爆豪勝己にとって、それは衝撃的な光景だった。今、己の眼前で広がっているのが現実なのか、更に言えばそれを行っているのが本当に己が知っている、道端の石程度だと見下していた人物なのだろうかと。
「っ!?(避けれた!)」
(避けた、だと?)
重く響く銃声のと直後に飛来してきた弾丸を身を翻し回避した出久に勝己は驚愕の表情を浮かべるしか無かった。それと同時にもし自分に向けられていたらと考え、あそこまですぐに回避できるだろうかとなった自分に苛立ちを覚えた。
覚えながら自分が此処にいる理由を想起させる、事はその日、放課後になり帰るかというタイミングでレイミィから声を掛けられたことから始まる。
その時点でイラッとしたがそんな反応をした所で眼の前の少女には無駄に喜ばせるためだけだと言葉を飲み込み睨みつければ、向こうはニコリと笑ってから
「今日、彼の特訓を学園内で行うのよ。どう?」
「あ?」
何が言いたいと聞きたかったが内心では理解している。自分が緑谷出久の成長の秘密を知りたいと思っていることを向こうは見透かしているのだ。
急激とも言える成長の元、便利屋である彼女との特訓からだというのは嫌でもわかる、問題はその内容だ。彼はそれを知りたいと思わなかったわけではない。
「……」
「別に情けとかじゃないわ、今回は学園の敷地内だからどうあっても隠し通せないし、飯田と轟も来るから仲間はずれはどうかなって思っただけよ」
もっとも他の男子たちは用があるとかで尽くフラレちゃったけどと肩を竦めるレイミィ。だが知っている、彼女がフラレたわけではなくのらりくらりと他には隠していただけだということを。
その上で自分にだけは誘いの言葉を掛けてきたということは何かしらの意味があるのだろう。そこまで考えた彼はギロリと再度睨みつけてから。
「どういう魂胆だ、コウモリ女」
「今言ったつもりだけど? はいはい、まぁあれよ、何時までも爆発寸前の感情を燻らせられるのもそろそろ面倒だなって思っただけ」
歯に衣着せぬ言い様に噛み付いてやろうかと思うも、それは彼女の狙いだろうと思い留まり、思考を巡らせる。
このまま断った所で向こうは何も感じないだろう、寧ろあっそう程度の反応で煽ってくることすら考えられるし、行けば彼の特訓がどのようなものなのかが分かるとなれば断る理由も薄いと言えば薄い。
「悩む必要なんてあるのかしら? 貴方だって気になるのでしょ、カメがうさぎを軽々と追い越していった理由」
「……」
「ただちょっと条件というか約束事があるのよ。それだけは守ってちょうだいね」
行くとは言ってねぇぞと言うよりも前にベラベラと注意事項を話し始められ、そのまま返事を聞くわけでもなくトントンと話は進んでしまい、気付けば運動場γに来ていた。
まさか勝己まで来るとは思ってなかった出久達が驚いた風に彼を見てしまうがその隣でレイミィがニコニコと笑ってるのを見て全員が、あぁ連行してきたのねと悟ったのは秘密だ。
余談はさておき、運動場γに来ればそこに居たのは勝己にとってはほぼ初対面の二人、なので簡単に自己紹介を済ませた後、レイミィから
「んで、今日なんだけど緑谷、昼に行ったようにちょっと特別な訓練になるわ。具体的には今までのような貴方の基礎だけを伸ばすものじゃなくて、そこに応用と言うかまぁ別のものを加えるって感じ」
「より正確に言うならば、実戦に更に近づけるということだ。ヒーローとして活動するなら起こり得るであろう状況に慣れておくという意味合いもあるがな」
「端的に言えば、不利な状況でも戦えるようにするってことですね!」
「不利な状況での訓練、あれ、ホークアイさんは?」
ホークアイ、明らかにコードネームであろう単語に誰だよと思ったのも束の間、レイミィが耳元に手を当て短く何かを言った直後、銃声と同時に出久の足元の地面が抉れた光景に四人全員が驚愕することになる。
着弾から見るに方角は推測できる、けれど気配らしい気配は感じ取れず更に言えばその方角に射線が通り隠れられそうな都合の良い建物はない。ならば考えられるのはそうじゃない方角から弾丸を曲げる、曲射をしてきたということ。
(曲げたってレベルじゃねぇぞ!?)
「い、今のはホークアイさんの射撃でいいんだよな、バートリーくん」
「えぇ、素晴らしいでしょ?」
「どっから引っ張ってきた人材なんだよ……」
そのことに勝己たちは驚愕をするしか無かったし、こんな特訓をするとなれば確かに急激な成長だって納得するしか無いと。
「さて、とりあえずそうね……どうする血染?」
「緑谷、今から〝個性〟ありで此処を全力で一周してこい、その間にもホークアイによる狙撃はある。そうだな、直撃は10回までに抑えるように努めてみろ」
無茶苦茶な、誰もがそう思った。確かに出久は強くなってるかもしれないが、それでも今の狙撃が出来るような相手に直撃を10回までになんて出来るわけ無いと。
だが出久は血染からの指示に顔を強張らせるが直ぐに気合を入れ直すかのように両頬を叩いてから、しっかりと彼を見据えて。
「分かりました、やるだけやってみます!」
「それでいい、こちら血染、ホークアイ、合図をしたら手筈通りに頼むぞ」
《あいよ、本気じゃやらないから安心しろって伝えておいてくれ》
「……ほぼ実戦に近い形で来るらしい、気をつけろよ」
《おいこら》
それじゃ訓練になんないだろうと言わんばかりの言葉にホークアイもとい火伊那が若干の怒りを込めた反論をするが黙殺されることになり、出久の特訓がスタートする。
ルールとしては先程も血染が言ったように運動場γの敷地約半分ほどを一周として狙撃を回避しながら完走するというもの。無論、射撃のタイミングも、狙撃手の位置も分かっていない状態であり、彼が圧倒的不利なのは言うまでもないだろう。
更に言えば火伊那は元とは言えプロ、実戦経験に圧倒的な差があるし出久も狙撃手との戦い方など知ってるわけもないのでスタートから半分も言ってない地点で既に7回も被弾している。
「無理だろ、ありゃ」
「普通ならね、でもちょっと被弾しすぎだなと思うのは確かね」
被弾しすぎ、その言葉が示すのは彼ならば避けられるようになるだろうという信頼。勝己からすれば、いや、天哉も焦凍も同じだろう、それは流石に買い被り過ぎではないかと。
無論、彼を低く見ているというわけではない。実力は(勝己はどうかは置いておき)認めているがそれはそれとして此処までの被弾から見て実力差があまりに開きすぎているのは手に取るように分かるからこその思考。
そもそもとして、これは何回もリトライして糧にするトレーニングじゃないのか。勝己がそう思った直後、八発目の銃声、次も当たるだろうなと思っていた彼が見たのが冒頭の光景に繋がる。
「八発目、思ったよりも掛かったわね」
「お前は流石にアイツを高く見過ぎだ。寧ろ一度目で〝理解〟しただけでも想定外も良いところなんだがな……」
「うひひ、ボロボロになりながらも諦めずに勝ち取る姿はやっぱりカアイイですね~、えへへ」
それに対して便利屋組は誰一人として驚いた様子もなく、冷静に今のを評価し始める。レイミィとしては五回で何とかなるだろうと思っていたらしいが、血染は二度目のリトライを想定していたので彼の〝理解力〟に思わず唸ってしまっている。
因みに被身子は平常運転な上にその辺りはからっきしなので評価とかには基本的に参加してない。彼女としては出来るならそれでいいじゃないですかというスタンスなのである。
ではここまで必中とも言える狙撃を行っていた、火伊那はと言うとスコープ越しに流石に驚愕していた。
(マジかよ、つかどうやって察して避けたんだ? 勘だけでと言うには何か明確に確信を持った動きだったぞ)
これは確認する必要があるなとライフルに込めたのは先程と同じ曲射用の模擬弾、装填と同時に風などを読み切り、確実というタイミングで発砲。
弾丸は周りから見れば明後日方向に飛んでいくが彼女が狙った位置で曲がり、物陰から全力疾走の体勢で出てきた直後の出久を襲う、が当たる直前に脚にOFAを込め急加速することで回避、そのまま別の物陰に入っていく姿を見て火伊那は確信した。
(偶然じゃないな。弾丸の軌道を読んで回避行動をしてやがる、ならその種はなんだ?)
(やっぱりそうだ、弾丸ごとに〝音〟が違う! 多分、中身の生成時に髪の量で種類が違って、その重さで音に違いが出てるんだ!)
これに彼が気付いたのは七回目の被弾とスタート前の〝挨拶〟その時に弾丸が髪の毛で出来ていることを見抜いており、ここまでの被弾で飛んでくる際の音に差異があることを〝理解〟し八発目でそれが実ったのだ。
控えめに言っても普通じゃない見抜き方と回避の方法であり端から見ているだけで分かるものではない、だからこそ天哉が零すような声でつぶやいた。
「また回避した、二度目となれば流石に偶然ではない。一体、どうやって」
「分からねぇ、分からねぇが緑谷には確かに分かるなにかがあるんだろ」
「……(あり得ねぇ、あのデクが?)」
拳を握りしめながら学園から借りたドローンカメラの映像を見つめる勝己をレイミィは静かに見つめる。彼女としてはこっちの問題もどうにかして解消してしまいたいなと思っており、だからこそ此処に連れてきたのだが糸口が見つからずに困っているのだ。
二人の今日までの歪みなので仕方がないと言われればそうなのだが、と思考がそっちに行き過ぎそうになるのを戻し映像を見れば10発目の狙撃を回避し残り半分も切ったという所まで来ている出久の姿。
「ふむふむ、これなら今日中に模擬戦での二対一行けるんじゃない?」
「いや、先ずはホークアイの近接戦闘の技術を吸収させるのが先だ。アイツも鈍りを解消したいと言ってるしな」
「こうあ……コホン、ホークアイちゃんの格闘センスってどんな感じなんですかね?」
今何を言いかけたのだろうかとほぼ答えとも言える言葉に被身子の方を見てしまう三人、間違いなく公安とかその辺りの単語だったよねと言う視線に彼女はあははと誤魔化すように笑い、レイミィと血染が頭痛を感じたかのように額を抑え天を仰ぐ。
観戦組がそんな調子だが、出久と火伊那による攻防戦はまだ終わっているわけではなく、その間の狙撃も紙一重ではあるが回避する出久に火伊那はいよいよブレーキが壊れた。
「面白いじゃないか。ここまで私の狙撃を回避したやつは初めてだよ……おい、嬢ちゃん」
《何かしら?》
「ラストの直線、〝本気〟でやる、構わないな」
《良いわよ、その方が彼のためになるでしょうし》
許可が降りたと同時にその顔と目が現役時代のものに切り替わる。彼女は今、出久を特訓相手の少年としてではなく、一人の相手として見定めた、ならばやることは唯一つ。
確実に仕留めるための狙撃、今までのようなお行儀のよう一発一発のものではない。ここまでそれしか出来ないと誤認させるため、というわけではなかったが結果的にそう見せることになっていたからこその狙撃。
「悪いな少年、私にだってプライドってのがあるんだ。けど、ここまで引き出したことは誇りの思っていいぞ」
慣れた手つきで髪の毛を練り上げ千切り、数発の弾丸を生成、ライフルに込めてから照準を定める。狙うは絶対の一撃、自分の弾丸を読み切って回避するならばそれが出来ないように撃ち込めばいいと。
残り数メートル、直線であり遮蔽物もなくなるそこを決戦の場とし息を整え、そして
「あばよ」
(来たっ!!!)
ドンッ! という鈍く重い銃声に出久も分かってたとばかりに音に集中、それが曲射弾だと判断を下してから位置を予測、これならと思ったその時、彼の脳内に激しい何かが鳴り響き、頭痛が襲いかかる。
例えるならば脳内に直接、鐘がなったと言うべきだろうか、より正確に言えば稲妻が走ったというのが正しいかもしれない、そんな表現できるような物に顔を歪ませてしまうが直ぐに抑え込む。
ともかく、あの弾丸を避けるだけじゃ足りないとばかりに警鐘を鳴らしてきたそれに従うようにOFAを限界出力まで引き上げその場から垂直に跳ねて、身体を捻り後方へ出力30%で蹴りによる風圧【デラウェアスマッシュ・エアフォース】を放つことで僅かなながらも空中で身体を動かし続けてくる弾丸も回避。
「(このままっ!??)っ!!!???」
「緑谷!?」
そのまま転がるように受け身を取ろうとしたのだが抑え込んだはずの頭痛が再発、声すら上げられずにその場で蹲り、場は騒然とすることになったのだが。
此処で危機察知は今後も頭痛に苦しめられそうだなと思いました(他人事)