爆風と打撃の余波が私の頬を撫でる。時間はあれから跳びに飛んで放課後の緑谷と愉快な仲間たちによる特訓、場所は昨日の一件があったけど何とかまた借りることが出来た運動場γ。
メンバーは緑谷は勿論、そこに爆豪と轟と飯田の四人。麗日と耳郎は運動場γの一部がと言う話で引きつった笑みを浮かべた後、見学だけでいいかなという話で隣で見ているのだがその光景に言葉を失っていた。
(ま、でしょうねとしか言えないんだけど)
「うわ、うわまじ? 手加減してるとは言えオールマイトと戦ってるとか……」
「あ、あはは、どうしよう響香ちゃん、笑うしか出来ない」
軽く引いてるとも言えそうな表情の二人の視線の先、そこでは端的に表すとすれば昨日に引き続き大怪獣バトルが勃発していると表現するしかない、これまた修復に時間がかかりそうねとか他人事に思えるレベルよ。
はっきり言えば、私も麗日と同じ感想しか浮かばない。何だあれ、しかも何が笑えるって四対一だってのにオールマイトは手加減しながら圧倒しているという事実だろう、ふざけてるわ。
「HAHAHA!! さぁ、どんどん攻めて来たまえ! 今日は時間までとことん胸を貸すからね!」
「分かっていた、分かっていたがまさかこれほどまでとは……!!」
「これがトップヒーローか、親父も大概だったが……」
「四対一なのに全く攻めきれないどころか、糸口すら見つからない!」
「弱音吐いてんじゃねぇ、こうなるのは誰がどう見たって分かってんだろうが! んな暇があるなら頭動かして一発入れれるようにやるしかねぇだろ!」
飯田がエンジンをフル稼働させながら攻めに入るがまるでびくともせず、ならばと轟が援護射撃の要領で氷と炎を放ち、合わせるようにフルカウル25%の状態の緑谷がSMASHを打ち込むが結果は上記の台詞の通り。
何一つ通用しないという現実に思わず弱音を吐き出してしまうが、爆豪が感情を乗せた爆破で状況をリセットし三人に発破をかければ、まさかそんな言葉が来るとは思ってなかったらしい三人は驚いたように彼を見てから笑みを浮かべ。
「ハハッ、まさか爆豪くんからそんな言葉をもらうは。だがそうだな、足掻くだけ足掻かないと、か」
「試せるもんは試してみるか……緑谷、飯田、爆豪、これから慣れない技を使う、気を付けてくれ」
「わかった、せめて僕もオールマイトの動きをもう少し〝理解〟出来れば……!」
彼がそう言うってことは豪快なのは見た目だけで、一つひとつの動作が異常なまでに細かいのだろう。そうでなければ、この1分半でオールマイトの技術を根こそぎ吸収して自身で使っているはずなのだから。
No.1は伊達じゃないというわけか、でも全く意味がないかと言えばそうではないとも言える。恐らくは全てが〝理解〟出来てないだけであって、全体的にや、噛み砕ける部分は吸収しているはず、その証拠に動きと観戦組に飛んでくる衝撃の余波が少しだが弱まっている。
「2日、いえ、3日もあれば今の彼なら良い経験値になるわねこれ」
「ウチにはただ豪快に攻撃してるだけにしか見えないんだけど、緑谷にはハッキリと何かが分かるんだ」
「間違いなくね。アイツの〝理解〟って本当にずば抜けて優秀なの、初見で被身子の技術を吸収していくって事をやり遂げるくらいだし」
「渡我さんの? え、渡我さんって格闘技とか出来る人なん?」
「寧ろ便利屋で一番を自負してます! お茶子ちゃん、軽く流してみます?」
「え、是非お願いします!」
やりすぎないようにねと一応の声を掛けておいたけど、そう言えば麗日が職場体験のあとどのくらい成長したかとかは知らないなと思い、大怪獣バトルから麗日と被身子の組手に視線を向ける。
大丈夫なのかと思われそうだけど、向こうには血染と火伊那が見てるし、あっちはもう勝手に反省会でもなんでもやっててくれとしか言えないので問題ない。
「丸投げって言わない?」
「信頼してるって言ってほしいわね、耳郎」
「うわぁ、物凄い物は言いようって言うのが似合う場面だ……」
思うんだけど、耳郎の遠慮のなさが最近加速してないかしら? いや、まぁクラスメイトと言うか友達の距離感だって言われたら納得するしかないんだけど。
それよりもと軽い準備運動を終えて向き合った麗日と被身子を見る。自然体と言うべきか、麗日と言うこれまた彼女にとっては好みなタイプと組手が出来るということにテンションが上り始めている被身子。
対してそんな彼女に緊張な面持ちで構えを取るのが麗日。職場体験で一皮剥けたというのは今日の昼食で聞いてはいたけどそれが何処までなのか、これではっきりと分かれば良いんだけど。
(被身子が相手となると難しいかしらね)
「それじゃ、先手は上げますからドーンと来てください!」
「うっし、すぅ、はぁ、行きます!」
へぇと思わず声を漏らしたのは麗日が動き出したと同時だった。雄英体育祭の最終種目でもその片鱗は確かに感じてはいたが、動きに無駄が削ぎ落とされ、更に実戦向けの物に変容していたのだ。
これならば並の
相手が変幻自在とも言える被身子じゃなければと言う贔屓目の頭文字が付かなければだが、ブオン! と音が聞こえそうな麗日の右の掌底は被身子を捕らえるが彼女に伝わった感触は決まったと確信できるものではないだろう。
「おぉ~、これは驚きです。あの時よりも速くなってますねお茶子ちゃん!」
「(な、何や今の!?)あの時より? あ、雄英体育祭か」
「ん? 今、渡我さんの動きが凄い、言葉悪いけど変だった気がする」
言葉を選ばなければ変としか言えないだろう、そして彼女と相手するというのは常に〝変〟と言う違和感を叩きつけられ続けるということになる。
戦いってのは集中してならないのに違和感が常に襲うっていうのは非常にやりにくくなる。戦闘慣れしてるならともかく、まだまだ経験が足りない麗日にはそれを無視するというのは非常に難しいのは言うまでもないだろう。
「こっ、の! っとと、うわわ!? なんや、すっごいグネグネする!」
「にしし~、ほらほら、こういうことだって出来ちゃうんですよ~」
自由自在の変幻自在、トリックスターと言っても過言ではない動きの被身子に翻弄され続ける麗日、振るう攻撃は当たったような感覚だけを彼女に手に残し、実際はまるで当たってないという光景に遂に麗日が叫び、被身子はそれに笑って答え、更に緩急自在の動きを見せつけていく。
「普通はああなるのよね、普通は。そう考えると緑谷が初見で、なおかつ数分で落ち着いて対処を始めたのはおかしいのよ」
「そう考えると今、オールマイトに大苦戦してるのはバートリーからしてみれば驚きでしかないってことなのか」
そういう事になるわけよ。そう言えば、どうなったかなとそっちに視線を戻せば先程よりも勢いが弱まってきている大怪獣バトル、恐らくは四人側がバテ始めたのだと思う。
寧ろオールマイトがあの程度でバテるとは思えないし、ともすればそろそろ血染がストップを掛けるじゃないかしら。
「うわっとと、ぐにゃ!」
「ありゃ、大丈夫ですかお茶子ちゃん」
「オールマイト対四人は埒外だなって感想しか出ないんだけど、こっちは現実的に実力がはっきりと分かる分、ウチも強くならないとなって思う、うん」
最後は麗日の攻撃に被身子が綺麗なカウンターを打ち込んで終了。まっ、初見の被身子が相手となればこうなるわよねとしか言えないけど、麗日も動きが悪いってわけじゃないから磨けばいい感じに光りそうね。
耳郎は、見たことないから何とも言えないのよね。機会があれば今日とか被身子とかと組手してみたらどうかしら、糧になるわよ間違いなくね。
「考えとく、あれ、バートリーはやらないの?」
「あ~、私はちょっとリカバリーガールがドクターストップがね。保須市での一件でまだ激しい運動はまだ止めとけって言われてるのよ」
「デクくんが言ってたんだけど、脇腹を貫かれたって話だよね? そりゃ、激しい運動は駄目だよね」
まぁ実態はもっと酷い話なんだけどこれは黙っておこう。流石にこの身体が〝無個性〟として調整されててだから【吸血姫】の力に耐えられなくて負荷を受け続けてるなんて言った日にはどうなるかなんて分かりきってるし。
このタイミングでオールマイト側も終了したらしく、血染の号令でピタリと音が止み、続いて四人ほどが倒れる音と荒い呼吸、それから
「ふぅ、ナイスバトルだったぜ、少年たち!」
「ぜぇ、ぜぇ……」
「息一つ上がっちゃいねぇ……」
「はぁ、はぁ、クソが」
「い、一撃も当たらなかった」
結果はまぁ言うまでもなしって感じね。でもあれだけの攻撃の嵐でも被弾ゼロって、どんだけ出鱈目なのよオールマイト……しかもあれで弱体化してるし〝個性〟も譲渡してて残り火なんでしょ?
最早わけが分からないとしか言えないわこれ。とりあえず五人に持ってきておいたスポーツドリンクとタオルを手渡しつつ、オールマイトにどうだったと聞いてみれば
「ふむ、先ずは飯田少年だが速度はこれからの成長を考えれば文句なしだろう、だけど接近戦となれば速度だけではなく小手先の技術というものを鍛えたほうが良いな」
「小手先の技術、ですか」
「ただ速いだけでは対処がされやすいからね。なにか違う動きを入れるだけで自分のペースに更に嵌めやすくなる、その辺りは緑谷少年が巧かったね!」
「赤黒さんがその辺りは徹底して教えて貰えましたから」
因みに速さだけじゃ駄目だからと言うのは私にも当てはまる、なので昔は血染にフェイントとかの小手先の技術は徹底的に鍛えてもらったわ。まぁ、最近はまた速さに物を言わせた戦い方をしちゃってたけど。
「次に轟少年、爆豪少年、緑谷少年は〝個性〟の力の制御が課題と思えるかな。君たちの〝個性〟は少しの制御のミスで市民にも建物にも被害が出てしまうものだからね」
「オールマイトみたいに出来れば良いんですけど、僕も分かったのは攻撃一つの中に物凄く細かい力の制御が行われてるってことだけで……」
「……分かるものなのか、それ?」
「俺に聞くんじゃねぇ」
「本当ならば私が言語化して説明できれば良いのだが、うーん」
この天才型は本当に説明が下手なのよね。という事で私が代わりに簡単な形で説明をすることに、要はこういう事だ程度だけど。
「緑谷、今まではコーヒーとミルクって例えだったわよね」
「随分と個性的なイメージだな」
「茶化さないでくれるホークアイ。ともかく、今まではそれで良かったけどレベルアップするとすれば、そうね、調理を思い出して頂戴」
オールマイトによるAFOの制御は恐らくはかなり細かない工程が挟んでいるのだろう、なので調理に例えた。材料を取り出す、切る、焼く、そこに調味料を入れ、盛り付ける。
彼はそのレシピをAFOを授かった時点で分かっていたのかもしれない。けれど緑谷はそうじゃない、だがレシピを書き込むことで細かな制御が可能になるはず。
「〝個性〟を調理するイメージ。そうか、だとすれば動き一つ一つに制御をするってイメージも出来るかもしれない、でも流石にすぐには難しい、何度か反復しないと」
「私が言うのもあれかもしれないが、バートリー少女も中々にユニークなイメージを出してくるよね」
「アッハッハ、喧嘩ならオールマイトからでも買うわよ私は」
「何で君はそうオールマイトに攻撃的なんだ」
「親父にもだぞ」
「お前の方が爆弾人間じゃねぇか」
オーケーオーケー、そこまで私の本気が見たいってんなら見せてあげるって何よ血染とホークアイ、え、リカバリーガールに言いつけるぞだって? ちっ、命拾いしたわね。
どうやらこれから反省会を始めるらしいので聞いてても良かったけど、そこでそう言えば彼らに協力を頼むんだったことを思い出して
「ごめん、ちょっと電話してくる」
「ん? いってら」
「誰にやろね、仕事関係かな」
制服のポケットからスマホを取り出し電話帳から目的の事務所の番号を選んでコールを開始、この時間帯なら急な仕事でも入って無ければ普通に出てくれるはずだけど……
「あ、久し振りね、私よ。二ヶ月ぶりくらいかしら〝ラブラバ〟、少し話……」
繋がったのを確認してから凄く丁寧に穏やかな声で外部協力者もとい〝ラブラバ〟に挨拶をしたんだけど、返事はガチャ切りだった。
即座に彼女の相方のスマホに電話を繋げてみればこっちはコールすら起きずに即座に通話状態になったので
「〝ジェントル〟そこに彼女居るでしょ、代わりなさい」
《あ、あぁすぐに変わろう、バートリー所長》
どういう訳か、私は彼女〝ラブラバ〟に嫌われている。
まるで話が圧縮できてないやんお前!!!!