便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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林間までの新章開幕です(予定)


第六章【吸血姫のなんてこと無い日常】
No.89『吹っ切れた翌日の吸血姫の朝』


 はっきり言おう、23時過ぎに寝て6時に起こされるっていうのは結局のところ辛いのだと。人間って八時間睡眠が丁度いいって話じゃないの、だと言うのに七時間よ? 体が重いのも仕方がないことだと思うのよね。

 

「って言い訳は良いので起きてくださいレイミィちゃん」

 

「寧ろ貴女は何で同じ時間に寝たのに元気なのかが不思議で仕方がないわ」

 

「単純に嬢ちゃんが朝に弱すぎるんじゃねぇかな」

 

 あら、今日も火伊那は被身子に付き合って来たのね。人をじっと見つめてるけど何かしらその顔は。

 

「いや、なんか一皮剥けたっていうか、吹っ切ったみたいな感じがしてな」

 

 昨日はあんな状態だったってのにと言われれば、私としてもまぁそうよねとしか言えない。実際、折れてはいなかったけど引き摺っててもおかしくなかったし。

 

 でもと私はヘアメイクをし始めている被身子を意識しながら笑い、昨日の夜に親友のお陰でねと返せば

 

「なるほどな、まっ、私としても何日もってよりかは良いし。今の雰囲気のほうが結構好みってのもあるから良いけどな」

 

「カアイイくてカッコよくなりましたよねレイミィちゃん、この際ですから髪型もいつものとは別の物してみませんか?」

 

「いや、いつも通りで良いわよ。ふぅ」

 

 唐突な溜息にどうしたのかと火伊那に確かにトラウマを吹っ切れたけど、口元の幻覚が発生しなくなったわけではないのでその部分で気分が若干悪くなるのだと。

 

 しかも昨日は餡饅食べてる時にだったから尚の事、気分は優れない、吐かないだけマシかも知れないけど。

 

「あぁ、血染がこの時間帯にバートリーが外に出たって言ってたが理由は餡饅買いに行ってたのか」

 

「え、バレてたの?」

 

「そもそもトガにバレてる時点で皆知ってると思いますよ?」

 

 おかしいわね、一応気づかれないように音も立てたつもりもないのだけれどとその時は思ってたけど、どうやら私が動いた際の気配で気付いたとのこと。

 

 気配をさも当たり前のように全員が察知できてることに練度を誇れば良いのか、末恐ろしいと思えば良いのかちょっと迷ったのは秘密よ。

 

「そう言えば、昨日は時間だからって聞けなかったんですけど。結局、フラッシュバックの時に何を見たんですか?」

 

「あ~、〝あの人〟の表情よ。ずっと思い込んでたものとは違ったとか言うレベルじゃなくて、それに振り回されてたのが馬鹿らしいって思っただけ」

 

「どんな顔してたんだよ……」

 

 うーん、結局は事務所で三人にも話すだろうから二度手間になりそうだけど、別に話してもいいかと二人にエルジェーベトのその時の表情、私を優しく頭を撫でて微笑んでいたということを伝えれば。

 

「うわ……」

 

「なんつーか、言葉に困るというか。そりゃ、嬢ちゃんも馬鹿らしいって思うわな」

 

 それぞれの反応は分かりやすくドン引きだった。被身子に至っては割と本気で軽蔑しますという表情だから今度赤霧と接敵した時には感情を爆発させるかもしれないわこれ。

 

 赤霧もといエルジェーベト、そして過去にはプロヒーロー【スカーレットデビル】と名乗ってた存在で私の大元。今後も間違いなく私達の、そして社会の敵として立ちふさがるアイツを私自身が終わらせなければならない。

 

 ならないんだけど、今の状態だと勝てるビジョンがまるで見えないのも問題なのよね……

 

「つっても私等が集団で当たれば勝ちの目はあっただろ? 前回だって黒霧の介入がなければ終わってたし」

 

「トガが気絶して無ければ、ぐぬぬ」

 

「そうかもだけど、アイツが同じ轍を踏むとは思えない。今後は徹底的に分断してくると考えるべきだわ」

 

「それもそうか」

 

 そして分断して狙ってくるとすれば私だろう。ともすれば私自身が強くならなければならない、けれど言葉にするのは簡単だが実際はそんな単純な話でもないのが現実。

 

 【吸血姫】の強化となると手段は一つしか無い。けれど、その一つを行うにはまだ踏ん切りがつかないのよね、トラウマが吹っ切れたって言ってもそれはそれこれはこれってやつよ。

 

「はい、終わりましたよってどうしたんです?」

 

「そろそろ、覚悟を決めるべきかもしれないかもって話」

 

「んだそれ」

 

 もし、もしそれを実行した場合、怖いのは【吸血姫】の本能を抑えることが出来るだろうかという部分に限る。いくら、〝化物〟としての本能は僅かしか吸収してないとは言え、その僅かがどの程度科分からないんだもの。

 

 抑えることが出来なければ、いいえ、今は考えるのは止めましょう。とりあえず、事務所に行っていつものように菓子パンを食べながら朝礼をしちゃいましょう。

 

 っていうことで事務所に向かえば、血染、圧紘、仁が何時ものように居たのだが私を見るや、血染がふむと言う感じに一人で納得してから視線をそらすので思わず

 

「何か言いたいことがあるなら言ったらどうかしら血染」

 

「昨日のことを引き摺ってないようで何よりだと思っただけだ」

 

「なんて言い方だけど、なんだかんだで昨日はずっと心配してたんだよ彼。勿論、おじさんたちもだけど」

 

「お嬢、ずっと考え込んでたからな。もう、大丈夫なんだろ?」

 

「えぇ、被身子のお陰で色々と吹っ切れたわ。それに〝あの人〟の最期の表情も思い出せたし」

 

 流れのまま、ついさっき私室で二人にも話した内容を三人にも伝えれば圧紘は微妙な表情を、仁は火伊那と同じくらいにドン引きをし血染はと言うとガリガリと頭を掻いてから。

 

「ヒーローを志した奴がそれで心を折ってんじゃねぇよ」

 

「殻木が言う永い年月がどのくらいなのかは分からないから何とも言えないけど、まぁそう思うわ私も」

 

 いや、でも辛口が過ぎないかしら、流石の私も指さされて化物だ何だって言われたらちょっと凹むと思うんだけど、血染ってヒーローのことになると厳しくなるわよね。

 

 きっと彼女だって踏み止まろうとはしたと思うわよ? 私もそれくらいはするし、それ以上に人生を経験してるなら考えないわけがないし。

 

「それでも実行できなきゃそれまでだ。だったら初めからヒーローにならなきゃ良かっただろ」

 

「……言われればそうよね。なんでヒーローになったのかしら」

 

「それは昨日の夜にレイミィちゃんも言ってましたけど困ってる人々を見捨てることが出来なかったんじゃないんです?」

 

 だとしてもそれで自分が折れてちゃ世話ないでしょうに。でも全く分からないってわけじゃないのよね、私がやってる便利屋だって突き詰めれば同じような理由だと言われても否定はできないから。

 

 違いがあるとすれば、仮に言われても皆が居るからってのと所長としてのプライドで立ち直れるってことかしら、あぁ、そうか。

 

「あの人は孤独だったのかもしれない」

 

「永い年月を生きてたが故にってことかい所長」

 

「えぇ、孤独で、でも独りで生きていくのが嫌で、それがあの人だったんじゃないかしら」

 

 なんて言った所でだったらもう少し付き合い方を考えればよかったじゃないのとしか言えないんだけど。当時はきっとそんな事言える環境でもなかったのかもしれないし。

 

 そう言えば、ここまでで思ったんだけど火伊那たちはスカーレットデビルってヒーローを聞いたこと無いのかしら? ビルボードチャートのTOP3に入れるくらいの存在だったんなら聞いたことありそうだけど。

 

「あるにはあるがヒーローとしてよりも個人でのある噂の方が有名なんだよな」

 

「ある噂?」

 

 曰く、年を取っていない不老だということ。彼女の存在は個性が出てきた暗黒期と言われる時代から確認されており当時の写真と行方を晦ます直前の最後の公の姿がほぼ合致していることからそんな噂が立っていたらしい。

 

 もっとも結局は世代交代で常に似たような姿の人物が居るのだろうということで落ち着いたらしいのだが、殻木の言葉が正しいとするならば相当長生きとか言うレベルじゃなくなるわよ。

 

「それもう歴史の生き字引とかそういう類じゃないです?」

 

「とりあえずその件に関してはホークスが公安で情報を集めてくれるらしいから置いておきましょ。どうであれ私達も暫くは通常業務以外で動けないわけだし」

 

 そこからいつもの朝礼を初めておく。一応、昨夜に浮かんだ赤霧の目的に関しての憶測も話そうかとも考えたけど、言っても言わなくてもやることが変わらないだろうからと保留にしておいた。

 

 それに話すには流石に登校までの時間に終わりそうになかったってのもあるし。なので軽い朝礼と今日の業務の話をしてから鞄を手に取って、なんだか久し振りなような気がするいつもの挨拶を彼らにする。

 

「んじゃ、行ってくるわ。何かあったら私に連絡を」

 

「おう、気をつけろよ」

 

「いってらっしゃい所長」

 

「大丈夫だとは思うが敵連合とかに気をつけろよお嬢」

 

「確かに便利屋の場所は割れてるかもしれないと考えるとありえそうですね。トガも途中まで一緒にあいたっ!?」

 

「心配し過ぎだっての。流石に奴らだってそこまでの余裕はないだろうし、あるなら殻木から内通があるんだろ? それがないから平気だろうさ」

 

 えぇ、現状で殻木からは何も報告はない。因みにだけど彼が魅了を自力で解くことは決して無いと断言できるわよ。アレはそんな簡単に、いえ、AFOの力を使ったとしても無理なほどに根っこから私の味方にしたんだから。

 

 確かに魅了は個性由来だけど、その後は彼自身の意志になってるってこと。だから個性を解除や無効化しても無意味ってわけ、まぁそんな話はどうでもいいわね、それよりも早く学校に行かないとまた(ヴィラン)の影響で電車が遅延しましたとか言われても面倒だし。

 

(なんて思ったけど、早々に遅延したりはしないのよねこの辺りは)

 

 慣れてるってのもあるんでしょうけどと思いつつ特に問題もなく教室前に辿り着いたんだけど、この場合ってどんな感じに入れば良いのかしら? 中学とかじゃ休みがちとかは普通だったし特に親しい友人なんて被身子以外に居なかったから気負いなく入れたんだけど、今回はそうじゃないのよね。

 

 しかも昨夜に麗日からみんな心配してたって言われてるのもあって、はてさてどうしたものかとも悩んでしまうが答えが出るわけでもない、ないので出たとこ勝負だと扉を開けながら

 

「おはよう、みんな」

 

「あ、レミィおはよう!」

 

「おっはよーレイミィちゃん!」

 

 芦戸と葉隠が来たと思えばそこから続々とクラスメイトほぼ全員から挨拶が飛んでくる。見た感じだと私がちゃんと現れて安堵しているというのが嫌でも感じ取れるのでとりあえずこれは言っておいたほうが良いかしらね。

 

「あ~、昨日、麗日から電話が来たけど何か心配かけたみたいね。ごめんなさい、でもご覧の通りだから安心して頂戴な」

 

「確か便利屋の依頼という話だったよね。急に休まないといけないってほどの依頼だから逆に心配になるよそりゃ」

 

「バートリーってなんか目を少しでも離したら無理してる印象だもんな。緑谷たちから聞いたけど保須市での事件でもそうだったらしいし」

 

 そこまで言われるかしらと思いたかったけど思い返せば大体がそうな気がするので曖昧な笑みで誤魔化しておこう。下手な言い訳とかするよりかはまぁ良いでしょ、それよりも昨日はどんな事したのかと聞いてみれば救助訓練レースなるものをやったとのこと。

 

 職場体験直後ということでお遊びを込めた訓練とのことだが内容を聞いてちゃっかり緑谷の訓練してるんじゃないわよと口に出したくなった。

 

「(入り組んだ工業地帯での救助訓練でレース形式となればフルカウルで発動させながらの3次元機動は絶対。彼にしては考えたわね)それはちょっと見れなかったのは勿体ない気がするわね」

 

「実際、勿体なかったと思うぞ。緑谷とかまた進化してたし」

 

 進化、成長というのを飛び越えた単語にふぅんと緑谷に視線を向ける。その際に爆豪があからさまにその時の光景を思い出したのだろう、舌打ちと苛立つような表情をしたのを見逃さなかったので後で突こうと思った、えぇ。

 

 視線を向けられて緑谷はえっとという感じに頬を掻いてから、グラントリノのところでしこたま扱かれたという内容の旨で切り出してから、結果としてフルカウルの上限が上がったんだと告げる。

 

「何%?」

 

「今なら常時は25%、短時間なら30までなら」

 

「……は?」

 

 え、この間まだ10%が最大だったわよね? え、なに、どんな個性への適応の仕方したの貴方、そもそも常時でも25%って何よ、今の私じゃ勝てる勝てないとか言う話じゃなくなるんだけど!?

 

 やばい、頭痛がしてきた。もしかして緑谷って相当な才能の持ち主だったんじゃないのこれ、いや、薄々思ってたけどここまでとは思わないじゃないの。

 

「レイミィちゃんが頭抱えてもうた」

 

「反応から見るに想定外の成長だったということでしょうか?」

 

「実際想定外だろうな、俺も見た時は驚いたし」

 

 どうしよう、此処からの彼の訓練内容。私の中で立てたメニューが音を立てて崩れていくような幻聴に襲われつつ出来たのは、良かったじゃないのと言う表情と言葉だけだった。




日常描写になると急に書きづらくなるのいやー、キツイっす(素面)
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