こいつがトップ、もっと言うならAFO本人。
そいつの私からの第一印象を上げるなら記憶からの声だけ、しかも機械音声だと言うのにじっとりとした何かを感じさせる存在だろうか、言っちゃえば気持ち悪いが近いわね。
『勿論分かっているとも、だからこそ赤霧の最終調整も予定より早めに済ませたのだからね。今後は赤霧も君の配下として上手く使ってくれ』
『うむ、文句無しの調整じゃ。黒霧、直ぐに迎えに来てはくれないかの』
『畏まりましたドクター。直ぐに向かいます』
また新しい声、こっちはお爺ちゃんって感じだけど。今のやり取りだけで推測するとなると彼、ドクターが脳無とかを作ってると見るべきね。
つまりコイツをどうにか出来れば脳無の量産は止められる、けど向こうもそれは理解してるでしょうから簡単に情報が手に入るなら苦労はしないけど。
(こいつの記憶から何か取っ掛かりがあれば良かったのだけれど……)
黒霧が迎えに行ってからは死柄木もカウンター席に座ってるだけだし、そもそもやり取りをしてたモニターは沈黙しちゃってるから動きすらないし暇ね。
かと言って映像を速めたりはできないのよねこれ。それだけが不便なのよね、まぁデメリット以上にメリットがあるから不満点はそれだけなんだけど。
そんな面白くないテレビ番組を見ているような感情でいると、どうやら黒霧が帰ってきたようで靄が出現、そこから仮面を外し素顔の赤霧も現れたのだが彼女は少し周りを見渡すとムーンフィッシュの方へ迷いなく向かい、そして驚愕の一言を発した。
『お前なら、これを見ていると思う』
(!?)
端から聞けば疑問しか浮かばないセリフだろうけど私には違う。ムーンフィッシュの視線に合わせるように顔を動かしてきた赤霧の目は奴じゃなく、間違いなく私を見ている。
普通に考えればそうよね、同じ個性だってんなら記憶関連の能力だって持ってるもしくは知識で知っていても何らおかしくはない。
(抜かった、でもここで中断も出来ない。もし死柄木にこの事を話してるのなら計画を大きく変えなきゃいけなくなる、確認だけでもしなきゃ)
まさかムーンフィッシュを放置してたのはそれが理由? でもそう考えれば行動に納得が持ててしまう、焦りを感じつつ赤霧の次の行動に注視する。
記憶の先に彼女は先の言葉を発したあと、沈黙を保っている。だが死柄木と黒霧、ついでにムーンフィッシュからすれば意味の分からないセリフであり、直ぐに。
『おい、今のどういう意味だ? つかすげー流暢に喋るようになってるじゃん』
『……後で話す。死柄木、でいいか? 改めてこれから頼む』
『今、話せよ。どう見ても意味深ってやつじゃん、リーダー命令ってやつ』
『赤霧、私としても今の発言の意味は知っておきたいのですが?』
二人からの質問攻めに露骨に面倒だという隠すつもりがサラサラないため息を吐き出す。最終調整が終わったら自我が強く出すぎて扱いづらくなってないかしら?
なんて思っていると再度ムーンフィッシュに視線を合わせ、そして……ブラウン管テレビの画面がブラックアウトした。
「は?」
『こいつの記憶を覗いてる暇があるなら黄土色の脳無からの記憶を見てろ。お前が求めてる物はそっちの方にある』
思わず素っ頓狂な声を上がり、状況を飲み込む前に画面が映らなくなったブラウン管テレビから赤霧の声だけが響いた。だが内容を聞いて私は更に混乱の渦に叩き込まれる感覚を覚えてしまう。
どうして敵に塩を送るような真似をコイツはしているのかと。しかも言葉の内容から考えるに死柄木たちにはこの能力について話していないとすら取れる。
けれど同時にこれが罠の可能性も考える。もしかしたら赤霧は私が知らない能力があって、記憶を覗いたら発動するように仕掛けているとか、考えてしまえば色々と浮かび上がってしまい、一旦思考をリセットするために意識を現実に戻すことに。
「ふぅ、ふぅ、ああ、もう!」
「ひゃあ!? ど、どうしたんですかレイミィちゃん?」
「急にどうした、何か分かったのか」
「分からないから叫んだのよ、何なのあいつ!!」
「どうどう、急に切れ散らかすなっての嬢ちゃん」
「キレる若者ってやつか? もしくは情緒不安定の気質でもあるのかこの小娘は」
キレる若者でも情緒不安定でもないわよ。でもそうね、驚かせたことは謝っておくべきだとは思うからグラントリノと血染と被身子と火伊那に頭を下げておく、下げておくがそれはそれとしてこの行き場のない感情をどこにぶつければいいのだろうか。
なんかこう、分かってることを指摘されたと言うか、勉強するつもりだったのに親に勉強しなさいと言われてやる気を失い子供の感情と言うか、いやまぁ私は親に言われてことは勿論ないんだけど。
「はぁ、ムーンフィッシュからは何も得られなかったわ。と言うか、途中で弾かれた」
「弾かれた? まさか赤霧か」
「うげ、完璧にレイミィちゃんの上位互換になってるじゃないですかそれ」
「多分、しかもご丁寧にコイツからの記憶には何も情報は無いって言われたし」
「んだそりゃ……」
ありのままに伝えれば血染と被身子火伊那も何だそれという顔になる。そうよね、私もそう思う、敵連合側じゃないのかお前はって思うわよね、だからこそ叫んだのよ。
「何かを伝えてぇってことかそれ?」
「伝えたい、それが黄土色の脳無の記憶? まぁいいわ、どうであれそっちの記憶も見るつもりだったし」
良い息抜きにはなったし、今度は黄土色の脳無から血を採取したモスキートを取り込み目を閉じ、先ほどと同じようにブラウン管テレビに映像が映し出されるのを待つ。
やはりと言うべきか、死人の場合は映し出されるまで時間がかかってしまうわね。そもそもどういう原理で記憶を映像化してるのかすら知らないけど、と言うかどうして本当にブラウン管テレビなのかしら、私は実物なんて見たこと無いのにっと。
(これはどこかしら? いや、これはあまり関係無さそう?)
映し出されたのは日常風景、声から男だというのは分かるんだけど、ここから情報が本当に得られるのかしら? まぁまだ一日目だし、あるとすれば七日目でしょうね。
でもなにか重要なのが映るかもしれないからと注意深く画面を見つめる。年齢は、高校生、しかも私達と同年代? 何気ない学生生活って感じでたいへん微笑ましいわ、えぇ、本当に、この子の人生が終わるって分かった上で見るのは辛いくらいにね。
『ツバサ、お祖父ちゃんから電話来てるわよ!』
(電話? 祖父、祖父かぁ。私にも居たのかしら?)
思えば、父親について記憶がないわね私。 って今は関係ないか、集中集中っと、そう意気込んだ私だったのだが電話口から聞こえた声に事態は一気に動き出したことを感じ取った。
『お祖父ちゃん?』
『おぉ、こんな時間にすまんなツバサ』
(この声って)
聞き間違う理由がない、だってついさっき、ムーンフィッシュの記憶で聞いた声なのだから。聞こえた声の主は間違いなく黒霧に【ドクター】と呼ばれていた老人、私が脳無の量産をしていると推測している人物、いや、待ちなさい。
(じゃ、じゃあこのツバサって男の子の死因って!?)
嘘でしょ、なんで、そんな。動揺と困惑がまぜこぜになったかのような感情に私は集中を乱してしまう、仮にそうだとしたらこのドクターと言う人物を私は許せないとかいう話ではなくなると。
ふぅと息を吐き出し、ゆっくりと吸い込む。記憶に集中しなさい、もしそうならこの子からの声を余すことなく拾わなくてはならない、赤霧の言う通り間違いなく鍵、いえ、一気にチェックメイトまで駒を進めることが出来る物のはずなのだから。
電話の内容は週末に病院に顔を出して欲しいということ、どこの病院だと焦る私の願いが通じたのか、ツバサは確認するように呟いてくれた。
(蛇腔総合病院、記憶が正しければ京都にある病院よね。なんか聞いたことはあるし)
個性に根差した地域医療とかそんな感じのスローガンを掲げてたのを記憶している。どこで見たのかとかは知らないけど、それなりに有名なところなのは知っている、確か院長の名前は。
(【殻木球大】、広範囲及び様々な慈善事業を行ってる聖人って話だったけど)
って、待って、何で私はそこまで知っている? もしかして幼少期に適当に血を集めてた時の知識に紛れてたのかしら? だとしたら棚ぼたってやつだわ。
思わぬ収穫があったことを内心ではラッキーだと思っているが映像では病院に向かう途中の彼が何かに襲われ意識が途絶えた、違うわね。ここで彼は死んだ、そしてそれを手引したのは間違いなく殻木なのは言うまでもない。
彼はその後に遺体を回収、それを素体に今回の襲撃で出てきたあの黄土色の脳無に改造したっていうのが今回の流れでしょうね。
(ツバサくんって子、最後はどんな感情だったのでしょうね)
きっと、家族だって悲しみに暮れただろう。もしかしたらその中に何食わぬ顔で殻木も混ざっていたとすれば、そこまで考えたところで怒りの感情が込み上げてきた、どうして自分の孫にそんな事ができるのかと。
(貴方の記憶、絶対に無駄にはしないわ)
怒りを抱えたまま冷静に、誰かが言ってたわね、心はホットに頭はクールにだっけ、その通りだと思うわ。でも、そうすると赤霧はこれを知ってて、その上で私にそれを知るように誘導したってことになるわよね。
まるで、敵連合の戦力を削るような動き、けれど殺しには来る。チグハグと言うか、何か大きな一つのために色々と動いているような感じがするのよね。
(まぁ今はいいわ。とにかくこの情報は早く纏めてホークスに投げて、ついでに便利屋で策を急いで考えないと)
やることが急に膨れ上がったが、必要なことなので苦ではない。そう思いながら意識を浮上させ、ゆっくりと目を開いてからすぐに血染に伝える、敵連合の喉元に迫れるかもしれないと。
「何が、と言うレベルじゃないな?」
「奴らの重要拠点の場所よ。だからすぐにでも裏取りをしてもらうべきだと思ってる、事務所に戻ったらホークスへの連絡の準備を頼める?」
「了解した、グラントリノ今の話は内密に頼めるか」
「分かってるよ。にしても相手からすれば理不尽も良いところだな、脳無からの記憶で場所を暴かれるとかよ」
「レイミィちゃんだから出来るって言う話ですのでその辺りは仕方がないんじゃないかなってトガは思いますけどね~」
「そもそも死人からも記憶が見れるってのは力技が過ぎるってやつだろ」
はいはい、私を褒めてないで貴女たちも仕事に戻りなさいっての。いや、私も人のことは言えないかとぐっと立ち上がればズキンと軽く心臓に痛みが走り顔に出そうになるがそれを堪えて、圧紘と仁にも今回のことを話しておく。
続いてインゲニウムの所へと向かい、今日は一旦事務所に戻るという旨を伝えれば彼は何かを聞いてくるわけでもなく頷く、恐らくは私が便利屋として戻らなければならないということを理解してくれているようだ。
その事に感謝をしつつ、今度はスマホを取り出して相澤先生へと繋げる。数コールの後、繋がったのだがその声は若干、私がなにかやらかしたんじゃないかという疑惑の声でもしもしときたので
「相澤先生、直ぐに校長に繋げて敵連合について重大な情報を手に入れたの」
《なんだと? 分かった、少し待て》
数分後、校長室に到着したのだろう、相澤先生から校長へと変わり今しがた見た記憶について話せば真剣な声で
《確かに今までで一番大きな収穫だね》
「えぇ、こちらからはホークスから公安に投げて、裏取りをしてもらうわ」
《うん、それが良いと思う。こちらから出来ることはあまり無いけど、要請が来たらすぐに動けるようにしておくよ》
「まぁ今回は便利屋が動くことにすると思うけどね。ただもしかしたらその際に手伝ってほしいと言うかもしれないけど」
《HAHAHA、君からのお願いなら断る理由はないさ!》
心強い言葉にありがとうございますと感謝を伝えてから電話を切る。とりあえず、今の段階で出来ることはこれで全部、残りは夜にホークスへ今回の件を話し、向こうから話が来るまで待機ね。
忙しくなってきた、そう思いながらも私は笑っていた。漸く掴んだ奴らの尻尾、そのまま一気に引きずり出してやるわ……
書いてから思いましたがツバサくんの住んでる場所から蛇腔総合病院ってどう考えても遠すぎない? まま、こう、あれだよあれ!(適当)
まぁもっと言えば、殻木がここまで孫と交流があったかすら微妙なんですけどね、はい