同日、夕方の便利屋事務所。急ぎだったので全速力で飛んで帰ってきてから血染達に今回の件及び記憶から得た情報を話せば、反応は様々、特に殻木については満場一致でクソじゃんコイツだった。
まさかここまで満場一致になるとは思わなかったけど、まぁそうよねという気持ちしか無い。
「根っからの科学者と見るべきだろうな。孫まで使うとなりゃ相当だ」
「これ、お嬢の踏み抜いてるじゃねぇか」
「踏み抜いてると言うか、連鎖爆破までしてるね」
「そんなのが病院の院長してるってのが怖いだろ」
「うへぇ、直ぐにでも捕まえたほうが良いんじゃないですか?」
捕まえたいのは私だってそうだけど今はまだ裏取りの段階なんだってば、話聞いてたのかしら被身子?
え、聞いた上でだって? いや、流石にそこまでの無法は出来ないからウチも。形だけでもホークスからのGOサインが必要なの。
「ぐぬぬ、便利屋に一任してくれればいいのに……」
「それやっちまったら協会と公安の面子丸潰れになるから無理だろうな」
向こうにもプライドってのがあるからね、まぁ私に頭が上がらない時点でプライドも何も無いんじゃって思わなくはないけど。
って別にそんな話がしたかったんじゃなかった。とりあえずは情報の共有だけで今は動けないってことと血染と火伊那は明日からは通常の依頼の方に回っていいってこと、後者は正確に言えば依頼が完了しちゃったからなんだけど。
「そういや、元々はムーンフィッシュがって話だったな」
「二度の襲撃は無いって考えて大丈夫なのか?」
「それは考えなかったわけじゃないけど、脳無を三体、それにムーンフィッシュも失ったとなれば向こうも直ぐに動けるとは思えないわ」
「寧ろ普通の組織なら瓦解するレベルの損失だよね」
〝普通〟ならね。けれど敵連合は明らかにその枠じゃない、上げるとすればAFOの組織力と殻木の科学力の2つ、特に後者の存在がある限りあらゆる手段で脳無は量産されていくでしょうし、放置してしまえばいずれは社会が崩壊するほどの戦力として運用されるのは考えるまでもない。
だからこそ殻木の件は慎重に、確実な方法で詰めなければならない。ここでしくじればリカバリーはほぼ不可能になるでしょうし、下手したら向こうから便利屋を本気で潰しにくる危険だって生まれてしまう。
「まだ敵連合に便利屋が脅威だと思われてないからこそ、か」
「脅威には思われてるかもしれない。けれど、それはプロヒーローと同じ感覚だと思う、ようは戦闘力の方面ってこと」
「あ~、謀略面は自分たちのほうが上だと思い込んでるだろうからそこを突きたいってことか」
特に記憶を読み取れる事は赤霧以外は知らないはずだし、彼女も何故か死柄木に話した様子もない。ならまだアドバンテージは活かせると思う、ってここで話しててもまだ動けないから意味ないんだけどさ。
なのでこの話は一旦ここで終わり、本当ならこの後に総括とかあるんだけど、今やったみたいなものだから良いし今後の予定も暫くはいつも通りなのよね、強いて言うなら明日は私がインゲニウムのところじゃなくて学校に行ってあれこれ話をしてくるくらいかしら? ってえ、私に話があるって、何かしら圧紘。
「うん、リカバリーガールに今日のことを報告したら明日直ぐに保健室に来いって、ほら、今日の戦いでプリンセス使用したからその検査だってさ」
「……」
嫌だなぁ。絶対に怒られるじゃないの、寧ろ怒られない理由がないのよね、今回は今までで一番長時間の使用だったし、その用途もほぼ致命傷だった部分の再生だったりだから身体への負担は相当大きかったはず。
だから数字としてはっきりと出てきちゃうからリカバリーガールは絶対に怒ると思うのよね。
(しかも本当なら使ったその日にって話だったわよね。うわ、それも含めて絶対に怒られるじゃないの)
「レイミィちゃんが予防注射を予告された子供みたいな顔してますね、カアイイですね」
「行きたくないとか言うなよ、じゃないとどやされるのは保護者枠の俺なんだからな」
「言わないわよそこまで子供じゃないんだから。それにどうせ学校には行くことになってるし、その時にリカバリーガールに強制連行されるに決まってるわ」
なんだったら校長か相澤先生が早々に話は良いからって保健室送りにしてきそうだし。私もまぁ行かなくちゃって思ってるし、口にはしないけど確かに不調だなって思わなくない部分もあるし。
(まだ痛むか)
何気なく、それこそ周りにバレないように心臓を擦る。実を言えばあれから心臓からの痛みはまだ断続的にだが発してる、あの時みたいな激痛とかじゃないだけまだマシかも知れないけど、妙に続くのが気になるのよね。
今まではこんなこと無かった、だからこそリカバリーガールの検査は受けるべきなのだと流石に思わざるを得ない。
けど今はまだ無視はできるレベル、とりあえず今はこの場を締めましょうか。そろそろ夕飯とかの準備して夜のホークスからの電話に備えないといけないし。
「じゃ、今日はもう解散でいいかしら?」
「俺たちからはもう何も無い、それでいいと思うぞ」
「んっん~、あ、そうか今日はレイミィちゃんも一緒に夜ご飯食べるんですよね、トガが腕をふるいますよ!」
「張り切りすぎて焦がすなよ」
「過去に一度やらかしてるのを知ってる身としては笑えない話なんだよなそれ」
「ははは、懐かしいね」
あったわねそんなことも、確か住み込み始めた始めての被身子担当だったときだったわねって分かった分かった、それ以上は話さないから怒らないで頂戴。
なんて2日振りの彼らとの日常を楽しみ、22時には私は部屋に戻り適当な本やインゲニウムから貰った資料を読みつつ電話を待つ。
暇を潰しながら待つこと10分、事前に伝えたにしては遅いわねとか思ったタイミングでジリリ! と電話が鳴り響きやっとかと思いながら受話器を取り、とりあえずでいつもの様に口を開く。
「遅いじゃないの、色男」
《ごめんごめん、お嬢様。ちょっとごたついててね》
ホークスとこんな軽口を叩くのは向こうが私をお嬢様なんか呼ぶからが始まり、今では挨拶代わりになるくらいには信頼関係が築けている。当時は私も向こうもなんだかんだで警戒しあってたのよね、懐かしい。
「(っと懐かしがってる場合じゃないわね)早速で悪いんだけど、本題に入っていいかしら?」
《勿論だとも、で聞きたいんだけど〝間違いない〟んだよね?》
分かってるくせにと真剣な声で聞いてきたホークスに私は軽く笑う。私は何時だって自分の個性で得た情報で嘘を付いたこと無いでしょ? 公安にだって協会にだって政府にだって、一度たりとも嘘偽りを言うことなく見たままの事実を伝えて来たじゃないの。
だと言うのに今更疑おうっていうのが笑えてしまって、クツクツと堪えきれない声にホークスは電話越しでも分かるほどにやれやれという感じの雰囲気を醸し出してから
《一応の確認ってやつだよお嬢様、だから何時までも笑ってないで答えてほしいかなぁ》
「クックク、ごめんなさい。えぇ、間違いないわ、殻木球大は敵連合に手を貸し、剰え自分の立場を利用して脳無を製造しているわ」
《……そうか》
どこかやはりかという感じの声で答えるホークス。今の感じだとお上も前々から怪しいと睨んでいた可能性があるわね、けれど証拠も何もなくて動けなかったってところかしら。
ま、向こうもうまい具合に隠してたんでしょうし何よりも慈善事業の実績があるから迂闊に動けなかったってのもありそうね。なんて考えていればホークスから答え合わせのように言葉が紡がれる。
《実を言えば殻木の名前は敵連合の存在が浮き彫りになってすぐに上がってたんだよね》
「へぇ、上辺の情報だけなら怪しい所は殆ど無いのによく上がってきたわね」
《寧ろ綺麗すぎてって所かな。四方八方に手を伸ばして慈善事業って言えば聞こえは良いけど、なんか目星を付けに行ってるって感じの動きだったからね》
なるほど、その時から脳無の素材を探していたと考えれば確かに怪しい動きに早変わりってことか。病院の院長となれば死体なんて選り取り見取りでしょうし、ツバサくんの時みたいに最悪は適当な
自分で言ってて胸糞悪い話ね。ていうか、上がってるなら私の記憶と合わせてもう決まってるようなものじゃないの、さっさと許可頂戴って溜息を付かないでもらえるかしら?
《いやいや、流石に性急過ぎるってお嬢様。一応、公安で裏取り調査するから待っててくれるかな?》
「ちっ、じれったいわね。便利屋に依頼として出して知らんぷりしてくれるだけでいいのだけど?」
《出来たら苦労しないんだけどね。彼らにもプライドはあるって君にも分かるだろ? それに俺としても便利屋に無責任に投げて失うようなことは避けたいと思ってるし》
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃないの。まぁいいわ、だったらそっちから連絡が来るまで大人しく、というか準備だけは進めておくことにするわね」
やれやれ、彼もプロヒーローってことか。何でもかんでも私達、いえ、私という子供に投げては処理させてしまってることに負い目を感じてるのでしょうね。
今更なんて言っても無意味だろうから言わないけど、あまり変に気負わないでほしいものね。
《ところでさ、準備ってことはそっちで動きたいってことでいいのかな?》
「へ? えぇ、そのつもりよ。と言うか、プロヒーローに行かせるわけ無いじゃないの、どう足掻いたって殻木に悟られて終わりよ?」
全く何言ってるのかしら。プロヒーローなんて変装してもすぐに見破られやすいってのに、特にその手の動きに殻木は敏感でしょうからなおのことヒーローと言う肩書を持ってる人物に向かわせるのは空振りに終わる可能性しか無い。
けれど便利屋の私達ならガッチガチに変装してしまえば向こうにバレることはないと断言すら出来る。言っちゃなんだけど、こと一般市民に紛れて潜伏して行動はヒーローには出来ないレベルの高さを誇っていると自負すらしてもいいと思っているわ。
「だから、そっちがGOサインを出したらこっちで策を進めて、殻木を捕らえるつもりよ」
《一応聞きたいんだけど、本当に〝捕らえる〟だけだよね?》
ちっ、勘がいいわね。えぇ、ただ捕らえるだけで終わらせるつもりなんて全く無い。敵連合の中で重要なポジションに居るだろう彼を徹底的に利用しない理由なんてどこにあるのかしら。
孫すらも自分の目的のために利用した男だというのならば、因果応報な目にあっても仕方のないことよね、ホークス?
《ヒーローとしての立場からするとあまりそういうのは推奨できないかな~って》
「じゃあ、ヒーローじゃない私達には問題ないわね」
《そういう意味じゃないんだけどな~、いや、まぁ、どうせお嬢様のことだからこっちに有益な形で利用するんでしょ?》
寧ろそのつもりでしか無いんだけど、一体彼はどういう想定をしたのか是非とも聞かせてほしいものだわ。言っておくけど、私は
《分かってる分かってる》
「……ま、殻木が生死問わずだったらどうなってたかは知らないけど」
《あ~、生死問わずで思い出したんだけど。脳無を二体、手を掛けたんだって?》
「手を掛けたは生き物に使う言葉と認識してるけど? あれは兵器よ、壊したが正しいわ」
言い訳かもしれないけど、そこは譲れない。脳無、あれはもう生命と呼べる存在ではなく、指示されたことをただ繰り返すように行う生物兵器、だから〝殺した〟と言う表現は正しくない。
あれは〝壊した〟なのよ。己の右手を見ながら呟くような言葉にホークスはそっかと優しい感じの声で呟いてから。
《ごめんね、保須市にもプロヒーローは沢山いたのに捕縛って形が取れなくてさ》
「貴方が謝ることじゃないでしょうに。それに彼らも無能ってわけじゃないし捕縛も出来たでしょうけど、被害を抑えるって考えたら私が壊しに行くのが早かったってだけだし」
《そこまで言われると俺もこれ以上は何も言えなくなるな~。っと、そろそろ時間だね》
ふと時計を見れば制限時間の30分に確かに達しようしていた。別にちょっとくらいは問題ないけど、ホークスを困らせるつもりはないし、これ以上は話すこともないから。
「そうね、私も今日は疲れたから早く寝ることにするわ。じゃあ、そっちは任せたわよホークス」
《ういうい、君の職場体験が終わるまでには裏取りを済ませて連絡するよ。それじゃ、おやすみお嬢様》
「えぇ、おやすみなさい色男」
通話が切れたのを確認してから静かに受話器を置き、ぐっと身体を伸ばすのだがその際にズキリと心臓から軽く痛みが走り声が漏らそうになってしまった。
どうやら、本格的によろしくないのかもしれないわね。この時の私は電話の最中にこれが出なくて良かったと安堵しながらベッドに潜ったのだが。
(彼女、声に張りが無かった気がするな。確か、赤霧と戦ったらしいけどそれが原因か?)
ホークスは些細な異変に気づいていたことを私が知る由もなかった。
Q 金曜日の更新は何で無かったのですか?
A ブルアカのイベストのカロリー爆弾とウマ娘の生放送の情報量の並に押しつぶされて満足しながら寝ちゃったからです(素直)