「こ、れは……」
殻木を魅了で引き込み、奴の研究所に踏み込んだ私達が見た光景に仁が声を震わせて言葉を吐き出す。圧紘も自身の想定を超えた物をお出しされ彼にしては珍しい表情で研究所内を見渡している。
対して私は正直に言えば感情が何一つ波立たないでいた。ただこれは怒りを感じないとかそういうのではない、寧ろ感じすぎて一周回って冷静になってしまったという感じでしょうね。
「このカプセル、中身全部に脳無が入ってるってことか」
「見た感じそうでしょうね。ホークス、今から映像共有するから確認して」
《ちょい待ってて、うん、確認したよ。そのまま研究所内を捜索して》
研究所内を進みながら私は眼鏡の智の部分を軽く擦る、こうすることで離れた場所で監視しているホークスが所持している映像出力装置に眼鏡越しの私の視界が映されるようになっている。
この眼鏡がサポート科に頼んでおいた品物の一つ、流石にプロヒーローのホークス達を殻木を引き込んだ後でも病院に踏み込ませるのは出来ないしやらせたくなかったので眼鏡にカメラを仕込んだものを作ってもらったという話だ。
こうすれば態々彼らが来なくても向こうは確認できるってこと。因みにだけど私の髪が黒色に変わってるのは前髪を留めている髪留めの機能よ、これは実際に変えてるわけじゃなく光学迷彩の技術を応用して髪の表面をその色に見せかけているとからしい。
まぁようは色が変わってるってだけで認識でいいわよね。こんな良いものを便利屋にくれるなんて本当にサポート科とパイプが出来た良かったわって今はその話は置いておきましょう。
「殻木、現状で脳無の製造状況と稼働率は?」
「現状じゃと製造中が多数、稼働できるのはテストしてないのも含めれば数十体と言ったところじゃな」
「数十……!? 一体どのくらい前から作ってたんだよ!」
《こりゃ、お嬢様が答えを見つけてくれなかったら大変なことになってたね本当に》
想定以上の言葉に流石の私も言葉を失う。精々まだ数体、多くてもその程度だと思っていたら蓋を開けてみれば量産体制が整ってたとか洒落にもならない、保須市の一件がなかったらと思うとゾッとするわね。
けれど分かったのなら手の打ちようがある、大半の脳無は調整中だとするならこれ自体に仕込みが入れることが出来るはず。
「どうする所長、脳無の製造を止めるっていうのも選択肢にはあると思うけど」
「いえ、ホークス聴こえるわね」
《なんだか猛烈に嫌な予感がするんだけど、どうぞ》
嫌な予感って何よと思いながら私は考えを口にする。本来であれば、このままコピー体の殻木にここを任せ本体はタルタロスにでもぶち込んで一生過ごしてろとでも思ってた。
けれど、コピー体は今の仁が本気で作っても致命傷を受ければ消えてしまう、AFOが彼をそうする理由がないと思うので大丈夫だとは思いたいが万が一があるし、そうなった場合のAFOの行動が読み切れないので避けたい。
なので本体である彼を此処に置いていき、彼には地下研究所で仕込み及び内通者として働いてもらい、表をコピー体に任せることで周囲にバレないように配慮するというものだ。
「殻木にはひたすら此処で私達が有利になるように動いてもらう。とりあえずはAFOを捕縛ないし消すまではそうしてもらうわ」
《下手に研究を止めるよりはバレない、か。でも脳無はどうするんだい?」
「仕込みを入れるわ。殻木、私の肉声を登録して特定のキーワードでこちらの手駒に即座に切り替えることは可能よね」
「勿論可能だとも。ただこの数じゃと、少し時間がかかるがの」
出来るならどうでもいいわ、ともかくこれでAFOの目も誤魔化せる筈だし時が来れば一気に相手側を不利にだって出来るようになるのは大きい。
とりあえず、後はこの研究所で何をやってたか、それと相手の戦力や今後の計画とかのデータと資料をかき集めるなりしないと、ん? 何かしら圧紘。
「所長、この棚にあるやつ見てもらえる?」
彼が調べていた箇所に向かってみれば巨大とも言える棚にズラッと並んだ小瓶と言えるサイズの培養槽、このサイズだと培養槽とは言えないかもしれないけどまぁそれに近いものだと思って頂戴。
近づいてみてみれば一つ一つにラベルが貼られており、そこに書かれているのは〝個性〟の様に見えるけど……? まさか、これって!?
「む? おぉ、それは全て培養し複製した〝個性〟因子じゃよ」
《〝個性〟を培養、複製だって!?》
サラッと言われたそれに何度目か分からない共学の表情を晒すことになる私達、まさか此処まで天才が敵連合に、彼の場合はAFOに協力してるとは思わなかったわ。
もし、それをもっと人の道に使えたら救えるものも多かったでしょうに……それにしても〝個性〟の複製っていうのはまた何かに使えそうだし、これを封じ込めたのは大きいわね。
「ホークス、これってAFOを捕らえるよりも凄いことしてないかしら私って」
《あ、あはは、確かにそうかも》
「でも公安はAFOの捕縛が条件だって曲げないんだよな」
「そこは仕方ないんじゃないかな。それよりも所長、これはどうする?」
どうするって言われてもね。全部運び出すなんて真似はできないからこのまま置いておくしか無いんじゃない? それよりも殻木から敵連合に付いて聴いておきましょう。
主にAFO、死柄木、黒霧、赤霧辺りかしら。他にも話せることは全部、吐きなさい隠し事を私にしないわよね?
「AFOはすまぬ、ワシも詳しくは分からぬのが本音じゃ。どうにも、学会に追放後に手を差し伸べられたことで盲信してしまったようでな、支援されるがままこの様に研究を続けていたに過ぎぬ」
学会に追放後? 気になるけど後で調べれば分かることだろうし置いておこう。更に聞けばオールマイトに敗北後の彼の治療も行っているらしく、今のAFOは生命維持装置が無ければ生きることすら出来ない状態らしい。
寧ろその状態でも暗躍しようってのが恐ろしい話ね。いや、執念とでも言えば良いのかしら、オールマイトもとんでもない奴に恨まれてるものね。
「死柄木はAFOが後継者として拾ってきた子供じゃったかな。そして黒霧はこの資料に詳しく書かれておる、読んでもらったほうが早いじゃろう」
どうやらデータの吸い出しに集中したいらしい彼の言い分に軽く舌打ちをしそうになるのを堪え、渡された資料に目を通していく、勿論ホークスも画面越しに読んでいるだろうからゆっくりとだが。
書かれていた内容は私としては想定内とも言える内容、黒霧も他の脳無同様にとある一人の遺体をベースに作られたのだが、これはそこらの脳無ではなく分類的にはハイエンドと呼ばれる存在らしい、また彼の他にもハイエンドモデルはこの研究所に居るらしい事が判明、私は即座に殻木に対して指示を飛ばすことに。
「殻木、ハイエンドモデルについてはAFOには上手いこと話して動かさないように、出来るなら仕込みを入れた状態で性能をそこらの脳無と同等に落としておいて」
「うむ、その様に進めておこう。して、あとは赤霧じゃったか、まず初めに言っておくがあれは脳無ではない」
《脳無じゃない? じゃあ何だって言うんだい?》
話からハイエンドモデルかと推測してたがどうやら違うらしい、また資料でも出してくるかとも思ったが赤霧は纏めていないらしくデータ吸い出しが切りの良いところまで進んだ所で殻木が私達の方を向いて話を始める。
「あやつは遺体を利用したのではなく遺体、正確には本当に辛うじて生きていた彼女を蘇生させ改造し生み出された存在じゃよ」
「反吐しか出ない話ね。って、あの時にあの人は死んでなかったってことなの?」
今でも覚えているあの光景、間違いなく殺したと思っていたことが土台からひっくり返された感覚を覚えながら問いかければ、ふむと殻木は私を見て何かを考える仕草を見せてから
「その様子じゃと、記憶が欠落しているということか。ともすれば、自身が何者かすらも覚えていないという認識で良いかな?」
「は?」
「どういう事だ、殻木。お嬢が何だってんだ」
場の空気が一気に変わる。私としても彼が何を言ってるのかが理解できない、出来ないが私は何か物凄い思い違いをしていたのではないかと脳裏に浮かび始めた。
記憶は確かにある、その時の感覚だってある、だけど何かが違うと、でもその何かが分からずに苛立ちながら殻木の話を聞いて目を見開くことになった。
「赤霧の正体が【エルジェーベト・バートリー】だというのは君も分かっているだろ?」
「お母さん、よ。二歳の時、私に〝個性〟が発現したと同時に吸血衝動で血を吸い、殺したと思ってた」
「ふむ、どうやら覚えてないのではなく混線していると言うのが正しいか。レイミィ・バートリー、君を正確に言うのならば彼女の遺伝子を元に人間としての自分として生み出された存在じゃよ」
何を言っているの? 思わずそう告げてしまったが私は悪くないだろう、その言い方じゃお母さんが人間じゃないみたいじゃない、そもそも何だって人間としての自分を生み出すってのも訳が分からない。
「彼女は言っておったよ、自分はもう疲れたと、だからこそ死ぬための存在を生み出してくれと」
「待ってくれ殻木、それじゃなんだい? 所長は母親を殺すために生み出されたって言いたいのかい?」
曰く完全な【吸血姫】として永い年月を生きてきたエルジェーベトは一時期はプロヒーローもしていたようで、その最中で現実に疲れ、だが吸血姫としての力が自殺すらも出来ないほどに強力だった。
だから唯一の方法として吸血姫を持つ存在に血を吸わせることで力を譲渡し、その後に死ぬために、AFOと殻木の下に降り私を生み出したのだと。そして培養槽で作られた私は出されたと同時に個性を発現、吸血衝動で彼女の目論見通りに殺しに掛かったのだと。
けれどここでイレギュラーが起きた。血を吸った私は本来であれば自我も何も無い獣だったはずだったというのに吸血によって僅かな〝化け物〟としての力と〝人間性〟を得てしまい吸血姫の譲渡も中途半端に錯乱し逃亡、結果残されたのは僅かな〝人間性〟と〝化け物〟としての吸血姫を残したまま瀕死になった彼女だけ。
「AFOの狙いとしては子どもの方だったようじゃが、捜索も当時はままならない状態だったのでな。瀕死の彼女を利用、そして出来たのが【赤霧】というわけじゃ」
「んだよ、それ……」
「そ、そんな訳無いわ、だってあの人と二歳まで過ごしてた記憶があるのよ!?」
感情のまま言葉を殻木にぶつける。この記憶が嘘じゃないと言う叫びに対して殻木は怯む様子もなく、寧ろ子供に優しく勉強でも教えるかのような声で私の記憶についても淡々と話した。
「恐らくはその記憶は【エルジェーベト・バートリー】の二歳の頃までの記憶、そこに君が彼女を吸血衝動で殺したと思い込んだ事実が合わさったのじゃろう」
「……これが、私じゃなくてあの人の? 嘘よ、だって、え?」
「所長! 流石に無理もない、か」
「大丈夫か、お嬢、しっかりしてくれ」
何もかもが崩された感覚に体から力が抜けて倒れそうになった私を圧紘が支え、仁が心配そうな声で私の手を取る。所長として情けないところを見せてしまったがお陰で我に返ることが出来てお礼を言いながら身体を戻し息を整えながら整理を始める。
衝撃しかなかった。けれど頭の何処かで、いや、心の中で納得してしまった部分もあったりする、何故と言われてもわからないけど。
「すまぬ、もう少し前置きをするべきじゃったな」
「黙ってて、まぁ良いわ、結局は敵になったのは確かだもの。やること自体は何も変わらないわ」
《殻木に俺からも一つ良いかな。エルジェーベト・バートリーはプロヒーロー【スカーレットデビル】で間違いない?》
スカーレットデビル? それって私が学校でヒーロー名を決める時に書こうかなって一瞬だけ悩んだやつよねって、あぁそうか、あの人の記憶も混ざってるんだからそこから出てきてたのかこれ……
ホークスからの質問をそのまま殻木に投げればその通りだと答える。にしてもそんな事を聴いてどうするのかしら、だってヒーロー名が分かった所で意味ないでしょ、ていうか。
「知ってたのね。あの人がプロヒーローだったってこと」
《まぁあの時は君が本当に彼女の娘なのかすら信じきれてなかったから黙ってたし、その後も話す余裕がなかったんだよ》
彼の口ぶりから察するに随分と有名なプロヒーローだったのかもしれないわね。だとすればそんな人物の娘だと周囲に知られるのは良くないという公安の判断と見るべきかしら。
私に教えなかったのは漏れるのを防ぐためでしょ。いいわ、この話は一旦此処で打ち切っておきましょう、今大事なのは敵連合の戦力よ、他にも誰か居るのかと聴いてみれば。
「切り札と言う存在が居る。名を【ギガントマキア】、現在は潜伏しているAFOが最も信頼している側近の一人じゃよ」
曰く【耐久】【巨大化】【痛覚遮断】【エネルギー効率】【剛筋】【犬】【土竜】と〝個性〟を複数所持している〝人間〟とのこと。
いいかしら、人間ってのは山のように巨体になったり〝個性〟を複数改造なしで所持したりしないのよと言いたかったがAFOが切り札というのならば事実なのだろう、目眩がしてくる。
《潜伏場所は聞ける?》
「そのギガントマキアって今は何処に居るのか分かる?」
「正確な居場所はワシも把握しておらんが大体の活動地域は分かる。後で吸い出したデータとともに提出しよう」
どうやらそいつはAFOの命令で動いているらしく殻木にも詳しいことは伝わっていないらしい。そこら辺は随分としっかりしていることに流石だわと言いたくなる。
これで大体は聞き出せた。まだ足りない部分も彼への暗号通信で聞き出せるだろうし、向こうからの資料で解き明かせるだろうということで私達はホークスの提言で離脱を決定、まぁ長々としてそれでAFOにバレましたは洒落にならないもの。
「それじゃ、私達は一旦この場を去るわ。分かってるわね、殻木」
「今後はお主に動きがある都度連絡を入れよう、っとそうじゃ、一つ忘れておったわ」
「手短にお願い、これ以上の長居はしてたくないのよ」
苛立っているのが分かったのだろう殻木は謝りながら忘れていたという情報を私に話す。その内容は出来れば聞きたくなかったというのが本音なのでホークスにもお裾分けしてあげれば向こうも頭を抱えるような声で。
《嘘だろ、内ゲバでも始まってるのかいここ?》
「私が聞きたいわよ。まさか……」
死柄木、黒霧、赤霧と保須市襲撃以降、連絡が取れていなくて現状不明ってなってるなんて。
殻木をこの時点で無力化し内通者にしたことで
ホークスのスパイフラグが消失
ミルコの義手義足フラグ消失
ハイエンドの出現フラグ消失などなどetcが起こってるんですよね。