彼女と僕しか知らない一日 ~妙に距離感の近い元気系ガイノイドと行く小旅行~ 作:さばてん@コピーライター
まだエッチなシーンはありません。
夜21時、バイト先から一歩外に出ると同時に
ポケットがトトン、と震えた。
携帯電話を開く。多分、メールか何かだろうが…
『明日は試射に付き合っていただきますので』
"彼女"からのメールだ。
文字数も内容も同じような連絡を、一ヶ月前と半月前にも貰っていたが
前日の夜中にもメールしてくれるというのは、
情操教育にあった
「遠足の前日は楽しみで眠れない」
というエピソードを学習<ラーニング>したのだろう。
それにしても、まるでロボットが書いたような文面だ。
実際、"彼女"はロボットであるのだが。
のらきゃっと型ガイノイド後期量産型、略してますきゃっと……彼女らが自称する"種族名"だ。
大戦の最中に突然現れた一連のOTM<オーバー・テック・オブ・マスキャット>は、それまでの戦場を…そして世界を一変させた。
人と同じように話し、同じ服を着て、同じ物を食べる機械の少女達…
生産プラントから産まれ、シリコンの心と重機の腕力を持つ絶対兵士…
貴金属とポリマー製の彼女達が、
ますきゃっとの"人口と出生数"の少なさを言い訳に
自動人形<ヒトガタ>から国民<ニンゲン>へ格上げされたのが、今年初めのこと。
翌月には、社会経験の少ない個体を人間に付き添わせ
"人生の再履修"を行う計画"プロジェクトA"が施行され
僕はその被験者の第一陣に選ばれた、という訳だ。
男性のもとに女性個体が現れるので、僕が"アダム"というのは面白いことであるが…
帰りの道すがら、"彼女"に電話を掛ける。
夜遅くとはいえ、相手はロボットだ…いつでも起きるだろう。
「もしもし。」
『ふぁぁ……駄目だよ、こんな時間に起こしたりして。夜更かしは身体に良くないんだから。』
「あぁ…ごめん、連絡くれたから。買い物とかは必要?」
……ロボットらしく振る舞うかと思ったら、思ったより人間らしい反応が帰ってくる。これものらきゃっと型アンドロイドのなせる技なのだろうか。
人間と同じように振舞う彼女らの感情の発露はしかし、"人格シミュレーション"でしかないらしい。
知覚情報をコンピュータ処理し、状況プリセットをベースに柔軟な選択を実行するオーバーテクノロジー。
信じ難いことに、感情的な言葉や体調を表す肌色、体温の変調でさえ計算し尽くされた、言われるところの"第二種哲学的ゾンビ"だというのだ
そんな彼女らの社会生活に欠かせない行為が2つ。
ひとつは"人生の再履修"による人格シミュレーションへのデータ蓄積、
もうひとつは定期的な運動を通した肉体的感覚の補正…
要は生まれたての子供のように、よく学び、よく遊ばせよ、いうことらしい。
厳密には、本社サーバ上の意思決定プログラムのインターフェースでしかない人格シミュレーションが、事業のより完全な発展のためにデータを収集している…などと説明しては貰ったが
正直、あまり分かっていない。
ともかく、僕に預けられた彼女は"定期的な運動"としてライフル狩猟を選んだ。
戦時中に銃は散々握ったろうに、何故まだ武器を取るのか聞いてみると
「シツモンのイトがワカリマセン」
などと返してきた。こういう時だけロボットのフリをするが、多分言いたくないのだろう。
そういうわけで、月末は時間をとって
彼女の"定期的な運動"に付き合うことになっている。