話を切り替えましょうか。なんて言ってみたが場の空気は依然変わらずに重いまま、気持ちはわからなくはないんだけれど、こっちも重要な話なのよ。
と言うか私としてはそれがメインのつもりだったのよ。確かに身体は良くないかもしれない、だからといって手を引くわけには行かないし確実にするためにも話したいのよ。
「……はぁ、奥の部屋使いな」
「ありがと、リカバリーガール。それじゃ、行きましょ、校長、相澤先生?」
「分かった、聞くだけ聞こうか」
うーん、この納得してない感じ。まぁでも聞いてくれるだけありがたいわね、という事で三人で保健室の更に奥にある部屋、なんなのかしらここ、カルテとか色々あるし資料室でいいのかしらね?
ともかくそこに入り適当な椅子に座ってから、昨日の襲撃事件の詳細及び発覚した事実を話していく。とは言っても脳無云々は昨日の時点で彼らも知っていたようで、反応を見せたのは殻木のことだったけど。
「なるほど、院長をしながら多方面の慈善事業は全てそのためだったって事か」
「認めたくはねぇが、恐ろしいほどに合理的な思考をしてやがるな。許すつもりはないが、今の今まで見過ごされて居たのを考えるとその辺りも上手い具合に隠してたんだろう」
「恐らくは、でも尻尾は掴んだ。あとは確保をするだけ、それで二人に相談、と言うか、その……」
うーん、これ本当に言っちゃって大丈夫かしら? いや、ここまで来て日和るつもりはないんだけど、軽蔑されても仕方がないことだと思ってる部分もあって、二人からその感情を向けられるのはちょっと耐えられないのよね。
だから言い淀んでしまった、どうやら私の中には彼らに嫌われたくないという可愛らしい部分が残っていたらしい。もしくは、今日までの生活でそれが生まれたと見るべきか……
「バートリー?」
しまったと思ったのは相澤先生の声を聞いたタイミング。見れば難しい顔と若干の疑いを込めた目、どうやら私が言い淀んでいるのを自分が無茶なことをするかもしれないという風に疑っているらしい。
直ぐに誤解を解かなければならない、そう判断し相澤先生に弁解を始める。決してドンパチとかを考えているわけではない、寧ろ今回はかなりスマートに、静かに事を進めるつもりだと説明する。
「HAHAH、それを聞けて安心したよ。もし無茶や危ない橋を渡るつもりなら停学処分をここで告げることになってたからね」
「冗談よね?」
「大マジだ」
思わず黙り込む、これは不味いことになった。確かに無茶はするつもりはないわ、えぇ、流石に昨日の今日でそんなこと言ったらどうなるかなんて分かるし、ただその、危ない橋をって話になると困るのよね。
だって、言おうとしてるのって一般的な感覚だと危ない橋でしかないもの。私基準だとそうでもないことだけど、私のそれは普通じゃないからなって血染に何度も言われてるし、ならこれもきっと駄目なやつ、どうしよう。
(でもここまで話してやっぱりなんて出来ないし、話すしか無いわよね)
「どうしたんだい、面白いくらいに表情がコロコロ変わってるようだけど」
「何も話せないことのためにここに集まったわけじゃないだろ、言ってみろ、バートリー」
ヤバい、どうしよう血染、私この二人に口で勝てる気が全くしないんだけど。ていうか、目が笑ってないのよ校長、相澤先生のその表情はなんかもう慣れたけど、校長のはあれね、圧が強すぎるのよ。
う、うぅ、いや、でも正直に話せばきっと大丈夫よね。覚悟を決め、二人に向けて今回の殻木捕縛の詳細を話すことに、最悪、校長の言うように停学処分も辞さないという覚悟よ。
「殻木に関してなんだけど、今、ホークスが彼の裏取りを行ってるわ。まぁこれは私の記憶の話もあるし確実に取れるでしょうけど、本題はここから」
すぅ、と無意識にだが呼吸を挟む。二人が本当に私を心配してくれる大人だと分かっているからこそ、これから自分が言うことはその気持ちを真っ向から否定するような行動なのだと理解しているから。
「裏取りが済み次第、私たち便利屋が奴の拠点である蛇腔総合病院に向かい、殻木の捕縛を行うつもりよ」
「……相澤くん、書類を用意してくれるかな?」
「待って待って! 確かに貴方達からすれば危ない橋かもしれないけど、こういうことに関しては私達は絶対の自信があるし、それを確実なものにするための策だって用意してあるわ!」
だからお願いだから停学処分は止めて頂戴と懇願すれば校長は溜息を一つしてから、私に向き合い直し改めて問いかけてくる、本当に危険じゃないんだねと。
これに私は頷くが、向こうだって分かっているのだろう。この世に絶対はないと、だから頷いたとしても確率しては数%、或いは十数%は漏れが出てくるがこれは割り切ってもらうしか無いわね。
「本当なら縛り上げてでも止めるべきなんだろうが……お前のことだ、リターンが相当にあるんだろ」
「えぇ、コレが成功すれば殻木の身柄、知識、それに依存してた組織力の低下を起こせるし、なんだったら奴自身を内通者に仕立てることだって可能よ」
一石二鳥どころの成果じゃなくなる、三鳥でも四鳥でも落とせる成果を出せると断言できるわ。そしてそのチャンスは今しかないとも、これを逃す、或いは向こうに悟られてしまえば、こちらが不利になるとも。
「リターンだけを見れば、やらない手はないね。それを、君のような子供に任せてしまうというのは私としても認めたくはないが」
「気持ちは嬉しい、けれどこれは便利屋としての私の生き方なの。そう何度も子供扱いされるのは、些か気分が良くないわ」
「そうだね、済まない。どうにも君の無茶や身体のことを知ってる身としては、必要以上に心配をしてしまっていたようだ」
まぁ、その気持ちは分からなくもないんだけど。私だって、知り合いが、例えば被身子がそんな調子なのにまだ大丈夫ですとか宣ってたら怒るでしょうし、意地でも止めに掛かるでしょうからね。
なんだか、微妙な空気になっちゃったわね。悪いのは私だから、何か言えるわけじゃないんだけど……
「ところでだ、確実なものにするための策、と言っていたがそれはなんだ?」
「え、あぁ、そうそう! 二人に、と言うか校長と相澤先生に伝えたいことっていうのがそれに関係するのよね」
場の空気に流されてすっかり話すタイミングを見失っていたので相澤先生の発言には感謝しつつ、殻木捕縛作戦を確実なものにするための策を二人に話していく。
内容はなんてこと無い、雄英体育祭のときに騎馬戦で私がやったことをそのまま殻木にも行うというもの、そう、私が二人に伝えてなければならないといった理由はそこにあるの。
「騎馬戦? 確か組んでいたのは尾白と塩崎、それと……そういうことか」
「あぁ、それを実行しようということは彼の協力が絶対だから私達に話を通したいってことだったのか」
相澤先生は実際に現場で見てたし、校長も彼のことだから後日、もしくは当日に録画映像でもなんでもいいから見たからだろう。二人はすぐに私の策に必要な最後のピースに気付く。
気付くと同時に私にお前って感じの視線が突き刺さる。ウン、まぁ、そうよねとしか言えない、だって便利屋で完結するならまだしもまさか学校の生徒を巻き込もうとするなんて普通は考えないもの。
でも必要なのよ彼、【心操人使】が。殻木がどの程度の我の強さがあるか分からない手前、実行して魅了が弾かれましたじゃ笑い話にもならないし……
「確かに確実性を得るならば心操と組むのは合理的だろう。だからって無関係な第三者をそんな危険な作戦に参加させようってのはな」
「勿論、本人を連れて行くわけじゃないわ。仁の個性でコピーした個体にする、それに周りには絶対にバレないように徹底的に変装だってさせるし、事が終わったらすぐにコピー体は消すつもりよ」
当たり前だが、このあたりは徹底する。もしそれで敵連合に心操のことがバレて彼自身、そうじゃなくても家族に危害が向かうようなことはあってはならない、それは学園側だって同じなのは間違いない。
そして、反対されることだって想定内、寧ろ、反対されなかったらそれはそれでどうなのよという話になるし。
「校長としても生徒を巻き込むことは反対したい、君だってそれくらいは理解してるだろ?」
「理解してるわ、けれどその上でそこを何とかならないかしら、私だって好き好んで彼の力を借りたいってわけじゃない。けれど、確実なものとするならば心操の協力が必要不可欠なのよ」
だから彼を便利屋に誘ったのよ、心操が居たら本当に様々なことで仕事が楽になるし
対して校長はうーんと悩む、隣では相澤先生も同じように考える素振りを見せているが彼は意見はするが最後には校長の判断に従うと思う。
暫くの沈黙、内心では駄目かも知れないと思い始めた頃に校長が考えるのを止め、目を開いてから
「バートリーくん、さっきも言ったと思うけど校長としては反対したい」
「まぁ、そうよね」
「けれど敵連合を無視できないのも事実だ。だから約束して欲しい、彼が、心操くんが今回の作戦以降に巻き込まれることは絶対にしないと」
なるほど、交換条件及び露呈は絶対にするなという契約をしたいってことか。校長だって本当は許可を下ろしたくはないのでしょう、だけど言ったように敵連合はもはや無視できる段階でも無くなっているし、そこに技術面などで協力している頭脳部分を押さえられるとすればヒーローとしては頷かなければならない。
これは厳しい判断をさせてしまったようね。えぇ、勿論、その約束はしっかりと守らせてもらうわ、私だって友人をそんなことで無くしたくないもの。
「やれやれ、まさかこんなことになるとはな。だがバートリー、俺と校長が許可を出しても心操が頷かなければ駄目だからな」
「勿論分かってるわ。けど、心操なら絶対に頷いてくれるわ、悩みはするかもだけど」
はっきり言えば、校長と相澤先生から許可を貰えれば勝確だと断言してもいい。だって心操は雄英体育祭の時に言ってくれたもの、友人としてなら力を貸してくれるって。
こんなに早くに頼ることになるとは思ってなかったっていうのはあるけど。って、えっと何かしら相澤先生、凄い顔してるけど
「いや、心操の迂闊さに何とも言えない気持ちになってるだけだ」
「迂闊さって、彼はただ私に友人としてって言っただけだと思うけど」
「HAHAHA、バートリーくんはその辺りの感情には疎い感じなのかな!」
急になんだって言うのよ……と言うか感情云々って麗日みたいなこと言うのね、被身子も同じこと偶に言ってくるし、みんなして何が言いたいのかしらあれって。
「まぁ良いわ、じゃあ今日にでも心操には話すのだけれど、大丈夫よね」
「構わないが、あまり詳細は話すなよ」
「勿論、あとは変装か。被身子達に任せておけば大丈夫よね、あぁそうだ、サポート科に頼みたいものがあるのよ、そっちにも寄っていいかしら?」
「ふむ、ではパワーローダー先生には私から話しておこうか。放課後になるけど良いかい?」
どちらにせよ、心操も放課後じゃないと難しいからと頷く、やれやれ一気にやることが増えちゃったわね。それも今日中に終わらせないと、明日からはまたインゲニウムのところに戻らないとだしって、そうだ。
「相澤先生、インゲニウムは何か言ってたりしたかしら?」
「心配をしてたぞ。それと今日のことも向こうには伝えておく、明日から終わりまでは大人しくしてろ」
「うぐっ、そうよね。そう言えば、ダメージの完治ってどの程度なのかしらね」
治りきってないとは言われたがそこら辺は聞いてなかったわねと部屋から出て聞いてみれば、大体一週間は安静にしろと言われた。一週間、少し前なら3日もあればだったのに、思った以上に身体にガタが出てるらしいわね……
こうして話し合いも終わり、とりあえず放課後までは保健室でリカバリーガールからのありがたいお説教及び心配の言葉を貰い、彼女の手伝いをしてから時間になり、相澤先生との特訓をしていた心操にその事を可能な限り詳細を暈しながら伝えてから。
「ってことなのよ、まぁ実際に向かうのは貴方自身じゃなくて貴方のコピー体だけど」
「だが心操、バートリーも言ったように
「……俺の力が必要なんだよな、バートリー」
真っ直ぐとした視線で心操が問いかける。それに対して私も視線を返しながらしっかりと頷けば、そっかと彼は目を閉じて顔を少しだけ下に動かし、それから直ぐに上げたと思えば。
「協力する。確かに危ないかもしれないけど、ヒーローになったらしょっちゅうだろうし」
「感謝するわ、心操。じゃあ、決行日の前日に連絡するからそのつもりで」
「はぁ、頼むぞバートリー」
その後にサポート科にも話を通し、道具を注文すればノリノリになってた発目によって即日で開発され品が送られてきたり、翌日以降はインゲニウムに頭を下げれば
「気にしなくても大丈夫だよ。それよりもバートリーくんの方は大丈夫かい? 聞いた話だとまだ傷が癒えてないらしいけど」
「えぇ、まぁ、それなりにって所よ。暫くは戦闘は厳禁って言われちゃったけど」
「そうか、なら残りに日数は事務作業を中心に体験してもらうか」
この事務作業だが、慣れると結構楽しかったし便利屋でも使えそうな部分も大いにあって、もしかして事務作業を始めから希望してたほうが良かったんじゃないかと思ってしまうほどだった。
あぁ、そうだ。クラスメイトからも心配のメッセージや連絡をもらったわね、特に現場に居た轟、飯田、緑谷の三人からは実は昨日の内には来て、全員に大丈夫だとは返したけど。
そして職場体験の最終日も無事に終え、インゲニウムにお世話になりましたとお礼を言ったその日の夜、遂にそれは訪れた。
《やぁ、お嬢様。裏取りは完了、そして公安から便利屋チェイテへ、依頼を受けて欲しいだってさ》
かなり話を圧縮してしまった感、でもそうしないと話数が膨大になっちゃうからね、仕方ないね。
わりぃ、やっぱ詰めすぎたわ……(ノクト並感