うん、考えるのは止めにしましょう。どうせ、エンデヴァー相手に火伊那を隠し通せるわけ無いし、考えるだけ無駄だわと結論、またの名を問題の先送りをすることを脳内で決定を下す。
仮に向こうに露呈しようが正直な話関係ないし、困るわけでもないから悩むだけ無駄だというのも間違ってはないのよと食後のお茶を口にしてから、ふと先程の耳郎が言っていた〝友達付き合い〟という単語を思い出し、そこから前々から緑谷に聞こうと思っていたことを投げかけることにした。
「そういえば緑谷、一つ良いかしら」
「え、あ、うん、良いけど」
「貴方、爆豪をどう思ってるのかしら?」
あの日、雄英体育祭の決勝で爆豪が彼に対してどう思ってるかを断片的ながら分かった。だが緑谷から爆豪へのそれは今まで聞いてなかったと思い口にしてみれば、緑谷はなぜか考え込み、他五人はそれを黙って見守る。
時間にしてどの程度だろうか、ただ経ったとしても一分程度だろう時間の後、緑谷がゆっくりと答えた。
「かっちゃんは、その、幼馴染なんだ。昔からあまり変わってない、かな。嫌な奴だけど優秀で、僕なんかよりもずっと凄い幼馴染」
「幼馴染と言う割には君には攻撃的なのだが、それも昔からだとすれば関係を見直したほうが良いのでは?」
「あ、ううん、そこは昔からじゃないよ。何時からって言われるとちょっと分からないし、確かに虐められてたとかはあるけどあそこまで攻撃的ではなかったし、昔は仲良くやってたと、思う」
「〝思う〟なんだ……」
爆豪の性格からして昔はただ見下してたってだけでしょうね。それが段々とエスカレートしていき、そして彼は緑谷の根底部分の異質さに勘付いてしまった。
己を勘定に入れていない思考に、攻撃的な攻め方になったのはそこからでしょう。にしてもそれを受けてなお凄い幼馴染とか言えるのは中々な精神してるけど、うーん。
「貴方、爆豪から自分がどう見られてるかって考えたことある?」
「かっちゃんから……?」
「いや、どう見てもウザがってるっていうか思いっ切り見下してるようにしか見えないけど」
えぇ、端から見たらそうでしょうね。けれど緑谷、貴方ならば分かるはず、誰よりも幼馴染と言う立場で彼を見ていたならば、接してたならば、今の貴方ならば彼の思考を〝理解〟出来るはずよ。
なんて言ってみたけど、今すぐには難しいかもしれないわね。緑谷は彼に憧れを持ってしまっているが故にフィルターとも言えるものが掛かり、〝理解〟を阻んでしまっている恐れがあるからだ。
誰かが言ってたけど、憧れっていうのは理解から最も遠い感情。そこを剥がすなり、別の何かで書き換えることが出来れば良いのだけれど、そう簡単には行かないのよねこれ。
「……かっちゃんから、どう見られている、か」
「えぇ、冷静に考えて一個人にあそこまで敵意を見せるのは異常よ。特に爆豪の性格から考えれば、それこそ彼にとっての負けだと言うのに」
「あ~っと、水を差すようで悪いんだが、爆豪ってのはどんな奴なんだ? 雄英体育祭の時の感じしか知らないからさ」
そう言えば、心操は爆豪とはあまり接したことなかったから知らなくても当然か。顔を合わしたのも雄英体育祭の前に教室に来たときとか、あとは雄英体育祭当日だものね。
「雄英体育祭の時のが全て、かな」
「うん」
「い、一応だが彼なりに常識はあるにはあるのだが、まぁ大凡はそうだな」
「困ったな、何もフォローが出来ねぇ」
「あ、あはは」
あまりにあんまりな言われように心操が困惑してるけど、その通りなのよ。でも教師陣からヒーローとしての素質があると見られて受かるぐらいには精神性はマトモなのよね。あれがどうマトモなのかと説明を求められると困るけど。
何だっけ、確か上鳴が彼の性格をこう表してたわよね、【クソを下水で煮込んだような性格】って、改めて考えると酷い言葉ねこれ。
「つか食堂で出す単語じゃないっての」
「そうね、ごめんなさい。ちょっとこれは無かったわね」
「……響香ママやん」
「誰がママか、それ言ったら始めにバートリーの教育係を始めた麗日が妥当だと思うんだけど?」
「人を子供扱いするの止めてもらえるかしら?」
自分で言ってちょっと過去の黒歴史を思い出しそうになって頭を打ち付けたくなったわ、それと飯田たちもなんか納得したような空気を出さないで頂戴、勢いで出た言葉だってだけで深い意味はないから。
微かに思い出してしまったけど、本当に仕方がなかったとは言えあんな演技は二度とごめんだわ。って話が逸れてないかしら、えっとそうそう。
「緑谷、彼に近付きたいっていうのなら、爆豪を〝理解〟しなさい。前ならともかく、今の貴方ならそれが出来るんだから」
「かっちゃんを〝理解〟する。向き合えって、ことだよね」
「そうとも言うわね、必要なら場を用意してあげるわよ。正直、このままだと面倒なタイミングで爆発しそうだし、ガス抜きが出来るなら直ぐにでもオススメしたいくらい」
「ところでだ、先程から〝理解〟と言う言葉を使っているのだが、言葉通りで良いのかい?」
む? あぁそうか、緑谷の特訓云々は話したけど彼の特異性というか、その辺りは話したこと無かったわね。とりあえず緑谷にアイコンタクトを飛ばせば頷き返されたので簡単にだが説明を始めることに。
彼は物事、気配、空気の動きや対峙した相手の性格、癖などを〝理解〟という形で読み取れるということ、それを応用して相手の手札を潰したり行動を予測したり、己の知識に加えて動きに加える事が出来るということ。
現状はそれを多方面に伸ばしている特訓を積んでいるということを話せば先ず轟が彼にしては珍しい驚いた表情で。
「そこまでの事をしてたのか。そりゃ、雄英体育祭の時に強いって思うわけだ」
「俺の攻撃を流してたのも〝理解〟されていたからなのか……!」
「ウチ等は実際に見てるから信じられるけど、これだけを聞かされたら冗談でしょとしか言えんのよ」
「ガンヘッドさんの所で色々学んだから、あの日のデクくんの動きがどんだけ凄いか分かるよ、あれは真似できん」
「なんつーか、規格外って感じがするな」
あ~、規格外ってのはたしかにそう思うわ私も、特訓初日から血染に喰らいついたりしたのは流石に驚かされたもの。だからこそあれこれ詰め込んでって方針になって今の彼があるんだけど。
思ったけど、個性アリで模擬戦したら今の緑谷なら結構良いところまで行くんじゃないかしら、どう思う?
「良いところまでどころか、トップ争いでしょ。ウチとか絶対に戦いたくないし、戦っても一瞬だよ」
「私もかなぁ、ちょっとくらいはと思うけど……アカン、勝てる光景がまるで見えん」
でも麗日は個性の相性があるから接近戦がし辛いと思うわ、それ込みで緑谷は対処してくるだろって? それはそうね、因みにだけどさっきから褒め殺しされてるから緑谷はバイブレーション状態で動かなくなってるわ。
「俺には振るなよ。個性も対策されてるだろうから、流石に今の俺じゃ勝ち目なんて零だっての」
「うーむ、完敗とは言わないが勝てるかと言われると厳しいなというのが正直な所だ、悔しいが」
「決勝戦と同じ形に持ち込めれば勝てるかもしれねぇが、前よりも個性の出力が上がってるってなら分からねぇな」
「常時なら25%だとか言ってたわねそういえば。10%であれだったんだから、そこから15%も上がってるって考えると……」
何が起こるのかしらこれ、ちょっと拳を振るったら風圧で相手が吹っ飛びますとか言われても不思議じゃないわね。え、出来るって? 嘘でしょ……
「うん、デコピンや蹴りを思いっ切りやれば風圧を飛ばしたり出来るようになってる。グラントリノのお陰で思いついたんだこれ」
「困ったわ、私もう師匠面出来ない、勝てないわコイツに」
最後の最後で緑谷から特大のカミングアウトが起こったけど、それからはなにか特筆するような雑談があるわけでもなく、至って普通の学生らしいという感じに昼食の時間は過ぎていき、心操とも別れ教室に戻る道中、そう言えばと思い出したことを緑谷に話すことに。
「今日なんだけど、特訓は学園の敷地内でやることになったわ」
「え、きょ、許可取れたんだ」
「なんとかね。場所は運動場γ、昨日貴方達がオールナイトの授業で使った場所よ」
本当なら密集工業地帯じゃなくて市街地とか都市部みたいなのを借りたかったけど、あっちは競争率が高いのと三年が使うことが多くて絶対に人目についちゃうから難しいのよね……
まぁ運動場γも絶対に安全ってわけじゃないんだけど、他よりは露呈する可能性は低いし良いかなって。
「運動場γ? 確か密集工業地帯だよね、と言うことは今までとはまるで別の特訓内容ってことになるのか」
「当たり、ちょっと今回は特殊な訓練になるわ」
「ふむ、出来れば見学だけでもと思うが難しいかい?」
飯田からの提案も来ることは想定してある。駄目かどうかとなると絶対の黙秘を条件に加えれば見学だけなら良いかなと思えなくはない。
ただ問題は火伊那もといレディ・ナガンを彼らがどの程度知っているかという部分。この場で聞いてもいいがそれは今回の特訓に彼女が来ていることを自白するも同然なので出来ず許可を下ろして騒がれた日には面倒になる。
「うーん、その、全員こっち来て頂戴」
「え、なんかヤバ気な事やるの?」
ヤバげといいますか参加者がやばいのよと思いつつ周りに人の気配も人目も無い場所に来てもらってから、見学だけなら許可が下ろせるのだがと前置きから条件を話してみることに。
「単刀直入に言えば、正体に勘付いても黙ってて、口外は私が許可するまで絶対に止めて、破られるとかなり困ることになるから」
「な、なんか思ったよりもガチな忠告……」
脅かすようで本当に申し訳ないけど、これくらいは言うレベルなのよ。でもリスクを負ってでも火伊那を緑谷の特訓に突き合わせるメリットも大きい、彼女自身も言ってたけど鈍ってる分を叩き直すことも出来るし、緑谷としても遠距離戦のいろはを学ぶことが出来るし。
仮に見学だけだとしてもそれはそれで経験にはなると考えれば、この場に居る人物だけになるけど林間合宿で何かあった際に切り抜けられる可能性が高くなるから悪いことじゃないし、と言うか緑谷と飯田と轟は一度見てるのよね。
「え? ……あっ、もしかしてホークアイって名乗ってた仮面の人?」
「あぁ、確かに居たな。ただ、あまり喋ったりもしなかったが……」
「と言うか、向こうが接触を避けてたように見えたな」
「聞いた感じだと訳アリってやつ?」
訳アリってレベルで収まるのかしら彼女、タルタロスから出てきた元公安のヒーローで裏では色々と汚れ仕事をしてましたって書くと訳アリなんて生易しいものじゃないんだけど。
まぁ詳細を話すわけ無いから訳アリでいいか。とりあえずで頷いておけば、納得してくれたようで耳郎はなるほどねと頷いてから。
「あれか、雄英体育祭を最後の最後で早退してスカウトしに行ったってその人のことか」
「そうそう。まぁともかく、訳アリが故にあまり騒がれたくないし、口外もされたくないのよねってのがさっきの条件の理由」
「そこまで言われると誰なのかが凄く気になるんだけど、私はタイムセールがあるから今日は放課後に急いでスーパーに行かないといかんのよ」
タイムセールなら仕方がないわ、あれは大事だもの。この辺りだとあのスーパーかしら、確か色々と安売りして便利なのよね。
「おぉ! レイミィちゃんもあそこ利用するんか、今日は特用のお餅が安いから逃すことができんのよ」
「私がって言うよりも圧紘や仁がって所だけどね。それで耳郎はどうする?」
「ウチもちょっと今日は用事があってね。気になるし、見学もしたいけど、ごめん」
申し訳無さそうに手を合わせてるけど、別段そこまで気にする必要はないわよ。もっと言えば、人が少ないなら少ないでリスクは減るから助かるってのもあるし。
「別に今日だけじゃないから、今度時間があるときにでも見に来なさいよ。じゃあ、飯田と轟ってところかしら?」
「あぁ、勿論条件はきちんと守る」
「どんなのやってるか気になるからな」
この二人なら口も硬いだろうし問題ないわね。あとはそうね……彼も誘ってみましょうか、適当に煽れば乗ってくるでしょうしって。
「ねぇ、あれって私の目に狂いがなかったら被身子のように見えるんだけど」
「へ? あ、本当だ、つか思いっ切りバートリーに手を降ってないあれ」
「めっちゃキラキラな笑顔してる、しかも両手で振り始めた」
「それに赤黒さんに、あれってホークアイさんじゃ」
確かに今日の特訓は学園内だけど、放課後まで時間があるってのになんでもう三人が来てるのよ……そう思いつつも確かめに行くには時間がないということで私達は教室に戻っていく事になった。
前倒ししてどうなるかはわからないけどな!!
あ、次回は多分レイミィちゃん視点じゃないよ。