便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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基本的に折れたりはしない系主人公(折れれない)


No.88『心が強ぇ吸血姫なのか?』

 何と言うか、私は被身子を思ったよりも親友として心を許しているのかもしれない。そりゃ、血染も付き合いの長さ的にはそうなんだけど、それとは違う年が近くて同性だからこその信頼ってやつ。

 

「今日の件でさ、私ちょっと分からなくなっちゃったのよ」

 

「レイミィちゃん、主語って大事だと思うんですよ。トガは今日だけで分からないことだらけなんですよ?」

 

「フフッ、貴方は何時だって分からないことだらけじゃないかしら」

 

 だからこそ気落ちしてたのにこんな軽口を彼女に向けられるんだと思う。被身子以外だったら絶対に意地を張ってこんな事を口にはしないだろうし。

 

 それは向こうも分かってるから私のこのセリフにブーブーと態とらしいブーイングを飛ばしてから、ニッコリと笑みを浮かべ、そうですねと一言告げ、今度は真面目な表情で空を見上げて答えを当てる。

 

「記憶も何もかもが自分のじゃなかったってこと、ですか?」

 

「当たり、実は空っぽだった。なんてことに近い事実を突きつけられて分かんなくなっちゃった、私ってなんだろうって」

 

 弱音、被身子にだから見せてしまった感情の吐露に彼女はむぅと怒ってますという態度を見せてきて困惑することになる。

 

 何か癪に障るようなこと言ったかしら私とつい口にしてしまえば次は両手で頬をグニグニと揉まれた、訳が分からない……

 

「なぁにが空っぽですか」

 

「だって、そうじゃいひゃい」

 

「レイミィちゃんが便利屋を開くまでに苦労した日々は?」

 

 頬を引っ張りながら被身子は告げ、その言葉に私は目を見開く。盲点と言うべきなのかしら、それとも灯台下暗しの方があってるだろうか、ともかく私は大事なことを見落としていたらしいと気付かされる。

 

「便利屋を開いてから、私と親友になってあれこれ苦労した日々は? 雄英高校に入学してからクラスメイトさんたちと過ごした日々は? これも全部レイミィちゃんのじゃないっていうんですか怒りますよ」

 

「もう怒ってるじゃないの」

 

「えぇ、だってそうじゃないって真正面から言われたようなもんですから怒りますよ。私はずっっっとレイミィちゃんの大親友だと思ってたのに裏切られたんですもん」

 

 そう、そうよね。今の私ってかなり酷いことしか言ってない、そりゃ被身子も怒るわけだわ。私がこれを言われたら怒るだけじゃ済まさない、間違いなく。そう思えば被身子はかなり優しいわね本当に。

 

 それと、うん、ごめんなさい。なんだか一気に色んな事実が発覚したせいで弱気になりすぎてたみたいだわ。

 

「分からなくもないですけどね。トガもあんなんだったとは言え親が実はなんてなったらショックは少しは受けちゃうと思いますし」

 

「貴方にも親に対する情ってのが少しはあることに嬉しさを覚えるわ」

 

 結構真面目な話をしてるんですよね今? あぁ、はい、良いじゃないのちょっと空気を軽くしようとしたって。まぁ悪いのは私だから話の軌道を戻しましょうか、って言ってももう解決しちゃったも同然なんだけど。

 

 あぁでも他にも考えたいことは沢山あるわね。赤霧の現在の目的と言うか帰りに火伊那も言ってたけど死にたがってたはずなのに死柄木と協力してる理由がわからない。

 

 自我が戻って思考も当時のままなら死柄木にでも頼めばあの個性で直ぐにでも死ねそうだっていうのに、それを選択しない理由があるはずなのだけれど。

 

「そこら辺は生前と微妙に違うとかがあるんじゃないんですか? それかやったけど死ねないからやっぱりレイミィちゃんを利用してるか……?」

 

「流石に〝崩壊〟でも死ねないはないと思うけどね。私に殺されるために動いてるっていうのも帰りにあり得るとは言ったけど、それにしては彼の目的のために動いてて殺されるつもりはない感じなのが引っかかるのよね」

 

 とりあえず思考を頭の中から出すために全部吐き出してから餡饅を食べる。自分で言っといてどうにも違う気しかしない、うーん、何かが引っかかるのよね。

 

「何かってこれまた漠然としてます。でもヒーローをしてたってことはそれなり以上に人は良かったというか、レイミィちゃんみたいに誰かを見捨てたりは出来ない人だったんですよね多分」

 

「多分」

 

 〝あの人〟に吸血をした際に吸収した〝人間性〟という部分が今の私だから被身子の推測は間違ってはないと思う。そんな彼女が現実に疲れたと言葉にして自殺するためにAFOを頼るくらいに精神的に追い込まれる程の何かがあって……

 

 ふと思考がエンジンが掛かったかのように回り始め、脳内で様々な情報が入り混じり私の中で答えへの道筋が微かに見え始めた。

 

「レイミィちゃん?」

 

 誰かを救えなかった? いえ、〝あの人〟は私のように人間性だけじゃなくて〝化物〟としての一面もあるのだから割り切れるはず。じゃあ、割り切れない事態っていうのは?

 

 〝あの人〟と私は同じ存在、その精神性も、性格も、思考も、今日までの過ごし方で変化はしてるかもしれないけど大筋は同じ様に考えられるはず、なら考えろ。〝私〟が仮にヒーローをしてて、そうなる状況を。

 

(殻木は確か永い年月をって言ってた。吸血姫なんて端から見たら化物のような〝個性〟なのは言うまでもない、化物……これを守るべき存在の一般人から言われたら?)

 

 例えばそう、ヒーローとして長い時間活動し認められて化け物と恐れられなくてもいいんだと思った矢先に何かしらのトラブルがあって、八つ当たり気味にそれを言われたとしたら?

 

「現実に疲れた、それってそういう意味?」

 

「もしもーし、一人で納得しないでくださいレイミィちゃん、トガは悲しいですよ」

 

 ヨヨヨと泣き崩れる演技をし始める被身子にごめんごめんと謝ってから今さっき思いついた考えを伝えてみる。それを聞いた被身子はむーんと唸ってから、でも〝化物〟としての部分もあるならとこう返答してきた。

 

「寧ろ吹っ切れて単純に(ヴィラン)墜ちしそうですけど」

 

「それが出来ないくらいには善性があったとしたら? まぁそれでどうしてAFOに辿り着いたのかとかの謎が出るから憶測の域を脱しないわけだけど」

 

「つまり、守ってたはずの市民から化物呼ばわりされちゃったエルジェーベトさんは、心が折れて自殺しようって思っちゃったってことですか」

 

「恐らくは。で、ここからが本題、じゃあどうして今は死柄木と協力してるのかってなるんだけど、もしかしたら私と似たようなことをしようとしてるのかもしれない」

 

 似たようなことを? オウム返しで聞いてきた被身子、そうね、もっと正確に言えば〝便利屋チェイテ〟の経営理念って言ったほうが伝わるかもしれない。

 

「白と黒しかない今の社会に灰色と言う大きな楔を打ち込んで世界を変える。でも変えるつもりなら死柄木と組むのは違うんじゃないんです?」

 

「言ったでしょ、似たようなことだって。赤霧は僅かな人間性以外は全部が〝化物〟の彼女、なら楔なんて生温いことは言わない、やるなら徹底的によ」

 

「……まさか、黒も白も壊すつもりってことです?」

 

 頷いておくけど、結局はこれも私自身の憶測に過ぎない。でも、そんな気がする、それなら死にたがりのくせに向こうに協力してる理由にもなるし、現状で敵連合が死柄木たちと連絡が取れない理由にも繋がる。

 

「でもそれって、第四勢力って話になってません? 敵連合、ヒーロー、私達便利屋、そして死柄木組って感じで、はっきり言って面倒な展開になってきてませんかこれ」

 

「なってるわねぇ。一応、敵連合は近いうちに壊滅させられるからいいけど、死柄木たちがフリーになっちゃうから好転するわけでもないのよね」

 

 はぁと思わずため息を吐き出してしまう。見れば被身子も同じ様にため息を吐き出してから4つ目の餡饅を……ちょっと待ちなさい、それラスイチじゃないの、駄目よ。

 

「レイミィちゃんは4つ目を食べてるじゃないですか!」

 

「元々は私が買った8つのウチの3つを分けてるだけでもありがたいと思ってもらえないかしら?」

 

「半々!! 半々にするべきです!」

 

「あんたねぇ……!」

 

 さっきまでの空気は何処へやらと思われそうだけど、餡饅の攻防戦はこの場においては何よりも最重要なのよ。ていうか、しれっとペットボトルコーヒーも飲んでるし、貴女それは甘すぎて嫌いとか言ってなかったかしら。

 

「それはそうですけど、喉が渇いたので飲んじゃいました」

 

「飲んじゃいましたじゃないっての。あぁ、もう、分かったわよほら」

 

「わーい!」

 

 これじゃどっちが年上か分かったもんじゃないわね。ニコニコ笑顔で餡饅を頬張る被身子に呆れつつ、すっかり冷めてしまった手に持ってる4つ目の餡饅を食べ切ろうと口に含んだ刹那、それは来た。

 

 餡饅だってのに感じる肉の感触、口に広がるのは餡の甘さではなく血液特有の鉄の味に思わず顰めっ面をしてしまえば、被身子も異変に気づいて直ぐに袋を私の口元へと運んでくる。

 

「あ、あの、レイミィちゃん? ってもしかして!? 袋はここですからねって?」

 

 いつものフラッシュバック、何時もだったら感じた時点で嘔吐してしまうそれ、けれど今夜は向き合おうと思ったので彼女の動きを手で止めてから息を吸う。

 

 この瞬間の記憶は私のものだ、前まではお母さんを殺めてしまった記憶として処理してたがゆえに罪悪感などで吐き出してしまったが今は違う。

 

(全てが勘違いだった。或いは記憶違いとも言えた、事故じゃなくて故意的に起こされた暴走で殺してもいなくて母親どころか自殺志願者だった)

 

 なら、この時の〝あの人〟はどんな顔をしていたのか。胃からこみ上げてくる感覚を無理やり抑え込んで、口元の幻覚を無視し、脳裏に浮かぶ記憶を手繰り寄せる。

 

 隣では変わらず被身子が不安そうな表情で見つめてくるけど答える余裕は無い。今はともかくこの記憶をはっきりとさせる事に集中する、いい加減に振り切ってやると決意を見せたとき、今までにない感覚を覚えた。

 

 何と言うべきだろうか、頭を優しく抱え込まれたような感覚、それからこの十数年で初めてとも言える血を吸われている時に彼女の顔が私の脳裏に浮かんだ。

 

(そりゃそうよね。えぇ、恐怖してるだの、怯えられてるだのは私が勝手に生み出してた想像だったってわけよね)

 

 鮮明になった記憶の映像が映したエルジェーベト・バートリーの最期の顔は笑顔だった。この世の全てからやっと開放されると言葉にしなくても相手に伝わるような微笑みで私を見つめている光景に浮かんだ感想は。

 

(ざっけんな、自分勝手が)

 

 何満足げにしてるのよ、残されたわたしはどうするつもりだったのよ、ただ自分だけが良ければそれでいいの? 次々と浮かんでくる疑問と不満と怒りにギリッと歯を食いしばってしまう。

 

 気付けば、嘔吐感は消え失せていた。あんな物を見せられてしまったら、一々罪悪感で吐くなんて馬鹿らしいとでも頭が思ったのかもしれない。

 

「今まで、こんな馬鹿みたいなことで振り回されてたのね、私」

 

「何か分かったんですか?」

 

「明日の朝にでも話すわよ。今日はもうそろそろ寝ないとって時間でしょ?」

 

 スマホの画面の時計を見れば23時を過ぎていた、流石にこれ以上の夜更かしは明日の朝に響いてしまう。被身子だって朝が強いと言っても限度というものもあるし、何より少しだけ頭を整理させてほしかったというのもある。

 

 ちょっとこれを今話したら怒りのままに叫んでしまいそうだったから、というか時間が許すなら巫山戯るなと叫びたい、近所迷惑になるかもしれないから叫ばないけど。

 

「うげっ、そうですね。流石に今日はお開きにしましょうか、えへへ」

 

「人の顔を見てから、急に笑ってどうしたのよ」

 

「だって今日は物凄く珍しい弱気でカアイイレイミィちゃんが見れたからですね~。これは血染くんにも見れない親友特権ってやつです」

 

「親友ってそういうものだっけ? でもまぁそうね、貴女くらいにしか今のところはそういう姿は見せたくないのはあるかも」

 

「抱きついていいですか? それもう抱きつけって言ってるようなものですよ?」

 

 はいはい、顔が怖いから落ち着きなさいっての。でも本当に彼女が便利屋に居なかったら、中学の時に知り合って親友にならなかったら。今日この事実を知った後に吐き出す先がなくて潰れてたかもしれない。

 

 だから、被身子が居てくれて助かっている。口には出さないけど、それくらい私は救われてたんだなって今になって自覚して、だからふとこんな言葉が口から出てしまったのかもしれない。

 

「ねぇ、被身子。ありがとう、私の親友で居てくれて」

 

「……へ? ど、どうしたんですか急に? 本当に抱きついちゃいますよ?」

 

「別に、素直な感情を伝えただけよ。それと抱きついちゃいますよじゃないわよ、既に抱きしめてるでしょうが」

 

 歩きづらいったらありゃしない。なんて思いつつも部屋までなら良いかとなすがままにされるのは私も甘いのかしらね。

 

 この日、様々な事が大きく動いた。表も裏も、組織も個人も、全てが良くも悪くも大きく変化した、それがどうなるかは私達はまだ分からない。




やっと、第五章が終わったんやなって……そして書いてて思ったんですが便利屋と大人組でゴリゴリとフラグ折るもんだから雄英組があまりに空気ですね、そろそろ怒られそう。

便利屋メモ
彼女が飲むペットボトルコーヒーは所謂マックスコーヒー
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