結局、心操へのお礼云々の話は一旦保留となった。危険手当みたいな感じで気軽に受け取ってくれれば良いんだけど、どうやら事はそんなに単純なことではないらしい。
ていうか、耳郎から受けた脳天への一撃が割と洒落にならないくらいに痛いんだけど、血染みたいな体罰はどうかと思うわよ私。
「悪いのはバートリーだからね。全く、こりゃ麗日も苦労するわけだ」
「分かってくれる? レイミィちゃん物凄いズレてるんよ」
「いざって時や普段はそんな事無いのだが、どうしてこの手の話になると君はそうなるんだい?」
いや、だからそれを言われても知らないとしか言えないんだけど。にしてもズレてる、ズレてるのか、原因があるとすればやっぱり依頼とかで大人相手に立ち回ってたりするから、それかしらね。
あまり心操みたいな純粋な反応って言うか、純粋な性格みたいな持ち主と関わるのは数が多くないから、ちょっと接し方が分からな無いのよね。
「はぁ、まぁそのこれから色々と擦り合わせていくしかないねこれ」
「なんか、ごめんなさいね?」
眉間をもみ始めた耳郎を見て血染を思い出しつい謝罪を口にしてしまった。なんだろう、A組の血染枠になりつつあるんじゃないの彼女、悪いの私だけど。
そもそも、自分で言って何だけど血染枠ってなによ……それ単純に苦労人枠ってことと変わりないわよね……?
「その、本当にごめんなさい」
「いや待って、そこまでガチトーンで謝られるとこっちも困るというか、何で急にそんなトーンになったの」
「ウチの苦労人を思い出して、アイツも今の耳郎みたいな行動と表情をするから」
「……赤黒さんのことか」
最近は頻度は減ってるけど、昔はしょっちゅうそんな顔してたのよ、懐かしいわ。懐かしんだけど、そう考えると結構彼には苦労させてるのね、少し労ったほうが良いかしら?
今更と言われたらそれまでなんだけど、思えばそういう事を彼にした記憶ないのよね、かと言って何をすればってなるんだけど。
「どしたん、オムライスを見つめて急に黙り込んじゃったけど」
「え? あぁ、血染のことでちょっとね。昔からの付き合いで苦労かけてるのに労ったりした記憶がないからなにかした方が良いかなって」
勿論、賞与とかそういうのは考えなかったわけじゃないんだけど開業当初はそれに回す余裕なんてなかったし、日常会話でその辺りを出しても別にって反応、一応は月々の給料の額を増やすって形で色は付けてるけどそれで釣り合うかって言われると違う気がするのよね。
まぁ、要は苦労かけたしってことでお礼なり何なりを一度は形にするべきかなって思ったわけよ。
「けど、前に夏兄と赤黒さんが話してたが気にしてない感じだったぞ」
「それ、詳しく」
「ん? 苦労したりはするが悪い気はしないって言ってたと思う。顔も笑ってたから皮肉とかじゃねぇと思う」
へぇ、ふぅん、そうなの、ふぅん。アイツって普段じゃそういう事を話してくれないし、仮に話してても圧紘たちは口が硬いから教えてくれないしで分からなかったけど、そんな風に思ってた訳なの。
そりゃ、普段の生活で私を邪険に扱ってるとかはなかったけど、何よ素直じゃないんだから。
「凄くいい笑顔でオムライス食べ進めてるのだが、もしやその赤黒さんはあまり、今のことをバートリーくんに聞かせたくはなかったのではないのかい?」
「それは僕も思ったかな。普段の特訓とかでの二人のやり取りを見てても結構厳し目な感じで接してるから……」
「じゃなきゃ調子に乗るとかじゃないのか? バートリーはなんかそんな感じするし」
「分かる、絶対に乗せたら乗せた分だけ調子に乗るよね」
「あ~」
随分と好き勝手言ってくれるじゃないの貴方達、と言いたいけどその辺りは私も自覚してないわけではないのよね。昔、それで割と洒落にならないヘマしそうにもなって血染にこっぴどく怒られたこともあるし。
うぅ、今でも思い出せるわ。あと少し彼の介入が遅れてたら危うく散らしてたところだった事を……
「今度は暗い顔し始めたんやけど」
「やっぱ見てる分にはコロコロ表情が変わって面白いよね、バートリーって」
おっと、いけない。流石のこの話は他人に、しかも年頃の少女が沢山いるこの場所でするべき物じゃないのよね、えぇ、私だってそれくらいは理解できるわ。
あぁ、でもヒーローとして将来的に働くとしたらその手の危険性もいずれは彼女たちに話したほうが良いのかしら? 割と無くはない事案だしってどうしたのかしら緑谷?
「あ、いや、やっぱりバートリーさんからすると赤黒さんとかって家族みたいなものなのかなってふと思って」
「そりゃまた唐突な感想ね。でも、火伊那は最近だけど関係ないくらいに便利屋の皆は住み込みってのもあるから近いと言えば近い感情は持ってるとは思うわ」
なんかこの話は前もしたような気がするけど、昨日の件から改めて考えると何が空っぽだって話になるわよね。便利屋っていう確かな物があるんだから。
でもその場合、血染ってどの立ち位置になるのかしらね。厳しく、それでいて何だかんだでフォローしてくれて、うーん……
「(あれが、父親ポジ?)いやいや、ないないない」
「何がないんだい、バートリーくん」
「へ? あ~、便利屋が家族みたいなって考えたら血染が父親ポジになるような気がしたけどそれはないだろって思っただけよ」
「……あながち間違えじゃないと思うが」
「いや、無いでしょ。確かに書類上は保護者って事になってるけどさ」
彼も絶対に凄い顔して冗談にしても笑えないから止めろって言うに決まってるわ。そりゃ、日常的に説教してきたり、体調面を聞いてきたり、夜更かしを咎めてきたりと口煩いことしてきて親みたいなことしてくるけどさ。
って何よその顔は貴方達、先に行っておくけどアイツは私が二歳のときからの付き合いだから遠慮がないだけなのよ、あれ、この話ってしたっけ。
「今初めて聞いたし、急にぶっこんでくるのは良くないって言ったよね私」
「ごめん、深刻に考えたことなかったからつい口から出ちゃったわ」
「〝つい〟で出てくる話題じゃないのよ。あ~、うん、分かった、こりゃ麗日一人じゃ手に負えないってなるわけだ」
「二歳の時からって、お前、えと、そういうことなのか?」
そうか、心操はまだ知らなかったわね。って言っても、今となっては麗日たちが断片的に知ってる内容も実は根っこから違いましたってなってるから、尚のこと軽い感じに口から出ちゃったのよね。
うーん、でもこの場でこれは話せないし、何だったら青山が居る場所じゃそこからAFOに流れたりなんかしたら殻木の件がバレる可能性があるからもっと話せないし、とりあえず今は誤魔化しておくかぁ。
「まぁね。いや、正確にはちょっと色々と違ったんだけど」
「え、そうなの?」
「と言っても俺達も全てを聞いてるわけではなく察したという程度なのだが」
「もしかして昨日の便利屋の依頼で何かあったのか?」
ゲホッと飲んでるコンソメスープを吹き出しそうになったのは許して欲しい。なんで今の会話からそこにぶち当てることが出来るのかしら轟?
しかも彼はこの場で唯一私の事情を知ってるから今の発言もただの確認じゃないって感じなのよね。
「あ~、まぁ、うん」
「もしかして、電話で元気なかったのってそれ?」
「そう言えばそんな事もあったわね。はぁ、まぁあれよ、依頼自体は本当に滞り無く成功したんだけど、ちょっと掘り起こしたものが、ね?」
これ以上はこの場の空気を地獄まで突き落とすことになるから話せないのよ察して頂戴。オムライスの残りを食べ進めつつそう言えば、麗日たちも察してくれたようで引き下がってくれたを確認してから、ふとオムライスを見つめる。
そんな事してればまた周りにどうしたと言われるのは理解してるんだけど、それはそれとしてこのオムライス関連の記憶も〝あの人〟のものであって自分のじゃなかったってことにちょっと思うところがないわけではない。
でも別にオムライスが悪いわけじゃないから、それで嫌いになるとかじゃないんだけど、そもそも母親が存在しない私にとって母親の味ってなんだろうってことになるわけで。
「ふぅむ」
「今日は何時も以上に考え込むなお前」
「まぁね。私だって色々あるのよ、例えばそう、自分たちの好物がとか、まぁ自分のだと思ってたことが実は別の誰かからの記憶でそう思い込んでたって知ったら悩むでしょ?」
別に話す必要もないことだったんだけど、このくらいなら良いかという感情とここで話さなくてもどうせ何処かでバレる気がするのよねという諦めで口にしてしまえば麗日たちは少し考えてから。
「確かに悩むだろうな、いや、果たして悩むだけで済むだろうか」
「想像が難しいけど、かなり辛いとは思うし、立ち直れるかなって言われると簡単には頷けないと思う」
「あぁ、俺もそれはキツイな」
「そう、だな」
「私、多分もう駄目になるかな」
「同じく、ん? いや、てかじゃあ、なに、もしかしてさ」
ストップよ耳郎。まぁつまりはそういうことなんだけど、失敗したわね、話す必要なんて何処にもなかったし、空気が駄目になるから言わないつもりだったってのに。
やっぱり思った以上に私もこの事については引き摺ってるみたいだわ。
「ごめん、ちょっと迂闊だったわ」
「バートリーってさ、やっぱりズレてるっていうか、友達付き合い下手だよね」
さっきまで沈み込みそうに成っていた空気に対して私がそんな謝罪をすれば、耳郎が呆れた感じの笑みを浮かべそう返してくる。
どういう意味なのかしらと思わず聞いてしまえば、そういう所だよとお茶を飲んでから。
「そりゃ驚きはしたけどさ。今日、学校に来てからこの時間まで何かと悩みっぱなしだったの皆知ってて、心配してたんだよ」
「え?」
心配してた? そう言われ思わず素っ頓狂な声を上げてしまった、いえ、あのクラスメイトならしても不思議ではないけどでもなぜか驚いてしまった。
そして今ここで断片的に自分が悩んでた理由を聞かされて、それが思った以上に根深いものだっていうのに彼らは受け止めた上で私の抱えているこれを軽くしようとしてくれている。
本当に人が出来ていると雄英高校に来て何度思ったかわからないことを改めて実感しつつ、息を吐きだして。
「そっか、なら尚のこと謝らないといけないかしら」
「謝罪は必要ないと思う。それよりもレイミィちゃんがずっと抱えてて、悩んでることを少しでも吐き出して気持ちが楽になればなって」
「う、うん、確かに話せないこととかあるかもだしなにかアドバイスとかが出来るわけじゃないけど」
「言ったろ、俺も友人として力になるって、その、だから愚痴とかも聞くから」
「うむ、思うが君は抱え過ぎだと思うぞバートリーくん、少しは俺達も頼ってくれ」
「ね? ほら、轟も何か言ってあげれば、この中じゃ一番距離感近いんだし、何か案とかない?」
やれやれ、事実を知る前なら何だかんだでのらりくらりと交わしてたやり取りなのに、こうして普通に良いかなって思えちゃうのは彼らに心を開いたからなのかしらね。
それとも私自身が最期が近づいてるのを悟ってるから、かもしれないけど……。
「なぁ、明後日に母さんが退院するんだ」
「あら、良かったじゃないと言うか思ったよりも早かったわね」
でも元々が検査入院みたいなものだって話だったから、それを考えると少し遅めと言うか、万全を期したって感じかしら。でも無事に退院して家族とまた過ごせるなら良いことじゃないの。
「待って待って、え、轟くんのお母さんって入院してたの?」
「回避した先にも危険球があるとかこのクラスどうなってるの」
轟家はちょっと特別だから周りと同じにするのは如何なものかと思う、えぇ、あそこは便利屋を長年やってる私から見ても特殊すぎるのよ。
と言うか、私と轟くらいじゃない? 会話一つにある程度気をつけなきゃいけないってのは、それで退院おめでとうだけど、それだけじゃないんでしょ?
「あぁ、姉さんがその日に退院祝いをするんだが来ないか? その方が母さんも喜ぶと思うし」
まさかこんなに狙ったタイミングで誘いが来るとは思わなかったわよ。勿論、悪いってわけじゃないし嬉しい、えぇ、嬉しいんだけど。
ふと、そこで今さっき考えてたことを思い出す。母の料理とその味、最も退院祝いの日は冬美さんが作るから違うんだろうけど、それでも顔を出しに行くのは悪くないかなって思えた。
それに殻木からの資料で得た燈矢についての情報も話さないと思ってたし、そこまで考えてから私は頷いてから。
「じゃあ、お邪魔しちゃおうかしらね」
「分かった、姉さんたちには話しておく」
にしてもまた昔みたいな頻度で家に行ってる気がするわね。とりあえず手土産と……火伊那、どう紹介しようかしら、やばいすっかり忘れてたと言うかエンデヴァーは間違いなく気づくわよね!?
思ったよりも安易に招待に乗ってしまったことに軽く後悔しながら頭を回転させていたので私は気付かなかったのだけれど。
「……緑谷、聞いていいか? もしかして割と日常的に轟の家に行ってるのか、バートリーって」
「へ? らしいよ、少し前だと夕食にしょっちゅうお邪魔してたって渡我さんも言ってたし」
「元々が便利屋の依頼から始まった付き合いだったと聞いている、それを考えると親密とも言えるだろうがどうかしたのかい?」
「いや、別に、ふぅんってだけだが」
「おっとこれは」
「なるほど、いやぁ罪作りな女だね、バートリーって」
なんて会話が繰り広げられてたことに気付かなかった。まぁ仮に気付いても意味が分からないから首を傾げるしか無いんだけれどさ。
まぁ、心操ルートは無いんで安心してほしいです読者の皆様。