「はぁ……」
自分が実は作られた存在で、その目的が大元が自殺するためでした。なんてことを聞かされた場合、どういう感情を持てば良いのかしら。
その後、殻木の研究所から圧紘の個性で私と仁を圧縮、彼自身は変身中の被身子に案内される形で病院を堂々と出ていきホークスと事前に決めていた地点に到着で合流。
今は血染と火伊那、それと被身子がここに来るのを待っている場面、まぁ時間が出来たからこそ私はさっきのことを考えてるんだけど。
「なんだか凄い話が出てきちゃったね、お嬢様」
「……えぇ、そうね」
病院の方角を眺め考えに耽っていた私にホークスがそう声を掛けてくる。ただ殻木の悪行を暴いて彼を内通者という名の傀儡にするってだけだったはずなのにまさか自分の出生の秘密が掘り出されるなんて思いもよらなかったわよ。
しかも実はAFOとも繋がりがありましたとなれば流石の私もちょっと堪えるわよ。てか、プロヒーローやってた人間が現実に疲れたとか宣って自殺するための存在を作りましたって言われて堪えないほうがどうかしてるまである。
「ねぇ、ホークス。お母さん、お母さんで良いのかなぁ。まぁいいわ、彼女ってどんなヒーローだったの」
「どんな、か。俺も人伝程度なんだけど、基本的なヒーローだったってのは聞いてるかな、でも実力は確かでこのまま行けばビルボードチャートの上位、いや、トップスリーに行けるまで言われてたかな」
基本的なヒーローってことは善人ではあったってことでいいのかしら。だとすれば、そんな人が現実に疲れたって言葉にするほどの何かがあったってこと? そもそもホークスが人伝だって言うことはあの人ってどのくらい前のヒーローなのよ……
うーん、危ないけど緑谷に聞いたら出てくるかしら。あ、でもグラントリノのことを知らなかったから、あまり古いと分からないか。
「駄目ね、考えようにも情報があまりに足りないわ」
「こっちでも彼女について調べてみようか? それなり以上には情報が集まると思うけど」
「頼める? まぁ集めた所で赤霧になってる彼女に当てはまるかは微妙だけど」
とは言いつつも、内心では意味が全く無いということはないだろうと思っている。何より、〝あの人〟を知れれば、〝理解〟が深まれば同じ存在の私が何か気付ける、或いは推測が容易くなるかもしれない。
「お嬢、被身子達が帰ってきたぞ」
「只今戻りましたって、レイミィちゃん、なんだか顔色良くないですよ?」
「こりゃ、ただ地下で殻木を捕縛しましたってだけじゃねぇな」
「詳しい話は後だ、直ぐに此処から移動する。見られでもしたら厄介だ」
「えぇ、血染の言う通りだわ。今、圧紘が車をここに持ってきてるはずだから、到着し次第、乗り込んで帰るわよ」
「お、丁度いいタイミングだったかな。車、回してあるよ」
よし、直ぐにでも行動を開始するわよ。一応でホークスとの合流地点は病院から距離を離した場所にしてるとは言え、
っとと、その前にホークスに地下研究所から出る前に殻木から渡されたUSBメモリを手渡しておく、内容は言うまでもないだろう。
「それと紙媒体のヤツね。ただこっちは読み終えたら燃やすなりするのをオススメするわ。間違っても残さないでね」
「分かってますよお嬢様。それじゃ、一旦別れよう、気を付けて」
手短に別れを告げてからホークスは足早にこの場を去っていく。あっ、彼は勿論変装してるわよ? 寧ろ、あそこまで徹底されると言われるまで気づかないレベルなのは流石は公安ってところかしら。
「じゃ、各員、車に乗り込んで頂戴、私達も直ぐに出るから」
「圧紘、帰りは俺が運転する。後部座席で休んでろ」
「助かるよ、ちょっと色々地下研究所はありすぎて、疲れてるんだ」
「アレは仕方ねぇって。つか、お嬢も休んだ方が良いだろ」
「な、何を見たんですか本当に……」
「この三人が言うってことは余程だろうな。OK、監視も周りに人影も無い、今なら出れるぞ」
血染が運転席、火伊那が助手席で周囲を警戒する形を取り、私を含めた残りが後部座席に座った所で車を走らせる。暫くは追手などを警戒していくが高速に乗り、少し走らせたタイミングで確認できないと判断し息を吐き出す。
いつものことだけど、この瞬間が一番緊張するわ。ここで追手がありましたとかになると一気に緊張感が高まって依頼が終わったってのに疲れることになるし、今回はAFOの関与してる人間を潰したもんだから何が出てくるか分からなかったもの。
「追手確認できず。ふぅ、とりあえずは一安心ってことでいいかな」
「派手に動かずに殻木も表面上は問題が起きてない。向こうも流石に察知しようがないだろうからな」
「あ~、それでレイミィちゃん。地下研究所で何があったんですか? 皆して疲れた顔してるとなると、普通じゃないと思うんですけど」
物凄く遠慮気味に被身子が聞いてきたけど、これは便利屋に共有する情報だから堂々と聴いていいのよ? という事で殻木とともに地下研究所で見たもの聴いたものを事細かに話していくことに。
勿論、彼の研究成果のことも、何より私と赤霧の本当の関係のことも。それに強い反応を見せたのは被身子だった、今にも泣きそうな顔で私を抱きしめてから
「こんなの、酷い話じゃないですか!! レイミィちゃんが一体どんな気持ちでずっとあの件を後悔してたか知らないんですかその人は!!」
「自分が死ぬために自身のクローンを作る。流石の俺も言葉が見つからん、いや、強いて言わせれば狂ってるとしか言えん」
「その上、結局死にきれずに利用されてるってのは笑えもしない。いや、確か今は連絡が取れないんだっけかって離してやれ被身子、嬢ちゃんが窒息死しそうだ」
プハッ……た、助かったわ火伊那、全く被身子は感受性が高すぎるのよ。まぁその気持ちは嬉しいんだけど、と思いながら火伊那の質問に答えておく。
殻木からあの後もう少し詳しく聞けたが、死柄木からの最後の連絡は〝必要になったら連絡する〟と言う内容。これだけで考えれば目的のために動くけど指図は受けないって感じに聞こえる。
だけど消息不明まで付け足されると意味が変わる。死柄木は明らかに何か目的があって動いていて、その為に敵連合を利用してるんじゃないかと。
「もし赤霧が指示だけを聞く脳無みたいな存在なら死柄木の勝手は許さないはず、AFOがその辺りを抜かるとは思えないし殻木の話だと最終調整後はかなりはっきりと自我が出てたらしいから」
「ってことはほぼ生前と変わらない思考って考えるべきか。死にたがりが何で協力してるんだって話になるが」
「まさかレイミィちゃんに殺されるために協力してるとか言いませんよねそいつ!!」
その可能性は大いにある。あるのだけれど、その割には本気で殺しにも来てるからよく分からないが本音でもあるのよね、つまりは今の段階じゃ何も分からないってことになるんだけど。
はぁ、もう良いわ。なんだか眠くなってきちゃったし、悪いけど私は少し寝るから着いたら起こしてと告げてから目を瞑れば直ぐにでも意識は闇に落ちていった。
「やっぱり思ったよりも疲れてたみたいだね所長」
「だろうな、流石のコイツもそんな事実を叩きつけられれば精神的にもキツイだろ」
「レイミィちゃん……」
「平気だ被身子、お嬢はこれで折れたりはしないって」
「折れたりはしないって断言できちまうのが怖い嬢ちゃんだな。私だってそんな真相があったら数日寝込むぞ」
みたいな会話があったようだけど。まぁこれは後に被身子が語ったことであって今の私が知りようがないことなのでそれ以上は割愛しておこう。
正直に言うと途中で目が覚めると思ってたけど、そんなこともなく事務所に到着するまで起きること無く、その日は軽い夕食で終わらせてから22時を回った頃、私は所員には黙って一人で数件のコンビニを巡った後、上空から事務所ビルの屋上に着地。
このビルの屋上は基本的に施錠されてはいるけど、偶に息抜きにここに来ることもあるのでベンチとかも設置されていたり、洗濯物を干すスペースがあったりする程度には出入りも利用も自由な場所。
そのベンチに座ってから、月を見上げ息を一つ吐き、ガサガサとコンビニ袋を漁って買ってきた餡饅を一つ取り出し齧る。
(うん、久し振りだけどやっぱり美味しいわね)
出来立てを買ったけど飛んでる時間が長かった影響で若干冷めたそれ、けれど味はしっかりしてるし庵の程よい甘さもあって得には気にならない。さて、私が何でここで餡饅を、しかも秘密にするように買い出しに行きここで食べてるかと言えば、今日の件で考え事をしたくなったからだ。
私はエルジェーベト・バートリーが自殺するために作られた彼女のクローンに近い存在。まっ更な人間としての私に【吸血姫】を埋め込み、彼女を殺そうとするが大半の〝人間性〟と僅かな〝化物〟を得た所で錯乱し逃げ出した存在。
今の今までお母さんとの記憶だと思ってたこれは実はエルジェーベトの二歳までのものであり、吸血の場面以外に自分のものはなし、そう、無いのよね、何も……って?
「麗日? もしもし、どうしたのよこんな時間に」
一応で持っていたプライベート用のスマホがバイブしたと思えば画面に写ってたのは麗日からの着信、もう22時だってのにどうしたのだろうかと出てみれば返ってきたのは至極真っ当な言葉だった。
《あ、レイミィちゃん。どうしたっていうか、今日ほら学校休んだから大丈夫かな思って》
「そういうことね。相澤先生、話さなかったの?」
別段、依頼内容を言わなければ休んだ理由は話していいと言ったはずなのだけれどと思いつつ聴いてみたが、どうやら便利屋の依頼で休むということは伝わっていたらしい。
その上で彼女は、正確にはクラスメイトが心配したらしく代表してとのことらしい。何ともヒーロー科らしい理由に苦笑してしまうが、悪い気はしない。
「別に滞り無く終わらせてきたわよ。そもそも体を張るような依頼でもなかったからね」
《そうなん? なら良かった、保須市の事もあったから何かあったんじゃってデクくんたちも不安がってたんよ》
麗日、段々と喋る方に素というか訛りが出てきてる気がするんだけど指摘しないでいいか。あと、保須市の事はそんなぽんぽん話しちゃ駄目だと思うんだけど私、全く緑谷の口の軽さはちょっとどうにかするべきじゃないかしらね。
でも轟と飯田も止めなかったってことは口に出しても問題ない程度には留めてるのかしらね。なら、話したのは私が血染に運ばれてたって場面と見るべきか、余計なことを。
「あの子達から何を聞いたかは大体想像付くけど、大丈夫よ。ていうかリカバリーガールに釘刺されてるのに無茶はしないって」
《え、リカバリーガールから釘を刺されるほどなん!?》
おっと、これは藪蛇だったかもしれない。いや、どちらにせよそのうちバレることだろうから、それが早まったってだけにしておこう。
それに釘を刺されて安静にしてろってのも一応の経過観察みたいなものだしと少しだけ嘘を混ぜながら説明すれば麗日は納得した感じに息を吐き出したのが分かる音がスマホ越しに聞こえた。
何と言うか、私ってことあることにクラスメイトに心配をかけている気がするのよね。
《レイミィちゃん、その、私の気の所為だったらゴメンなんだけどさ》
「何かしら急に畏まっちゃって」
《えっと、レイミィちゃん、今日なにかあったん? なんだか声が疲れてると言うか、覇気がない? そんな感じするんやけど》
どうやら私自身が自覚できない程度には今日の件は尾を引いてるらしいと彼女の言葉で自覚することになった。麗日の指摘が正しいかどうかと言われれば、頷くしか無いだろう、それは被身子にも夕食の時に言われている。
やっぱり、ショックなのは違いない。信じてたものが土台から崩されるというのはそれだけの精神的なダメージが出てきてしまうものなのだから。
《あ~、えと、ごめん、変なことを……》
「別に良いわよ。そうね、うん、少しだけあったわ」
別に今までのように誤魔化しても良かったはず、なのに口から出た言葉はそうじゃなくて肯定だった。多分、少しでも良いから吐き出したかったのかもしれない、そんな言葉に込められた感情を麗日は拾ったのかもしれない、彼女は優しい声で。
《そっか、ごめん、あまり聞かれたくなかったよね》
「仕事のことだから話せないってだけよ。あむ」
《あむ? え、何食べてるんこの時間に!?》
餡饅、何と言うか空気に耐えきれなくなって袋から2つ目を取り出して食べたのだけれど、これが麗日にはクリティカルヒットしてしまったらしい。もしかして節約のために食べてないとか言わないわよね?
《うぐっ、い、いや、今日は偶々そんな気分だったってだけだから》
「はぁ、困ってるならウチに電話しなさい。食事を振る舞うことくらいはしてあげるわよ」
《うわすっごい魅力的な話!》
もう一押しで堕ちそうねと、押さないけど。どうやら考えに考えたが本当にやばくなったらという話で彼女は結論付けたようで、かなり後ろ髪を引かれてる感じの声でそれを告げてから。
《それじゃ、明日は学校来るんだよね?》
「行くわよ、流石に2日連続は相澤先生に何言われるかわからないし」
《あはは、確かに。じゃ、明日ねレイミィちゃん》
「えぇ、おやすみなさい麗日……ふぅ」
3つ目の餡饅を齧り、ペットボトルタイプのコーヒーを飲んでから月を眺めようかというタイミングでガチャリと扉が開き振り向けば被身子の姿。彼女は私を見るや、両手を腰に当て悪い子ですと言わんばかりの表情で近寄ってから。
「夜更かしレイミィちゃんです、もう23時になりますよ?」
「みたいね」
「……隣、座ります。あと餡饅貰います!」
返事を聞く前に持っていかれたんだけど? まぁ良いわ、食べるなら少し私に付き合いなさいな。
なんと次回も夜会話です。いや、絶対に1ページ持たんがお前?