便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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ここでオリチャー発動!


No.82『裏側からの激流』

 時間は巻き戻り、保須市襲撃事件直後の都内のとあるBAR。言うまでもなく死柄木たちが拠点としているそこに黒い靄が現れ、彼らが出てくる。

 

 襲撃はほぼ失敗、だと言うのに死柄木は奇妙なほどに落ち着いており彼のあとに出てきた赤霧に対してガリガリと少し首を掻いてから。

 

「赤霧、あれで良いんだよな?」

 

「あぁ、後は向こうが勝手に動くだろう」

 

「しかしよろしいのですか死柄木、これは明確な……いえ、失礼しました」

 

 黒霧の苦言とも言える言葉を視線だけで黙らせた死柄木だったが、少しして悩むように頭を掻きカウンター席にドカッと座り込む。その姿は己がやろうとしていることへの迷い、そして。

 

「なぁ、あの話は本当なんだろうな?」

 

「あぁ、嘘偽りは言ってない。あの日もそう言ったつもりだが?」

 

「分かってる。ただ確認したかっただけだ」

 

 【あの話】、それの事の始まりは赤霧の最終調整が終わったあの日、レイミィからの記憶の読み取りを防ぐべくムーンフィッシュを気絶させた場面にまで更に時間は遡ることになる。

 

 レイミィのよりも更に強力な魅了で気絶させた後、赤霧は未だに怪訝な顔で自分を見つめてくる死柄木に対して淡々とこう告げた。自分は対象の血液を接種すれば記憶を覗き見れると、そう告げられた死柄木はガリガリガリと首元を掻きむしりながら

 

「はぁ? 記憶をってなんだよそれチートじゃねぇか」

 

「それは個性由来ということでしょうか?」

 

「あぁ、【吸血姫】が持ちうる能力の一つだ。そして、同じ個性のアイツも使うことが出来る」

 

 〝アイツ〟これは言うまでもなくレイミィの事、だがそれよりも死柄木は今の会話を聞いて、ふと一つの考えに至った。相手も記憶を読めるということは向こうに〝先生〟が雄英高校に送ったという内通者からの記憶を見れてしまうんじゃないかと。

 

「そうか、だからあのガキは始めの作戦の時に正確な手を打てたってことかっ!」

 

「ならば直ぐに報告をあげなければ」

 

 このまま対策もなしに野放しにすれば自分たちは不利になっていくばかりだと黒霧が動こうとするがそれは紅霧が伸ばした手に止められる。

 

 一体何だと黒霧が思うよりも先に彼女は死柄木に対して、AFOの記憶も見てきたと告げてきた。

 

「先生? それがなんだってんだ」

 

「お前の今日までの人生は全部仕組まれてたことだとヤツの記憶から分かった」

 

「……は?」

 

 何を言ってるんだお前は。まさにそう表現できない顔で死柄木は赤霧を睨む。

 

 それもそうだろう、ドン底とまで言える状況から今に導いた恩人が実はその全てが仕組まれており、自分は利用されていだけだと言われ、良い気分になるわけがない。

 

「冗談にしては笑えませんよ、赤霧」

 

「この場で私が冗談を言う理由はないと思うが?」

 

 突き刺すような声で告げてきた黒霧に対し、怯む素振りも見せずに返す赤霧。彼女としてはなぜ疑われるのだろうかとすら思っており、まだ信じられないというのならば詳細に話すがと続ければ。

 

「話せよ、少しでも嘘だと判断した時点で崩壊させるから」

 

「分かった」

 

 死柄木は彼女が話す内容に少しでも疑いを持った瞬間に己の個性で崩壊させるつもりだった。だが赤霧が話す内容が進むにつれて彼は目に見えて動揺が現れ始めることになる。

 

 彼女が話す記憶の詳細、その全てが自身の記憶と寸分の狂いない内容であり、今話している赤霧が知ってるはずがない過去の話、それはつまり出鱈目を言っていないという証拠に繋がってしまったからだ。

 

 そして、自分の不幸の全ての始まりが先生と慕っているAFOだったということを。

 

「お前を奴が選んだのはOFAの継承者の孫だから、極論を言ってしまえばそれだ」

 

「……」

 

「もっと言うとすればオールマイトへの嫌がらせもあるだろうな。アイツはお前を後継者と言ってるようだが結局は全てを己の所有物だとしか……」

 

「もういい」

 

「そうか」

 

 項垂れた死柄木から出てきた蚊の泣くような声に赤霧は短く答え口を閉じる。ただ冷酷に淡々と語られた内容は彼を打ちのめすには十分すぎる威力であり、死柄木は座ったままの体勢で動かなくなってしまう。

 

 今まで信じてきたものを徹底的に壊されたショック、それだけとは言え彼の精神は揺らぎに揺らぎ、罅すら入りかけるが、そこでふと赤霧が死柄木に問いかけた。

 

「それで、どうする」

 

「あ?」

 

「今のを聞かなかったことにして、このままやつを慕い従うか。それとも別の行動を起こすか」

 

 言ってしまえば、己の意思で離反してみないかという内容に黒霧が待ったをかける。自分で何を言ってるのか理解しているのかと、これに対して赤霧は答える。

 

「分かっているが? それとも考え無しに口にする脳無とでも思われてたのか私は」

 

「ならば尚の事、そのようなことを申し上げる理由が分かりません。貴方は我々の味方としてこの場に居るのではないのですか?」

 

「あぁ、死柄木に付き従うようにとは言われたな。だが、コイツは何も〝選んでない〟そんな奴のもとに付くつもりはないんでな」

 

 ドクターめ、どういう作り方をしたのですかと悪態をつきたくなる黒霧。ここまで会話して分かったのは明らかに普通の脳無ではないということ、更に言えば自分のような存在でもないということ。

 

 明らかに全く別の手段で作られた存在、赤霧については彼も詳しくは教えられてはいないのだがそれでも特別だというのは理解できた、出来たがこれは今後を考えれば不和になると判断し

 

「死柄木、直ぐにでも彼女をドクターの下へ送り返し、再調整をしてもらうべきです」

 

「面白い提案だな。はぁ、面倒だ」

 

「誰の所為だとっ!?」

 

「黒霧!? 何をしたお前!!」

 

 あからさまな挑発とも取れる言葉に反応した黒霧だったが次の瞬間、赤霧の目が妖しく光ったと同時に頭部に当たる部分に耐えきれないほどに激痛が走り倒れ伏す。

 

 これには打ち拉がれていた死柄木も反応を見せ激情に近い感情を赤霧にぶつけるが本人は気にする様子もなく自身に視線を向けてきた死柄木に対して

 

「別に殺してはいない。ただちょっと素体の記憶を叩き起こしただけだ。それよりも死柄木、改めて聞くがどうする?」

 

 ここに来て死柄木は不審に思った。なぜ先生からの言葉が来ないのかと、流石にここまで騒ぎになれば止めに入るなりはありそうだと言うのにそれがなく、モニターも電源が入ってないかのように何も映していない。

 

 何かしたのか、いや、だとしてもすぐに復旧するはずだと言うのにそれがない、だとすれば目の前のコイツは想像以上にヤバい奴だと理解が出来てしまった。

 

「それを聞いてどうすんだよ」

 

「どうもしないが? ただ今日まで何も〝選んでない〟のだからこの機会に選択しろと言ってるだけだ、選んだのなら私は黙って従う」

 

 なんなんだコイツ。少し前までは人形のように無口で大人しかったというのに最終調整が終わっただけでこうなるとか誰が予想できるんだよと死柄木は思いつつ、ついさっきまでの会話を思い出す。

 

 思い出した上でまたショックで潰れそうになるが、堪え、考え、彼はゆっくりと口を開いた。

 

「今は、考えさせてくれ、テメェを信頼しきれてないのも、ある」

 

「別に構わない。そもそもすぐに出せるとも思ってなかったからな」

 

 本来の死柄木ならば考えさせてくれと言う言葉は先ず出てこない。先生もといAFOはそれほど彼の中で大きい存在なのだから、けれど今回その言葉が出てきたのは単純に赤霧の威圧感と記憶の話が本当だと思えてしまったから。

 

 もし本当にそうなのだとしたら、自分と家族を狂わせたのが慕っていたAFOだとすれば、いや、もっと言うならば始まりは祖母、つまりはヒーローだとしたら。

 

(俺は、何を壊せば良い?)

 

「っく、はぁ、はぁ、赤霧ぃ!」

 

「起きたか、悪い記憶ではなかっただろ」

 

 ここで漸く意識が復活した黒霧が立ち上がると同時に赤霧に掴みかかるが彼女はどこ吹く風で彼に告げる。割と強めの殺気に対してこの態度を取れている赤霧に死柄木はコイツ相当やべーなと人ごとのように感じつつ。

 

「黒霧、離せ」

 

「ですが死柄木!」

 

「二度は言わねぇからな、離せ」

 

 どうやら自分が気絶していた間に何か変化があったようだと死柄木の雰囲気の変化に驚きつつ赤霧の胸ぐらから手を離し、いつもの定位置へと戻る。

 

 戻ったタイミングでモニターが点灯、それに対して死柄木は別に赤霧がなにかした訳ではなかったのかと驚くことになる。因みに真相は単純に別の要件で繋いでなかっただけという話だった模様。

 

《すまない、少し手が離せなくてね。それでどうかな赤霧は》

 

「あ~、まぁ上手くやれそうかな」

 

 その言葉にそれは良かったと嬉しそうな声を上げるAFO。対して死柄木は先程の赤霧が話した真相のことが頭の中に残っており、故にだろうかふと彼にこんなことを聞いていた。

 

「なぁ先生、俺の父親と知り合いだったりした?」

 

《どうしたんだい急に。すまないが〝知らない〟ね》

 

「そっか、悪い、変なことを聞いた」

 

 流石のAFOも唐突なこの質問の意図が掴めずに彼にしては珍しい困惑気味な声を聞きながら、死柄木は今の回答で自分にどうして隠したんだと言う疑惑が生まれた。

 

 別に父親と知り合いだとしてもそれを隠す必要はないはずだと。しかも嘘を付いてまで、ならやっぱり赤霧の話は本当なんじゃないかと。

 

(なぁ、どうして隠す必要があるんだ、先生?)

 

 疑惑。一度それが生まれれば、解消できないのなら大きくなっていくしかない。もし赤霧の話がなければそもそも生まれるものですらないので向こうからすれば中々に理不尽な罠と言えてしまうだろう。

 

 更に言えば、AFOとドクターは赤霧がそこまではっきりとした自我で動いていることは知ってても、こちらに害するような動きすらしてくることを想定していない。ここは自分たちに絶対の自信があるが故の油断とも言える。

 

 そして、AFOとの会話が終わりモニターがまた沈黙したのを見計らい、死柄木は赤霧と黒霧に一つ質問をした。

 

「なぁ、二人は俺に従ってくれるんだよな」

 

「私はそのつもりだ、こっちは知らないがな」

 

「……私は先生とドクターより死柄木に従うよう言われております」

 

 つまりは二人は死柄木を裏切るつもりはなく、自分に従うということである。それを聞いた死柄木はボリボリと首元を掻き、言葉を整理してからゆっくりと告げた。

 

 本来であればあり得ない言葉、だがたった一人、赤霧と言う異物が存在したが故の彼の初めての〝選択〟

 

「俺は将来的にヒーローも(ヴィラン)もぶっ壊して平らにする。そうすりゃ、悲劇も何も起きないだろ?」

 

 父親はヒーローが嫌いだった。どうやら祖母がやらかしたらしい、同時に自分を利用するだけして捨てようとしたAFOに対しても慕ってたその分がまるっと憎悪に変わり、なので(ヴィラン)を全て壊そうという発想に至った。

 

 どっちかがあるから生まれた悲劇なら、どっちも壊し零にする。ある意味で便利屋と対極的な存在が今ここに生まれた瞬間だった、けれどまだ行動には移せない。

 

 流石に何もかもが足りなさ過ぎる、なのでまずは保須市の作戦を利用して便利屋を動かそう。それがこと一週間以上前の話、そして時間は冒頭に戻ってくることになる。

 

「黄土色の脳無の記憶を向こうが見れば、ほぼ間違いなくドクターの拠点に辿り着く、そうすればAFO側の戦力は大幅に削り取られることになる」

 

「んで、そうとなりゃ次の襲撃まで時間が掛かり、最短でもなんだっけ?」

 

「死柄木、それは事前に確認した筈です。赤霧の偵察では雄英高校のヒーロー科一年が次に課外活動をするのは林間学校、場所等は伏せられており不明ではありますが内通者を利用すれば分かることでしょう」

 

「つっても便利屋のガキがそれ込みで策を張ってくるだろうけどな」

 

 彼らは現状、表向きではAFOに従いつつも裏では謀反の準備を整えるグループとなっている。よもやAFOも死柄木がそんな動きをするとは思ってないようで現状では気付かれる様子もない。

 

 そもそも謀反とは言うが彼らだけでは何も揃えられないのでただ駄弁っているだけなので気付かれたとしてもみすごされているだけという部分もあるのだが。

 

 因みに今は林間学校での兵力の話になり、黒霧がカウンターで死柄木と赤霧に飲み物を提供しながら状況を整理する。

 

「便利屋の所長、そして所員に話ではA組も強者揃いと聞いてます。対してこちらは我々の他にあるのは脳無一体だけではどうしようもないのでは?」

 

「どうやら先生が裏のブローカーに声を掛けて人を連れてくるってさ。それでまぁ奇襲すればって感じらしい」

 

「ふむ、来た者の強さ次第となりますが先生が言うのならば信頼できる能力はあるでしょう。赤霧、便利屋の所長は任せますよ」

 

「分かった。ま、林間学校までの日数を考えればアイツは弱くなってる可能性があるがな」

 

 唐突にお出しされた情報にどういう事だと死柄木が聞けば、彼女はこう答える。

 

「アイツは私だ。だと言うのに人間であろうとし血を吸わずに個性を使っている、ならばもうガタが来るという話だ」

 

 赤霧が呟いた意味、それは翌日の場面変わり便利屋のレイミィの自室で明らかになる。いつものようにアラームに起こされた彼女はゆっくりとした動きで体を起こしたのだが

 

「けほっ、けほっ、ったく、風邪かし……へ?」

 

 咽たかのような咳に悪態をついたレイミィが見たのは手とシーツに吐き出されたかのように付着した真っ赤な液体だった。




赤霧が、その、勝手に動いたと言いますかぁ、そのぉ(ろくろ)(これもうどうするんだよお前という表情)
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