A リアルお仕事に忙殺されて執筆の時間が取れなかったからですね……ちょっと暫くはこんな事が起きるかもしれませんが更新自体は止めませんのでご了承ください。
互いにくすぶり、互いにすれ違い続けてたというのならここで擦り合わせてしまえば良い。誰だって思いつく簡単な方程式だし、緑谷と爆豪の場合はもうこれしか手段がないから私は言った。
もう面倒だから二人で本気で喧嘩しなさいよと。じゃなければ爆豪が持っている緑谷への【心】への〝畏れ〟と緑谷が爆豪へ抱いている【力】への〝憧れ〟は延々とすれ違い、徐々に火種として燻り、何れはもっと面倒な場面で爆発してしまうと思ったから。
「僕と、かっちゃんで喧嘩を……」
「……」
唐突な提案に緑谷は戸惑い、爆豪は何も言わずに私を睨む。けれど、二人からは拒否という感情はあまり見られない、もしかしたら内心では考えていたことがあったのかもしれないわね。
特に緑谷には昼食の時にそんな話をしたばかりだから尚の事、考えていたしそれが今になっただけと思っているかもしれないわね。
だとすれば完璧なタイミングだったって訳ね、我ながらちょっとドヤりたいわね。
「したり顔ですけど、面倒ってのがレイミィちゃんの全てですよね? なんか話が上手い具合に回ってますけど」
「つか、喧嘩しろって当事者同士に言うやつ初めて見たわ。もっとこう、やり方ってか事の運び方ってのがあるだろ嬢ちゃん」
「諦めろ、こいつは割とその辺りは適当になる人間だ」
「うるさいわよ」
そもそも、こういうのは管轄外よ。今までだってそんな依頼は、男女の仲を取り繕ってくれはあったっけ? あれ結局は破談したけどって今はその話はどうでもいいわね。
それにこの二人が大人しく話だけで解決できるわけがないじゃないってのもあるので考えなしってわけでもないのよ? 二人もその事は分かってるみたいだし。
見れば互いの反応は多少の差異はあれど、誤差程度でありその目には確かな闘志、と言うにはおかしいかもしれないけど、断るというものは含まれていないと私は感じていた。
「僕は、いい機会だと思う」
「あ?」
「ずっと、ただ憧れてただけで君を、かっちゃんを〝理解〟してなかったから」
ポツリと緑谷が喋り始める。恐らくは独白に近いものであり爆豪に聞かせているとかはないだろう、けれどしっかりと聞こえているので彼も反応を示す。
憧れでしか見てなかった、だからこそ〝無個性〟だと判明しても追い付こうと喰らいつくように努力していたのだと、同時に嫌な奴とも思っていたと漏らせば、思わず私は笑いが漏れそうになる。
少し前だったら決して顔を見て言わないでしょそれ。いや、そうか、そういうことなのね。
「かっちゃんを〝憧れ〟じゃなくて、ちゃんと真っ直ぐ見たいんだ。だから、僕と本気で戦って欲しい」
「んだそれ、てめぇあれか? 強くなったからって調子乗ってるんだろ、あぁ!?」
明確な挑発に爆豪は乗せられた。普段の彼だったらもう少しだけ考えることが出来ただろうけれど、オールマイトからの話と緑谷がそれを発言したという2つの事柄で冷静さが吹っ飛んでしまったのだろう。
それが彼の狙いだったということにも、もしかしたら気付いてないのかもしれない。緑谷は自分がこう言えば爆豪は間違いなく本気になってくれると分かっていての言葉、はぁ誰に似たんだか。
「なんだ、俺の顔を見て」
「いいえ、もうオールマイトよりも師匠してるわねって思っただけよ」
「ふん、奴が全く師匠をやれてないから仕方がないだろ」
それはそう。さて、ここからどうなるのかしら、まさかこの場で始めるってことはないでしょうけど、ここまで煽られて大人しく引き下がるようなやつじゃないから……ほら来た。
殺意すら滲ませてそうな表情と視線を緑谷に向けるが、相手が全く怯まず、その目にははっきりと分かる自信を込められているのを見て、盛大に舌打ちをしてから背中を向け部屋から出ていこうとする。
「か、かっちゃん?!」
「うるせぇ、さっさと来やがれ、てめぇのその思い上がり徹底的にぶっ殺してやる」
それだけを告げると乱暴に扉を開け、これまた乱暴に閉めて出ていく爆豪。どうやら緑谷の狙った展開通りになったわねと彼に言えば、あははとなぜか困ったような笑ってから
「うん、ちょっとやりすぎたかなって思っちゃったけど」
「別にいいんじゃにないかしら、それよりも早く行きなさい。場所はわかるでしょ? それとオールマイトも着いていきなさいよ、立会人は必要だし」
「運動場γだよね。行ってくる」
「う、うーむ、まさかこんな展開になってしまうとはって、ま、待ってくれ緑谷少年!」
ベッドから降りすぐに部屋から出ていった緑谷を追うようにオールマイトも保健室から姿を消し、残された私達はそれを見送ってから。
「さて、少ししたら私達も見に行きましょうかね」
「あ、行くんですね」
「そりゃ、行かない理由はないでしょ。なんたって互いに本気の喧嘩よ、見なきゃ損でしょうが」
あ、言っておくけど別に試合観戦みたいなノリじゃないからね。〝個性〟をフルに使った時の緑谷の最近の動きを見てなかったから、この機会にどの程度動けるかを確認して訓練メニューを考え直そうって魂胆ってだけよ?
それとリカバリーガール、悪いけど保健室は開けておいてもらえないかしら、間違いなく互いに怪我して帰ってくることになると思うから。
「やるとしても応急手当だけだよ、一々〝個性〟は使うつもりはないからね」
「良いんじゃない? 結局は個人的な喧嘩なんだし」
「煽ったのはバートリーくんだと記憶しているのだが……?」
何言ってるのかしら飯田、私はただちょっと本気で喧嘩しなさいって提案しただけであって、煽ってなんか無いんだけど? 何よその物は言いようみたいな顔して、嘘は言ってないじゃない。
っと、今爆発が聞こえたってことはもう始めたのか。ここで聴こえるってことはもしかしたら訓練中の心操と相澤先生にも聞こえちゃいそうね……
「その二人もだが、未だ残ってる生徒全員にも聞こえちまうが良いのか? 明日には噂になってんぞ」
「まぁ、これを引き起こしてるのが一年だとは流石に思わないでしょうから大丈夫ってことじゃ駄目?」
「だけど、バートリー、爆豪も緑谷も雄英体育祭で〝個性〟は知られてるんだ、爆発音で悟られちまうんじゃねぇか?」
言われて確かにと思っちゃったわ。轟の言うように雄英体育祭の最終種目で緑谷も爆豪もガッツリと〝個性〟での戦いを見せてるんだから、気付かれても不思議じゃなかったわ。
でも気付かれても別段、困るってことはないんじゃないかしら? リカバリーガールによる治療がないなら怪我が一日で治るわけ無いし、ボロボロで登校するから喧嘩したんだなって周りも分かるでしょ。
「喧嘩が派手だって事を除けばな。悪目立ちすることになるぞ、アイツラ」
「まぁでもなんだか青春って感じがしませんかね? ほら、夕焼けをバックに殴り合いって感じで」
「何時の時代の話だよそれ……いや、理由を考えたらあながち間違いでもねぇけど」
意外ね、火伊那ってその辺りの話題には反応できるんだ。って思ったけど、別にタルタロスに入れられる前は普通に暮らしてたんだろうし、学生時代ってのもあったんだから不思議じゃないか。
血染とか圧紘とか仁とかが特殊だったからすっかりその辺の感覚がズレてたわね。さて、そろそろ私達も見に行きましょうか、それじゃまた後でリカバリーガール。
「はいはい、変に巻き込まれたりするんじゃないよ」
「確かに、少し距離を取った方が良いかもしれない、まかり間違って巻き込まれたら大変だ」
「本気でやってるとすれば爆発も決勝で見せたくらいのが来るかもしれねぇってことか、最悪は俺が氷を展開することも考えとく」
「レイミィちゃん、にゃぁああ!! とか言いながらふっ飛ばされないように気をつけましょうね」
もしかして喧嘩売られた今? 全くそもそもあの場面のことをなんで覚えてるのかしら、え、かなり印象的だったからだって?
そうなの、まぁいいわ、それよりも早く行きましょ。モタモタしてたら終わりそうだし、思ったけどオールマイトも全く危険じゃないってわけじゃないだろうし。
「下手したら彼が一番危険じゃない、今」
「……すぐ行くぞ」
「ですね~」
「これでオールマイトが重傷をなんて事になったらどうなるんだろうな」
洒落にならないことを言わないで火伊那、ただでさえ敵連合関連で世間様がガタガタになり始めてるってタイミングなんだから……
とは言っても彼女が言ってることも全くの冗談ってわけじゃないから急ぎましょうとリカバリーガール以外の全員で再度、運動場γに戻ってみれば音から分かっていたが既に本格的な戦闘を始めている二人と、それを離れた所から見ているオールマイト。
私達はオールマイトに近付き、運動場γの至る所に設置されたカメラとサポート科からのドローン数機からの映像に映されている二人の戦いを見てから
「これまた派手にやり合ってるわねぇ」
「あぁ、互いに本音をぶつけ合ってるよ」
流石に距離と爆音で完璧には拾えないし、部外者の私がここに書くわけにも行かないが映像だけでも互いに抱えていたものを吐き出しながらぶつかり合ってるということは伝わってくる。
一撃が相殺或いはどちらかに決まる度にフィルターが一枚剥がされていくように、段々と本音と本音の、意地と意地のぶつけ合いになっていきながらも互いの持ちうる技術を全て使っていることも分かる戦いに飯田がポツリと呟く。
「緑谷くんもだが、爆豪くんも凄いな……雄英体育祭から更に成長しているじゃないか」
「それでも開幕は緑谷少年が圧倒していたよ。バートリー少女たちの師事が良かった証拠だろうね、けれど爆豪少年も直ぐに喰らいついて、気付けば同等レベルになってたのさ」
「……天才型で緑谷と似た感じのことも出来るってことか、確かにそれならあそこまで天狗になれるのも不思議じゃないな」
えぇ、血染の言うように彼、爆豪の才能は恐らくA組でもトップクラスと言っても過言じゃないと私も思っている。だからこそ天狗になってしまっても誰も止められなかったんだろうから。
だからこそ緑谷の進化に彼は打ちのめされたし、その上で越えようと藻掻いてもいた。でもね、一人じゃどうしたって限界があるのよ、もし緑谷に私達が居なかったら現状の成長は無理だもの。
「だから緑谷と爆豪を喧嘩させたのか?」
「磨き合える状況に出来るなら、私達だけが教えるよりも更に成長するわ。それに緑谷以外も強くなればそれだけ不測の事態に備えることにも繋がるし」
「そういう事だったのか、む、それはつまり俺達も特訓に参加しても?」
何を当たり前のことを、あそこまで話してそれは出来ませんなんて言うつもりはないわよ私は。それに便利屋だけじゃそろそろ限界が来るだろうなってのも感じてたし。
っと、あ……緑谷の一撃と合わせるように撃たれた爆豪の爆発の相殺の余波でカメラが何個か死んだわね、音的に施設も若干吹っ飛んだかしら。
「おーおー、これ放っといたらあそこら一体全部更地になるんじゃねぇか?」
「本当に、遠慮なくやるわね全く」
なんて言いながら、私には二人の喧嘩がとても美しいものに見えてしまっていた。ただの本気と本気のぶつかり合いじゃない、幼馴染との本音と本音のぶつけ合い、歪だった関係を叩き直すかのような全力の喧嘩。
映像に映る緑谷と爆豪、ここに来たときは互いに驚きや困惑、殺意に満ち溢れた表情だったのが気付けば真剣な面持ちで、けれど何処か憑き物が落ちたかのような表情になり、口の動きだけでも分かるくらいにただ叫んでいるだけになっていた。
えぇ、はっきり言っちゃえば羨ましいと思ったのよ。ああやって、本音でぶつかり合う幼馴染と言うかそういう存在を持ってる二人に、勿論、被身子は親友だけど距離感がもう家族だからちょっと違うのよね。
「レイミィちゃん?」
「何かしら、被身子」
「なんだか嬉しそうな顔してるんでどうしたのかなって」
そんな顔してたかしら? いえ、してたんでしょうね、ともすれば理由は拗れたものが戻っていくのを感じ取れたからとかじゃないかしら。
更に言えば、あれこれ秘匿しながら動かなくても少しは良くなったことで楽になったというのもあるかもしれないわね、地味に面倒だったのよ。
「そこまで言うのかい? 君も理解できないわけじゃないだろ、私の秘密を下手に誰かに教える危険性というのものを」
「分かるけど、分かったうえでそう言ってるのよ」
「なぁ、私もいいか?」
火伊那の言葉に反射的に駄目と答えてしまい、飯田と轟、オールマイトが何を? と聞こうとするよりも前に私はモニターを指差す。見れば、互いにボロボロで立ってるのもやっとという二人、けれど闘志は消えておらず互いに最後の一撃のために力を込めているという場面。
よく見れば、二人は笑っていた。どうやら全部とは行かないかもしれないが、わだかまりと言うものは解消できたらしい、そして両者が同時に動き出して……そうね、結果をここに書くのは野暮ってやつじゃないかしら。
だから最後に私が言うのはその後のお話、ボロボロでぶっ倒れた二人を保健室に運びリカバリーガールがその姿に深いため息をついてから応急手当をしてから、どうだったと聞いてみれば
「うん、全部吐き出せた。かなりスッキリもしたかな」
「……んだよ、何も言わねぇぞ」
爆豪は相変わらずだったけど、緑谷に対するなにかが変わったのは言うまでもない。つまりはまぁあの喧嘩は無駄じゃなかったってことよ、最も……
「施設は良いとして、ドローンとカメラは多少は弁償してもらうが良いな?」
「え、あ、はい」
私の懐にちょっと洒落にならないダメージが発生して、やりすぎよアイツらとなったのは秘密にしておいて欲しい。
期末テスト前にわだかまりが解消されたらどうなる? 期末の実技で一抜けもあり得るねこのコンビだと……
便利屋メモ
今回の弁償でレイミィの貯金の二割が消えた。